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オール・フラッシュ・ストレージ「IBM FlashSystemファミリー」の真価を探る

フラッシュとSDSを組み合わせた
「よいとこ取り」の新製品

 
 多くの企業ユーザーへストレージの提案やヒアリングを行っているが、ユーザーのストレージに対する課題は、業種、業界、規模の大小を問わず、以前からほぼ同じと言える。
 
 1つはコストだ。ビッグ・データ/IoT時代を迎えるなかで、ユーザーは加速度的に増えるデータへの対処と増加するコストの抑制に躍起になっている。いや抑制だけでなく、これまで以上にコスト削減を求められている。
 
 そしてもう1つは、運用管理の効率化だ。運用が複雑になり手間がかかるようになると、必然的に管理要員の投入が必要になる。ストレージ管理の負荷はデータ量の増加に比例して増大する傾向にあるので、これへの対処は重要な課題である。大容量ストレージの管理・保管を、クラウドという外部委託で済ませようという動きも自然の流れと言える。
 
 2017年はフラッシュ・メモリの生産が加速度的に増加し、企業への導入が進んだ1年であった。このことは、HDDとフラッシュ・メモリの出荷比率に関する調査会社の予測を大幅に超えてフラッシュ・メモリが出荷されたことからも明確である。
 
 つまり、ストレージの主役は明らかにHDDからフラッシュ・メモリへと移りつつあるのだ。これは大きなトレンドととらえてよい。
 
 IBMは、オール・フラッシュ・ストレージ分野に「IBM FlashSystem(以下、FlashSystem)ファミリー」を投入している。ある調査会社によれば、FlashSystemは、日本のオール・フラッシュ・ストレージ市場で4年連続のシェア1位を継続中である。
 
 そして2017年10月24日、IBMはオール・フラッシュ・ストレージの新製品としてFlashSystemの新モデルを発表し、出荷を開始した(図表1)。これらは、IBMが独自開発した「IBM FlashCoreテクノロジー」ベースのハードウェア技術と、IBM XIV Storage System(以下、XIV)やIBM SAN Volume Controller(以下、SVC)で培ってきたソフトウェア技術を組み合わせた製品群である。つまりFlashとSDSを組み合わせた、高速なアクセス性能と高いストレージ運用効率を併せもつ、「よいとこ取り」製品の進化形なのである。以下、その特徴を紹介しよう。
 
 
 

 

FPGAを初めて実装した
FlashSystem 900

 
 FlashSystem 900は、ラインナップのベースとなる製品である。FlashCoreテクノロジーにより、ストレージ制御用ソフトウェアを汎用CPUで動かす旧来タイプのストレージ製品とは異なり、ソフトウェアを不要とするFPGAが実装されている。これはフラッシュ・メモリのパフォーマンスを最大限に発揮させるための設計である(図表2)。
 
 
 
 
 またFlashSystem 900は、ほかのファミリー製品とは異なり、遠隔コピーや高速コピーなどの拡張機能は装備していない。機能を2次元RAIDや暗号化、圧縮に絞り、シンプルな設計になっている。その結果、ファミリー製品中、随一の高速性を誇る。たとえば適用業務側でバックアップや災害対策などの仕組みをもっている場合、FlashSystem 900によって超高速なストレージ環境を即座に手に入れられる。
 
 さらに今回のFlashSystem 900では容量の拡張と機能追加が図られた。搭載するフラッシュ・メモリを、2次元のMLC(マルチレベルセル)から3次元配線の3D-TLC(3次元トリプルレベルセル)に変更したことで、容量が大幅に向上した。これをたとえるなら、平屋建ての家を20階建てのマンションにしたようなイメージだ。敷地面積は同じまま、より多くの居住スペースを実現している。
 
 一般に電子回路は微細化により消費電力量が減り、高速化が可能になる特徴をもつ。しかしフラッシュ・メモリは、同じ電子回路でありながらデータを記録素子に記録する点で、ほかの電子回路と大きく異なる特性を備える。
 
 フラッシュ・メモリを微細化すると、データを記録する記録素子は小さくなる。記録素子が小さくなると、素子の書き込み耐久性に大きな影響を及ぼす。つまり2次元(平屋)のままではフラッシュ・メモリの搭載可能数は限界に近づきつつあるのだ。そこでメモリ・チップを上方向にも積み上げて容量の限界を突破したのが、3D-TLC(高層マンション)なのである(図表3)。IBMはチップメーカーと協業し、独自技術として強化した3D-TLCを、今回のFlashSystemに採用している。
 
 
 
 3D-TLCのメリットは、多層化による高密度化にとどまらない。フラッシュ・チップの寿命の延命化にも効果を発揮する。フラッシュ・メモリには書き込み回数の制限があるため、「ウェア・レベリング」(Wear Levelling)という技術で、全メモリが可能な限り均等な書き込み回数となるようにデータを書き込む場所を制御している(図表4)。
 
 
 
 
 この技術でフラッシュ・チップの寿命を延ばしているわけだが、3D化によって書き込み可能なフラッシュ・メモリが増えるため、延命効果が高まる。一般的にSSDでは単一SSD内でしかウェア・レベリングが機能しないので、複数のSSDを実装したストレージ装置であっても、この機能による効果は限定的である。これに対してFlashSystemでは、システム全体でウェア・レベリングが行える。実装されたすべてのフラッシュ・メモリをまんべんなく利用できるため、書き込み耐久性の面でほかのオール・フラッシュ・ストレージと比べると大きな優位性がある。
 
 旧来モデルのFlashSystem 900は最大搭載容量が57TBであったが、今回の新モデルでは最大220TBと、4倍近くの容量を実現した。このモデル・チェンジではフラッシュ・メモリの変更だけでなく、データ転送中にデータ圧縮を行うインライン・データ圧縮をFPGAの実装によって実現し、かつこれを標準装備とした。投資対効果のさらなる向上と高パフォーマンスの達成と言えるだろう。
 

Spectrum Accelerateを実装した
FlashSystem A9000/A9000R

 
 XIVは、旧来型のRAIDシステムとは一線を画した設計で、分散ミラーリングとストレージ・プール化を大胆に実装したティアレス(無階層)型の革新的なストレージ装置である。
 
 IBMは2008年にイスラエルのXIV社を買収し、XIVストレージをストレージ製品のラインナップに組み入れた。すでに数多くの企業に採用され、重要なストレージ・インフラの中核として稼働している。このXIVの機能をソフトウェアとして切り出し、SDS製品としてラインナップしたのがIBM Spectrum Accelerateで、今回発表した2つのモデル、FlashSystem A9000/A9000Rもこれを実装している。
 
 A9000は8Uサイズの筐体で、フラッシュ・モジュールを12個搭載するエンクロージャ(1台)と、各種ストレージ機能を実装したグリッド・コントローラ(3台)で構成される(図表5)。今回の新モデルでの実効容量は110TB、180TB、425TB、900TBの4モデルから選択できる。A9000Rとは異なり、ほかの筐体とは連携できないが、IBM Hyper-Scaleの機能を利用して適用業務を停止することなく、あるA9000から別のA9000へボリュームを移動できる。
 
 
 
 
 一方でA9000Rは、A9000(エンクロージャ1台とグリッド・コントローラ2台構成)をグリッド・モジュールとして複数台搭載し、内部でInfiniBand(56Gbps FDR)を利用して相互接続させた製品である。グリッド・モジュールの追加により、容量のみならずパフォーマンス性能も拡張でき、最大実効容量は19インチ・ラック相当で3.6PBとなる(図表6)。
 
 
 
 
 
 2009年に発表されたXIVの初期モデルであるGen2は1ラックで最大実効容量が79TBだったので、今回のA9000Rはわずか8年間で、XIVの実に約45倍ものデータ容量を1ラックで搭載できるまでに進化を遂げた。XIVはSATAまたはNL_SAS HDDを搭載しているが、今回のA9000Rはフラッシュ・モジュールを搭載しているため、より高速で信頼性の高いストレージ環境を提供できる。
 
 さらにHyper-Scaleによるスケール・アウトの管理も可能である。IBM Hyper-Scale Managerを使うと、複数台あるA9000/A9000Rを一括管理できる。また、IBM Hyper-Scale Mobilityでは適用業務やサーバーを停止することなく稼働中のボリュームを移動できるなど、先が読めないデータ増加、拡張にフレキシブルに対応可能なのもユーザーにとって大きなメリットだろう。
 
 A9000/A9000Rはデータをより多く収容するために、各種容量削減技術を実装している。事前に準備されたデータ・パターンの削除や重複排除、専用エンジンによるリアルタイム圧縮、シン・プロビジョニングなどだ。すべての容量削減処理は常時有効となっており、インラインで高速に実行することでデータ容量の削減と高速化に貢献している。
 
 ここで使われる圧縮技術には、重複排除に適したIBM独自の特許技術が数多く使われている。クラウドやVDI、データレイク環境などでは重複するデータが多いので、大きな削減効果が期待でき、容量単価軽減、コスト削減に寄与する。重複排除の処理単位は8KBの単位で行われ、重複パターンの認識と排除の実施には4KBずつずらす形で比較を実行する。これにより重複パターンを発見する確率が高まり、保管容量のより大きな削減が期待できる。
 
 多くのストレージ装置ではスナップ・ショットや遠隔コピーなど、運用上便利な機能を利用できるが、一般にそのほとんどが有償オプションである。しかしA9000/A9000RではXIV同様に、これら先進的で便利な機能はすべて標準機能であり、ソフトウェアやライセンスの追加購入が不要である。それゆえストレージ・コストの抑制にも大きく寄与できる。
 
 また、プライベート・クラウド基盤やクラウドサービスでの採用を考え、A9000/A9000Rでは管理アカウントまで独立したマルチ・テナンシー機能や、ほかの利用者にI/Oで影響を与えないパフォーマンス制御機能であるQoS(Quality of Service)も備えている。設定対象もサーバー、ボリューム、プール、ドメインといった単位ごとに、使用できる資源の上限値を設定できる。QoSを設定することで相対的に優先度の低いサーバーへのサービス・レベルを抑えられ、結果的に、より優先度の高いアプリケーションに最大限の性能を提供できる。
 
 管理画面(GUI)はWebブラウザ経由で利用でき、専用端末は不要である。管理画面もシンプルでわかりやすいので、プライベート・クラウド基盤など大規模、大容量の統合ストレージを運用する場合には負荷軽減につながるだろう。
 
 さらに、ストレージ装置では必ずと言ってよいほど課題になるデータ移行(データ・マイグレーション)も標準機能として提供される。A9000/A9000R経由で既存ストレージをFibre ChannelまたはiSCSIで接続することにより、データ・アクセスを継続した状態でデータ移行を実施できる。移行作業は、物理的な接続の切り替え時のみ、短時間の停止で済む。
 
 また今回の機能拡張で、XIV Gen3との非同期ミラーリング機能がサポートされるようになった。XIV Gen3を災害対策や高可用性などの目的でも利用でき、ユーザーにとっては既存資産の保護となる点も大きなメリットと言える。
 
 

900とSVCを組み合わせた
FlashSystem V9000

 
 FlashSystem V9000は、IBM Spectrum Virtualizeを使用したストレージ外部仮想 化製品であるSVCとFlashSystem 900を組み合わせたアプライアンス製品である。ただしV9000は、ベース・モデルのFlashSystem 900にはない数々の便利機能を備えている(図表7)。
 
 
 
 
 たとえばスナップ・ショットや遠隔コピーはもとより、配下に安価な大容量ストレージ装置を接続することで、V9000に記録したデータをFlashCopy機能を使ってコピーできる。既存ストレージ装置を有効活用するために、非活動的なデータを自動階層化機能によってフラッシュから配下に接続したディスクへ自動的に移動させることも可能だ。
 
 これに加えて、制御装置側でもリアルタイム圧縮機能を装備しており、従来型のFlashSystemや、SSD、HDDで構成された他社ストレージを配下に置いた場合でも、データを圧縮した形で収容できる。リアルタイム圧縮は専用の圧縮エンジンを使うので、パフォーマンスが劣化することはない。とくに基幹系やデータベースといったシステムでは、文字や数字をデータとして保管することが多く、これらのデータでは圧縮効果が大きい。
 
 V9000は最大80%ものデータを圧縮して削減できる。この圧縮機能により、ディスクに比べて相対的に価格の高いフラッシュの容量を少なくし、ディスクで構成した場合と比べて大きく容量を削減できるので、フラッシュ化によるパフォーマンス向上とコスト削減を両立させられる。
 
 またデータベースなどは設計の段階でデータを正規化しているので、基本的に重複データは存在しない。それゆえ基幹系やデータベースといったシステムでは、重複削減に重点を置いたフラッシュ・ストレージ機器を導入しても、結果的に削減効果がほとんど期待できないことを理解しておくべきである。こうした目的に対しては、FlashSystem V9000が大きな効果を発揮する。 
 
 このようにフラッシュ・ストレージの高パフォーマンス性だけでなく、いろいろと便利な機能を利用できる。
 
 
 今回、FlashSystemファミリーのラインナップが一新され、さらに充実したものとなった。データは企業の競争力の源泉であり、ユーザー環境においてデータ量は確実に、かつ加速度的に増加していることは疑いのない事実である。世の流れとしてコンピュータの利用形態が「所有から利用へ」となり、外部クラウドを利用するユーザーが増加している。
 
 しかし小規模なシステム構成であればともかく、それなりの企業規模があるユーザーの場合、ネットワーク回線の速度と費用、クラウド拠点と利用拠点の距離の問題、データ・アクセス増加に伴うアクセス料金の増大など、すべてを外部クラウドに任せることが最善の策とは言い難い。とくにFlashSystemファミリーが提供するような高パフォーマンス、高可用性を求めることは、画一的なサービスを提供することで利益を得ている外部クラウド環境では難しい。
 
 2018年は適材適所によるハイブリッド・クラウドの検討・採用が、多くの企業ユーザーで進んでいくと予測される。
 
[IS magazine No.18(2018年1月)掲載]
 

著者

玉木 実 氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
システムズ・ハードウェア事業本部
ストレージシステム事業部 第四営業部
ACP シニア・セールス・スペシャリスト
 
2001年、日本IBM入社。ビジネス・パートナーへのストレージ製品販売支援を担当後、IBMストレージ事業部とネットワンシステムズで設立したプロストレージ株式会社へ出向。2003年からストレージ事業部で新製品の立ち上げや営業支援、2009年からはストレージセールスを担当。