日綜産業株式会社
本社:千葉県千葉市
設立:1968年
資本金:17億9134万円
売上高:301億円(2023年度)
従業員数:455名(グループ合計564名)
概要:建築、土木、造船、プラントなどの建設用仮設機材の開発、設計、製造、販売、レンタルおよび建設工事の請負
https://www.nisso-sangyo.co.jp/
Delphi/400によるGUI化で
モダナイゼーションを推進
日綜産業は、「足場」を中心とする仮設機のパイオニアとして、建設資材や土木資材、法面関連で使用する足場資材などを幅広くレンタルしている。
同社がIBM i(当時のAS/400)を導入したのは1992年に遡る。売上・請求、発注、仕入、買掛、出荷、返却、検収の各システムおよび得意先管理や現場管理、製造系の各システムを、RPGにより自社開発型で構築し、改修を重ねながら使用してきた。
こうしたシステム群に対し、IBM iの運用を続けたまま、新しいユーザー・インターフェースへ刷新する基幹再構築プロジェクトが立ち上がったのは2017年のことだ。きっかけは、「いつまでも黒画面(5250画面)のままでいいのか?」という疑問の声が経営陣から寄せられたことであった。
「確かに5250画面のままでは、若いユーザーにとっては使いにくいし、画面の表示効率が悪いので業務の効率性という点でも思い切った改革はできません。でもIBM iの運用性や可用性はよく理解していたので、なんとかIBM iを使い続けたまま、利用環境を刷新できないかと検討を重ねました」と当時を振り返るのは、管理本部 IT戦略推進部の寒河江幸喜部長である。
寒河江氏が着想したのは、検討時点から遡って10年ぐらい前からアプリケーション開発ツールとして導入していた「Delphi/400」(ミガロ.)である。これを使って、RPGのビジネスロジックを流用しつつ、5250画面からGUI画面へと、ユーザー・インターフェースを刷新できないかと考えたのである。
「私はRPGに加え、Visual BASICの開発経験があったので、Delphi/400を使った開発には苦労なく、すっと馴染めた感覚がありました。2007年に導入してすぐに、取引先から送信されるレンタル品に関するデータをCSV形式で基幹システムに取り込むためのプログラムを作成してみたところ、短時間でとてもスムーズに開発できました。このとき、『Delphi/400であればなんでもできる、不可能はない』という感想をもちました」(寒河江氏)
その後は、レンタルの返却時に修理・補修が必要な故障や損傷があった場合に、検収写真として撮影した画像データを請求書に添付してプリントアウトするシステム、また新しい業務への対応や画像データなどを扱うアプリケーションなど、約20システムをDelphi/400で開発した。
こうした開発実績を評価し、RPGによる既存のビジネスロジックを活かしつつ、Delphi/400でユーザー・インターフェースを刷新する基幹再構築プロジェクトを始動させることになった。
「IBM iの利用を継続しながら、Delphi/400によりGUI化とスマートデバイスの導入を進め、モダナイゼーションを実現しようと考えたわけです」(寒河江氏)
対象となった主要な基幹システムは自社品出荷システム、自社品返却システム、転レンタルシステム(自社製品ではなく他社からレンタルして顧客に提供する場合の管理システム)の3つである。2017年から段階的に実施し、プロジェクトが終了したのは2023年。
主要な開発はDelphi/400の提供元であるミガロ.に委託した。プロジェクトマネジメントは以前から付き合いのある北海道オフィス・システムが担当。日綜産業側も稼働後のアプリケーション保守を担えるように、適宜開発に加わった。IT戦略推進部は現在、7名のスタッフが所属するが、そのうちの3名がRPGおよびDelphi/400双方 での開発が可能である。
これにより、日々使用するアプリケーションの約7割以上が新しいGUI画面に移行した。マスターメンテナンスなど、少数のユーザーしか使用しない画面はまだ残しているが、業務で頻繁に利用する画面のほとんどは5250画面を脱却している。
また単に5250画面からGUI画面に移行しただけでなく、業務フローの改革も実施し、それに沿って画面デザインが進められた。
中でも「自社品出荷一覧」(図表1)は、プロフィットセンター(営業部門)と機材センター(出荷業務担当)が共通で利用する要となる画面である。
全社で同じIBM iデータを同じ画面で参照することにより、情報共有が円滑になった。設定により担当部署ごとに必要な機能に絞り込んで利用できる。
また明細行の色分けにより、状況やタスクを可視化できた。出荷の詳細情報を確認したい時は、各行から「自社品出荷一覧(詳細)」(図表2)にリンクできる。
ほかにも一覧画面からさまざまな機能への連携が可能で、見積、出荷、返却、請求、実績などあらゆる業務の起点になっている。
「単なるGUI化ではなく、これは一種の業務改革なので、どのように画面をデザインすべきか、週1回の頻度で業務担当者を集め、要件をまとめていきました。ミガロ.がプロトタイプ画面を作成し、それを見ながら担当者たちがミーティングの場で変更点などを指摘していくアジャイル方式です。既存のビジネスロジックをベースにしていることもあり、全体に手戻りが少なく、開発生産性はきわめて高かった印象です。若手に好評であるのはもちろん、経験の長いベテラン社員にも違和感はなく、仕事がやりやすくなったと評判は上々です」(寒河江氏)
ビジネスロジックを構成するRPG Ⅲは順次、ILE RPGに変換し、新規アプリケーションをRPGで開発する場合は必ずILE RPGを使用する方針を掲げている。GUI画面の作成とフロントエンドアプリケーションの開発はDelphi/400を使用する。
また2020年には、「Valence」(ミガロ.)を導入し、IBM iのメッセージを監視して、異常発見時は担当者へメールで通知する仕組みを実現した。Valenceはローコード開発ツールとして知られるが、IBM iの運用管理・監視を中心とした機能を提供するユーティリティライセンスも提供しており、同社ではこの機能を利用している。
現在は入出荷業務を担う機材センターで、Windowsタブレットの利用を進めるべく、Delphi/400でスマートデバイスアプリケーションの開発を進めている。広大なヤードを備える機材センターでは、以前は紙の出荷・返却指示書を手に社員が自転車で走り回る光景が日常的に見られたが、段階的にタブレットの導入を進め、そうした光景は姿を消しつつある。 IBM iのモダナイゼーションにより、同社は今後も新たな業務改革に挑戦していくことになりそうだ。
[i Magazine 2024 Autumn 掲載]