IBMは7月12日、Power10のスケールアウトおよびミッドレンジモデルの発表にあわせて、2冊の技術解説本(Redbooks)を公開した。1つは、スケールアウトモデルを解説した『IBM Power S1014, S1022s, S1022, and S1024 Technical Overview and Introduction』、もう1つはミッドレンジモデルの『IBM Power E1050 Technical Overview and Introduction』である。
このRedbookと製品発表レター、および最新の「IBM Power Performance Report」、IBM技術者のブログ・解説・SNSなどをもとに、機械グループ唯一のP05モデルであるIBM Power S1014(4コア)の特徴を見てみたい。
最初に、7月12日公表のPowerの「IBM Power Performance Report」(性能評価レポート)で、S1014のパフォーマンスを見てみよう。
それによると、CPW値は4コア(機械グループ P05)で10万6300 CPW、8コア(P10)で20万5300 CPWとなっている。Power S914よりも、4コアで2.0倍、8コアで1.6倍、Power814との比較では、4コアで2.8倍、8コアで2.5倍高速化している。
Power10ファミリーのCPW値
このパフォーマンス向上は主としてPower10プロセッサの性能向上によるものだが、システムとして高速化と大容量データを扱うためのさまざまな実装がなされている。
S1014は、標準3.0~最大3.90 GHzで動作する4コアまたは8コアのPower10プロセッサを備える、1ソケットのサーバーである。1ソケットのみのパッケージングは、Power10ファミリーの中ではS1014だけ。すべてのプロセッサ・コアは最大8つのワークロードを同時実行でき、各プロセッサ・コアのアクティベーションはコア単位で可能である。ちなみに、プロセッサ・コアにおけるワークロードの同時実行機能(SMT)は、Power5で初めてSMT2となり、Power7でSMT4、Power8からSMT8に拡張されてPower10に至る。
S1014は、4Uのラックマウント型とデスクサイドタワー型の2つのタイプで提供されている。タワー型はS1014のみの提供である。
S1014は、8つのDDIMMメモリスロットを備えている。各スロットには、新しい高速のインターフェース(Open Memory Interface:OMI)を使用して接続されたDDIMM(Differential DIMM:差動DIMM)を装着可能で、DDR4メモリを搭載したDDIMMの装着により、最大204 GBpsのメモリ帯域幅を実現できる。Power9の最大メモリ帯域幅(170 GBps)の1.2倍だが、DDR4ではなく最新のDDR5メモリを適用すれば、さらに帯域幅を向上させた可能性がある。DDR5の世界的な供給不足が影響したとも推察される。
ここでPower10プロセッサのパッケージングに触れておきたい。Power10のパッケージングには、「デュアルチップモジュール(DCM)」と「エントリーシングルチップモジュール(eSCM)」の2種類がある。S1014とS1022はeSCMで、そのほかのPower10モデルはDCMのパッケージングである。
DCMには、直接結合された2つの Power10プロセッサ・チップに加えて、モジュールへの電力供給と外部接続を容易にするためのロジックが搭載され、1番目・2番目のチップで並行して処理が行える。これに対してeSCMは「DCMの特殊な派生製品」で、すべてのアクティブなコンピュート・コアが1番目のチップで実行され、2番目のチップは基本的にはスイッチとして機能する。
なおPower10コアは、プロセッサ互換レジスタ(PCR)を実装しており、Power8、Power9、および他のPower10システムを実行することができる。ライブパーティションモビリティ(LPM)も可能である。
S1014の4コアの最大メモリ容量は現状64GB、8コアは最大512GBである(8コアは今後1TBへ拡張することが表明されている。4コアの場合は不明)。
S1014には5つのPCIeスロットがある。そのうち4つはPCIe Gen5アダプタをサポートし、残り1つPCIe Gen4用のスロットである。各スロットには、LAN、ファイバーチャネル、SAS、USB、暗号化アクセラレータを含むさまざまなアダプタを装着できる。各システムには最低1つのネットワークアダプタを搭載する必要がある。
4コアのS1014モデルでは、PCIeやストレージを拡張するためのドロワーを接続できないが、8コアでは最大10個のPCIeスロットを追加できる。
S1014の内部ストレージはNVMeベースのみである。今回のPower10サーバーのハイライトの1つで、ストレージ処理の高速化を図ることができる。別記事(こちら)でも触れたが、NVMeはHDDの15倍、SSDよりも2.5倍高速という計測データがある。
S1014はNVMeデバイスを最大16台搭載可能で、800GB、1.6TB、3.2TBのNMVe U.2カードを選択でき、1台のサーバーで最大102.4TBのストレージ容量を利用できる。4コアのS1014ではNVMeのみの利用となるが、8コアではSAS拡張ドロワーやファイバーチャネル経由で、HDDやSSDを利用可能である。また4コア・8コアともオプションで、コンパクトなストレージ製品である内蔵RDXを使える。
S1014のOSサポートは、IBM i、AIX、Linuxで、さらにRed Hat OpenShiftを実行可能で、PowerVM Enterprise Editionにより仮想化環境の利用もできる。PowerVM上でメモリをミラーリングするActive Memory Mirroring for Hypervisorを利用することにより、耐障害性を高めることが可能である。
IBM関係者は「Power10サーバーはRed Hat OpenShiftに最適化させた」と述べている。IBMのRed Hat OpenShift戦略がPowerのメインストリームで存在感を増しつつあると言えそうである。
・「IBM Power Performance Report」
https://www.ibm.com/downloads/cas/K90RQOW8
・IBM Redbooks『IBM Power S1014, S1022s, S1022, and S1024 Technical Overview and Introduction』
https://www.redbooks.ibm.com/domains/power
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