The Linux FoundationとedXは9月23日(現地時間)、オープンソース人材の雇用・キャリア動向などをまとめた調査報告書「The 2021 Open Source Jobs Report」を発表した。この記事では前編(こちら)に続き、オープンソース人材の獲得・維持、トレーニングと資格についての調査結果をレポートする。
「The 2021 Open Source Jobs Report」は9回目となる年次調査レポートで、今回も世界各地の企業・政府機関・人材派遣会社の採用担当者とオープンソースの専門家を対象に、2021年6月8日~7月19日に調査を実施し、企業などからは200人以上(うち日本は2%)、オープンソースの専門家からは750名以上の回答を得た。
オープンソース人材の獲得と維持(離職を防ぐ方法)
調査報告書は、「新型コロナは、企業がオープンソース人材を維持する方法を変えた」と述べる。そして「人材はお金についてくる」として、次のよう指摘している。
「オープンソース人材の離職を防ぐ手段としては、金銭的なインセンティブが最も一般的であり、39%の企業が他の事業分野よりも多くの給与を与えている。このことは今回の調査で初めて明らかになった。また、38%の企業がオープンソース人材のボーナスを増やしており、25%の企業がトレーニングや資格取得の機会をインセンティブとして提供している」
また雇用形態については、採用担当者の約70%が「(オープンソース技術者を対象とした)パートタイムの在宅勤務制度を恒久的に維持する」との回答を寄せている。
新型コロナの仕事への影響については、30%のオープンソース・プロフェッショナルが仕事量が増加したと回答している。そのほか、勤務時間の短縮や無給休暇、失職などを22%が経験している。
主な調査結果は、次のとおり。
・92%の採用担当者が、オープンソースのスキルを持つ人材の十分な確保は困難と回答
・39%の企業が、オープンソースの人材に対して、他のビジネス分野よりも多くの給与を与えている
・58%の採用担当者が、スキルギャップを解消するために既存の従業員に対するトレーニングを増やしている
・オープンソース・プロフェッショナルの66%が、自分の職務を成功させるために最も求めている福利厚生は、雇用者が提供するトレーニング機会であると回答している
採用担当者の視点
採用担当者の92%は、「オープンソースのスキルを持った人材を十分に獲得すること難しい」と感じている。そこで、さまざまな人材獲得戦略を展開していることが浮き彫りになっている。
まず採用担当者の58%は、オープンソース人材の不足を補うために、既存社員のトレーニングを増やしている。この既存社員へのトレーニング増加は、2018年(42%)から増加傾向にあり、2020年は57%へと増え、今回は58%となった。
オープンソース人材の不足への2番目の対処は、新しいテクノロジーの導入の延期である。採用担当者の34%が回答した。
ITプロフェッショナルの視点
オープンソースのプロフェッショナルは、「過去数年間よりも2021年のほうがヘッドハンティングされることが多い」と回答している。またそのうち55%のプロフェッショナルは過去6カ月間に、その前の6カ月間よりも多くの働きかけを受けたいう。
「転職したいと思ったときに、簡単に転職できる」と答えたプロフェッショナルは、今回の調査では66%に上った。前回調査(2020年)では41%、その前の2018年は51%だったので、新型コロナによるパンデミックでいったん割合は減ったものの、今回はパンデミック前よりも増加した。
仕事について最も多かった要望としては、「トレーニング機会を提供」(66%)が最多で、次いで「技術会議やイベントへの参加」(54%)だった。また、45%がオープンソースプロジェクトへの貢献のための時間の確保を挙げた。
オープンソースのプロフェッショナルが直面している課題は「トレーニング機会の不足」(41%)だが、これは前回調査の54%よりも13ポイント減少した。そのほかの課題としては、「オープンソースプロジェクトのドキュメントの不足」(38%)、「オープンソース使用のために経営陣の賛同が得られない」(37%)などが挙げられている。
これらの結果を受けて調査報告書は、「雇用主は、プロフェッショナルが何を求めているかに注目すべきである」と指摘している。プロフェッショナルが転職する際に望むインセンティブは、「給与の増加」(48%)、「トレーニングの機会の増加」(35%)、「ボーナスの増加」(34%)、「柔軟な勤務形態」(33%)という順である。
Linux Foundationの視点
レポートは上記の調査結果を受けて、「Linux Foundationの視点」として次のようにコメントしている。
・新型コロナは、オープンソースの職場に恒久的な変化をもたらした。オープンソースの人材争奪戦では、オープンソース・プロフェッショナルの満足度や、やりがいのある職業体験を実現するための非金銭的要素の影響を詳細に検討する時期に来ている。
・企業・組織は、人材の育成と維持に包括的なアプローチを採用する必要がある。
・過去 12カ月で、Linux Foundation の eLearning コースの受講者数は 2 倍以上になっている。クラウドネイティブ化に向けて、既存のチームのスキルアップやクロストレーニングを行うために、自習用のeラーニングを利用し、その後に認定を受けることが重要視されている。
・雇用主は、技術スタッフにオープンソースのトレーニング機会を提供することを検討すべきである。オープンソースの導入を成功させ、オープンソースのライセンスや知的財産権の遵守に関するリスクを軽減するためには、ビジネスのあらゆる局面でオープンソースの取り組みに賛同する必要がある。
「The 2021 Open Source Jobs Report」は2回に分けて紹介しています。
・前編 オープンソース採用担当者は「クラウド/コンテナ技術者」を求める
・後編 オープンソース技術者 獲得・維持の決め手は「給与、トレーニング機会の提供」
調査報告書「The 2021 Open Source Jobs Report」(英語)
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