キンドリルジャパンは12月9日、報道関係者向けに事業戦略説明会を開催した。この種の説明会は、キンドリルジャパンとして初めて。いくつか重要な情報が公表されたので、「会社概要・体制」と「事業戦略」に分けてレポートする。
◎会社概要・体制
今回、公表された主な情報は以下のとおり。
・資本金:276億2200万円(米Kyndryl 100%出資)
・従業員数:約4200名(関連会社を含む)
・国内拠点:29カ所(日本IBMは50カ所)
・関連会社:キンドリルジャパン・テクノロジーサービス合同会社、キンドリルジャパン・スタッフオペレーションズ合同会社
・組織体制、有資格の技術者数など
資本金の276億2200万円は、キンドリルジャパン分社化に伴う日本IBMからの分割分と推定される。日本IBMの2020年12月末の資本金は1053億円なので、約26%がキンドリルジャパンへ移管されたと見られる。
従業員数の約4200名は、日本IBMと日本IBMの関連会社4社(日本IBMデジタルサービス、日本IBM共同ソリューション・サービス、地銀ソリューション・サービス、日本IBM中国ソリューション)からの移籍が中心。このうち関連会社4社のインフラ・エンジニアは、デリバリーを担当するキンドリルジャパン・テクノロジーサービスの所属となった。もう1つの新会社、キンドリルジャパン・スタッフオペレーションズは、キンドリルジャパン・グループのスタッフサービスを提供する会社。
またキンドリルジャパン・グループの技術者のうち、アーキテクトは300人、PM(プロジェクトマネージャー)資格をもつのは1000人、エンジニア数はパートナー企業の技術者も含めて1万人という陣容も公表された。
組織体制は下図のとおり。5つの産業別事業本部と3つの職種別本部のマトリクスで構成される。産業別事業本部は、金融、保険、製造、流通、公共・通信・メディア・公益の5つ。職種別本部は、ストラテジックサービス、テクノロジー、カスタマーマネージメントの3つである。
カスタマーマネージメント本部については、「日本において特に力を入れている部門。ソリューションの品質をプロジェクト任せにせず、独立して管理・トラッキングする。IBM時代の経験をお客様に還元していくのをミッションとする部門だ」と、上坂貴志社長は強調した。
キンドリルのグローバル体制とキンドリルジャパン ~編集部作成、一部推定を含む
◎事業戦略
事業戦略の説明に先立って上坂氏は、日本企業が置かれている状況を次のように語った。
「コロナ禍になって、日本ではシステムの品質の問題やニューノーマルに対するインフラの整備が追いついていないことが顕在化した。また、少子高齢化やGDPの伸び悩み、デジタル競争力の低迷、SDGsへの対応など、日本を取り巻く課題は山積している。
今、お客様の声として最も多いのは、次世代のシステムをどうすればよいか、ということ。アプリケーションもさることながら、レガシーからのマイグレーションをどうするか、クラウドをどのように使うか、に一番悩んでおられる。つまり、インフラの整備は今後さらに需要になり、我々に対するニーズもさらに高まると見ている」
この見通しを実現するために、キンドリルジャパンでは6つの技術領域を定義し(下記)、コンサルティングから設計、インフラ構築、運用(マネージドサービス)までトータルにサービスを提供する体制を敷いている。
・クラウド
・メインフレーム(欧米は「コア・エンタープライズ&zCloud」)
・デジタルワークプレース
・アプリケーション、データ、AI
・セキュリティ&レジリエンス
・ネットワーク&エッジ
上坂氏は、キンドリルの戦略として次の4点を挙げた。
戦略0:カスタマー・サクセス&サービス・エクセレンス
戦略1:サービス・イノベーション
戦略2:ビジネスモデル・イノベーション
戦略3:エコシステム・イノベーション
戦略0は、マネージド・サービスに関わる部分で、「システムの安定運用と有事への万全の備え」の提供である。そのソリューションの品質は、「日々の監視とそのモダナイゼーションや、徹底した品質管理と自動化による品質向上により実現する」とし、さらに「企業風土や人材戦略、全社員のデジタル・リテラシーも品質に関わると捉え、経営視点にも踏み込んた品質向上のご支援を提供していく」と、上坂氏は語った。キンドリルの「最も得意とするところ」という。
戦略1は、アーキテクチャの設計、インフラの構築・運用、モダナイゼーションにより推進する「サービス・イノベーション」である。「キンドリルという独立企業になったことにより、選択肢の幅がより広がった」(上坂氏)とする。
戦略2は、「ビジネスモデル・イノベーション」。上坂氏は、「これまでの企業システムは1社単位、あるいは業務単位で構築されてきた。これからはインダストリ単位でシステムを共有・共創したり、あるいは個々のインダストリを超えてより大きな範囲でシステムを共有・共創できるプラットフォームが必要になる。キンドリルはそうしたプラットフォームの構築・提供を戦略としている」と話した。
戦略3は、「エコシステム・イノベーション」である。これについては、「IBM時代は、IBM製品を中心にエンド・ツー・エンドをカバーしてきたが、キンドリルでは、より広い視点でベスト・オブ・ブリードを選択し提供できる。そのためには、卓越した知見・技術・ソリューションをもつパートナーとのエコシステムが重要で、パートナー・エコシステムは、キンドリルにとって最大の変革であり、最大の戦略になる」と上坂氏は語り、「お客様と同じ目線で、同じプライオリティで、ベスト・オブ・ブリードを目利きできることがキンドリルの価値」と強調した。
キンドリルでは、2021~2024年のグローバル全体の年平均成長率(CAGR)を約7%と見込む。「日本は米国に次ぐ2番目の売上規模だが、グローバルの平均よりも高い成長を達成できると考えている」と、上坂氏は述べた。
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