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RISING4のプロジェクトで得た大きな財産が 今後の学園改革の礎となる ~INTERVIEW 田尻 実氏 |特集◎立命館大学の挑戦 

 

内製体制、ソフトウェア基盤、学内外の良好なコミュニケーションが
次のステージへの推進力に

田尻 実氏   学校法人立命館 情報システム部 部長

 

 

「R2020」から「R2030」へ
教育のIT化に取り組む

i Magazine(以下、i Mag) 立命館学園では「R2020」という長中期計画のもとで大学改革、学園創造、グローバル化が進んでいますね。

田尻 そのとおりです。学園の理念・使命を謳った「立命館憲章」に基づき、2020年の立命館像を描いた「学園ビジョン R2020」を策定しました。2011年度から2015年度までが前半期、2016年度から2020年度までが後半期にあたります。

1988年に国際関係学部、1994年にびわこ・くさつキャンパス、2000年に立命館アジア太平洋大学が発足するなど、2000年代に入るまでは「国際化」や「情報化」などの課題に対して、いわば一点突破型の改革に着手してきたと言えます。しかし最近は、総合大学として多様なテーマに取り組んでいかねばならず、「R2020」はより総合的なビジョンを描くようになっています。現在は、2030年のビジョンを目指す「R2030」を策定している最中です。まだ構想段階ではありますが、柱の1つに大学のグローバル化、そして教育のICT利用などを据えながら策定を進めています。

たとえばオーストラリア国立大学との共同学位制度、つまり修得した単位が自分の大学の履修単位として認定される制度などを進めたり、オーストラリア国立大学の講師が立命館大学で授業を行ったりと、より一層のグローバル化を推進していきます。

i Mag 教育のIT化についてはいかがですか。

田尻 大学におけるIT化には、大きく2つの視点があります。1つは教職員の日々の業務を効率化・合理化する環境を整備すること。これは今回のRISING4の構築で、大きく前進しました。もう1つは教育自体のIT化で、これにはITによる教材の作成から学内外での学習機会の支援まで、さまざまな方向性が考えられます。

たとえば今の学生は、学習時間が減少傾向にあると指摘されていますから、マイクロラーニングという言葉に象徴されるように、短い学習を積み重ねてトータルに学習時間を増やしていく。それにはITでどう環境を整備し、どのような教材を作成するかといった課題が挙げられます。教員と協力しながらITを使って学習・教育の質をどう高めていくかについては、情報システム部の役割が一層高まっているので、1人1人がさらに力を付けていかねばなりません。

 

RISING4のプロジェクトが
もたらした数々の大きな財産

i Mag RISING4の今回のプロジェクトをどう評価していますか。

田尻 プロジェクトは本番がすべてです。今年1月の本番稼働から順調に動いているので、それだけとっても大成功だと考えています。今回は情報システム部のメンバーたちが誰も自前開発の経験がないなか、外部の方々の手を借りつつも、パッケージ製品を使わずに、すべて自分たちの手で作り上げるという大きな挑戦でした。メンバー全員が一丸となり、とても良好なチームワークで見事にやり遂げたことは大きな成果でした。

それ以外にも、今回のプロジェクトではいろいろな財産を得られました。たとえば、「立命館スタンダード」と呼ぶべき開発標準やアプリケーション・フレームワークを作り上げましたが、これは当大学にとっての重要なソフトウェア資産であり、今後の改修やバージョンアップ、あるいは新規開発で資産を活かしつつ工数を削減し、生産性を高めていくうえで重要な礎になります。

また以前から考えていた内製できる体制づくりも、今回の開発を経て大きく前進しました。前回システムであるRISINGⅢでは、数年がかりで不具合を落ち着かせた記憶がありますが、それに比べると、RISING4は本番稼働後のトラブルがとても少なかったです。それは内製化によって、思い違いや考え違いによるバグの発生を防げたことが大きな理由だと考えています。

i Mag 今回は内製化できる体制づくりが、プロジェクトの狙いの1つでしたね。

田尻 そうです。現場や業務のニーズを理解できるスタッフが情報システム部内にいることは、プロジェクトの質を大きく左右します。システム開発はコミュニケーションがすべてで、業務の見えない部分、書類などの形になっていない部分をコミュニケーションで補っていかねばなりません。

学内のスタッフであれば数分で理解できることが、外部ベンダーには何時間かけても伝わらないことが往々にあります。コミュニケーションロスほど、大きな無駄はありません。現場や業務のニーズを理解できる、いわばコアになれる人間を情報システム部内に育てていかないと、プロジェクトが意図しない方向へ、目的を達成できない状況へと動いていく。それを避ける意味で、内製体制の確立が不可欠だと以前から考えていました。

i Mag 情報システム部では今後、どのような人材育成に注力していくのですか。

田尻 業務を知る人間、テクノロジーを知る人間をバランスよく育てていきたいですね。現在のIT領域は多種多様なテクノロジーで構成されているので、すべてを学内の人的リソースで対応することはできません。ただどう開発するか、プログラムで何ができるかを知る基本的な素養がないと、業務をシステムでどう改善するか、ITをどう利用するかの発想も生まれません。

1人ですべての知識を補えなくても、それぞれのスキルをもつスタッフが混生するチームとして、情報システム部を機能させることが必要です。今回は業務に詳しいスタッフ、ITに詳しいスタッフが適度なバランスでプロジェクトを推進できたと考えています。

i Mag 今回のプロジェクトで得た財産はほかに何かありますか。

田尻 プロジェクトを通して、各業務部門とよいコミュニケーションをとれる関係づくり、良好な人間関係を築けたことも大きな財産ですね。これは今後、新しいシステムを構築していくうえで、重要な人的基盤になるでしょう。さらに言えば、今回は外部の方々の協力に大きく助けられました。

内製主義とは言え、こうした外部ベンダーの力を借りなければ、今回の成功はありませんでした。一切を自前で開発するという、とてもチャレンジャブルな、見方によっては無謀な取り組みではありましたが、外部ベンダーの方々がそれを好意的に受けとめ、自らもおもしろがって一緒にチャレンジしていただきました。

情報システム部、外部ベンダー、そして学内のユーザー部門の全員がとてもよいチームワークで取り組めたことが、RISING4の成功をもたらしました。今後は学内情報のデジタル管理へと向けた次の開発プロジェクトも控えています。今回の成功を、次への推進力につなげたいと考えています。

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PART 1  2013-2015    RISING4の始動
資産継承性の高いソフトウェア基盤と
内製主義を貫く体制確立に向けて

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PART 2 2015-2018    RISING4の実現
独自のアプリケーション開発標準と
アプリケーション・フレームワークを構築

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PART 3  RISING4の技術
独創的なWeb画面生成機構を開発
部品化・レイヤ化・テンプレート化も導入
[i Magazine 2018 Winter(2018年11月)掲載]