本格導入はこれから、ツール・サービスの整備が進む
「導入済み」は14.1%
本格普及はこれから
2017年に話題となったITキーワードを挙げると、「RPA」がその1つに数えられるだろう。たとえば、Googleでの検索数の推移を見ると、2017年2月ごろから急激に増加し、ほぼ一貫して伸びている。ベンダーが開催するRPA関連のセミナーはどこも満員御礼で、急遽、座席数を増やしたり、「お断りをすることも多い」という話をよく耳にする。
しかし、導入の実態は、というと、これからの状況にあるようだ。
調査会社ガートナージャパンが2017年5月に395社を対象に行った調査によると(公表は10月)、RPAを「すでに導入済み」と回答したのは全体の14.1%、「導入中」「導入予定」は13.8%、「導入を検討中」は11.6%、「導入予定/検討なし」は60.4%という結果だった。つまり、導入に踏み出したのは全体の1/4程度で、「半数以上が明確な導入の意思をもち合わせていない」(ガートナージャパン)ということである(図表1)。
【図表1】国内企業396社のRPA導入状況
ただし、ベンダーがRPAへの取り組みを開始したのは、「BizRobo!」を販売するRPAテクノロジーを除いて(同社は2008年から)、大半が2016年以降なので、市場が動き出してから1年あまりの実績としては、ガートナージャパンが指摘する「普及はそれほど進んでいない」よりも、「着実に普及が進んでいる」と見るほうが実態に近いと言えるかもしれない。いずれにしても導入済み企業は国内全体で数千社程度と推定され、本格導入はこれからの段階にある。
RPAツールの
3つの機能
図表2は、主なRPAツールの一覧である。リストした製品には含めていないが、市場には、かつて別カテゴリーに区分されていた製品を「RPAツール」として販売しているものもあり、「60種類以上のRPA製品が存在する」という見方もある。すでに多数のRPA製品が登場している、というのが現状である。
【図表2】主なRPA製品
また、市場への製品の投入と並行して、機能拡張も続いている。これについては後段で触れるとして、先にRPAツールの特徴を見ておこう。
RPAツールとは、人がPC画面上で行った手動操作を記録して、そのとおりに、自動で再現するソフトウェアである。操作の記録・登録という点ではマクロ機能に似ているが、マクロ機能が単一のアプリケーションだけなのに対して、複数の異なるアプリケーションやシステムをまたいで操作を記録・登録できるのがRPAである。
RPAは基本機能として、画面上の操作を解析する機能と、それを記録して一連のフローとして連結するプログラム作成機能、そのプログラムを動作させるための実行機能を備える(図表3)。また、作成した複数のプログラムを統合的に管理・統制する機能があるが、これを別製品としているRPAツールも多い。
【図表3】RPAツールの概要
なお、RPAツールで作成されるプログラムは、製品によって「ロボット」「デジタルレイバー」「シナリオ」「ボット」「スクリプト」などと異なった呼び方がされる。そのためこのパートでは「RPAプログラム」に統一し、Part 2の製品紹介では、個々の製品の呼称を使うことにする。
画面解析技術、
サーバー型・デスクトップ型
画面上の操作を解析する技術には、「画像認識」「UI識別」「座標指定」などがある(図表4)。
【図表4】RPAツールの方式・タイプ
画像認識は、ボタンやセルなどの操作対象を画像データとしてキャプチャして記録するもの。RPAのプログラムを実行するときに記録した画像データを呼び出し、たとえばボタンAなら、画面上のボタンAと記録済みのボタンAとを照合し、操作対象を特定する。その照合の精度を調節する機能もあり、またボタンAと類似したボタンBがあり操作対象としての特定が不能になると、判断を求める画面が表示される。
UI識別は、Web画面ならHTMLソースを構造解析してタグにより操作対象を特定する方式。Windowsアプリケーションの場合は、MS Automation API、Javaアプリケーションの場合はJava Access Bridgeを用いて操作対象を特定する。このほか、基幹アプリケーションを対象とする製品では、3270/5250対応のホストエミュレータ機能をRPAツール内部にもち、操作対象を特定する。
座標指定は、PC上の画面を2次元の座標に見立て、座標データで操作対象を特定する方式である。X軸・Y軸の座標データなので、画面サイズが変わったり、操作対象の表示位置が変わると、RPAプログラムが正確に動作しない場合がある。
大半のRPAツールは、これらの解析技術を複数採用しているのが一般的である。そのため、どのRPAツールも「PC画面に表示されるアプリケーションは、基本的に何でも自動化できる」ことをアピールしているが、解析機能自体は製品ごとに異なるので、ツール選定の際にはプログラム作成機能と併せて確認し、操作感や目的に合う製品を選ぶ必要がある。
RPAツールは、RPAプログラムの配置場所で製品のタイプが分かれる。「サーバー型」と「デスクトップ型」があり(両方をもつ製品もある)、サーバー型は1つのRPAプログラムを複数のPCで利用するのに便利で、RPAプログラムの修正・変更や管理を集中して行え、RPAプログラムの追加・削除も容易である。実績としては、事務センターやコールセンターなど事務処理を集中的に行う部署で数多く利用されている。
一方のデスクトップ型は、PCにRPAプログラムを搭載して利用するタイプである。ユーザー部門の身近に配置するので、部門ごとの自動化ニーズに対応しやすい。ユーザーのPCに搭載する場合もあるが、RPAプログラムの実行中はマウスやキーボードを使えなくなるので、専用のPCに配置するのが一般的である。
管理・統制サーバーの
投入が相次ぐ
管理・統制機能については、前述のように標準装備するものと別製品で提供されるタイプがある。別製品タイプは、ベンダーが相次いで投入、または投入を予定している。製品の拡張では、ここが活発である。
これは、業務自動化の対象が広範囲に拡大しRPAプログラムが増加すると、デスクトップごとの管理では対応しきれなくなることへの対応である。また、RPAプログラムが基幹システムを利用している場合、その管理・統制によって基幹システムへの不測の影響を避ける狙いもある。かつてのエンドユーザー・コンピューティング(EUC)のブーム時に、システム部門が関知しないプログラムが蔓延し混乱をきたしたことを想起するベンダー/ユーザーは少なくない。RPA用の管理・統制サーバーは、RPAの本格普及に向けた環境整備の1つとも言えるだろう。
自動化に向く業務と
導入メリット
RPAは、人がPC上で操作するものは、基本的にプログラムできる。その開発は、短期間(数日~数週間。小さな業務では数時間)で行え、ツール操作に関する習熟はある程度必要になるとしても、深いITスキルが不要な点が大きな特徴である。
RPAによる自動化に向くのは、手順やルールが明解な業務で、例として次のようなものが挙げられる。
・定型的な繰り返し業務(入力、転記、アプリケーション操作など)
・業務システムからのデータ取得
・EDI・Web受注・Webバンキング処理
・見積書・報告書などの作成とメール操作
・経費精算処理
・Webからの情報収集
・数字の照合など整合性・同一性チェック
作業の単位としては比較的小さく、部門あるいは担当者ごとに異なるこうした業務は、費用対効果や開発プライオリティの観点から、これまでシステム化の対象とはなってこなかったものである。この「システム化の空白」と言える領域でなされる手動の業務は、どの企業でもいろいろと大量に存在する。RPAはそこを、低コストかつ手軽にシステム化できるソリューションなのである。
RPAの導入メリットとしては、作業時間の短縮、業務スピードの向上、業務効率化、業務品質の向上、ミス防止、などが挙げられる。これらは、働き手の不足や「働き方改革」の推進に直面する企業にとって、大きな価値となる。つまり、「システム化の空白」部分の自動化は、企業におけるシステム化の規模を革新的に拡大するという点で、大きな業務改革へとつながるインパクトをもつのである。
昨年11月、エネルギア・コミュニケーションズが「エネロボクラウド」と呼ぶクラウドサービスの提供を開始した(図表5)。RPAツールをインターネット経由で利用可能にしたサービスで、ユーザーは独自にRPAプログラムを開発できる。同社では今後、RPAプログラムの作成を支援するナレッジや部品、テンプレートなどを「エネロボサポート」として順次提供していくという。RPA利用・普及の新しい展開として注目される。
【図表5】エネルギア・コミュニケーションズのRPAクラウドサービス
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IS magazine No.18(2018年1月)掲載