川添 祥宏氏
平成30年度 全国IBMユーザー研究会連合会(全国研) 会長
みずほ情報総研株式会社
事業戦略部 PoB室 室長
2018年度のU研には、新関東研の始動や、iSUCからNEXTへの変更など、さまざまな変化が起きている。
その背景には、ユーザーを取り巻く環境の大きな転換がある。
今年7月、全国研の会長に就任した川添祥宏氏に、
これからのユーザー・コミュニティが目指す姿、そしてU研改革のコンセプトを聞く。
改革が必要な場面では
積極的に変えていく
IS Magazine(以下、IS) 事業戦略部 PoB室というのは、どのようなお仕事をされているのですか。
川添 私の所属している部は2016年に誕生した比較的新しい組織で、主に事業戦略の策定と新規事業の創出の2つをミッションにしています。PoBはProof of Businessの略で、よくPoC(Proof of Concept)と言われるコンセプトの検証にとどまらず、ビジネスまで検証しようという思いが込められています。新しいテクノロジーの利用は大きなテーマの1つで、どのようなビジネスが実現できるかを考え、日々活動しています。そのため国内はもとより海外のスタートアップ企業の人たちや、新しい技術開発に取り組んでいる大学の研究者など、さまざまな人たちと交流しています。テーマはロケットからおにぎりまで多種多様で、発想や考え方のまったく異なる人たちと日々話す機会が多く、とても刺激的で、興味深く、その斬新さに驚かされたりしています。
IS それでは、これまでのU研との関わりを教えてください。
川添 2010年に関東研でIT研に参加したのがU研との最初の出会いです。そのあと活動から少し離れ、2013年から先輩のあとを引き継ぐ形で関東研の委員になりました。その後、2017年に関東研の会長となり、今年度全国研の会長に就任しました。
IS 2018年度は、U研としてさまざまな改革へ挑戦する年になりますね。
川添 そのとおりです。例を挙げれば、秋の全国研のイベントとして28回の歴史を刻んできたiSUCは、今年から「NEXT 2018」と名前を変えて新たなスタートを切ります。また、今年度から関東研は大規模に再編された新関東研として活動を開始しています。全国研は昨年度まで14の地区研で構成されていましたが、今年度から新潟研、長野研、北関東研、神奈川研が関東研の支部となり、合計10の地区研として活動することになりました。各支部はこれまでどおり、地域で開催されるイベントにご参加いただくと同時に、関東研の活動にも参加していただけるようになります。実際に新潟支部の会員の方が、東京・箱崎で開催される関東研のイベントに足を運ばれるなど、今までより選択肢が増えたことを喜んでいただいています。ユーザーを取り巻く環境が大きく変化するなか、U研も今までと同じやり方をそのまま続けるのではなく、よいものはよりよく継続し、変革が必要な場面では積極的に変えていく必要があると考えています。
多彩なユーザーに向けて
多様性のあるプログラムを提供
IS ユーザーを取り巻く環境の変化を、どのように捉えていますか。
川添 私はいわゆるIT部門の所属ではありませんが、傾向として感じるのは、ユーザーを取り巻く、とくにテクノロジーを軸とする環境が、過去に見られないスピードで急速に変化している点です。システムを企画し、開発・導入し、運用するというIT部門の仕事自体に大きな変化はないですが、AIやクラウド、IoT、ブロックチェーンなどの新しいテクノロジーが次々と登場し、企業のITを構成する要素が根底から大きく変化しています。この変化がITにとどまらず、ビジネスのあり方や人々の考え方にまで及んできていると感じています。多くのユーザーは今、その変化の内容とスピードにどのように追随していくかを試行錯誤していると思います。
IS そうした変化に伴って、U研のあり方も変革していこうというわけですね。
川添 そうです。プログラムを提供する側から言えば、100%ではないものの、これまでも新しいニーズに応えられるよう相当に変えてきたつもりです。以前と比べると現在のU研には、いろいろな属性の方々に参加いただけるようになりました。業種・業界、企業規模、職責、年齢が異なるのはもちろん、たとえば同じユーザーであっても、IBM iを使って過去の資産を大切に継承していこうと考えるユーザーもいれば、最新テクノロジーを駆使した先進的なビジネスに目が向いているユーザーもいます。
IS そこでは、自ずと求める情報も異なってくるはずですね。
川添 そのとおりです。近年はITの利用が広くエンドユーザー部門へ、さらには顧客へと拡大し、ITがないと仕事にならない人たちが増えています。企業全体がIT、つまりビジネスに関する多様な情報を獲得する必要に迫られているわけです。そう考えると、U研で情報を求めているのは、もはやシステム部門の担当者には限らないでしょう。そうした状況を背景に、U研はいろいろなニーズを抱えるユーザーに向けて、多様性のあるプログラムを提供できるように注力してきました。たとえばIT研のテーマも最近は、IT以外の関心事を取り上げるケースが増えています。また関東研の例ですが、セミナーなどにシステム部門ではない人、つまり営業やマーケティング、総務や人事の責任者などをお招きするようになっています。このように、多様性にどう応えていくかはU研の大きなテーマであり、変化の方向性を考えるうえでの中心軸になっています。
バーチャルに参加できる場と
リアルな交流の融合
IS ほかにも積極的に変えていこうとしている課題があれば教えてください。
川添 リアルとバーチャルな場の連携です。とくにバーチャルな交流や研鑽の場を増やしていこうと考えています。これまで提供してきたe-ラーニングのような一方向での情報提供だけでなく、双方向でコミュニケーションし、離れた場所からもディスカッションに参加できる仕組みを実現したいです。たとえばシステム部員が少ない会員の場合、IT研やそのほかのイベントに参加したくても、往復の移動などを含めると、会社を不在にする時間が長くなりがちです。その間の業務はどうするのか、といった問題に直面し、なかなか参加できないケースが見られます。でも会社にいながらバーチャルに参加できるとなれば、最小限の時間で済むし、なにか急なトラブルが起きてもすぐに対処できるでしょう。
バーチャルな場の参加機会を増やす一方、NEXTやユーザー・シンポジウムなどで、少なくとも年1回ぐらいは実際に顔を合わせて交流を深める。ユーザー・コミュニティの最大のよさは、やはりリアルな場での交流や研鑽にあると思います。すべてバーチャル化する必要はないですが、リアルとバーチャルをうまく組み合わせ、実際に足を運ばなくても活動できる選択肢を増やしていくことが重要だと考えています。
IS 今年度の目標として、とくに注力している取り組みはありますか。
川添 U研の活動理念は、「ITを通じて社会、会員企業、そして会員個人の成長に貢献できる活動を目指す」ことです。今まで会員企業と会員個人の成長に向けては、積極的に活動してきたと思いますが、「社会」への貢献という点では、まだやるべきことが多いと感じています。社会というと抽象的ですが、それは地方自治体、大学をはじめとする教育機関、そして多くの非会員企業群、つまり地域の産業団体などをイメージしています。今年度はそうした「社会」とどう連携し、貢献できるかを積極的に考え、U研とIBMをアピールしていくつもりです。すでにこれまでにも、たとえば関東研神奈川支部(旧神奈川研)が川崎市のイベントに参加したり、新潟支部(旧新潟研)が大学と交流したり、四国研が地域のお祭りに参加したりといった活動を展開してきました。このようにU研が地域コミュニティと連携していくことは、先ほどお話しした「多様性」という点でも重要ですし、いろいろな人たちと出会い、話し、新しい知見を得るという点でも必要だと考えています。
U研はよいものはよりよく継続し、時代や環境に応じて変えていくべきものは積極的に変革していこうとしています。U研が「場」を提供し、会員の方々がそれをうまく活用することで、ビジネスや働き方の改革に活かしていただければと願っています。
[IS magazine No.21(2018年9月)掲載]