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事例|大阪シーリング印刷株式会社 ~社内SEの育成に取り組み、現場からの膨大な要求に内製で対応

現場の声を正しく聞き、理解し、交渉し、システム化する能力を育てる

 

大阪シーリング印刷株式会社
本社:大阪府大阪市
創業:1927年
設立:1954年
資 本 金:3億2443万9200円
売 上 高:973億1500万円(2020年1月)
従業員数:3323名(2020年1月)
事業内容:シール・ラベルの印刷加工・販売、シュリンクラベルなどのフィルム軟包装資材の印刷加工・販売、ラベル自動貼機の製造・販売
https://www.osp.co.jp/

1961年にシールの製造特許を取得した日本のシール業界のパイオニア。現在はシール、ラベル、ステッカーに加えてフィルム製品と紙器パッケージなどを製造・販売する総合パッケージ印刷メーカーに成長し、シール・ラベル製品は国内約3分の1のシェアに達した。主に凸版印刷を中心とした原紙製造から印刷までの一貫生産行程を軸に、全国をオンラインで結ぶ営業・生産ネットワークを活用し、シール業界のリーディングカンパニーとして常に時代のニーズを先取りしている。

◎IT人員構成
IT推進部:27名
20代:11名
30代:7名
40代:3名
50代以上:6名

新規開発や改修などの
膨大な要求を内製で対応

 大阪シーリング印刷は、システム/34を導入して以降、一貫して販売管理や生産管理を軸とする基幹システムをIBM i上で運用している。メインの開発言語はRPG。それにGUI画面の操作性や入力項目の多い業務アプリケーションの開発には、「Delphi/400」(ミガロ.)を利用する。

 またIBM iの基幹データを多種多様な業務で活用するためのフロントエンドのアプリケーション開発には、「Claris FileMaker Pro」(以下、FileMaker)を活用している。

 こうした開発を効率化するため、IT部門の再編にも取り組んできた。2016年には現場向けにFileMakerを利用していた企画製版部のスタッフを一部統合し、2018年にはIT部門を含む経営企画室から独立して、IT推進部に組織変更。社長直轄とし、グループ全体のIT部門としての役割を果たすように再編成された。

 現在、IT推進部は3つの課で構成されている。IT推進第1課はIBM i上で稼働する基幹システムの開発・運用を担当し、11名のスタッフが所属する。IT推進第2課は、File
Makerを使用したオープン系システムの開発・運用を担当し、8名のスタッフが所属して、IBM iについても理解を深めている。またグループ会社の海外事業支援にも注力している。そしてIT推進第3課は全社ネットワークの管理およびAIやIoT、スマートファクトリーの支援などネットワーク構築や新技術を担当し、5名のスタッフが所属している。

 さらにIT推進部は2019年からの新体制として藤原武志部長、若尾武司副部長の下、前部長であり、定年を迎えた2019年以降は人材教育担当となった大森良和氏を加え、総勢27名でIT推進部を構成している。この数年を見ても、システム要員は増員傾向にある。

 ちなみに年齢構成は20代が11名、30代が7名、40代が3名、50代以上が6名で、開発の主力は20~30代が中心である。内製主義を掲げ、一部のWebアプリケーションを外注する以外は、すべて社内で開発・運用を担う。

 生産部門や業務部門から寄せられる新規開発や改修の依頼は非常に多い。とくに2012年から各生産現場にアメーバ経営を導入して以降、現場での意識が高まり、きめ細かな改善要望やシステム化提案が多数寄せられるようになった(アメーバ経営では組織を少人数単位に細分化し、その小集団ごとに時間当たりの採算を最大化する)。

 IBM iを運用する過程では、一時期パッケージ製品の導入も検討された。しかし部門ニーズをきめ細かく実現するための要求レベルが高いことから、人材を育成して内製体制を強化していく道を選んだ。

「ここ数年はとくに、人材教育に力を入れてきました。目標は印刷メーカーのIT部門として、現場の要望を理解し、的確にシステム化できる社内SEを育てることです。アメーバ経営の導入で、現場から膨大な要求が寄せられるようになった以降も、内製で十分に対応できていると自負しています」と語るのは、前部長の大森氏である。

大森 良和氏
IT推進部 教育担当

「現場の意見を正しく聞く」を重視して
社内SEを育てる

 同部に配属される社員は、IT開発の経験をもたないケースがほとんどだ。基幹システムを担当するIT推進第1課を例にとると、配属後はまずPCやプリンタなどの設定を学び、次にアイ・ラーニングの外部講習に参加してデータベースやRPGのプログラミング技術を学習する。その後は先輩社員の指導により、簡単なプログラムの作成方法に関する学習を社内研修で続ける。

 2020年度の場合は、大学で文系の科目を履修した新入社員が配属され、まずアイ・ラーニングの研修に参加した。ただしコロナ禍で緊急事態宣言が発出されていたため、すべてをオンラインで履修している。

「初めての講習内容をオンラインですべて理解するのは難しい」と感じた大森氏は、自ら講師役となり、その後に再度のプログラミング教育を継続した。1日1.5時間、1カ月で約10日の講習を3カ月間続けた。印刷業務の知識を習得する期間を加えて、その社員は1年ぐらいで独り立ちし、今は重要な戦力として開発に参加しているという。

「以前は伝票入力や集計などのオペレータ作業が多かったですが、システムの高度化・自動化が進むにつれ、そうした人的作業は不要になりました。高校を卒業して事務職として入社し、オペレータ業務に従事していた女性スタッフが、プログラミング教育を受け、今は1人で現場部門に赴いて打ち合わせを重ね、要求を正確に理解し、必要に応じて交渉し、その内容をシステムとして完成させています。社内SEとして立派に育っていることが誇りであり、目指していた人材育成の理想に近づいていると感じています」(大森氏)

 また若尾氏は、次のように語る。

「2年ほど前には若手から声が上がり、開発の属人化を解消するため、コーディングの標準化に着手しました。ネーミング方法やコーディングルール、セキュリティ設定などの標準をドキュメントにまとめ、全員が参照するようにして、開発方法を統一しています。これにより属人化の解消や開発生産性の向上に寄与しています」

若尾 武司氏
IT推進部 副部長

 同社では、こうした若手からの自発的な意見や要望を大切にしている。たとえば若手の勉強会である「マナブ」も、そうした取り組みの1つ。随時、自分たちでテーマを決め、IBM iを中心とした情報共有や学習を中心に勉強会を開いている。先輩社員を講師役にプログラミング手法やデバッグ方法を学ぶなど、内容はさまざまだ。

 また「マナブ」に限らず、必要に応じて外部から講師を呼んで研究会を開催するなど、業務の異なる課が双方に交流して情報を交換する。最近ではIT推進第3課が、遠隔地の製造機器の調整・保守に向けたスマートグラスの導入に際して、スマートグラスのデモ機を各メーカーから入手し、勉強会の参加者の前で実際にデモしながら、その利用方法や違いを部全体で共有する取り組みも行われた。

「RPGの開発力に関しては、外部ベンダーより自分たちのほうが実績も経験もあると自負しています。しかし新しい技術習得や情報収集に関しては、外部ベンダーの支援を積極的に得て、それを人材育成にフィードバックしていこうと考えています」(藤原氏)

藤原 武志氏
IT推進部 部長

 技術習得はもちろんだが、「現場の意見を正しく聞く」という能力を重視して社内SEの育成に取り組んできた努力が今、結実しているようだ。

 

[i Magazine 2021 Spring(2021年4月)掲載]

 

 

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