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IBM Powerの内蔵ディスクとして高速処理が可能なNVMeをサポート ~IBM i でNVMeデバイスを使用するのに必要な基礎知識と管理手法 |IBM iの新常識 ❸

NVMeとは

IBM PowerとIBM iは、Power9でIBM i 7.4 TR1よりNVMeデバイスがサポートされている。

NVMeデバイスは、これまでのSAS SSDと比較してディスクI/Oのパフォーマンスが向上し、内蔵ディスクとして構成可能な容量も増大した。また、デバイス内にコントローラーが内蔵されているため、デバイス単位でLPARに割り当てることが可能になり、構成の自由度も向上した。

一方で、Namespaceの作成やOSミラーリングが必須など、SAS HDD/SSD とは異なる管理が必要になる。ここでは、IBM i でNVMeデバイスを使用するために必要となる特徴や管理について解説する。

Non-Volatile Memory express (NVMe)は、不揮発性メモリ(NVM)で構築されたストレージ・デバイスへの効率的なアクセスを提供するために設計された、PCI Expressベースのプロトコルである。

長年に渡り、ストレージ・デバイスには磁気ディスクのHDDが使用されていたが、フラッシュ・メモリによる高速なアクセスが可能なSSDが登場した。SSDはHDDと同じSAS/SATAインターフェース/プロトコルを使用していたので、従来のHDDをSSDに置き換えることが容易であり、ディスクI/Oの高速化を簡単に実現できる。

一方で、従来のSAS/SATA接続ではフラッシュ・メモリの高速な読み取り/書き込み速度に対応できず、SSDのパフォーマンスを十分に活かせなくなっていた。そこでSSD がフラッシュ・メモリの読み取り/書き込み速度で動作できるように開発されたプロトコルが、NVMeである。

NVMeは、PCIeインターフェースを介して直接フラッシュ・メモリをSSDとして動作させられる。コマンドを処理するためのQueueが、SATA/SASでは1個であったが、NVMe では6万5536個へと大幅に増加しており、サーバーでの同時多数の読み書きを高速に処理できる。

IBM PowerのNVMe サポート

IBM Powerの内蔵ディスクとしてNVMeがサポートされたのは、Power9サーバーからである。Power9スケールアウトの初期モデル(9009-41A/42A/22A、9223-42H/22H)で、400GB PCIe Gen3 M.2デバイスが提供された。その後、PCIe Gen3アダプターの1.6/3.2/6.4TBデバイスが提供された。

Power9スケールアウトの後期モデル(9009-41G/
42G/22G)からはPCIe Gen4 U.2デバイスが提供され、HDD/SSDと同様の2.5インチのドライブをサーバー本体前面のドライブ・ベイに最大4ドライブ搭載することが可能になった。合わせて、PCIe Gen4 アダプターのデバイスも提供された。

Power10サーバーでは、本体に内蔵可能なディスクはNVMeデバイスのみとなったが、搭載できるU.2 ドライブ数は増加し、4Uサーバー (9105-41B/42A)は最大16ドライブ、2Uサーバー(9105-22A/22B)は最大8ドライブとなった。これにより、サーバー本体内蔵ディスクの容量はU.2ドライブのみで、4Uサーバーは102.4TB、2Uサーバーは51.2TBまで構成できる。

Power10で新規構成が可能なPCIeアダプタータイプのNVMeデバイスは、Gen4デバイスのみで、Gen3デバイスはサポートのみとなる 。2023年4月にはNVMe拡張ドロワー (NED24) が発表された。NED24はPower S1014を除くPower10 サーバーへ接続可能で、U.2ドライブを24個搭載できる。NED24とサーバーとの接続には、PCIeアダプター用の拡張ドロワーの接続にも使用されるCPXコンバータアダプターを使用するため、NED24を1台接続するか、PCIeアダプター12枚分の拡張ドロワーを接続するかの選択が必要になる(図表1)。

図表1 IBM PowerでサポートされるNVMeデバイス(PCIeアダプター、U.2ドライブ)

SAS HDD/SSDは、SAS RAIDコントローラーを介してデバイスが構成されるが、NVMeデバイスにはコントローラーが組み込まれており、個々のデバイスがPCIeに直接接続される。そのため、個々のデバイスごとにLPAR区画に割り当てられるようになる。一方、RAIDコントローラーを介さないため、ディスク保護はOSによるミラーリングかソフトウェアRAIDを使用する。

IBM iのNVMe 

Power9で当初提供された400GB M.2デバイスは、IBM iではサポートされなかった。その後に提供されたPCIe Gen3アダプターのデバイスでは、IBM i はVIOS仮想環境でサポートされた。

IBM iでのNVMeネイティブ・サポートは IBM i 7.4 TR1からで、EnterpriseタイプのU.2デバイスとPCIeアダプターがサポートされる。Power10サーバーでは、U.2デバイス構成はIBM i 7.3でもネイティブでサポートされる。

IBM i ネイティブで構成する場合は、NVMeデバイス間でのミラー保護が必須になるため、同じタイプのデバイスを最小2台で構成する必要がある。LPARを構成する際には、このミラーペアの単位で区画に割り当てることになる。

プロセッサグループがP05の場合は、構成可能なNVMeデバイスの容量に上限が設定されている。S1014、S914 4コアの場合は最大6.4TB、S922 1コアの場合は最大3.2TBである。

NVMe Namespace

NVMeを使用する際には、Namespace (名前空間)と呼ばれる論理ブロックを作成する必要がある。OSからは、1つのNamespaceが1台のディスク装置として認識される。

1つのNVMeデバイスに作成できるNamespaceの数は、Gen3デバイスは32個、Gen4デバイスは64個までで、サイズはGen3とGen4共通で64GBから16TBである(現在提供されているNVMeデバイスは最大6.4TB)。

作成されたNamespaceのサイズは変更できない。Namespaceのサイズを変更する必要がある場合は、現行のNamespaceを削除してから、サイズを変更したNamespaceをあらためて作成することになる。

IBM i では、パフォーマンスを考慮して複数のNamespaceを構成することが推奨されている。Namespaceはシステム・サービス・ツール (以下、SST)から作成するが、工場にてNamespaceが作成された状態で出荷することも可能である。

工場出荷時のNamespace指定 

NVMe デバイスをIBM iロードソースに指定して、IBM i をプリロード構成する場合は、ロードソース用のName
spaceが工場で作成されて出荷される。Namespaceのサイズは、e- Configで構成作成時に、以下のフィーチャーの指定によって決まる。

◎Gen4 NVMe の場合

#ENSA : 200 GB IBM i NVMe Load Source Namespace size
#ENSB : 400 GB IBM i NVMe Load Source Namespace size

◎Gen3 NVMe の場合

#ENS1 : 188 GB IBM i NVMe Load Source Namespace size
#ENS2 : 393 GB IBM i NVMe Load Source Namespace size

工場で作成されるNamespaceは、ロードソース用のミラーペアのみであるため、他のNamespaceはSSTから作成する必要がある。

プロセッサグループがP05のS1014 4コア、S914 4コア、S922 1コアのマシンで、U.2 NVMeデバイスをロードソースに構成して、IBM iをプリロード指定すると、ロードソース用のU.2 NVMeデバイスとそのミラーペアのデバイスには、ロードソースのNamespaceサイズのフィーチャーで指定したサイズ(200GB/400GB)で、Namespaceが最大数作成されて出荷される。

ロードソースのNamespaceと同じサイズで、NVMeデバイスにNamespaceを最大数作成して出荷するには、以下のようにフィーチャー#ENSMを指定する。

・機械グループ P05 (9105-41B 4コア、9009-41G 4コア、9009-22G 1コア)
・U.2 NVMe ドライブを IBM i ロードソースに指定
・#2145 プライマリー OS – IBM i を指定
・#ENSM Specify Code Configure all IBM i Namespaces を指定
・IBM i プリロードを指定
 #5000 Software Preload 
 #0205 RISC to RISC data migration

NVMeデバイスを3台以上構成している場合は、3台目以降のデバイスにはNamespaceは作成されていないため、SSTから作成する必要がある。

SSTからNamespaceを作成

IBM i でのNamespaceの作成は、SSTから実行する。SSTからディスク構成の処理を選択し、さらにNVME装置の処理を選択することで、Namespace作成のメニューが表示される(図表2)。

図表2 Work with NVMe Devices 画面

Namespaceの作成は、新規作成(図表2のメニュー3)のほかに、既存のNamespaceに合わせて作成するオプション(図表2のメニュー4)や、ミラーペアとなっていた一方のNVMeデバイスを交換した後で、Namespaceの作成からミラーリングの再開までを一度に実行するオプションも提供されている(図表2のメニュー5)。

 新規作成では、Namespaceの数とサイズを指定する。Namespaceのサイズは最小64GB、最大はそのデバイスで構成可能な最大サイズで、1GB単位で設定できる(図表3)。

図表3 Namespaceの新規作成

すでにNamespaceが作成されているNVMeデバイスを指定して、そのデバイスと同じ構成で Namespaceを作成することもできる(図表4)。

図表4 他の NVMe デバイスに一致するように NVMe Namespaceを作成

こうして作成したNamespaceは、IBM i からはディスク装置として認識される。つまりNVMeデバイスは、ディスク装置を接続する制御装置として認識されている。

WRKHDWRSCを実行すると、図表5のように表示される。NVMeデバイスは資源DCxxのディスク制御装置、Namespaceは資源DDxxxのディスク装置として認識されている。

図表5 IBM i からは Namespaceをディスク装置として認識

IBM iのNamespaceサイズ 

IBM iにNVMeデバイスを構成する場合、前述したように、パフォーマンスを考慮してNamespaceを複数構成することが推奨される。では、Namespaceを構成する際のサイズはどの程度が適切であろうか。NVMeデバイスに構成できる範囲で、より小さいサイズで多くの数を構成するのがよいのだろうか。

目安としては、Namespaceのサイズは800GB、1.6TBのNVMeデバイスの場合は200GB、3.2TBもしくは6.4TBのNVMeデバイスの場合は400GBとなる。

NVMeデバイスのディスク保護

NVMeデバイスのディスク保護は、OSミラーリングを実施する。ミラーリングは、SAS HDD/SSDと同様にASP単位で実行する。Namespaceがディスク装置とみなされてミラーリングを行うが、同一のNVMeデバイスにあるNamespace同士をミラーペアにはできないので、ASPに必ず複数のNVMeデバイスを構成する必要がある(図表6)。

図表6 NVMeデバイスのミラー構成

NVMeのミラーリングは、3デバイスでも構成可能である。3デバイスが同じサイズの場合、異なるサイズの場合の構成例を図表7に示す。

図表7 NVMeミラーリングの構成例

NVMe デバイスの書き込み限界

IBM PowerのNVMeデバイスの書き込み限界は、Gen3 Enterpriseデバイスで5 DWPD、Gen4 Enterpriseデバイスで3 DWPDである(DWPD はDrive Writes Per Dayの略で、メモリ製品の耐久性を示す指標。DWPD値が「5」であれば、メーカー側が設定した保証期間、たとえば5年間、装置の容量の5倍のデータを毎日書き込んでも、保証期間を迎えるまでに製品が寿命を迎えることはないことを示す)。

NVMeデバイスの使用状況は、IBM Navigator for i や SST/DSTから確認できる。IBM Navigator for i は、IBM i 7.5以降、7.4 TR6以降で、「システム」の「NVMe装置」を参照する(図表8)。

図表8 IBM Navigator for i からNVMe装置を参照

SSTから参照する場合は、メニューから「3. ディスク構成の処理」「1. ディスク構成の表示」「16. NVME の残りの存続期間の表示」の順に実行する(図表9)。

図表9 NVME の残りの存続期間の表示

NVMe デバイスに障害が発生した場合は、書き込み限界に達していないデバイスについてのみ、標準保証および保守期間中の交換の対象となる。書き込み限界に達したデバイスの交換費用は、標準保証や保守期間中の交換の対象にはならない。

NVMeデバイスのパスワード保護

IBM i 7.5 TR1、7.4 TR7 より、Power10の以下のNVMeデバイスに対してパスワード保護を設定できる。

#ES3A – Enterprise 800 GB SSD PCIe4 NVMe U.2 module for IBM i
#ES3C – Enterprise 1.6 TB SSD PCIe4 NVMe U.2 module for IBM i
#ES3E – Enterprise 3.2 TB SSD PCIe4 NVMe U.2 module for IBM i
#ES3G – Enterprise 6.4 TB SSD PCIe4 NVMe U.2 module for IBM i

パスワードは、NVMeデバイスとPowerVMによって管理されるLPAR区画のPKS(プラットフォーム・キーストア)に格納されている。

NVMeデバイスの電源がオフになった場合や、DLPARで異なる区画へ移動された場合には、ロック状態になる。

NVMeデバイスが、パスワード保護ポリシーを設定した時の区画にある場合は、電源が回復した際に区画のPKSに保存されているパスワードを使用して、自動的にロックが解除される。

NVMeデバイスが異なる区画へ移動された場合は、PKSに保存されているパスワードが異なるためロック状態は解除されず、そのNVMeデバイスのNamespaceは読み書き不可となる。SSTよりNVMeデバイスに設定されたパスワードを入力することでロックは解除され、Namespaceは読み書き可能になるが、デバイスの電源を入れ直すと再びロックされる。

NVMeのパスワードがわからない場合、工場出荷時設定にリセットすることでロックは解除されるが、Namespace のすべてのデータは破棄される。

NVMeパスワード保護ポリシーは、SSTより作成・変更・削除する。パスワード保護ポリシーが作成されている区画にNVMeデバイスを追加する場合は、SSTによりNVMe デバイスに対してパスワードを設定する。

以上、NVMeデバイスについて、その特徴や IBM i で構成する場合に必要となる点について説明してきた。NVMeデバイスは、IBM Powerサーバーの内蔵ディスクとして優れたパフォーマンスや大容量の構成、LPAR構成の自由度など、IBM i を構成する際に多くのメリットをもたらすだろう。

著者
三神 雅弘 氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部
IBM Power テクニカルセールス
アドバイザリー Power テクニカルスペシャリスト

1989年、日本IBM入社。AS/ 400のテクニカル・サポートを担当。日本IBM システムズ・エンジニアリングへの出向を経て、2004年よりテックライン、2016年よりビジネス・パートナー向けテクニカル・サポート、2018年よりIBM iブランド業務を兼任している。

[i Magazine 2023 Spring(2023年5月)掲載]

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