株式会社ランテック
<継続のシナリオ>
センコーグループへの参加を機に、IT基盤の共通化とシステムの見直しに着手。同時に「脱ホスト」を果たした親会社からは、IBM i継続を疑問視する声も。情報システム部ではIBM iが物流システムを支える最良のプラットフォームであると説得し、IBM iの継続を決定するとともに、将来的な開発・運用に耐え得る開発言語が必要と、RPG ⅢからILE RPGへの移行を進めている。
本社:福岡県福岡市
設立:1953年
資本金:5億1980万円
売上高:569億341万円(2021年度)
従業員数:2749名(2022年3月)
事業内容:貨物自動車運送事業、貨物利用運送事業、貨物運送取次業、倉庫業など
https://www.runtec.co.jp/
1953年の設立以来、食品定温物流業界の発展に貢献してきた。冷凍・冷蔵物流の徹底した品質管理と日本全国をカバーする物流ネットワークで、幅広い温度帯の食品輸送に対応している。なかでも「フレッシュ便」は同社の事業の柱で、今や小口混載定温輸送のトップブランドに成長した。車輌・冷凍機メーカーとタイアップして独自の冷凍車をプロデュースし、前・後室それぞれにエバポレーターを設置して個別に温度管理をすることで、小口混載便でも充分な輸送品質を確保している。
センコーグループとの統合合併が
IT環境見直しの大きな契機に
ランテックは2014年10月、同じくトータル物流サービスを提供するセンコーの子会社となった(2018年に100%子会社化)。
センコーは、物流・商事・ビジネスサポート・ライフサポートなど多彩な事業を展開するセンコーグループの物流を担う中核事業会社である。長らく国産メインフレームのユーザーであったが、ここ数年は「脱ホスト」を掲げ、オープン系サーバーへの完全移行を果たしている。
この合併統合は、ランテックのIT基盤とシステム構築方針に大きな影響を与えることになった。もともと同社はシステム/38時代からのIBM iユーザーで、定温物流に特化したフレッシュ便をはじめとする物流システム、および受発注、配車、請求、売上管理、会計の各システムをRPGで開発し、長年にわたり改修を加えてきた。
しかしセンコーの子会社となったことで、同グループのIT基盤を有効に活用し、共通化を推進することが重要課題となった。2015年には、管理系を中心にしたIT基盤の共通化とランテック独自システムの高度化を目標に据えた2年計画のシステム革新プロジェクトが発足している。
ここでは、起案書や旅費経費精算などのワークフローをセンコーのシステムと共有化、月次データの決算連動、冷蔵設備を備えた新設の物流拠点に対するIT支援、倉庫システムの刷新、インターネット受発注への移行、配送車でのスマートデバイス活用など、多彩なシステム構築が着々と進められた。
1994年から情報システム部に所属する山川龍次氏が部長に就任したのは、2020年7月のことである。着任して初めて、センコーから派遣されたIT革新担当役員と前任者、そして当時の社長(現会長)の間で、「脱IBM i」を前提にした話し合いが進んでいることを知る。
IT革新担当役員はセンコーでのシステム構築経験が豊富で、「脱ホスト」を提唱した責任者でもあった。「もうメインフレームやIBM iの時代ではない。いつまで使えるかわからないIBM i環境からオープン系へ、一刻も早く移行すべき」との主張がなされた。
「脱IBM i」の雰囲気が支配的になりつつあることを知った山川氏は、IBM iの継続を目指し、あらためて現行環境を調査した。そして運用を継続した場合のメリット・デメリット、解決すべき課題などを洗い出し、複数回にわけて、当時の社長とIT革新担当役員を説得した。
まず2028年まで策定されているIBM iのロードマップ(現在は2035年までに延長)を示し、IBM iの製品供給がこの先も保障され、少なくとも今後10年は問題がないこと。物流システムという24時間365日の稼働が要求される環境に対して、信頼性や堅牢性、資産継承性やレスポンスなどの優位性を備えるIBM iは最も適したプラットフォームであることを説明した。さらに今後採用する言語は、現技術者もオープン系技術者も習得可能な中間的な言語を採用し、開発体制の内製化を継続・拡大したいことも付け加えた。
山川氏の熱意ある説得が奏功したのか、これからの5年を見据えたIT全体構想とともに、IBM iの継続案は了承され、その後はIBM iを前提にした次世代の基盤づくりが策定されている。
「ただし、ハードウェアとソフトウェアは切り離して考えるべきです。確かにハードウェアの信頼性は高いですが、最大の問題は、フレッシュ便や管理系システムの大半がRPG Ⅲで開発されており、その一部がブラックボックス化していることでした。RPG Ⅲは今後の機能拡張は望めず、膠着した開発言語に依存することのリスクは十分に認識していました」(山川氏)
将来の開発・運用に耐え得る
言語への移行
IBM i上にはRPG ⅢとCOBOLで開発したプログラムが約1万4000本稼働している(各物流拠点の分散マシンとして国産オフコンを運用していた時期があり、IBM iに統合した際にそのCOBOLプログラムをコンバージョンした)。
「確かに社内外でRPG技術者の高齢化・減少が目立ち、以前に大きなシステム構築案件が立ち上がった際、外部ベンダーからRPG開発者を確保するのに苦労しました。プログラム資産も開発スキルも、将来の開発・運用に耐え得る開発言語へ移行していく必要があります」(山川氏)
そこで同社では、ILE RPGおよびフリーフォーマットRPG(以下、FF RPG)への移行を計画した。まず新規システムや大規模改修の場合は、ILE RPGで開発。優先順位を考えながら、その他のプログラムも順次、ILE RPGへ変換することを考えている。
また、外部ベンダーが主催するFF RPGの勉強会にも積極的に参加している。
「若手・中堅メンバーが参加していますが、若手の開発者はFF RPGに抵抗がない一方、長年にわたりRPG Ⅲを使ってきたベテラン開発者はハードルが高いと感じるようです。そこでILE RPGの固定フォーマットとフリーフォーマットをうまく混在させながら、全体的なスキル移行を図っていく計画です」と指摘するのは、松﨑俊二課長(情報システム部 開発課)である。
今年は4名の新卒若手社員が、情報システム部に配属され、さっそくRPGの研修が始まっている。4名というのは、これまでの新卒配属人数としては過去最多。情報システム部の人員は現在29名だが、これで平均年齢が一気に若返った。
「IBM iの継続を決めたわけですが、何もかも今までのようにIBM i上で運用するわけではありません。センコーのIT基盤やオープン系システムを利用したほうが効率的と判断すれば、躊躇なくIBM iからオープン系へ移行させます」と、指摘する山川氏。
たとえば倉庫システムの刷新では、ロケーション管理を徹底させたセンコーシステムをベースに同社の独自要件をカスタマイズするため、オープン系のクラウド環境を選択した。現在、開発が進んでいる新・配車システムも同様に、オープン系サーバーでの運用を前提にしている。
一方、チルドや冷凍商品など厳密な温度帯管理が必要なフレッシュ便の物流システムは、同社のノウハウが集約されたIBM iで運用を継続していく。
倉庫管理に強いセンコー、物流の「足」に強いランテックと、それぞれの強みを活かしながら、最良のシナジー効果を得られるシステム運用を選択していくようだ。
[i Magazine 2022 Summer(2022年7月)掲載]