text=中島 康裕 日本IBM
Part3・Part4では、NET 7 on Powerの稼働の様子や利用方法をご紹介した。x86環境と変わりなく使用できることをご理解いただけたと思う。またx86環境からIBM Power環境へのアプリケーション移行に懸念を抱いていた方にとっても、x86環境で開発された.NETアプリケーションがそのままIBM Power上で稼働できることを示した先の例は、1つの安心材料になると思われる。
本章では実際に、.NET 7 on Powerを利用するメリットについて改めてご紹介する。なぜx86環境で稼働している.NETアプリケーションをIBM Power上で利用する必要があるのか、またどのような時にIBM Power上での稼働を検討すべきなのか、今回は2つの想定利用シーンに分けて述べる。
現行.NETアプリケーションの課題
.NETアプリケーションの移行を検討し始める最初のきっかけは、ほとんど現行.NETアプリケーションの課題が理由ではないだろうか。現行システムに何かしらの課題があり、その解決のために実行環境を見直すことは、既存システム最適化の最初の一歩と言える。
昨今ではパブリッククラウドの利用も進み、対象システムの用途の観点からパブリッククラウドとオンプレミスを適材適所に使い分け、「よいとこ取り」のハイブリットクラウド構成を選択する企業も増えてきた。そのような状況において.NETアプリケーションをIBM Power上で利用することで、以下のようなメリットが享受できる。なお今回は、最新のIBM Power10プロセッサを前提として、その享受可能なメリットについて述べる。
パフォーマンスの向上
IBMが自社で設計・開発を手がけるPowerアーキテクチャ・ベースのCPUが、IBM Powerプロセッサである。そして、2021年に最新となるIBM Power10プロセッサ(以下、Power10)が発表され、2022年7月時点でPowe10搭載のEnterpriseスケールアップ・モデルとスケールアウト・モデルが一通りリリースされた(図表1)。
このPower10搭載マシンの大きな特徴の1つが高いパフォーマンスであり、「高いCPUクロック数」「高帯域メモリバンド幅」「高いマルチスレッド処理性能」などの機能によって実現している。
そしてこれらの機能は、.NETアプリケーションに対しても有効である。実際に既存の.NETアプリケーションの実行環境をx86からIBM Powerへ移行したお客様は、この性能面の効果を高く評価して採用に至っている。より高いレスポンス性能を求められるアプリケーションやバッチ処理のようにシステム負荷が大きいアプリケーションに対しては、Power10の高い処理性能がより効果的に働く。
またPower10では、1コアあたり8スレッド(SMT 8)まで利用できる。一般的にIntel CPUは1コアあたり2スレッド(Hyper Threading)までなので、Power10はIntel CPUの4倍/コアのスレッドが利用可能といえる。これによりOSに認識させるCPUコア数も4倍/コアにできるため、1台のPowerサーバーにより多くの.NETアプリケーションを稼働させることが可能である。
.NETアプリケーションのパフォーマンス向上とは異なる観点だが、この集約率の高さもPower10の高い性能があるからこそ実現できるメリットである。
可用性の向上
2点目は、.NETアプリケーションの実行環境としての信頼性向上である。「ITIC 2022 Global Server Hardware、Server OS Reliability Report」でも14年連続でIBM PowerはIBM Zとともに高い信頼性が得られるインフラとして紹介されている(図表2)。
基幹システムやデータベースで享受されてきた高可用性のメリットを.NETアプリケーションに対しても適用することで、システム全体の連続稼働性を向上できる。
これらの高い可用性を支えているのが、 Power10搭載サーバーに設けられているRAS(Reliability、 Availability、and Serviceability)機能である。システム停止を引き起こしかねない重大な障害に対して、障害発生箇所における修復機能もしくは代替機能を用いることでシステムの全体停止を防ぐ機能が準備されている(図表3)。
これらの機能は、使用するPower10搭載モデル(スケールアウト・モデル、Enterpriseモデル)によって利用可否が異なるのでご注意いただきたい。Enterpriseモデルのほうがスケールアウト・モデルに比べて充実したRAS機能が備わっており、よりシステム停止が許されない業務に適したインフラであると言える。最後に、先の項目でPower10のメリットとして集約率の高さに言及したが、この高い信頼性があるからこそ、安心して.NETアプリケーションの集約構成を選択することが可能となる。
サステナビリティの向上
IBMでは、より安定稼働可能なインフラストラクチャの実現を目的として、IBM Powerの開発に継続して取り組み、効率的なスケーリング、監視、および予知保全を提供している。そしてエネルギー消費と設置スペースを最小限に抑えることで、機器の寿命を伸ばすとともに、カーボンニュートラルに対しても大きく貢献してきている。
なかでもPower10ベースシステムでは、最高性能のCPUコアを提供し、最大16ソケット、240コアまで拡張可能であり、業界で最も信頼性の高いシステムの1つである。
ここで実際のお客様事例をご紹介する。このお客様では、Oracle Databaseの実行基盤として126台のx86サーバーを利用していたが、システム全体におけるエネルギー使用量の多さとOracle Databaseのライセンスコストが課題となっていた。
そこでそれらの課題を解決するために、システム統合環境としてPower9プロセッサを搭載したIBM Power E980(以下、E980)を採用した。結果として、既存のワークロード要件を満たすために126台のx86システムを3台のE980に集約し、データセンターの設置スペースやエネルギー使用量(KW)を大幅に削減した(エネルギー使用量は約3分の1に削減)。さらにOracle Databaseのライセンス数(コア数)も891コアから328コアへと大きな削減を実現した。現在このお客様はE980からE1080への移行を検討しており、さらなるエネルギー使用量とOracleライセンス数の削減が期待されている。(図表4)。
以上のように、データセンターのフットプリント、エネルギー、およびソフトウェアライセンスの節約は、コスト面でも効果を発揮し、企業のサステナビリティ施策を支え得るインフラであることがわかる。
上記のメリットに関しては、Microsoft社が発表した.NET 7の発表レターでも触れられている。発表レターでは、新たに64-bit IBM Powerをサポートしたことに加え、2万5000以上のIBM Powerユーザーにとって、x86上で利用している.NETアプリケーションをビジネス・アプリケーションやデータベースが稼働するIBM Power上へ統合・集約できるようになった、と紹介されている。そしてその統合により、二酸化炭素排出量を最大5分の1にすることが可能となり、サステナビリティの大幅な向上が期待される、とも述べている。
既存.NETアプリケーションの
モダナイゼーション
そして2点目のメリットとして挙げているのが、既存.NETアプリケーションの最適配置である。多くの場合、IBM Powerは基幹システムやRDBMSといった停止が許されない重要なシステムに採用されており、周辺の.NETアプリケーションはこれらIBM Power上のシステムと密接に連携している。今回の.NET 7 on Powerにより、これら周辺の.NETアプリケーションを同じIBM Power上で稼働させることが可能となった。
これにより、.NETアプリケーションが利用する、もしくはアクセスするデータ(RDBMS)と同じプラットフォームで実行可能となり、システム全体でよりオーバーヘッドの少ない最適な環境を構築できるようになった(図表5)。
図表5では、.NETアプリケーションのコンテナ利用についても触れている。.NET 7 on Powerでは、関連モジュールがインストールされたコンテナイメージも提供されている。現在、DX推進の取り組みとして、既存アプリケーションのコンテナ化やマイクロサービス化に取り組んでいる企業が増えているが、そのような企業はこの.NET 7のコンテナイメージを活用することで、より簡単に既存.NETアプリケーションのコンテナ化を進めることが可能である。
また、Part2でも触れたが、今後コンテナ技術の活用に取り組んでいきたいと考えている企業にとっても、最初の一歩として活用いただきたい。あくまでも「簡単に準備可能な.NET実行環境」くらいの感覚で始めるのがよいのではないだろうか。そして最終的には、それらコンテナ環境を管理するための技術として、Red Hat OpenShift Container Platformなどの製品を活用しつつ、既存システムのモダナイゼーションを促進していただくのがよいと考える。
以上の内容が.NETアプリケーションをIBM Power上で利用することのメリットである(図表6)。
今回紹介したIBM Powerの特徴は、パブリッククラウド環境としてIBM Power Systems Virtual Server(以下、PowerVS)でも利用可能である。2023年4月現在では、日本国内のデータセンターとして東京リージョンと大阪リージョンから選択できる。
オンプレミス環境のバックアップや災対環境としての利用が増えてきているPowerVSではあるが、ハイブリットクラウドやモダナイゼーションの観点から、新たに.NETアプリケーションを稼働させるインフラとしてもぜひご利用いただきたい。
著者
中島 康裕 氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
システム事業部
Power Systems テクニカルセールス
Power テクニカル スペシャリスト
2012年日本IBM入社。入社以来、Linux/OSSを中心としたハードウェアのプリセールス・エンジニアとして活動。2021年からはRed Hat OpenShift Container Platform などの製品を用いて、既存システムのモダナイゼーションを目的とした提案に従事。.NET for IBM Powerがリリースされ、セミナーなどで既存システム最適化の観点から当ソリューションを紹介。また自身が実施した技術検証の内容をブログで発信。