中国電力 株式会社
パイロット検証で劇的な業務削減
RPAの全社展開が本格的にスタート
RPA化の第1フェーズとして
試行検証を開始
中国電力は今、ITの重要施策の1つとしてRPA(Robotic Process Auto mation)の全社展開に取り組んでいる。
情報通信部門で管理業務のIT支援を担当するシステム第一グループが、RPAに着目したのは2016年12月に遡る。当時注目され始めたRPA技術を調査するなか、生産性向上への手応えを感じ始めたちょうど同じころ、グループ内で情報通信事業を担う(株)エネルギア・コミュニケーションズ(以下、エネコム)がRPAツール「EneRobo」をベースにしたRPA関連サービスの提供を開始した。
そこでシステム第一グループでは「EneRobo」を採用し、エネコムの協力を得ながら、試行検証、導入準備、本格展開という3つのフェーズでRPAを導入しようと考えたのである。
第1フェーズである試行検証は、2017年4月にスタートした。まずはRPAの理解を深めるため、情報通信部門に所属する15名の社員を対象に、外部講師を招いた研修会を実施。続いて7月には同部門の社員約90名全員が、エネコムの技術者による研修会に参加した。
そして図表1のような手順でパイロット業務検証を実施して、RPA化に適した対象業務領域を整理し、効果的な進め方や注意点、課題などを洗い出すことになった。
RPA対象業務の選定に向けては、主管部署と相談しながら、IT活用ワーキンググループのアイデアをもとに、約20業務をパイロット候補として検討。そのなかから、「資材情報システム契約実績連携業務」(以下、資材系)と「配電工事単価改定業務」(以下、配電系)の2つを選んで検証を進めた。
資材系では、基幹DBからデータエクスプローラでダウンロードした契約実績データを手作業で加工(不要なスペースやカンマを取り除いてCSVファイルを作成)し、「資材情報システム」にアップロードする。月1回、約8000~1万件のデータを登録している。
また配電系では、配電の工事単価改定の情報からExcelを作成し、「貯蔵品システム」の単価データを個別に更新する。1回の登録件数は100件程度で、4半期に1回の頻度で実施している。
「WebアプリケーションやExcelを利用する業務のほうが、クライアント/サーバー型よりもRPA化に適していると考えられました。業務の内容から見ても、この2つはRPA化の条件に合致すると判断しました」と語るのは、情報通信部門システム第一グループの飯石竜也マネージャーである。
選定後は主管部署へのヒアリングを実施し、業務の概要およびフローを整理した。それに基づき、対象業務のどこをロボット化するかを決定。プロセスに関する現行の処理手順を整理したうえで、ロボットの設計と作成を進めた。そしてロボットを実際に動かし、ロボットの実行結果と手作業での結果を比較して、想定どおり動作しているかどうかを検証したのである。
配電系業務では
420分が17分へ工数短縮
図表2のように、資材系では8種類、配電系では2種類のロボットを作成した。
資材系では、契約実績連携業務を4つのプロセスに分類し、合計8種類のロボットを稼働させた。たとえばその1つである契約実績連携(一般)で、ロボット化する前後の比較と検証結果をまとめたのが図表3である。ロボット化する前の作業時間はExcel出力、データ加工、アップロードで合計40分。これに対してロボット化したあとの作業時間は、合計5分となっている。
【図表2 作成ロボット一覧】
4つのプロセスの合計では、手作業で190分を要していた作業が、ロボット化後は約17分と、10分の1以下に短縮された(実際には担当者の作業はすべてロボットに置き換わるので、担当者の作業時間は190分の削減となる)。
手作業でExcelからCSVファイルに加工する際に発生していた入力ミスもロボットにより解消されたことで、作業品質が向上した。さらにこれまでの作業工程を見直すことで、ロボット化の効果はさらに高まると見込んでいる。
一方の配電系では、さらに劇的な工数削減効果が確認された。今までの手作業で合計420分を要していた業務が、ロボット化によりわずか17分に短縮された。7時間分の作業が、ロボットに置き替えられるわけだ。工数を要する作業なので、今までは担当者が休日出勤で対応することも多かったが、今後は作業の大幅な負担軽減が期待できるという。
ちなみにシステム第一グループでは上記の2つ以外にも、「新従業員システム運転業務」をパイロット検証している。これは服務データの整合性チェックを自社開発ツールおよびExcelでマクロ化したチェックツールにより実施する日々の定型的業務である。
「この自社開発ツールは、クライアント/サーバー型で運用しています。運転業務はすでにツールにより半自動化されており、またロボット化にはオプション製品の導入が必要であるなど、ロボットの適合性やコスト面などから見て、当初からRPA化の効果は得られにくいと予想していました。しかし社内にはクライアント/サーバー型で運用する業務も多いので、今後の課題や改善点などを検証する目的で、あえてこれをパイロット対象に選びました」と、情報通信部門システム第一グループの金子直氏は指摘する。
こちらは28分の作業が、ロボット化により16分に短縮された。人間系作業で発生する作業順や日付入力などの人的ミスをロボット化で防止できると期待できるが、削減時間は12分と、当初予想したとおり、資材系や配電系ほど削減効果は高くないことが判明した。しかし今後の展開に際して、解決すべき点をいろいろと把握できたので、パイロット検証の意義は大きいと評価している。
全社展開を開始
各部門からRPA化の要望が殺到
パイロット検証は2017年8~9月の約2カ月間で実施され、同年11月に最終報告書を提出した。前述のように資材系や配電系では高い効果が証明されており、この検証結果を得て2018年2月、同社では「RPAを活用した生産性向上の取り組み」として、全社的にRPAを展開していく方針が決定した。
これを受け、社内プロモーションの一環として、RPAの概要や適用イメージ、具体的な導入例などを伝える全社員向けの講演会を開催した。こうした訴求努力が効を奏したのか、各部署から情報通信部門へは、RPA化を希望する業務の相談が次々と寄せられているという。
「情報通信部門には、各部門を担当する10のグループがあります。今年度は各グループが、担当する主管部署内でRPA化の事例を最低でも1件実現させる目標を立てましたが、アイデアは次々と寄せられているので、目標は簡単に達成できそうです」(飯石氏)
情報通信部門では今、各部門とRPA案件の検討・調整を進める一方、サーバー環境の構築をはじめ、RPA運用手順書の作成や運用ルールの確立など、本格展開に向けた利用環境の整備を急ピッチで進めている。
「今後、各部署で運用するロボットの数が増えていった場合、内容がブラックボックス化し、メンテナンスや管理の対象から外れるロボット、いわゆる『野良ロボット』が多数出現する可能性もあります。それを防ぐため、情報通信部門でロボットを集中管理し、利用状況や導入効果を正確に把握しながら全社展開していく仕組みが必要だと考えています」と、情報通信部門システム第一グループの橋本文枝氏は語る。
2020年に実施される発送電分離を控え、情報通信部門もシステム対応に追われるなか、全社に広がり始めたRPAは、ボトムアップ型で生産性向上を実現する大きな取り組みになりそうだ。
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Company Profile
本 社:広島県広島市
創立:1951年
資本金:1855億2700万円
売上高:1兆1217億8900万円(2017年3月末)
従業員数:9305名(2017年3月末)
事業内容:中国地方5県および島しょ部を中心とした周辺地域に電気事業を展開
http://www.energia.co.jp/
電力の小売全面自由化に伴い、事業基盤である中国地域を中心に域外のエリアに対しても広く、家庭から事業用までエネルギーに関する多様なニーズに向けて付加価値の高いサービスを提供する。2020年に予定される送配電事業の法的分離を控え、新たな収益基盤を確立すべく、中国地域外での電気事業や海外での発電事業などに、積極的に取り組んでいる。