第5回は北海道・札幌市のIBM iユーザーとベンダーの4人が集まって、IBM i市場に求められること、スムーズな世代交代とスキルトランスファー、もっと若い担当者にIBM iのよさを訴求するための手段について語り合う。
出席者(左から)
近藤 諒一氏
サツラク農業協同組合
総務部 電算課
梅沢 佑貴氏
北海道オフィス・システム株式会社
DX事業本部
ソリューション開発部
田頭 陸氏
システムデザイン開発株式会社
システム開発本部
第1システム部
新井 裕貴氏
ライフサンソフト株式会社
札幌ソフトラボ
札幌で活躍する
IBM iの若手担当者が集まる
i Magazine(以下、i Mag) 最初に簡単な自己紹介をお願いします。
新井 私はライフサンソフトに入社して、今年で4年目になります。ライフサンソフトは、「スイートデコレーション」というブランド名で家具・インテリア販売を展開する長谷川産業のグループ会社です。長谷川産業グループは物流、携帯電話販売、コンピュータ機器、不動産リース、システム開発などを行う企業13社で構成されており、当社はグループの販売・顧客管理システム、財務会計システムなどの開発を行う一方、家具販売店のグループ企業というメリットを活かして、お客様へ実業務に即した柔軟性の高いソリューションを提供しています。私は札幌のオフィスで、グループ各社がIBM i上で運用する基幹システムの開発・保守やITインフラの整備などを担当しています。
梅沢 北海道オフィス・システムに入社して丸5年、今年で34歳になります。北海道オフィス・システムへは途中入社です。前職は電気設備系の企業で、ITとは関係のない仕事に従事していました。退職してハローワーク系の職業訓練校でJavaを学んだのを契機に、ITベンダーに職を得たいと思い、北海道オフィス・システムに入社しました。当社も新井さんの会社と同じように、建設機械器具などのレンタル・販売を手掛ける片桐機械という親会社を中心にした片桐グループに属するIT会社です。グループ各社のIT構築を支援する一方、外部のお客様に対して多彩なITサービスを提供しています。私はそこでグループ各社がIBM i上で運用する基幹システムの運用・保守、および「Google Workspace」というグループウェア・アプリケーションの運用を担当しています。
田頭 システムデザイン開発に入社して、今年で4年目、28歳になります。前年度までPHPを使ってオープン系のWebアプリケーションを開発する部署にいたのですが、昨年、IBM iの開発・保守を担当する部署に異動しました。システムデザイン開発は札幌に本社を置くITベンダーで、IBM iのユーザー様が多くおられます。私は化粧品卸しや運輸、食品などの業界でIBM iを運用されているお客様を担当し、開発・運用に従事しています。
近藤 私は皆さんとちょっと違って、純粋にユーザー側の立場になります。サツラク農業協同組合に入社して8年目です。当協同組合は、「サツラク」というブランド名で牛乳をはじめとする乳製品を販売する一方、酪農家の方々にJAバンクやJA共済などの金融サービスを提供しています。私は入社以来、その融資系の部署にいたのですが、今年4月、電算課に異動になりました。まだ異動から半年足らず、これまでITの経験もないので、今は猛烈な勢いで勉強中です。
初めてIBM iを担当すると知ったとき
ガッカリしなかったか?
i Mag 皆さんはIBM iを担当するに際して、どのように勉強したのですか。
新井 私は学校でITの開発スキルを学んでいました。入社してからは自分で検索する、社内の上司・先輩に聞く、そしてOJT、つまり現場での経験から学ぶというプロセスを辿りました。
梅沢 私も同じです。社内での研修には、「昔懐かしい」と皆さんがおっしゃるEOL/400を使用しました。
田頭 私も社内研修プログラムでEOL/400を使いました。そこから自分で検索する、社内の先輩に聞く、現場で学ぶというプロセスは同じです。
近藤 私は異動してまだ半年足らずですが、最初に外部ベンダーの研修プログラムに参加しました。その研修のファシリテータに、いろいろとIBM iについて教えてもらいました。あとは「IBM i Access Client Solutions」を通してIBM iについて学習したり、RPGの初歩的な開発方法を学んでいます。
i Mag 初めてIBM iを担当するとわかったとき、こんな古めかしいサーバーを担当するんだと知って、ガッカリしませんでしたか。
新井 高校時代にC言語、大学時代にPHPによるプログラミング技法を学んだのですが、高校時代にこういった黒画面に緑の文字で表示されるスクリーンを見ていたので、それほど大きな違和感はなかったです。「こんなものかな」というのが、正直な感想です。
梅沢 職業訓練校で学んだJavaの環境と大きく違ったので、最初は驚きました。オープン系でイメージしていたので、「これはなんだろう」「これでやっていくのか」という衝撃は確かにありましたね。でもいろいろと勉強して、コマンド操作などはマウスで実行するよりいいなと感じるなど、半年くらいかけて使いやすさに慣れていった感じです。
田頭 私も正直に言うと、初めて見たときには衝撃を覚えました。異動前に、つまり前部署でオープン系を担当していたときに、IBM iを担当する別部門の開発者の画面を見たときですね。自分がIBM iの担当になって、いろいろと操作していくうちに、思ったより使いやすいなと感じたことを覚えています。やはり半年ぐらい経った頃ですね。
近藤 私は電算課に異動する前は、融資担当部門でJAバンク系のアプリケーションを使っていました。別の部署の職員が操作している5250画面と、自分が操作しているJAバンク系のGUI画面がずいぶん違うと感じたことをよく覚えています。異動後すぐにIBM iのOSやRPGの勉強を始めたところなので、一般の世界とどれぐらい違うのかは、あまり意識していないですね。
i Mag IBM i市場にいるとよく、ベンダーの担当者の方々から、「若手にRPGをやれというと、嫌がって会社をやめてしまう」という話を耳にします。IBM iを担当して、そう感じたことはありますか。
新井 そんな風に感じたことはないですよ。私は先ほどお話ししたIBM i上のシステムを担当する以外に、学生時代の知識を活かして、仕入れ先の企業に向けPHPでWeb EDIサイトを開発する業務も担当しています。RPGとPHPを担当しているので、双方のメリット・デメリットがよくわかるし、RPGという閉じた世界にこもっている実感もありません。RPGとPHPのバイリンガルであることが、よいバランスを保っているのかもしれません。
梅沢 それは同感です。私もIBM i上で稼働する基幹システムの保守を担当する一方、Google Workspaceも担当しています。Google Workspaceはある意味、最先端の要素が詰まっているので、RPGと比較すると、新しいゆえのメリットやデメリットを感じます。1つの言語ばかりやっていると煮詰まるというか、気晴らしが必要ですし、別の言語を触ることで新しい着眼点が得られます。RPGだけだったら、もしかしたら危なかったかもしれないですね(笑)。
田頭 同じように感じます。私の場合は今の部署に異動するまで、PHPでWebアプリケーションの開発を担当していました。だからRPGとPHPを比べて、それぞれのよさ、便利さ、不便さなどを比較できます。バイリンガル、あるいは二刀流でいることの強さを実感しますね。それに開発言語はなんであれ、上流工程を担当できるスキルを身に付けることが重要だと考えています。その意味では、開発言語が何であってもあまり関係ないと思います。
近藤 私はみなさんとちょっと立場が違って、最近になってRPGを勉強し始めたばかりで、ほかの開発言語は知りません。電算課は私を含めて3名で、IBM iのアプリケーション保守は基本的に社内で行っています。私も早くRPGを使いこなして、アプリケーション保守を担える戦力になることを目指しています。その一方で、外部ベンダーの方々とうまくコミュニケーションしたり、進捗や品質をチェックしたり、導入・構築を判断することが求められているように思います。外部ベンダーの方々のお話を聞いていると、確かにRPG人材は減少しているけれど、それは逆に、RPGで開発できる人材が貴重であることを意味するので、キャリア的にはマイナスにならないという話を聞いたりします。
IBM iの世代交代を
スムーズに進めるには
i Mag IBM i市場でもう1つ話題になるのが、世代交代です。ユーザー側もベンダー側も、長く使い続けたIBM iの資産を人的に継承していけるように、世代交代やスキルトランスファーを実現していかねばならない、という意識が強いです。皆さんは若くて、世代交代される側ですが、それには何が必要だと思いますか。
新井 多くの方々が指摘しているように、IBM iはネット上の情報が決定的に少ないので、スキルトランスファーという意味ではそれを解決していくことが1つです。それからIBM iの情報はわかりづらいというか、暗黙の了解の上に成り立っているように思います。コメントでちゃんと書いてあって、書いてあることは理解できるけれど、実際にどう動くのかをイメージしづらいとか、未経験者やよく知らない人に説明するのが難しいとか。ほかの開発言語には、子供でもわかるように懇切丁寧な解説が見られます。でもIBM iの場合は、「読んだらわかるよ」で終わってしまう。IBM iでも親切丁寧に書かれていると助かります。
梅沢 確かにRPG、とくにRPG Ⅲの場合は、作った人にしかわからない「クセ」のようなものがよく見られますね。標識の付け方が独特だとか、goto文がやたらと多いとか。もっと明文化・明示化して、文書に残してもらうことが必要でしょう。
近藤 同感です。これは長い期間にわたって運用されているプラットフォームの特徴かもしれないですね。当協同組合でも、いつ書かれたかわからないプログラムが多数動いています。多くはブラックボックス化していて、「修正はできると思うけど、修正すると何が起こるかわからない」と、ためらう場合があります。
田頭 先ほども指摘されていましたが、ほかの言語に比べると、やはりネット上で検索できる情報が少ないのが悩みですね。やっと検索して見つけたら、20年前の解説でがっかり、とか(笑)。それから米国の情報を翻訳しているせいか、日本語でも意味がよくわからずに悩むケースもあります。あとは、RPG Ⅲの資産がまだ膨大に稼働している現状を考えると、ILE RPGだけでなく、RPG Ⅲの解説記事があると助かります。
新井 そうですね、やはり気軽に情報に触れられる環境が必要ですね。IBM iを勉強するには自分で検索するか、社内の上司や先輩に相談するかですが、相談しても、ぶ厚い解説書を渡されて、「これを読めばわかる」と言われる。でも読んでもわからない(笑)。
梅沢 同感です。気軽にアクセスできて、わかりやすいサイトがあるといいですね。それから、私は入社時にEOL/400で勉強したのですが、EOL/400は古いので、新しい技術要素は載っていないわけです。だからEOL/400が改訂されて新しいバージョンが出ることを希望します。
近藤 IBM i関連のネット情報の充実は確かにもっと必要ですね。それから私は気軽に触って、試せる環境が必要だと思っています。本番環境が動いているところで何かを試すのは、万一のことを考えると、とても危険で怖いですから。無料のクラウドサービスなどが使えると、最初の「とっかかり」として、ずいぶん違ってくると思います。
もっと若い世代に
IBM iのよさを理解してもらうには
i Mag 皆さんよりももっと若い後輩に対して、IBM iはおもしろいプラットフォームだと実感してもらうには何が必要だと思いますか。
梅沢 学校で勉強できる環境を用意することが重要かと思います。学校時代に少しでも馴染みがあると、IBM iに対するイメージがだいぶ変わるのではないでしょうか。
近藤 そのとおりですね。私の知人が職業訓練の場で、「COBOLという名前がテキストに1度だけ出てきた」と言っていましたが、IBM iやRPGはテキストにも出てきませんからね。あとは先ほど言ったように、個人が趣味の範囲で気軽に使える、試せる環境が若い人にとっては重要だと思います。
田頭 RPGはほかの言語に比べると、画面表示とか帳票作成とか、ゴールが決まっていて、その点ではわかりやすいと思います。だから若手や未経験者にも、このゴールのわかりやすさを伝えることが必要でしょう。
新井 確かにそうですね。できること、できないことをわかりやすく明確に伝えることが重要です。Cも、PHPも、Javaも、Pythonも、それぞれに個性があるし、できることもあれば、できないこともある。それと同じようにRPGでできること、やりやすいこと、できないことをわかりやすく伝える必要があります。その意味ではバイリンガルというか、二刀流というか、ほかの言語と組み合わせて学ぶことは重要かもしれませんね。
撮影:竹中勝彦
[i Magazine 2024 Winter号掲載]