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対談|DXは従来型の課題解決ではなく、新しい価値を創造していく試みである~株式会社アイ・ラーニング 宮田 晃氏×株式会社福岡情報ビジネスセンター 長田 吉栄氏

 

多くの企業がDX人材の育成に悩んでいる。それはIBM iユーザーも例外ではない。
新しい価値創造に向けて発想力や思考方法を鍛え、DXへの突破口を拓くには何が必要か。
ともに日本IBMでキャリアを積み、今は人材育成をビジネスの柱に据える2人が語り合う。

宮田 晃氏
株式会社アイ・ラーニング
代表取締役社長

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長田 吉栄氏
株式会社福岡情報ビジネスセンター
取締役 人事・社会貢献担当役員

ともに日本IBM出身で
現在は人材育成をビジネスの柱に

i Magazine(以下、i Mag) 最初にお二人のキャリアと、現職となるまでの経緯を教えてください。

宮田 私は1985年に日本IBMに入社し、SEとして主に電機メーカーのお客様を中心にした技術支援やSIに携わってきました。社歴の半分は技術畑を歩んでおり、そこからアウトソーシングサービス事業を中心に事業部長として国内外のマネジメントを歴任したのちに、GTSシステムズサービス事業部長を最後に2018年に日本IBMを退社しました。同年4月に、アイ・ラーニングの代表取締役社長に就任しています。

日本IBMを退社して次のステージに進むことを考えたとき、希望は2つありました。長年、IT分野に身を置いていたので、「ITとは少し違う世界へ行きたい」というのが1つ目。それからIBMは外資系企業だったので、「日本の企業に勤めてみたい」というのが2つ目です。

宮田 晃氏
株式会社アイ・ラーニング
代表取締役社長

長田 アイ・ラーニングは、どちらの希望にもかなっていたわけですね。

宮田 そうなりますね。アイ・ラーニングは、もともとは日本IBMの研修会社としてスタートしましたが、現在はITからビジネス領域まで多彩な人材育成・研修サービスを提供しています。社長に就任した際の私のミッションは、「これであれば、アイ・ラーニングにお任せください」という確かなビジネスコアを創造していくことでした。今はそれを「DX人財」の育成に定め、経営資源を投入しています。

長田 宮田さんはもともと福岡のご出身だそうで、私と同郷です。私も日本IBMに長く勤めましたが、振り返ると、これまで業務でご一緒する機会はあまりなかったですね。私は宮田さんの1年あとの1986年に、SEとして日本IBMに入社し、システム/38やAS/400など現在のIBM iが支えるミッドレンジ領域の技術支援、CITA(お客様担当アーキテクト)、SE部長職を担当してきました。

キャリアとしての大きな転機は2010年で、この年から九州および沖縄の地区部長としてIBMユーザー研究会の事務局を務めることになりました。SE出身者としては、初めての地区部長だったと聞いています。SEとしてシステム構築やプロジェクトに携わる立場から、IBMユーザー研究会に参加されている多種多様なお客様と接する業務へ、仕事内容は大きく変化しました。

同時に日本IBMが主催する地域有識者会議である九州フォーラムの事務局を務めることになり、九州・沖縄の産官学界からIBM iユーザーまで、本当に多様な人的チャネルを築けたことに感謝しています。

長田 吉栄氏
株式会社福岡情報ビジネスセンター
取締役 人事・社会貢献担当役員

i Mag 福岡情報ビジネスセンター(FBI)には、どういう経緯で入社されたのですか。

長田 数年前より自身の60歳以降の働き方を模索するなかで、2020年にIBMユーザー研究会が解散したことも退社を決意した理由の1つでした。生まれて初めての転職活動を展開するなか、入社以来旧知であったFBIの武藤元美社長にお会いし、コミュニティ活動に携わってきた自身の経験が活かせるのではないかと考えて、入社を決めました。現在はFBIおよびそのグループ内の人事管理と人材育成、および社会貢献を担当しています。

現在のユーザーが抱える
DXへの期待と不安

i Mag お二人とも、人材教育をビジネスの要とされているわけですね。それでは現在のユーザーを取り巻く人材育成の課題をどのように見ていますか。

宮田 私はお客様先で経営者の方々にお目にかかる機会が多いのですが、皆さん、DXには相当な危機感を持っておられます。むしろトップの方々のほうが、現場の担当者よりも危機感が強く、それが必ずしも現場に伝わっていないと感じます。そういう意味では同じ企業内でも、トップと現場部門の間にはDXに対する温度差があります。

人材は育つまでに何年かの時間が必要ですから、投資対効果としては、すぐには期待できない。とくにこうしたコロナ禍のような厳しい経営環境に直面している場合は、経営資源を利益に直結するような領域に投入したいと考える。そういう意味では、人材育成への投資は優先順位が低くなりがちです。

しかし経営者、あるいは現場の責任者の方々はすでにコロナ後を見据えていて、現在の人材育成が手薄になると、コロナが終息して事業が回復してきたときに、DXを実現する人的リソースを確保できないのではないかと心配しています。したがって今、DX人材の育成に取り組めるかが将来を大きく左右すると考えています。

長田 DXというと、今まで誰も思いつかなかった斬新な発想や傑出した新しいビジネスモデル、あるいは既存のビジネスモデルであってもサイバー空間のなかで劇的に進化させていくというイメージをもたれがちで、「そんなことを実現できる人材は、とてもうちでは育てられない」と腰がひけてしまう面はありますね。

宮田 そのとおりです。DX人材をどう育てていくかに悩んでおられるお客様はとても多いです。そこでアイ・ラーニングでは「DX推進人財」の育成を目指して、一連の「役割別DX推進スキル強化コース」をご提供しています。目指すべきDX人財モデルは3つあります。まず「DXイノベーター」で、これはまったく新しい視点でアイデアを創出する人材。次に「DXエグゼキューター」があり、ビジネス視点でプロジェクトをリードする人材。そして「DXデベロッパー」が、テクノロジーの視点でアイデアを具現化する人材です。

長田 今までの役割で言えば、DXイノベーターは業務に精通していて、かつ発想力のあるLOBの担当者。DXエグゼキューターはIT部門で、ビジネスと技術の橋渡し役を果たすプロジェクトリーダー的な存在。DXデベロッパーは、IT部門の技術者もしくは外部ベンダーということになりますね。

宮田 そうですね。ただDXはAIやIoTなどの新しいテクノロジーを活用して迅速に実現していくわけですが、新しい価値を提供できるのは「ビジネスをよく知っている人」であって、DXは本来、LOB主導で推進していくべきです。実現手段としてITのノウハウを吸収することは大切ですが、最も重要なのは発想力を鍛え、思考法を変えていくことです。そこは米国などが1歩も2歩も先んじていて、新しいビジネスモデルが次々に生まれています。日本では1人1人の力を役割に応じて強化し、企業全体としてDXに挑戦していくことが重要です。

今できることを積み上げることが
DX実現への道

i Mag 長田さんはユーザーのDXに対する現状をどう見ていますか。

長田 ユーザーを取り巻く状況を考えるうえでの私の原点はIBMユーザー研究会であり、なかでもIBM iユーザー企業のIT部門の責任者が集まる「U研 AS/400倶楽部」でした。ここで皆さんの思いをお聞きするなかで、IBM iユーザーの方々が人材の高齢化・後継者問題に悩んでいること、IBM iの先進的な機能が現在の運用に反映できていないことなど、さまざまな課題を理解することができました。

IBM iユーザーの方々も例外なく、DXにどう挑戦するか、DX人材をどう育てるかに頭を悩ませています。やはりDXにはスーパーマンのような人材を育てる必要があるとイメージされる傾向にありますが、私はあるユーザーの取り組みをお聞きしているうちに、それは違うと思うようになりました。今のステージを着実に高めていくだけでも、DXへの突破口になると学びました。

宮田 そのユーザー企業のお取り組みは、どのような内容なのですか。

長田 IBM iの基幹データを活用するRPAを導入したのですが、それがDXへの糸口になったそうです。RPAを手掛かりに、現場部門とコミュニケーションするうちに、IT部門ではこれまで見えていなかった多様な問題・課題が見通せるようになり、次々に課題を探しだし、ドラスティックに解決策を発見できるようになりました。今までRPGメインだったのが、今はRPG以外で何ができるかにも思考が向いています。その話で印象的だったのは、「いきなり遠くへジャンプするのではなく、現場とのコミュニケーションから今できることを積み上げていくことが、DXにつながる」という言葉でした。

宮田 IT部門は現場部門の業務をよく知らないし、現場部門はITの活用方法をよく知らないケースが多いですね。さらに外部ベンダーに全面委託して、結果だけを受け取ってきた場合には、「ITで何ができるか」という、そもそもの発想がないわけです。だからIT部門、現場部門の双方にスキルの底上げが必要であるとは感じます。

DXの本質を見つめながら
人材育成を支援していく

長田 IBM iユーザーの方々を見ていて強く思うのは、アプリケーションの開発・保守に日々追われていて、なかなか新しいスキルを身に付けられない状況に直面していることです。IBM iには次々に強力な新機能がサポートされているのに、それを利用するための情報も、実運用で活用するための時間も足りないわけです。

そこでFBIでは、「RPG FACTORY」と「FBI Learning(DX人材研修+IBM i研修)」、そして新たにスタート予定のコミュニティ活動である「AS/400倶楽部」を含め、IBM iユーザーの人材教育を支援しようと考えています。なお、コミュニティの名称は長年の「シンボル」として定着していることから、あえて「AS/400倶楽部」としています。

i Mag どのようなサービスを展開していくのですか。

長田 RPG FACTORYはIBM iのプログラム資産の棚卸しやRPGアプリケーションの開発・保守・運用代行、さらに必要に応じて、当社のPowerクラウドセンターの活用やIBM Power Virtual Serverへの移行をご支援するためのメニューを充実させています。つまり日々の運用・保守に追われている担当者の方々をご支援することで生まれる時間を、今度はFBI Learningで学ぶことに使っていただきます。

当社ではアイ・ラーニングのサテライト教室を福岡で開催しているほか、IBM iに関する独自の研修コースをいろいろとご提供しています。またそうしたIBM iユーザーの方々が「AS/400倶楽部」に集まって、相互に事例や知見を共有したり、仲間づくりを行っていただければと思います。

宮田 長田さんのIBMユーザー研究会での経験が活かせるわけですね。

長田 そのとおりです。社会貢献の一環として、とても好評であったU研 AS/400倶楽部というコミュニティを再現できないかと考えています。IT部門の責任者だけでなく、ベンダーのSEも参画し、それぞれの悩みや課題、解決策を相談し合い、共有できる場は本当に貴重です。コロナが終息してくるようであれば、できるだけリアルに集まって、懇親会などでの交流を交えながら率直に会話できる場にしたいです。

宮田 それは期待が高まりますね。DXは発想力や思考方法を変えるのと同時に、企業風土や文化を変革していく挑戦でもあります。それは社内だけで考えるのは難しいし、日々の業務に追われているなかではさらに厳しいでしょう。時間の余裕は必要ですし、そうしたコミュニティで、他社のユーザーと交流していくなかで新しい着想が生まれていくのではないかと思います。

DXに関する考え方は人それぞれ、会社によってさまざまだと思いますが、共通するのは、これが従来型の課題解決ではなく、新しい価値を創造していく試みであるという点です。お客様がDXに向ける期待値と、当社が提供する研修サービスの間に乖離が生じないように、DXの本質を見つめながら、これからもDX人材の育成に取り組んでいこうと考えています。

 

[i Magazine 2021 Spring(2021年4月)掲載]