RPA×OCR、RPA×AIなど新しいソリューションが登場
ロボット管理機能をもつ
サーバー版の販売が伸びる
イグアスは、ITベンダーやSIerなどで構成される全国600社の販売パートナーに各種IT製品を提供する付加価値ディストリビュータ(VAD)である。そのイグアスでRPA製品を担当する菅野敦氏(製品&ソリューション事業部 ソリューション本部 ソリューション営業部 部長)は、販売パートナーの動きをとおして見えるRPA市場の特徴について「2018年は“とりあえず”、2019年は“本腰を入れて”」と言い、次のように説明する。
「2018年はRPAがブームのように盛り上がったこともあり、RPAツールを使って何ができるのか、とりあえず試してみようという動きが広がりました。ビジネス的には、引き合いは急増したものの様子見をされるお客様が多く、デスクトップ版がポツリポツリ売れていく状況でした。今年になるとそれが一変し、実業務への適用が本格的に進み、パートナーからの問い合わせもより実践的な内容になりました。管理機能をもつサーバー版の販売が増え、ユーザーが本腰を入れて取り組み始めた印象です。ビジネス的にもいい角度で販売が伸びています」
菅野氏によると、パートナーのRPAに対する取り組みは、
・自力で市場を開拓する
・イグアスの販売支援を強く求める
・その他
の3つのタイプに分かれる。
「自力で市場を開拓する」のは、自社でRPAのスキルを蓄え、ユーザー(顧客)の業務に即したソリューションを開拓し、導入・開発支援なども行える企業。「イグアスの販売支援を強く求める」パートナーは、RPAに対して積極的であるもののソリューションの開発や販売方法、技術、導入、ロボット開発などで支援を要請してくる企業である。
「その他」については、「多くのベンダーがRPA製品を販売しているので参入を控えているか、当社が推進しているRPAツールとは別のRPA製品をすでに販売中なため」と、菅野氏は分析する。同社が扱っているのは「AutoMate」「iPas」の2種類だが、製品の特性を踏まえて増やしていく方針という。
イグアスでは今年4月に、「AutoMate導入支援サービス」をスタートさせた。AutoMateの導入・設定と操作説明が主なサービス内容だが、「パートナーからの支援要請を多数受けるなかで、その延長としてサービス化したもの」(菅野氏)という。
「RPA製品はロボットを簡単に開発できる側面がある一方、多数の機能を備え技術的に深い側面もあります。パートナーがすべての技術に習熟するのが難しくなってきているなかで、販売支援の一環として導入支援サービスを提供しています」(菅野氏)
イグアスの石井静楓氏(製品&ソリューション事業部 ソリューション本部 ソリューション営業部)は、今年に入ってから「RPAツールを使えば自動化を実現できるのか、あるいは困難なのか、その判断基準が知りたい」という声をパートナーから多く聞くようになった。RPA製品を販売したユーザーがパートナーに対して発している質問だという。
「RPAツールを導入して効果を実感したユーザーは適用範囲を広げていくのが通例ですが、その際にどの業務から手をつけるべきか、開発に要する工数に見合う効果が本当に得られるのか、という一段深い悩みをもたれるようです。RPAとは何かという理解が一般に広く浸透した現在、当社を含めRPA製品を提供する側がこうしたRPAに本格的に取り組み始めたユーザーの疑問の声にきちんと応えていく時期にきていると感じています」と、石井氏は話す。
RPAツールと他のツールの
連携が重要になる
その観点で、イグアスが今最も注目しているツールが「D-Analyzer」である。PCにインストールするとアプリケーションごとの操作ログを自動で収集し、個々の操作にどれくらいの時間を要し、どのような手順で操作しているかという業務フローを可視化できる。
「業務のRPA化を進めるときは、その前段の作業として業務分析と手順化を行いますが、D-Analyzerはそれを同じことを自動で実現します。業務に要している時間を細かく明示化できるので、RPA化によってどれだけ作業時間を削減(余力化)できるか投資効果を計ることが可能で、個々の作業をフロー化して可視化するので属人性の確認や業務標準化の参考にすることもできます。RPA化を行う際に最初のハードルとなる、どの業務をどのように自動化するか、という課題に応えるツールです」(石井氏)
最近、マニュアル作成ツールの「Dojo」への問い合わせが多数、イグアスの元に寄せられている。DojoはPCにインストールして操作ログからマニュアルを生成するツールだが、RPA化の業務分析用ツールとして使うための問い合わせだという。
イグアスでは今後も、これまで自動化されてこなかった定型業務を中心にRPAの適用が進むと見ている。そしてその流れのなかで、「RPAツールと他のツールとの連携がきわめて重要になっていくと思われます」と、菅野氏は指摘する。
「当社は今、OCRツールとRPAツールの連携ソリューションに注力していますが、これはシステム化が困難であった手書き伝票関連の一連の業務を簡単に自動化するもので、大きな省力化効果をもたらします。今後は、AIも含め、他のツールとRPAツールとの連携によるソリューションと、それに関するスキルや知見、経験がRPAベンダーの優劣を決めるポイントになると考え、パートナー支援を強化しています」(菅野氏)
「Wordsmith」はそうしたツールの1つで、RPAツールを使って収集したデータをWordsmithに渡すと、数字や文字から自然言語変換と文章の組み立てを行いレポートを生成する。たとえば、売上データから「売上分析報告書」を自動作成するといったことも可能だ。
「ユーザーやパートナーの方々から、RPAツールを使って多様なソースからデータを収集できることは理解できたが、集めたデータをどう自動処理するのか、と問われることがありました。Wordsmithはそうした疑問と期待に応える、RPA連携ソリューションの1つと考えています」(石井氏)
熱い視線が注がれる
RPAツールとOCRの連携ソリューション
OCRとRPAツールの連携は、昨年後半あたりから急速に注目を集め始め、その後続々とサービスやソリューションの投入が続いている分野である。
業務では依然として手書きの注文書や申込書、伝票類を扱うことが多い。その内容をシステムに入力するには人が目視で確認し手入力するのがこれまでの一般的なやり方で、それが一連の業務の自動化を困難にしてきた。内容の読み取りにOCRを使ったとしても、精度が低いために結局は人手を要することになるからだ。
しかし最近のOCRソフト/サービスは、AIを組み込んでいるのが特徴である。たとえば「AI OCR」をキャッチフレーズとするAI Inside社の「DX Suite」は、「活字文字ならば97%以上、手書き文字でも96%以上」(恵和ビジネスの志田雅章 新規事業開発推進部長)という高い識字率をもつ。
つまり、このレベルならば、100%に届かないわずかな部分の対処をしさえすれば、OCR処理したデータを次の処理へと引き渡す自動化が可能となり、これまでの最大のネックであった手作業を解消できる。これがOCRとRPAツールの連携に熱い視線が注がれている理由である。
札幌に本社を置く恵和ビジネスでは、今年4月からDX SuiteとRPAツール(WinActor、BizRobo、UiPath)を連携させたソリューションビジネスをスタートさせた(図表2)。
同社のソリューションの特色は、導入支援から開発支援、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)、運用・保守までトータルなサービスを提供していることである。とくにBPOは、印刷ビジネスを母体にデータ入力やイメージエントリーなど多様なBPOサービスを提供してきた同社ならではの強みを活かし、他社にないサービスをラインナップしている。
「文書のOCRで重要になるのは、OCRで処理した後のデータの確認と読み取りがうまくいかなかった場合の補正ですが、当社ではそのサービスに加えてOCRの読み取り結果に入力オペレータがベリファイ入力するオプションも用意しています。OCRとRPAを連携させたシステムを円滑に運用するには、データの正確さを保つことが不可欠で、連携システムのポイントです」と、志田氏は述べる。
小規模なOCRソリューションに対するニーズが
AutoMateを販売する三和コムテックは、この10月から「AutoMate 定型OCRオプション(以下、定型OCRオプション)」の販売を開始した(図表3)。
これはDX SuiteのOEM版で、同サービスを扱い始めた理由について執行役員の東條聡氏は、次のように話す。
「当社のAutoMateは、昨年の2倍以上のペースで販売が伸びていますが、それと歩調を合わせて伸びているのがOCRとの組み合わせのご提案です。RPAの浸透に伴って、より実務に近い提案を求めるお客様が格段に増えています。当社ではこれまで、OCRとの連携ソリューションを望まれるお客様にはオンプレミス型のAnyform OCRをご提案してきました。しかしAnyform OCRは価格レンジから言って、OCRで処理する文書が大量にある中堅・大企業向けの製品です。今年に入ってから、より小規模なOCRソリューションを必要とするお客様が増えたので、そうしたお客様の要望に応えるのと、ラインナップを拡充する目的で定型OCRオプションの提供に踏み切りました」
AutoMateと定型OCRオプションとの連携は、次のようなステップで進む(図表4)。
まず複合機やFAX受信によってイメージ化された文書データが所定のフォルダに投入されると、AutoMateのトリガー機能が作動してクラウド上のOCRシステムへ転送。
OCR処理が完了してテキストデータ(CSVファイル)が所定のフォルダに保存されると、再びトリガー機能が作動してAutoMateへダウンロード。そこからはデータがテキスト化されているので、基幹システムへの入力やExcelへの展開などさまざまな利用が可能になる。
同社クラウド&サーバー事業部の中嶋謙治次長は、「OCR処理する文書の項目が20個ならば、イメージデータのアップロードに10~20秒、OCR処理に10~15秒、ダウンロードに10?20秒程度なので、イメージデータからテキストデータへの変換に1分もかかりません」と、実測データを紹介する。
三和コムテックでは、定型OCRオプションと同様の、外部ツール/サービスとAutoMateとの組み合わせによる連携ソリューションの開拓を積極的に進めている。
図表5は、音声認識ソリューション「AmiVoice」との連携で、AmiVoiceが音声を認識してテキストに変換し所定のフォルダに保存すると、AutoMateがそれを検知して次の処理へ引き渡すというもの。議事録の作成やハンズフリーの現場作業の報告書作成などに使えるという。
図表6は、スマホ上のチャットサービス「LINE WORKS」と対話型AIドキュメント作成サービス「SPALO」との連携で、たとえばユーザーがLINE WORKSを使ってSPALOとの間で在庫確認などのやり取りを行い注文を確定させると、SPALOはその注文情報をDBへ登録(またはメール形式で送信)。
AutoMateはそれを検知して基幹システムを起動し、注文処理を実行。その結果をスマホへ返す、ということが実現できる。
図表7は、TwitterとIBM Watson Personality Insightとの連携で、三和コムテックがデモ用に開発したもの。キーワードに該当するツイートをAutoMateで収集し、それをWatsonへ送信して分析するというシステムである。
「AutoMateは15種類ものトリガー機能を備えているのでシステムの連携が容易です。業務の課題を解決する連携ソリューションを今後も増やしていき、AutoMateによる自動化の幅を広げていく考えです」と、中嶋氏は話す。
増加するRPAシステムの扱い方・考え方
RPA化ないし「RPA × X」によって基幹システムや業務システムとは別種の自動化プログラムが社内に蔓延していったとき、企業全体のシステム像はどのようなものになるのか。
北海道オフィス・システムの花田滋雄代表取締役社長は、「RPA化したシステムは、基幹システムや重要システムの更改時に見直しを行い、それらに組み込んでいくことを検討すべきです」と、次のように考えを述べる。
「RPAツールによる自動化は、基幹システムのような次の更改までの期間が長いシステムの更改サイクルの中間で行われています。そのなかには、本来は基幹システムに組み込まれているべきものが、自動化の効果を早期に得るためにRPA化されたものが少なくありません。業務上重要で基幹システムや重要システムへの組み込みに値するRPA化したシステムは、基幹システムなどの更改時に組み込みを検討すべきです。そうすることで単なる更改ではない、業務の見直しや業務改革を伴う更改を行うことができ、さらにRPAのタスク/ジョブの無限の増殖を防げます(図表8)」
花田氏によると、RPAが今以上に普及し自動化が進むと“野良ロボット”の問題がどの企業でも顕在化し、重要なシステムの安定的な運用を脅かすようになる。
「RPA化の対象となるのは、基幹システムに載らない、些細な特殊な業務と見られがちですが、実はその企業の核心に触れる業務であることが少なくありません。それをRPA化し、基幹システムなどへの組み込みを検討するなかで、業務の本質的な見直しが行えます」(花田氏)
[i Magazine 2019 Winter掲載]