新・事務情報システムで初めて導入したIBM iをオープン系中心の人材で運用していく
立命館大学
開 学:1869年(明治2年)
キャンパス:京都衣笠、滋賀びわこ・くさつ、大阪いばらき、朱雀、東京、大阪梅田の各キャンパス
学部数:16学部22研究科
学生数:3万6178名(2021年4月現在)
教職員数:2539名(2021年4月現在)
http://www.ritsumei.ac.jp/
西園寺公望が私塾「立命館」を創始した1869年に遡れば、およそ150年にわたって輝かしい教育の歴史を刻んできた。その中核的存在が立命館大学である。2019年4月、大阪いばらきキャンパスにオーストラリア国立大学(ANU)と提携して、すべて英語による講義を行う「グローバル教養学部」を開設。現在は16学部22研究科を擁してほぼすべての学問領域をカバーしながら、大学改革、学園創造、そしてグローバル化を積極的に進めている。
新・事務情報システム「RISING4」を
IBM i上で構築
立命館大学は2018年1月、新・事務情報システム「RISING4」をIBM i上で本稼働した。前システムに当たる「RISINGⅢ」は、オープン系技術とパッケージ製品を利用したWebアプリケーション。それ以前もクライアント/サーバーやメインフレームを利用するなど、IBM iは同大学にとって初めてのプラットフォーム環境である。
RISING4の構築ではグローバル化を軸とする教学制度改革や業務ニーズの変化に対応すると同時に、独自開発型(非パッケージ型)システムの導入、プログラム資産の継承、内製体制を可能にするソフトウェア基盤の確立を目指した。
WindowsではOSがバージョンアップするたびにミドルウェアやアプリケーションの移行・改修作業が生じる。定期的に発生するパッケージ製品のカスタマイズや機能追加・拡張などを含め、開発・保守・移行・改修には外部ベンダーの支援が必ず必要になり、そのたびにコストと開発工数が発生する。
内製体制の確立は、こうした外部委託に伴うコスト負担を軽減するとともに、ニーズに即応して必要システムを実現していくには不可欠と考えられた。
IBM i上で稼働するRISING4は、そうした目標を達成している。しかし以前にIBM iの利用経験がなく、オープン系スキルを中心とした人員体制をもつなかで、内製体制を可能にする人材やスキルをどう育ててきたのだろうか。
「確かにIBM i上でRPGを中心にRISING4を構築したわけですが、何から何までIBM i独自の開発言語、IBM iでしか見られない特別な技術を使ったわけではありません。むしろオープン系で標準とされている技術、もしくはその標準に準じるような開発環境を取り入れて、『立命館スタンダード』を確立し、IBM iをそれにできるだけ寄せていくことで、オープン系の技術者とIBM iの間にある壁を取り除こうと考えました」と語るのは、服部陽介課長(情報システム部 情報システム課)である。その考え方とIBM i人材育成の道のりを詳しく見ていこう。
立命館大学の情報システム課と
クレオテックが内製体制を支える
立命館アジア太平洋大学(APU)を含む同学のIT運用を担うのは、立命館大学の情報システム部、および立命館グループのIT会社である株式会社クレオテック(学校法人立命館の100%子会社)のICTソリューション部である。同大学の内製体制は、この両輪に支えられている。
立命館大学の情報システム部には3つの課があり、部長を含む合計24名で構成されている。
まずネットワークや授業で使用するマルチメディア環境など情報基盤の企画・整備・運用を担う情報基盤課には、課長を筆頭に専任職員9名が所属する。
また入学・学籍・履修成績管理など、いわば大学の基幹システムに相当する事務情報システムの企画・開発・保守を担当する情報システム課には、課長を筆頭に専任職員8名が所属する。
そして今後の業務基盤の高度化について中心的な役割を果たす業務改善企画課には、課長を筆頭に専任職員6名が所属している。
一方のクレオテック側ではICTソリューション部のシステム事業課が、RISING4の開発・運用を担当している。ここには専任で10名の社員のほか、1名の外部委託スタッフが所属している。
RISING4のプロジェクトでは、システム基盤構築およびアプリケーション・フレームワークの開発を日本IBMが、アプリケーション開発を(株)金沢総合研究所、京都電子計算(株)、クレオテックが担当した。本稼働以降はクレオテックが中心になって通常の保守・改修を行っている。
また入学システム、学生システムの保守開発では要件定義から外部設計までを立命館大学の情報システム課、詳細設計から実際のプログラミング、改修・運用までをクレオテックのシステム事業課という役割分担で進められている(図表1)。
立命館スタンダードの存在が
IBM iとオープン系スキルの距離を縮める
RISING4をシステム面から見た最大の特徴は、フリーフォームRPGおよびXML-Bridgeにより、独自のアプリケーション・フレームワークを構築している点にある(図表2)。
このフレームワークにより、Web画面の構成要素、チェックルール、表示文言などをすべてデータベース上でマスタ管理し、コンポーネント化している。その一方で、業務要件別の独自処理部分のみをプログラミングで実装することにより、ローコードな開発の実現に成功した。
このなかで、服部氏の指摘する「立命館スタンダード」の核になるのは、まずフリーフォームRPG、それにフロントエンド部分を開発するJava Script、そしてデータベースを操作するSQLである(処理操作向上のためにデータ操作部分のみでREAD/WRITE命令を使用しているが、それ以外はDb2 for iへの登録のほとんどをSQLで実装している)。
またEclipseベースの開発環境である「Rational Developer for i」や、チーム開発を支える「IBM Enginee
ring Workflow Management」などの利用も、スキルの標準化に貢献している。
この立命館スタンダードの存在が、IBM iの独自性(IBM iでしか見られない特殊な技術要素)を排除し、スキルをオープン系の環境に寄せていく役割を果たしている。
「Javaなどのオープン系技術を習得した開発者はフリーフォームRPGを見ても、それほど違和感なく使いこなしていけます。そのほかはJava Script、CSS、SQL、シェルスクリプトなどオープン系とまったく同じ技術要素です。IBM i環境だからと言って、スキル習得に苦労したことは少ないです」と語るのは、立命館大学の師井学課長補佐(情報システム課)である。
全員がフリーフォームRPGの
スキルを習得
情報システム課には、学内の別部門での勤務経験があり大学業務をよく知るスタッフと、外部のIT会社から中途入社した(主にオープン系の)開発スキルのあるスタッフがほぼ半々の割合で所属している。
「開発経験の有無に関係なく、情報システム課の担当者は、RPGプログラムを実際に書く場面はないものの、少なくともきちんと読めるだけのスキルは備えています。実際にプログラムを作成する業務はクレオテックが担当しますが、障害や不具合が発生した際に、どこに問題があるのか、両者でプログラムのソースコードを見ながら会話するだけのスキルはあります」と、立命館大学の石井奈穂子課長補佐(情報システム課)は指摘する。
RISING4のプラットフォームが決定した当初、情報システム課のプロジェクトメンバーの数名が、アイ・ラーニングの開催するIBM iの基礎講座を(メンバーによってはRPG開発に関する講座も含めて)受講した。
2015年には情報システム課のある京都内のキャンパスでアイ・ラーニングが開催したオンサイトトレーニングに、開発経験の有無に関係なく同課の全員が参加。それ以降、現在に至るまで、異動で新たに着任したメンバーはアイ・ラーニングの研修を受講している。
ちなみに新しく入職した職員には同大学の共通研修を受けたあと、配属に応じて約1カ月の研修が実施される。情報システム課の場合は、前半2週間でRISING4の構造やサブシステムについて、後半2週間で技術やインフラ関連の実務研修が用意される。
一方のクレオテックのシステム事業課では、プロジェクト発足当初に何名かがアイ・ラーニングの研修に参加した。それ以降、RISING4の開発が進むに従って同課のスタッフは増員されていったが、こうした外部研修に加え、社内でのスキルトランスファーや日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリングとのやり取りのなかで、IBM iのスキルを蓄積していったという。
クレオテックの上山哲嗣課長(システム事業課)は、次のように語る。
「システム事業課のメンバーは、以前にIBM iの利用経験がないにもかかわらず、今は全員がRPGでの読み書きが可能で、フロントエンドやバックエンドを含めてIBM iの開発・改修・保守の全域を担当しています。これからもスタッフを増員していく予定ですが、IBM iの経験は問いません。もちろん、あれば即戦力になりますが、なくても支障が生じるとはまったく考えていません」
同課で基盤運用を担当する清水和彦リーダーは、次のように語る。
「私の開発経験はCOBOLが中心で、以前のプロジェクトでは要件定義やプロジェクト管理を担当していました。2年ほど前にRISING4の担当となり、アイ・ラーニングの研修を受けたあと、今はCLの修正を行ったり、IBM iのネイティブコマンドを利用した運用管理、あるいは障害対応に当たるケースが多いです。日本IBMの障害対応の担当者やサポート窓口とのやり取りのなかでログの読み方やネイティブコマンドの使い方など、知識を蓄積していきました」
また同課の松廣勝己氏は、JavaScriptやCSSを使ってフロントエンドの画面作成を担当している。
「今はフロントエンドをメインに、XSLのテンプレート作成などを行っています。もちろんRPGを利用する場面もありますが、フロントエンドだけで言えば、バックエンドのRPGのビジネスロジックをほぼ意識せずに開発しています」
業務知識とITスキルの
バランス感覚を備えた人材育成へ
RISING4はアプリケーション・フレームワークの存在によって(最小限のロジックを作成する必要はあるものの)、デザインテンプレートの組み合わせで開発が進められるようになっている。このように「型が決まっている」ことが開発生産性を向上するとともに、個々のスキルレベルに依存しない開発体制を実現している。
「どうしても目の前の課題解決に集中しがちですが、これからは立命館大学のDXを実現していくうえで、ITの力によって業務を新たにデザインしていけるようなスキルを身に付ける必要があると考えています」と語る竹村政善課長補佐(情報システム課)の言葉を受けて、服部氏も今後の人材育成について次のように語っている。
「これからは業務知識とITスキルのバランス感覚を備えた人材をどう育成するかが課題になると思います。学内の事例や実績を材料にしながら、各所に点在する業務上の課題を発見し、ITによってどう解決するかに結び付ける。システム開発を通して業務をデザインできる人材が必要です。各部署と定例ミーティングを開催し、クレオテックとも日常的にコミュニケーションしつつ、業務知識とITスキルの両輪を個々人のなかでどうバランスさせ、育てていくかを考えていかねばならないと思います」
[i Magazine 2021 Spring(2021年4月)掲載]
特集|立命館大学の挑戦 ~オープン系サーバーからIBM iへの移行、 その軌跡と技術を追う
事例|立命館大学~オープン系からIBM iへ移行 ~事務情報システム再構築プロジェクトのその後