text=作田 みのり、前田 啓介(キンドリルジャパン)、梅田 大雄(キンドリルジャパン ・テクノロジーサービス)
新型コロナウィルスの感染症法上の分類を季節性インフルエンザと同じ分類に移行することになったが、我々、すなわちTEC-J「The world after the COVID-19 crisis」研究会にとっては特に感慨深い。
我々研究会は、2020年5月に研究活動をスタートし、2~3週間に1度集まり、その活動を3年間継続している。研究会発足当時はCOVID-19(新型コロナウィルス)蔓延により世界中が非常事態となった頃である。「Before COVID-19」と「With COVID-19」の局面での「ヒト」の周辺領域の調査分析を行い、 COVID-19が収束した近い将来(New Normalの世界)はどのような「世界観」になるかの仮説に向けて研究を開始した。
2020年の研究内容については、当サイトにて以下のように2回にわたって取り上げたが、本稿ではその後の活動内容について紹介したい。
◎ニューノーマルの世界へ向けて私たちはどのように進化すべきか ~TEC-J「The world after the COVID-19 crisis」研究会レポート(前編)
◎ニューノーマルの世界へ向けて私たちはどのように進化すべきか ~TEC-J「The world after the COVID-19 crisis」研究会レポート(後編)
ITを使いこなす人とそうでない人、何が違うのか
「デジタル・ディバイド」を考える
当初、IT企業に勤務する我々の視点でディスカッションを進めたが、2021~2022年は、ITを使いこなしていない人の視点も必要と考えた。COVID-19によって会えない、対面のコミュニケーションが取れない、という状況が増えたが、ITを積極的に使ってその状況を緩和できている人もいれば、そうでない人もいる。「デジタル・ディバイド(情報格差)」という課題をどう解決・緩和するかについて検討を行った。
なお同様な研究として、「超スマート社会における高齢者のIT活用を促進する“人に寄り添うテクノロジー”の展望 」がある。本論文執筆者の倉島菜つ美と陳建和は、我々研究会の技術アドバイザーを務めており本論とは関係性を持って研究を進めている。
ITを使いこなしていない人として思い浮かびやすいのは高齢者で、ITと疎遠な生活をしている方だが、必ずしも年齢に比例しないのではという意見もあり、世の中の事例を探した。
やはり80代でも現役プログラマーの方もいれば、10代でも苦手意識のある方もいるということがわかった。さらにメンバー各自が知り合いにもヒアリングをした上で、ペルソナを作成した。特に高齢者の情報については、内閣府の高齢者の生活と意識に関する国際比較調査も参照した(内閣府『第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(全体版)』“7.友人・知人との交流・社会活動、情報収集”)。
上記検討の結果、縦軸をIT利活用へのモチベーション、横軸を年齢とする4象限のマップを作成し、議論を進めた。図表1が実際のマップである。なお記載している4種のペルソナの命名(例:RESISTORs)は我々研究会のオリジナルである。
我々が定義した各ペルソナの特徴を、以下の3つの観点に基づき、図表2にまとめる。
① 時代背景:新技術の台頭、世界規模の災害や事象、ライフスタイルの変化など
② 身近な環境:家庭や学校、会社など日々身を置く環境
③ 動機・きっかけ:ITを使いたくなる/使わざるを得ない状況があったか
多くの事例を調査した結果、「時代背景」「身近な環境」「動機・きっかけ」が相互に影響を及ぼし合い、個人のITへの慣れ親しみへ影響を与えたと考えられた。使いこなしている人々(我々の定義では「Directors:支持者」)には、以下のような特徴がある。
◎新しいものへの抵抗感より好奇心が強い(時代背景として多感な青年期に目まぐるしい技術革新があり、前向きにそれを捉えている人は高齢になっても好奇心を持ち続けるように感じられた)。
◎昨今SNSなどのITツールの登場により、人と人のつながりが補強される環境が整ったが、そのような中で、人とのつながりに対する欲求や好奇心が高い状態にある。
一方で、使いこなしていない人々(我々の定義では「RESISTORs:抵抗者」)には、以下のような特徴がある。
◎ ITツールの利便性より怖さが先に立つ。
◎ ITツールの利用について、ガイドしてくれる存在がなかった。
◎ ITツールにコストをかける強い動機がない。
どうすればITを使ってもらえるか?
ITを使いこなしていない人々には強い動機がないことと、IT利用への怖さがあるとわかった。怖さはどこから来るのか。ヒアリング時の実際の声として、「仕組みがわかっていないものは使えない」という言葉があったが、仕組みが概念として理解できなければ、何が起こるか想像ができない、よって意図せぬ悪いことが起きるのではないかと、「怖い」という感覚が生まれる。
実際にSNSなどを悪用した犯罪についてのニュースを耳にすることもある。そこで、使いこなしていない人々への働きかけ(我々の定義では「ENABLERs:支援者」等)として、以下のようなことを考えた。
◎ 怖さを払拭し、正しく使うための解説(若年層へは学校教育、高齢層へはTVなど馴染みやすい媒体での情報提供)
◎ (必要性を喚起する一手段として)行政手続きなどでの活用促進(後述の支援が不可欠)
◎ 家族や信頼できる人からの使い方支援
◎ より自然に使えるよう技術の進歩(カームテクノロジー)
◎ 端末の安価な提供
ITに触れて使ってみなければ、そのメリットは享受できないが、触れて使いたくなってもらうために、怖さを払拭する対策を同時に取る、ということが大事である。
今後の検討
この調査を経て、なぜITの利用を勧めたいのかについて考えたところ、メンバーの共通した思いとしては、「ITを通してよりより世界になりたい、幸せになりたい」ということであった。幸せとは何なのか、個人によって違うのではないか、と言うところから現在気になる技術エリアを絡めて議論をしているが、結論がまとまったらどこかで報告したい。
著者
作田 みのり氏
キンドリルジャパン株式会社
ストラテジック・サービス本部
ネットワーク&エッジ事業部
ソリューションデリバリーデザイン部
シニア・マネージャー
TEC-J Steering Committeeメンバー
ST08サブリーダー
ネットワーク技術者として、主に金融系のお客様のネットワークデリバリーを約20年担当。2022年からはネットワーク分野のプリセールスエンジニアとして活動している
著者
前田 啓介氏
キンドリルジャパン株式会社
テクノロジーイノベーション本部
リサーチ
バイスプレジデント
技術理事(Distinguished Engineer)
TEC-J Vice President
ST08リーダー
建築デザイン事務所を2社経験し、3社目として日本IBMに入社。銀行のATM端末を搭載した特殊車両の開発から、データセンターのファシリティ・コンサルティング、各種IT関連先進的ファシリティの設計および施工のPMを数多く経験。日本最大のメガソーラー発電所プロジェクトのIT系設備設計施工の技術責任者等を歴任。日本大学をはじめ数多くの大学で非常勤講師として先進的建築デザインやファシリティ・マネージメント、経営管理等を講義中。
著者
梅田 大雄氏
キンドリルジャパン ・テクノロジーサービス株式会社
テクニカルセンター事業部
テクニカルサービス第一本部
アソシエイト・ディレクター
アカウントテクニカルサービス
ST08サブリーダー
製造業および保険のお客様を経験後、多業種複数のお客様業務を担当するシステムエンジニアの集約センターを担当。その後は製造業のお客様にてITシステム運用の自動化に携わる。直近では新設組織・職種の立ち上げと運営を担当。
*本記事は筆者個人の見解であり、IBMおよびキンドリルジャパン、キンドリルジャパン ・テクノロジーサービスの立場、戦略、意見を代表するものではありません。
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