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25周年を迎え、さらに飛躍する「SiView Standard」 ~デジタル・トランスフォーメーションとファブ運用最適化

Text=内堀 裕介、土屋 周史 (日本アイ・ビー・エムデジタルサービス)

「SiView Standard」(以下、SiView)は、半導体製造工場(ファブ)の製造実行システムであり、1998年のリリース以降、世界中のファブに対して豊富な導入実績がある。

本稿では、2024年6月18日に実施されたSiViewユーザーカンファレンスで紹介されたロードマップのうち、デジタル・トランスフォーメーションとファブ運用最適化の一部を順番に紹介する。

デジタル・トランスフォーメーションの必要性 

SiViewは25年前に、当時の最新IT技術であったCORBA(Common Object Request Broker Architecture)分散オブジェクト技術を活用して実装された。

オブジェクト指向の特徴である継承性や多態性、あるいはCORBAの相互運用性を活用することで、カスタマイズによるユーザー固有のビジネス要件の実装や、ユーザーあるいは外部ベンダーにより開発されたアプリケーションとのインテグレーションを実現しており、現在に至るまでその基本アーキテクチャは継続している。

半導体製造工場は一度運用を開始すると、非常に長期間に渡り運用される傾向にある。そのため、それを支えるITシステムも長期にわたり安定稼働および保守が求められるという点で、基本アーキテクチャの継続は非常に大きな意味を持つ。

その一方で、CORBAはレガシー技術となりつつあり、近年、以下のようにそのデメリットが顕在化してきた。

プログラミング言語/プラットフォームの選択肢
プログラミング言語やORBミドルウェア・ベンダーに依存しない相互運用性がCORBAの利点の1つだが、近年主流になりつつあるプログラミング言語ではCORBAを利用できないものが多い。

アプリケーション開発者の確保
CORBAの市場シェアの縮小に伴い、経験のあるエンジニアの確保が難しくなっている。

オープン技術の活用
近年のクラウドを含めたIT技術はHTTPの利用を前提としたものが多く、CORBAのままでは、開発や運用でそれらの技術の恩恵を享受しにくい。

このような背景から、既存のアーキテクチャを継承しながらも、新しいIT技術に対応するモダナイゼーションが喫緊の課題であった。

モダナイゼーションのアプローチ

SiViewでは、既存のアプリケーションにおいて従来のCORBAに加えてHTTPベースの通信プロトコル(JSON-RPCおよび gRPC)を利用可能にすることで、モダナイゼーションを実現している。

そのアーキテクチャを図表1に示す。

図表1   SiViewのモダナイゼーションイメージSiViewの通信

その要点は、下記の2点である。

インターフェース定義を変換
CORBAのインターフェース定義(IDL:Interface Definition Language)を、それぞれの通信プロトコルの定義にマッピングする。
 - JSON-RPC: OpenAPIドキュメント
 - gRPC: protocol buffers IDL ドキュメント

プロトコルの違いをミドルウェアで吸収
通信プロトコルの違いはミドルウェア部分で吸収することで、アプリケーション・ロジックから隠ぺいし、既存のソースコードや開発手法への影響をなくす。
 - 通信先のエンドポイント(CORBAにおけるInteroperable Object Reference)にプロトコル情報を付加することで、ミドルウェアで自動判別する。

このアプローチにより、既存のSiViewアプリケーションがJSON-RPCやgRPCで実装されたアプリケーションと相互に通信することが可能になり、ユーザーアプリケーション開発での選択肢が増える(図表2)。

図表2 JSON-RPCやgRPCで実装されたアプリケーションとSiViewの通信

また、CORBAからJSON-RPCあるいはgRPCへのプロトコル変換に応用可能である。これを利用することで、サーバーが受信する通信プロトコルをHTTPに統一でき、HTTPの利用を前提とした各種ツール類の活用が可能になる。

これらはすでに実際の導入事例でも活用されており、アプリケーションのモダナイゼーションに留まらず、周辺システムを含めたユーザーの製造システム全体におけるデジタル・トランスフォーメーション実現に貢献している。

それではデジタル・トランスフォーメーションに続き、ファブ運用最適化に関するロードマップの一部として、半導体後工程に対する取り組みを以下に紹介する。

半導体後工程の重要性 

半導体業界ではムーアの法則を道標に半導体の微細化が進められ、半導体デバイスの性能は大きく向上してきた。しかし、近年半導体の微細化が物理的な限界に近づくにつれ、デバイス性能向上スピードの低下やコスト増加といった課題に直面している。

それらの課題を解決するために、半導体製造の前工程・後工程で、それぞれ以下の研究開発が行われている(図表3)。

図表3 先端半導体での研究開発

前工程: 微細化(モアムーア)
後工程: チップレットや先端パッケージング(モアザンムーア)

先端半導体を実現するには、従来から行われていた前工程でのイノベーションだけではなく、後工程も含めたトータルなイノベーションが求められており、ファブ全体のプロセス最適化の観点で前工程・後工程をシームレスに管理できることが重要である。

しかし後工程には、以下の課題が存在する。

製品形状
・前工程はウェーハを管理すればよいが、後工程ではダイやチップ、パッケージを管理する必要がある。

多様なキャリア・コンテナの管理
・さまざまな製品形状に対応するキャリア・コンテナ(フープやトレイ、マガジン等)を管理する必要がある。

自動化標準の確立
・前工程は自動化のための標準が確立され、全自動が実現されている。一方で後工程は標準が確立されておらず、マニュアル作業が多い。そのため、自動化標準の早期確立が求められている。

・半導体メーカーや半導体製造装置/自動搬送装置メーカーおよび標準化団体など、15の企業・団体による「半導体後工程自動化・標準化技術研究組合(SATAS:Semiconductor Assembly Test Automation and Standardization Research Association)が2024年4月16日付で設立されている。

半導体後工程に対するSiViewのロードマップ

SiViewでは、現在の後工程における限られた自動化・労働集約的なオペレーションをよりデジタル化・自動化し、生産性向上・運用効率の向上および前工程・後工程間のトレーサビリティの実現を目標としている。

そのためのキーイネーブラーとして、以下がある。

◎後工程オペレーションのサポート
・SiViewはもともと半導体の前工程のファブを対象とし、後工程のファブに対してはSiViewから派生したAsmViewが提供されていた。後工程の重要性が高まるなか、SiViewは2023年にAsmViewの機能をSiView側に統合した。これにより、SiViewのみを使用して前工程・後工程の管理が可能である。

◎3Dスタックオペレーションのサポート
ウェーハ to ウェーハ: ファブオペレーションおよび装置自動化についてサポートしている。

ダイ to ウェーハ:ファブオペレーションはサポートしており、装置自動化については今後のリリースでの対応を予定している。
 
◎先端パッケージングファブでの全自動サポート
・前工程とは異なるタイプの全自動化が必要である。前述の製品形状や自動化標準の確立といった課題を解決していく必要がある。

◎トレーサビリティ
・品質を向上させるために、前工程(ウェーハ)から後工程(ダイ、チップ、パッケージ)までのトレーサビリティが重要である。

・SEMI標準のE142基盤マッピングへの準拠やチップロケーション管理の実装を予定している。

次の25年に向けて 

SiViewは、1998年のリリースから今年25周年を迎える。毎年新機能をリリースし、機能の拡張を継続的に実施している。

今後もデジタル・トランスフォーメーションと後工程も含めたファブ運用最適化の両輪で、SiViewは半導体業界へのさらなる貢献を目指している。

著者
内堀 裕介氏

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス(IJDS)株式会社
半導体製造ソリューション開発アプリケーション・開発者

入社後、製造業・官公庁のお客様を担当後、2015年より半導体業界のお客様を担当。2022年よりSiView開発チームに参画し、SiView APCの開発に従事。

著者
土屋 周史氏

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス(IJDS)株式会社
半導体製造ソリューション開発アプリケーション・アーキテクト

2000年、日本IBMに入社し、以後一貫してSiView Standard開発に従事。チーフ・アーキテクトとして、SiViewソリューション全体のアーキテクチャを担当するとともに、アプリケーション基盤となるフレームワークおよび半導体製造装置からのデータ収集ソリューションの開発を担当。

*本記事は筆者個人の見解であり、IBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。


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