株式会社トーウン
本社:埼玉県さいたま市
設立:1959年
資本金:5億7400万円
売上高:287億円(2022年3月末)
従業員数:686名
事業内容:一般貨物自動車運送事業、倉庫業
https://www.tohun.co.jp/
1959年に創立し、1995年にグループ4社の対等合併によりトーウンサービス(株)として新たなスタートを切った。2019年に創立60周年を迎えたのを機に、2021年に現在の社名に変更した。物流会社として、とくに飲料輸送ではトップクラスの輸送力、輸送品質、保管荷役品質を誇る。これらを基盤に新たな取引分野へ事業を拡大するとともに、複合型物流センター「TLP(Tohun Logistics Provider)」の展開にも力を入れている。
最新鋭インテリジェント・マルチ
テナント型の物流センターが竣工
トーウンでは、1995年に4社合併でトーウンサービスが誕生する以前からのAS/400ユーザーである。
20年ほど前から、「LANSA」(ランサ・ジャパン)を利用して基幹システムを構築してきた。その後、一度はWindowsサーバー上で国産業務パッケージによるシステム刷新を試みたものの、運用性に問題が生じ、2010年に再びIBM iを導入した経緯がある。
そのときは「Visual LANSA」(同上)で、基幹システムを再構築した。
現在はエム・アイ・エス(以下、MIS)をパートナーに、LANSAで物流・会計の各システム、および多数のサブシステムを開発・運用している。
情報システム部には4名のスタッフが在籍するほか、MISから派遣された5名の技術者が常駐し、日々、既存アプリケーションの開発・保守、新システムの開発、新たな顧客との取引が始まる際のデータ準備などを担当している。
全国46拠点に物流センターを擁するが、2021年5月には、新たに「TLP群馬」が竣工した。倉庫面積は同社最大規模の6万2853m2。全天候型・完全屋内型の入出荷バース(トラックが接車し、荷物の積み卸ろしなどに使用するスペース)を備え、バック走行を必要としない単一方向の車両導線によるピットイン方式を採用する。
断熱材や防湿シート、大型シーリングファンなどで屋内の温度・湿度を安定化させて商品を守るなど、最新鋭インテリジェント・マルチテナント型センターとして完成している。
この物流センターでも、LANSAで開発した新システムが稼働している。竣工と同時に本稼働した配送車(トラック)の自動受付、入場予約、車両誘導、動態把握の各システムである。
その詳しい内容を見ていこう。
一連の自動受付システムで
待機時間や受付時間を削減
全国各地にある従来型の物流センターでは、配送車が車両センターに到着すると、ドライバーは受付事務を行うオフィスに足を運ぶ。FAXやメールで事前に車番登録を行っており、それに基づいて受付作業を済ませる。作業準備が整うと、受付順に携帯電話などで呼び出され、配送車を移動させて荷物の積み卸ろしが始まる。
これがWebアプリケーションとして運用されている新しい自動受付システム、入場予約システム、車両誘導システムを利用して、以下のように自動化されている。
ドライバーは物流センターに到着すると配送車を降り、無人の自動受付棟に設置された自動受付システムで簡単な入力作業を行う。まず画面に大きく表示された「入荷」もしくは「出荷」をタッチする。
以前はFAXやメールで事前登録していたのに対し、あらかじめ入場予約システムからドライバー各自のスマートフォンに送信されているQRコードをスキャンし、さらに携帯番号と車両番号を入力する。
そしてその場で印刷された入出荷検品リストを受け取って、配送車の中で待機する。
物流センターの作業員は、事前に入場予約システムで入場時間を把握しているため、事前に準備された積み込み製品、荷卸ろし場所を確認し、車両誘導システムからドライバーのスマートフォンへ、ショートメッセージで指定バースを送信する。ドライバーはそれを見て、車両をバースへ移動させる。
ドライバーが積み込み/荷卸ろしの作業を完了したら、今度は動態把握システムが、次の納品・配送場所に関する情報をドライバーのスマートフォンへ送信する。
ドライバーは納品・配送場所に到着するとすぐに、Webアプリケーションである動態把握システムへアクセスし、表示された「到着」「荷役開始」「完了」の3つのボタンをそれぞれの作業完了時にタッチする。
さらに納品完了を報告したら、次の納品先への到着予定時間を入力する。納入先の住所や連絡先を確認し、必要に応じてGoogle Mapで表示できる。
この受付業務に関する一連のシステムにより、受付時間、待機時間、イニシャルコストを大幅に削減できたことは言うまでもない。
「たとえばオフィス側の受付作業で見ると、1回当たりの受付作業時間が約3分。物流センターでは1日約500台の配送車を受け付けるので、年260日の稼働で計算すると、受付作業時間は1年で6500時間の削減となります」と指摘するのは、情報システム部の俵健太副部長である。
これらのシステムは、既存物流センターの9カ所にも導入されているが、各センターで受付業務に携わる人員を3名削減するのに成功しているという。
ドライバーの側にも、業務削減効果は大きい。バースへの誘導が迅速化されたことで待機時間を短縮したほか、少し離れた受付オフィスに足を運ぶ必要がなくなった。
また以前使用されていた呼び出しベルは電波の届く範囲が限られていたので、車両センターの近辺で待機する必要があった。しかし新システム導入後はスマートフォンに送信されるため、待機場所が限定されなくなった。必要であれば、車両センターを離れ、近所のコンビニへ立ち寄ることもできる。
さらに受付に関する対面作業が解消され、コロナ禍で求められる非対面業務が実現している。
このほか動態把握システムは、顧客からもアクセスできるので、納品の状況が即座に把握できるようになったと好評である。
ホワイト物流を目指し
自動化を据えたDXを推進
これらのシステムはMISの支援を受け、Visual LANSAにより、Webアプリケーションとして開発された。開発期間は約1年である。
同社ではIBM i関連の開発時には常に、MISの開発・販売する「LREP」(LANSA Repository Explorer for Productivity)を使用している。
これはLANSA リポジトリを分析し、ファイル関連図やプログラム関連図を取得してシステム全体像の把握やドキュメント化に役立つツールで、システム修正時の影響調査を容易に実行できるのが特徴である。
「当社ではLANSAの運用歴が長く、膨大なプログラム資産が蓄積されています。アプリケーションの改修は日々発生しているので、プログラム修正前後の状態を把握するのにLREPは欠かせないツールです。今回のシステム開発でも、物流システムとの連携に際して、LREPで頻繁に確認しながらMISの開発チームとコミュニケーションを重ねました」と、五十嵐貴壮氏(情報システム部 マネージャー 兼 デジタル推進グループ リーダー)は語る。
IT全般を統括する情報システム部長の辻本貢取締役 常務執行役員(管理本部長 兼 関連会社統括部担当 兼 品質・安全管理部長)は次のように指摘する。
「当社では一時期、他サーバーへ移行したものの、結局はIBM iへ戻り、全体で見ると非常に長く使い続けています。システムが複雑化しがちなオープン系サーバーに比べると、運用がシンプルであり、資産継承性も高い。そしてサーバー停止を絶対に避けねばならない物流業務にとって、信頼性・可用性の高い点は何にも代えがたい利点であると考えています」
さらに辻本氏は続ける。
「物流は労働集約型産業であり、人手がないと成立し得ない産業でした。しかし今後は労働人口の減少が予測され、人材確保は年々厳しくなるでしょう。そこで単純作業はできるだけITで自動化させ、経験やスキルを要する業務に人材を集中させる。ホワイト物流を推進するためにも、ITを有効に活用していく必要があり、それが当社のDXの中核を形成していくことになります」
同社では前述した一連のシステム以外にも、2022年4月から安否確認システムの運用をスタートさせた。災害発生時に社員や家族の安否を確認するのに加え、物流センターなどの建物・設備の被害状況や保管商品の状態なども確認できるシステムとして運用していく。
またドライバーのスマートフォンにトラックナビを搭載して、さまざまな情報や指示を送信したり、車両カメラでドライバーの健康状態を感知し、異常時は管理者に通知するシステムも今後スタートさせる。
これ以外にも、フォークリフトへタブレットを搭載して、倉庫内ナビやロケーション管理に利用していけるように開発を進める。また気象データを基幹システムと連携させ、天候の悪化や災害発生が予測される地域にある配送先や輸送ルートの状況を確認できるシステムなども予定している。
同社のDXは確実に前進しているようだ。
◎TLP群馬の紹介動画
https://youtu.be/JLKfgq3V-L8
[i Magazine 2022 Summer(2022年7月)掲載]