Speaker
豊村 洋二
JBCC株式会社
ソリューション事業
ハイブリッドクラウド事業部
クラウドテクニカル本部
PowerSystems担当
2022年のIBM i市場では、IBM i 7.5、IBM i Merlin、Power10スケールアウトサーバーなど次世代の基盤となる製品が相次いで登場しました。その一方、IBM i 7.3やPower8サーバーなどのサポート終了も多数アナウンスされました。つまり2022年は、時代の変わり目を告げる節目の年だったのです。
そうした中で、次のシステム基盤へ向けて取り組みを始めるIBM iユーザーが増えています。ただしその動機や目的はユーザーごとにさまざまで、最終的なプラットフォームへ至る選択のプロセスも一様ではありません。そして多くのIBM iユーザーが、多くの課題をクリアし最適解を導き出すことに、たいへんな苦労を重ねています。
イグアス主催「iEVO 2022」で大好評を博したJBCCのセッション「PowerクラウドかオンプレPower10か。次の一手はこれだ! ~導入事例から見た選択の舞台裏~」では、JBCCが支援したユーザー案件の中から、豊村洋二氏(ソリューション事業 ハイブリッドクラウド事業部 クラウドテクニカル本部 PowerSystems担当)が、最適なプラットフォームを選択するまでの検討と判断のポイントを詳しく紹介しています。本記事は、その講演レポートです。講演の録画は現在リプレイ配信中です。本記事の末尾に配信サイトをご案内しています。[i Magazine編集部]
40年に及ぶ
Powerビジネスの取り組み
JBCCでは、Power Systemsの移行に関するご相談やお問い合わせを多くのIBM iユーザー様からいただいています。そしてその内容は、次の4つに大別できると考えています。
・EOS対策によるリプレース
・災害対策の強化
・新規システムの検証・稼働環境の確保
・IBM iとは別プラットフォームへの移行
iEVO2022のセッション「PowerクラウドかオンプレPower10か。次の一手はこれだ! 導入事例から見た選択の舞台裏」の解説者として登場したJBCC クラウドテクニカル本部PowerSystems担当の豊村洋二は、最初にIBM iのお客様から多数のご相談やお問い合わせを受ける背景について説明しました。
「JBCCでは、1983年の日本IBMとのパートナー契約以来、40年間にわたり、Power Systemsのビジネスを推進してきました。その結果、国内の販売台数ではシェア60%以上の第1位となり、2万社以上のお客様へご支援を提供するという、他社の追随を許さない確固たる実績と技術を築いてきました。当社のPower Systems事業は、コンサルティングから設計・構築・運用・保守までトータルにカバーし、ソリューションをワンストップでご提供できる特徴があります。そしてそのソリューションも、JBグループ内ですべてを調達できるのが強みです。さらにシステムの導入後は、運用監視センターと全国53カ所の拠点から迅速にサポートをご提供する体制を整えています」
一方、Power Virtual Serverについても、「当社はすでに確固たるポジションを築いています」と、豊村は語ります。取り組みは2020年10月の東京リージョンでのサービス開始直後からスタートし、技術検証の成果やPower Virtual Serverへの移行ノウハウをセミナーでご紹介するとともに、お客様への提案を精力的に推進してきました。
「その結果として、日本IBMから『国内実績 No.1』の表彰を受けました。これは、扱い件数だけでなく、お客様の課題に真摯に向き合う当社の活動スタイルも評価されたものと考えています」と、豊村は感想を述べます。
IBM iを長期にわたり運用してきたユーザーは、今、多くの課題に直面しています。それを打開し「次の一手」へ進めるには、何を考慮しなければならないでしょうか。
豊村はそのポイントとして、「Power Systemsおよび関連製品のEOS(サポート終了)時期と、今年登場したPower10スケールアウト・モデルの構成に着目する必要があります」と指摘します。
Power Systemsについては、Power7(7+)はすでにEOSとなっており、Power8に関しては既に2024年3月のサポート終了がIBMから発表されています。つまり今後は、Power9かPower10モデルの選択しか残されていません。
またIBM iのOSバージョンについては、IBM i 7.2が通常サポートを終了してバックレベル・サポートに入っており、IBM i 7.3も2023年9月30日の通常サポート終了がアナウンスされています。今後はIBM i 7.4または7.5のみの選択となります。
そしてさらに留意が必要なのは、ストレージ製品の保守サポート終了です。図3にあるように2023年と2024年に多くのストレージ製品がEOSを迎えます。豊村は、「これらの製品はPower8モデル発表当時の中心的なストレージ製品で、多くのお客様がご利用中です。Power8のリプレースを検討中のお客様は、ストレージ製品も含めて、2023年中のリプレースをお勧めします」と話します。
一方、今年7月発表のPower10スケールアウト・モデルについては、次のように特徴を説明します。
► エントリー・モデルのS1014は、4コア/8コアモデルのみとなり、従来提供されていた6コアモデルは廃止
► S1022s、S1022モデルはVIOS利用が前提
► 全モデルでNVMeが内蔵ディスクとなり、HDD、SSDは撤廃
► 全モデルでPCIスロットが減少(S914とS1014の対比では3枚減少)
► 全モデルでV.24アダプターの撤廃
この特徴を踏まえて豊村は、「現在P05のPower8を利用中のお客様がP05のS1014へ移行しようとすると、S1014の4コア、メモリ64GB、PCIスロット最大5というスペックに収まりきらない可能性が出てきます。といって8コア(P10)に上げるとコスト負担が大きくなり、S1022sはVIOS前提のためLPARを使用していないお客様は対象外となります。オンプレミスーオンプレミスの移行には高いハードルがあるとの認識が必要です」と語ります。
Power Systemsリプレース時の
4つの検討パターン
そこで、もう1つの選択肢として浮上するのがPower Virtual Serverです。クラウドのPower Virtual Serverならば、必要なリソースを必要なだけ調達でき、拡張や縮小も柔軟に行えます。しかもオンプレミスではサポート終了のIBM i 7.2や、2023年にサポート終了となるIBM i 7.3の継続利用も可能です。
そして豊村は、冒頭で触れたPower Systemsリプレース時の4つの検討パターンについて紹介し、話を進めました。以下、4つの検討パターンについて、豊村の説明をご紹介します。
検討パターンの1つ目は、EOS対策によるリプレースです。Power S814(P05モデル)をお使いの場合は、3つの選択肢が考えられます。1つは現状維持を優先するS914(P05モデル)、もう1つはパフォーマンス重視のS1014(P05モデル)、そして運用工数の削減や可用性向上を重視するPower Virtual Serverです。実際の検討フェーズでは、お客様の将来的な方針や、システム要員の後継者問題、日々の運用負荷の状況などを考慮して検討を進めます。
2つ目は、災害対策の強化を目的とするリプレースです。これについては災害対策のレベルをデータ保全(同期)におくか、HAレベルの運用とするかによって考慮点は大きく異なります。またデータの同期先、あるいはバックアップ機の配置先をオンプレミスとするかクラウドにするかによっても違ってきます。「このパターンでは、コストが最初に着目すべきポイントで」と、豊村は指摘します。
3つ目は、新規システムの検証・稼働環境としての利用です。新規事業の立ち上げなどに伴い新規開発のシステムの検証環境が外部に必要になる場合があります。3つ目はそうしたパターンを指しています。
このパターンではPower Virtual Serverが非常に有効です。新規システムで必要になるリソースのサイジングをクラウド上で行いながら検証を行うことができ、そのままPower Virtual Server上で本番移行も可能です。
4つ目は、次期システムをIBM iとは別環境で運用しようというパターンです。このパターンを検討されるお客様の理由・目的はさまざまですが、老朽化対策やオープン環境への移行を視野に入れている場合は、「今後のオンプレミスでの利用年数に応じて、クラウドにするかオンプレミスを決める必要があります」と、豊村は言います。
EOS対策のプロジェクトは
3つのステップで進める
豊村は次に、検討パターンの1つ目の「EOS対策」を起点にオンプレミスからPower Virtual Serverへの移行を実現したお客様事例の紹介へと講演を進めました。その内容は、お客様とJBCCが何を検討課題とし、どのような判断の下で最終的な選択に至ったかをご紹介するもので、いわば「選択の舞台裏」です。
ご紹介の柱は、
①Power8モデルからPower Virtual Serverへの移行
②災害対策の強化を目的とする移行
③ネットワークとセキュリティの強化を目的とする移行
の3つですが、ここでは①をレポートし、②③は録画で「選択の舞台裏」をご確認いただきたく思います。
お客様は食品製造・販売・卸の会社です。同社はRPG技術者の減少とシステム担当者の高齢化という問題を抱えていたため、次期システムはオープン系での運用を目標としていました。
お客様が計画していたインフラの刷新期限は2025年です。今後3年以内にステップを踏んでプロジェクトを進め、期間内に完了させることを想定していました。また、IBM iだけでなくIAサーバーを含む周辺システムのクラウドシフトも期間内に完了させることを決めていました。
お客様から相談を受けたJBCCではさっそく、「IT Modernizationクリニック」を実施しました。IT Modernizationクリニックは、お客様が次期システムを検討する時に、解決したい課題や新しく取り組みたい事項をJBCCと一緒に考える相談会で、すでに300社以上お客様が利用されています。具体的にはこのクリニックでお客様の現状についてヒアリングを行い、課題点を抽出して今後のシステム・イメージについて考察し、今後のロードマップを共有するところまで実施します。これによってお客様は、EOS対策やコスト削減、運用負荷削減、BCP対策、オール・クラウド化などの進め方について具体的な手がかりを得ることができます。
今回の事例のお客様とIT Modernizationクリニックを実施した結果、「プロジェクトは3つのステップで進める必要がある」という結論に至りました。
JBCCがお客様に提示したステップは、次の3つです。
第1ステップは、全国の拠点から柔軟かつセキュアな接続を実現するためのネットワークの再設計と環境整備です。第2ステップは、アプリケーションの移行を段階的に進めるためのPower Systemsのクラウドへの移行です。「利用中のアプリケーションを段階的に移行するには、アプリケーションとの親和性・接続性を維持できるクラウド基盤が不可欠で、そのためにはPower Virtual Serverへの移行が必要になります」と、豊村は説明します。そして第3ステップは、IAサーバーなどのクラウドシフトで、個別のシステムを順次切り替えていくステップとしました。
Systemsリプレース時の
5つの検討ポイント
ここで豊村は、「スケジュールを実行に移すには、最初にお客様が抱える多くの課題を解決する必要がありました」と振り返ります。
課題の1点目は、Power関連製品のサポート終了です。お客様はすでに通常サポートが終了済みのIBM i 7.2を利用中で、さらにHMCやテープ装置、遠隔バックアップ用のストレージなども保守終了が迫っていました。そして2点目は、Power Systemsからオープン系システムへの移行方法で、それをどうスムーズに行うかが大きな課題でした。これには2024年1月にサービスが終了するISDN(INS)への対処も考慮する必要がありました。つまり全銀手順やJCA手順で行っていた取引先とのデータ通信を流通BMSなどのインターネットEDIへ切り替える必要があったのです。
3点目の課題は、複雑なネットワーク環境の再整備です。拠点間の通信では業務に支障をきたすほどの遅延が発生しており、その改善が必要だったのです。そして4点目は、システム担当者の高齢化問題。5点目は、社員がいつでもどこからでも安全にシステムを利用できるインフラ環境が挙げられていました。
以上から、Power Systemsのリプレースにあたっての検討ポイントは、次の5点に絞られることになりました。
❶Power Systemsリプレース時のコスト削減
❷段階的なアプリケーション移行時のPower Systemsの利用方法
❸BCP対策の強化
❹回線のボトルネックの解消
❺セキュリティの確保
最初に検討したのは、❶Power Systemsリプレース時のコスト削減です。そして検討の俎上に乗せたのは、オンプレミスとクラウドへの移行のコスト比較です。
図6は現行マシン(Power8、P05)と、オンプレミスおよびPower Virtual Serverへの移行先として想定されるマシンのスペック比較です。オンプレミスはP05のPower S1014、Power Virtual ServerはS922がターゲットマシンとなります。Power S1014 P05モデルのスペックと特徴・制約は前述の図3をご確認ください。
コスト比較の結果は、5年利用を想定した場合、オンプレミスのS1014のほうが安価となることがわかりました(図7・右上)。
ただし、オンプレミスを選択すると、5年後、10年後にマシン・リプレースが必要になり、その都度初期費用が発生します。すると5年利用ではオンプレミスのほうが安価であるものの10年利用ではクラウドが安価になり、15年利用ではさらにその差が拡大します。つまり長期になるほどクラウドのコストメリットが拡大するのです(図7・右下)。
そのうえ、お客様は3年以内のオープン系システムへの移行を絶対の条件としていました。
「以上を含めて総合的に検討した結果、オンプレミスよりもPower Virtual Serverのほうが優位との結論になり、お客様も十分に納得されました。そして移行先のプラットフォームが決まったことにより、アプリケーションの移行方法についてより具体的に検討を進めることができました」と、豊村は語ります。
アプリケーションの移行で考慮したのは、次の3点です。
► アプリケーションの開発や検証、データ移行などが柔軟に行え、スペックの増減が可能なこと。
► 多くのRPGプログラムが相互に関係し合っているため、一度に移行するとシステムや業務に影響が出る恐れがある。そのため段階的にオープン系に移行できること。
► 複数のデータベースの利用による二重、三重の管理を防ぐため、最終までDb2 for iを利用できること。
これについて豊村は、「これらはPower Virtual Serverへの移行で一挙に解決可能です。クラウドならスペックの調整が柔軟に行え、データベースをDb2 for iとすることでオープン系システムからも利用でき、同じデータベースを使いながらアプリケーションの段階的な移行が図れます。また新規開発するオープン系システムを、Power Virtual Serverに隣接するIBM Cloudに配置することでデータ連携のレスポンスも確保できます。Power Virtual Serverに直接接続しないサーバーについてはAWSやAzureなども視野に入れて、よりフィットするクラウド基盤を検討していくことにしました」と、検討内容を説明します。
図9は、Db2 for iの利用によりIBM iアプリケーションをオープン系へ段階的に移行できること、図10はIBM Cloudとの連携によりオープン系への拡張が容易であることを示しています。
豊村は続けて、②災害対策と、③ネットワークとセキュリティの強化を目的とする移行へと話を進めました。この内容については、ぜひ録画をご視聴ください。クラウドならではの堅牢かつ多様な災害対策と、クラウド型ファイアウォールによるシンプルなネットワーク環境への再整備をご確認いただくことができます。
豊村は最後に、「今回ご紹介したお客様の事例はオンプレミスからクラウドへの移行でしたが、JBCCとしてはオンプレミスの継続をお薦めすることも少なくありません。どちらも選択可能ですので、まずはご相談いただき、一緒に最適・最善のリプレースを検討したく考えています」と、今回の講演を締めくくりました。
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