IT業界のエンジニアとしての
「価値」を高める
i Magazine(以下、i Mag) まずシステムの運用状況と人員体制を教えてください。
川井 当社ではシステム/38時代に導入した基幹システムを、改修を重ねながら40年以上にわたって運用しています。現在の情報システム部には私を含めて11名、20代前半から60代後半までの構成です。導入時は私もまだ生まれていませんし、在社40数年の大ベテランもまだいなかったとのことなので、誰も当時のことを知りませんが、システム改修をしていると時々、作成日が昭和のプログラムに出会ったりします。
i Mag 基幹システムに関する開発や改修には社内で対応していますか。
川井 そうですね。IT部門に求められる範囲は今や会社の全方位をカバーし、下はインフラ系から上は経営戦略に至る時代なので、基幹システムの開発保守だけに集中しているわけではないと前置きしつつ、受注や物流を中心とする業務画面やバッチ処理の開発運用は一部外注する場合もありますが、基本的に社内で実施し、開発言語としてはRPGⅢをメインに使っています。完全にアウトソースする考え方もあると思いますが、内製する文化が根付いているので、現場の状況を熟知していることや細かく改善できることを内製の「強み」と考えて継承しています。
i Mag そのためにRPG開発者を社内で育成しているのですね。
川井 そのとおりです。どこのIT専門学校でもRPGは教えていないので、自分たちで努力しなければ、誰も育ててくれません。ただ、若いRPG技術者の育成には苦労もあり、ITの専門授業を受けてきたタイプの学生だと、授業とRPG環境の違いに馴染めないことが過去にありました。そのためITの素養はないけれど、センスを感じさせる原石の新人を見つけることと、とくに若手のスタッフの将来性も考えた環境づくりが重要だと考えるようになりました。
個々のスタッフにとって、IT業界におけるエンジニアとしての「価値」を高められる環境にしたいですね。RPGができることは、ニッチな領域ではあれ一定の価値をもち、需要があると思います。ただ汎用性という点では劣ります。そこで別の主流言語を習得し、「RPG×別の言語」ができるバイリンガルなエンジニアになる。技能の掛け算をすることにより、スタッフのIT市場での価値を高められたらいいと。ひいては部門の価値や生産性の向上につなげたいと考えています。
i Mag RPG以外の言語やツールを利用した経験はありますか。
川井 はい。ニーズに合わせて積極的に取り組んできたつもりです。もう10年も前の話ですが、5250画面のGUI化や帳票のA4定型化などには、「RPGで開発できる」という謳い文句のツールを採用しました。また場所と端末に縛られない環境も求められているので、Webアプリケーション開発を目的に、「Javaを自動生成する」ツールを導入しましたし、まだ着手できていない分野ではスマホアプリも開発の必要性を感じています。
RPG Ⅳによる小さな成功が
「変化」への大きなきっかけに
i Mag IBM iに関する新しい情報は十分に得られていますか。
川井 そうですね。先日IBMから最新OSの 7.3が備える実装機能やWeb Queryなどを個別に紹介いただく機会があったのですが、エンジニアの方が、「物理ファイル」とは言わずに、「テーブル」と表現していました。何気ないその言葉1つからも、IBMやパートナーにとって、IBM iへのアプローチは他のDBと同様、もはや特殊なものではなく、このままでは我々ユーザーだけが取り残されると感じました。どんな情報も、待っているだけでは入ってこないので、自分たちで開発し続ける以上は積極的に情報を得ながら、変わり続ける不断の努力も必要です。
実は最近、RPGⅣを使わないと実現できない要件があって、中堅と新人のスタッフがRPGⅣに取り組みました。具体的には「IBM iから直接、添付ファイルを付けてメールを送る」という簡単な内容ですが、これまでずっとRPG Ⅲが主体で、Ⅳは初めての経験だったので、調べるのに結構時間がかかり、ようやく完成しました。
しかし、1つやってみると、「意外にほかでも使えるのではないか」という気持ちが起こるようで、ほかのメンバーにも報告を兼ねて教えているんですね。その光景を見ていると、「取り組まざるをえない状況に追い込まれて一歩を踏み出し、完成し、自信になって、ほかの人に伝える」。そこまでできて初めて、「文化」として定着するのかなと感じました。
これまでPHPやRuby、先述のJava生成ツールなどいろいろと検討し、トライもしました。しかしちょっとつまずくと、「自分の今の知識や技術でできる範囲でやっていたい」と考える傾向に加えて、WASなどの知識も少なからず必要なことから、ハードルの高さに心が折れる部分がありました。
その点で、RPGⅣによる今回の小さな成功は、意外に大きなきっかけになるかもしれません。OSの7.3はフリーフォーマットも使用できるので、若い世代にも取っ付きやすく、RPGⅣがベテランと若手の文化をつなげる1つの橋渡し役となって、IBM iへのアプローチが少しずつ変われば、と期待しているところです。スタッフたちも、やる気になっていますしね。
i Mag 今後のIBM i活用について、どう考えていますか。
川井 ITの世界は変化が激しく、あまり先まではわかりませんが、画面や端末などのユーザーインターフェース、それに関わる開発環境は変化していくにしても、IBM iの信頼性や安定性は比類がないので、DBサーバーとして活かしていきたいと考えています。またRPGは比較的簡単で生産性も高いと感じます。RPGⅢのプログラム資産で使えるものは活かし、改修する際にはRPGⅣやSQLなど、時代に合ったものへと適宜変更していく。そのための古い言語の保守と新しい言語への挑戦は継続して必要になりますから、まずは人材育成に努めたいと考えています。
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滝川株式会社
IBM i User Profile
運用歴:システム/38時代から
運用システム:販売管理・物流管理の各システム、グループ子会社向けの生産管理システム
RPGのプログラム本数:約4000本
開発言語:RPG
開発ツール:-
システム部門人員数:11名
構成
20代 2名
30代 3名
40代 3名
50代 2名
(60代:1名)
COMPANY PROFILE
本社:東京都台東区
創業:1931年
資本金:2億1397万円
事業内容:理容・美容・エステティック・ネイル用品総合商社
[i Magazine 2017年 Spring (2017年3月)掲載]