日本通運は、2022年1月にホールディングス制に移行し、NIPPON EXPRESSホールディングスを設立した。またこの設立に先立って、2021年12月に本社を東京都千代田区神田和泉町に移転した。地上13階、地下1階、延べ面積4万2585平米という新生NXグループの統合拠点となる新社屋である。
このグループ統合拠点への移転にあわせて、中期経営計画「NXグループ経営計画2023」(2019年4月~2023年12月)の一環としてかねてから取り組んできた「ペーパーレス」化(営業・事務生産性の向上)をプロジェクトとして始動させた。そしてその中でもとくに対象としたのが、数々の書類の中でも最も大きなウエイトを占める、顧客や取引先との契約書である。
同社は従来、顧客・取引先との契約をすべて書面で行い、書面のまま保管する運用を行ってきた。書面の契約書は、同社本部の各部門と北海道から沖縄までの127の支店の書類キャビネットで保管・管理されてきた。ペーパーレス化はそれが対象である。また、保管・管理されている既存の契約書だけでなく、今後の契約書のペーパーレス化も取り組みに含めた。
プロジェクトのスタートは2020年9月。その最初期からプロジェクトをリードしてきたNIPPON EXPRESSホールディングス 法務知財部の家村武志課長は、「まず、本社と各支店の膨大な数の契約書をどう減らすかが大きなテーマになりました」と振り返る。つまり、膨大な数の契約書をどう電子化し、それをどのように管理・保管するかがテーマになったという。
家村 武志 氏
NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社
法務知財部
課長
一方、今後の新規契約書のペーパーレス化については、「電子契約サービスの導入が必然的な流れとしてありました」と、家村氏は語る。ただし、同社の契約書に関する起案申請~決裁~実行の業務フローにうまく合致するか、電子化する既存の契約書と新規の電子契約書との管理を整合性をつけて効率よく行えるかが検討課題になったという。
契約書に関する同社の業務フローは、案件が発生すると営業・業務担当が基幹の文書管理システム上で上長の承認を得た後に、同社の各本部・各支店の総務担当へ社判押印の申請を出し、決裁を受けた契約書を顧客・取引先へ送付するという手順を取っていた。この業務フローに合うことが電子契約サービスの要件となったのである。
そして検討を進める中で、電子化した既存の契約書と新規の電子契約書の管理方法が別々になっては、たとえペーパーレス化が図れたとしても営業・事務の作業負荷が増加するという懸念が高まったという。「最終的には、電子化した契約書と新規の電子契約書とを一元管理できる電子契約サービスが不可欠、との結論になりました」と、家村氏は述べる。
そこで浮上したのが、ワンビシアーカイブズの電子契約サービス「WAN-Sign」である。
WAN-Signは、「当事者型」や「立会人型」と呼ばれる複数の電子契約方式に対応しているのに加えて、紙で締結した契約書の電子化とその管理までカバーし、一元的な管理・運用が可能だからである。
「当事者型」とは、第三者機関の認証局の電子証明書を必要とする契約形態で、「立会人型」はメールアドレスを署名者情報として利用できる契約形態である。WAN-Signは当事者型と立会人型をそれぞれ「実印版」「認印版」として対応し、当事者型と立会人型が混在するハイブリッド形態にも対応可能である。また、他社の電子契約サービスで締結された契約書も管理対象に加えることができる。
「当初は他社の電子契約サービスも検討しましたが、WAN-Signが既存の契約書も新規契約書もすべて1つのプラットフォーム上で一元管理できる点が決め手になりました。また、ワンビシアーカイブズが紙の契約書類の保管・管理で長年の実績とノウハウをもっている点と、WAN-Signが企業ユースに不可欠な高度なセキュリティと内部統制機能を備えている点も高く評価しました」(家村氏)
WAN-Signの採用は2020年8月。すぐに既存の契約書の電子化とWAN-Sign導入のための作業が並行して始まった。
既存の契約書の電子化については、電子化する紙の契約書の数・量の把握からスタートした。同社の各本部と各支店にあるすべての契約書の棚卸しである。そしてその数量を把握した後に、2021年4月から2022年3月までの1年に及ぶ電子化のスケジュールを組み、プロジェクトを進めてきた。
電子化する契約書の総数は、同社の本部・支店を合わせて約40万件。1件あたりの平均で10ページほどのボリュームがある。それを1契約書ごと、文書名や管理番号などの契約書情報をWAN-Signのデータベースに登録し、登録後に発行される文書管理ラベルを印刷して契約書に添付し、ワンビシアーカイブズの関東または関西の情報管理センターへ搬入した。ワンビシアーカイブズ側ではそれらを保管・管理するとともに、PDF化してWAN-Signのデータベースに電子保存した。これによって営業・事務部門のユーザーは、ある顧客との契約内容を紙ベースの過去にさかのぼって電子的に確認でき、同様の操作で新規の電子契約や契約内容の確認も可能になる。
もう1つのWAN-Signの導入・利用に向けては、取扱責任者向けの説明会を2020年12月から計4回、一般ユーザー向けの説明会を計6 回開催し、取り組みをスタートさせた。取扱責任者とは業務支援部門において契約書を管理する担当者で、同社の本部・支店の各部門から約80名の管理職を選出。一般ユーザー向けの説明会には、各営業部門の有志・代表者が参加したが、「一般のユーザー数が全国で1万6000人以上にもなるため、各部・各支店での普及・利用促進は取扱責任者を中心に進めることとし、ユーザーからの質問には取扱責任者が回答できるように徹底しました」と、家村氏は説明する。
WAN-Signの導入は、札幌支店が先行した。顧客や取引先が広大なエリアに点在するため、契約業務の効率化やコスト削減が従来から大きなテーマだったからという。そして札幌支店での成功を受けて、2021年4月から本社の各部門および全国の各支店で導入・利用が始まった。
それから1年、WAN-Signの現在の利用状況について、家村氏は次のように話す。
「導入・利用は本部と全国の各支店で着々と進んでいます。しかし利用状況は部門によって大きな差があり、お客様・取引先への電子契約への切り替え提案が順調に進み、スタッフも活発に利用している部門がある一方、お客様・取引先への提案もスタッフの利用も低迷している部門があります。その理由は、導入・普及の舵取りを各部・各支店の取扱責任者に依存し過ぎた面があるからで、そこをどのようにカバーしさらに普及させるかが今後のテーマだと考えています」
また、NIPPON EXPRESSホールディングス 法務知財部の長束紀生 専任部長は、「紙の契約書の電子化では、契約情報の登録などでワンビシアーカイブズから適切なサポートがあり、各部門がそれに奮起して作業を進めたという経緯があります。WAN-Signのさらなる普及・利用については、ワンビシアーカイブズのサポートをフルに活用していくことも念頭に置いています」と、今後について語る。
ワンビシアーカイブズでは今回のプロジェクトについて、「WAN-Signの企業導入としては最大規模」と言い、「40万件もの書面契約書の電子化と約1万6000のユーザーへの導入を並行して進めたことは非常に大きな取り組みで、日本通運の綿密な計画と着実なプロジェクト運営があってのことと考えています。今後はいっそうの利用拡大に向けてご支援していく考えです」と、コメントを寄せる。
契約書は、企業と企業の契約内容を証明するものであり、企業と顧客・取引先を結ぶ絆とも言える。WAN-Signは、新生NXグループの新たな事業基盤として着実に根づきつつあるようだ。
NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社
設立:2022年1月
本社:東京都千代田区
資本金:701億7500万円
連結売上高:2兆791億9500万円(2021年3月期)
グループ従業員数:7万2366人(2021年3月)
事業概要:NXグループ各社の経営管理、それに付帯する業務
https://www.nipponexpress-holdings.com/ja/
日本通運株式会社
創業:1872年(明治5年)
設立:1937年10月
本社:東京都千代田区
資本金:701億7500万円
従業員数:3万4449人(2021年3月)
事業概要:自動車輸送、鉄道利用輸送、海上輸送、船舶利用輸送、利用航空輸送、倉庫、旅行、通関、重量品・プラントの輸送・建設、特殊輸送、情報処理・解析などの物流事業全般 および関連事業
https://www.nittsu.co.jp/
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