watsonx.aiに基盤モデルを追加
IBM独自およびサードパーティー製
IBMは9月8日、企業向けAIとデータのプラットフォームである「IBM watsonx」(以下、watsonx)に新たな生成AI基盤モデルを追加し、機能強化を図る計画を発表した。
watsonxは主に3つのソリューションで構成されている。すなわちAI構築のための企業向けスタジオである「watsonx.ai」、データとAIを管理するデータストアである「watsonx.data」、データとAIガバナンスの両方を包含するツールキット「watsonx.governance」の3つである。
今回の機能強化には、watsonx.governanceの技術プレビューの開始、watsonx.dataでの新しい生成AIデータ・サービス、一部のソフトウェアおよびインフラストラクチャ製品にwatsonx.aiの基盤モデルを統合する計画などが含まれる。
watsonxでは1つの基盤モデルがすべてのニーズに対応できるわけではないという認識に基づき、さまざまな規模とアーキテクチャで、自然言語とプログラム言語の基盤モデル・ファミリーを構築している。
各モデル・ファミリーには、Granite(花崗岩)、Sandstone(砂岩)、Obsidian(黒曜石)、Slate(粘板岩)といった地質学をテーマにしたコードネームが付けられており、今回、watsonx.aiに追加されるIBM独自の基盤モデルとしてはGraniteシリーズ・モデル、およびサードパーティー製の生成AIとしては「Llama 2-chat」と「StarCoder」が発表された。詳細は以下のとおりである。
Graniteシリーズ・モデル
IBMは、今月末にGraniteシリーズ・モデルを追加する計画である。Graniteモデルは、一連の流れの中で次の単語を予測する現在の大規模言語モデル(LLM)の能力を支える「デコーダー」アーキテクチャを使用しており、要約、コンテンツ生成、洞察抽出といった企業向けの自然言語処理タスクを実現する。
IBMはデータソースに関するリスト、およびGraniteシリーズ・モデルの学習データを作成するために実行されたデータ処理およびフィルタリング手順に関する説明の提供を計画している(2023年第3四半期に提供開始予定)。
サードパーティー・モデル
Meta社の「Llama 2-chat」と、コード生成用の大規模言語モデル「StarCoder」をIBM Cloud上のwatsonx.aiで提供する(提供開始済み)。
Llama2は、Meta社が開発した商用利用可能なオープンソースの大規模言語モデル。OpenAIのChatGPTやGoogleのBardと同等の性能を備えると言われており、700億パラメータでのトレーニングが可能である。
またStarCoder は、Hugging Face社が2023年5月に一般公開した。80以上のプログラミング言語、Gitコミット、GitHub issue、Jupyter notebookなど、GitHubから許可されたデータで学習するコーディング用の大規模言語モデルである。
watsonxを構成する3つのソリューションに
多彩な機能強化を実施
IBMはまた、watsonxプラットフォーム全体における新機能の提供開始に向けた計画について、以下のように発表した。
watsonx.ai での機能拡張
◎Tuning Studio
IBMは、Tuning Studioの最初のバージョンをリリースする予定である。これには、ユーザーが所有する企業データを使用して、効率的かつ低コストな方法で基盤モデルをユーザー独自の下流タスクに適応できるプロンプト・チューニングが含まれる(2023年第3四半期に提供開始予定)。
◎合成データ・ジェネレーター
IBMは9月8日、カスタム・データ・スキーマまたは内部データセットから、ユーザーが人工的な表形式データセットを作成できるよう支援する合成データ・ジェネレーターの提供を開始した。
これにより、ユーザーはAIモデルのトレーニングのための洞察を、リスクを低減しながら抽出できるようになり、意思決定を強化し、市場投入までの時間を短縮できる(提供開始済み)。
watsonx.dataでの機能拡張
◎生成AI
IBMはwatsonx.dataにwatsonx.aiの生成AI機能を組み込み、会話型の自然言語インターフェースによるセルフサービス体験を通じて、ユーザーがAI用のデータを発見、拡張、視覚化、調整可能にする(2023年第4四半期に技術プレビュー予定)。
◎ベクトル・データベース機能
IBMはベクトル・データベース機能をwatsonx.dataに統合し、watsonx.ai のRAG(Retrieval-Augmented Generation、検索により強化した文章生成)ユースケースをサポートする (2023年第4四半期に技術プレビュー予定)。
watsonx.governanceでの機能拡張
◎生成AI向けモデル・リスク・ガバナンス
IBMはwatsonx.governanceの技術プレビューを開始する。技術プレビューを利用するユーザーは、基盤モデルの詳細についての自動収集や文書化が可能になるほか、モデル・リスク・ガバナンス機能を利用できるようになる。
この機能を利用することで、企業におけるAIの利害関係者は、企業全体のAIワークフローのダッシュボード上で、AIの運用状況を承認状況とあわせて視覚的に確認でき、適切なタイミングでの人間の関与が可能になる。
Watsonxが支援する各種ユースケース
watsonxでは、ユーザーが信頼できるデータを用いてAIの効果を拡張・加速できるように設計された一連のAIアシスタント機能により、企業の主要なユースケースを支援している。
アプリケーション・モダナイゼーション
今年後半に提供開始予定の「IBM watsonx Code Assistant」は、カスタマイズされた基盤モデルを使用してコードを変換し、開発者向けに推奨コードを生成する。
IBMでは最近、開発者の生産性を高め、COBOLアプリケーションのモダナイゼーションを加速する「watsonx Code Assistant for Z」と、あらゆるレベルの開発者がAnsible Playbookを作成できるように支援する「watsonx Code Assistant for Red Hat Ansible Lightspeed」という2つのAIによるコード生成製品を発表している(2023年後半提供開始予定)。
カスタマー・ケア
「IBM watsonx Assistant」は、会話型AIによる一貫性のあるインテリジェントなカスタマー・サービス・ソリューションの提供を支援する。
たとえば9月末に提供開始予定の「IBM Support Insights Pro」は、watsonx Assistantを使用して、ユーザーがマルチベンダー混在のITインフラに関する洞察を発見し、サポートパターンを事前対応的に評価し、リスクを是正して、より高い可用性とセキュリティを実現する。
人事・採用
「IBM watsonx Orchestrate」 は、会話型インターフェースを通じて、面接のスケジュール調整や求人情報の掲載など、繰り返しの多い業務やバックオフィスのプロセスを人事担当者が自動化できるよう支援する。
watsonx.aiをクラウドやインフラ製品に組み込む
IBMはまた、watsonx.aiをハイブリッドクラウド・ソフトウェアやインフラストラクチャ製品に組み込む予定である。詳細は以下のとおりである。
インテリジェントなITオートメーション
ITオートメーション製品の「IBM Instana」と「IBM AIOps Insights」は、インテリジェント・レメディエーション機能(Intelligent Remediation:自動修復機能)を備えるようになる。Instanaは、アプリケーションやサービスを可視化し、パフォーマンス管理する完全自動型のパフォーマンスモニタリング(APM)ソリューション。AIOps InsightsはAIを搭載してインシデント管理、自動化、コラボレーションなどITの運用管理を支援するAIOpsソリューションである。
インテリジェント・レメディエーション機能にwatsonx.aiの生成AI基盤モデルを組み込むことで、IT運用担当者がインシデントの詳細を要約できるように支援し、技術者が迅速に解決策を実行できるように処方的なワークフローを提案する。
watsonx向け開発者サービス
開発者がwatsonxの機能をIBM Power for SAPワークロード上のユーザーデータ寄りに容易かつ迅速に活用できるよう、SAP ABAP SDK for watsonxは、ユーザーがIBM Power上にあるデータの近くでAIを使用して推論し、最も機密性の高いデータやトランザクションにAIアルゴリズムを展開する方法を追加する(2024年第1四半期に提供開始予定)。
これらの新機能や新モデルは、9月11~14日に米国ラスベガスで開催されるIBMの技術学習プレミア・イベント「TechXchange」で体験できる。
[i Magazine・IS magazine]