提案依頼書を2社に送付
POWER9の提案に大きな違い
ニイタカではPOWER7からPOWER9への移行を決めたが、実際の移行にあたっては、CPUパワーやメモリ、ディスクなどのサイジングと、移行作業などを委託するベンダーが必要になる。
そこで同社は2020年7月にベンダー2社に対して9ページからなる「提案依頼書」(RFP)を送付し、それぞれから回答を得た。そのRFPのうちPOWER9に関する部分の見積り条件は、「P05」「IBM i 7.4」を前提とし、「本番区画と開発区画をディスク共有で分ける」というものである(このほかに移行・構築に伴う作業費や稼働後の運用保守費用などがあるが、本稿では省略)。
ベンダー2社からは図表1のような回答があった。
まずマシン本体は両社ともPower S914だったが、A社は「9009-41G」を、B社は「9009-41A」を提案してきた。41AはPOWER9発表当時(2018年)のスペックを備えるマシン、41Gは第4世代のPCIeテクノロジーに対応し、I/Oパフォーマンスや帯域幅、データ転送能力を大幅に向上させた最新マシンである。
また両社の提案は、CPUのコア数、ディスク容量、LPAR構成、コンソールなどでも違いがあった。A社の提案は1コアで、ディスク容量は8TB、3LPAR、HMCという構成。B社は、2コアで6TB、2LPAR、LANコンソールという構成である。
ニイタカでは提案に対して次のような検討を行った。
・9009-41Aは初期出荷から約2年経過しているため、仮に導入するとハードウェアとOSそれぞれの保守期間が大きくずれてしまう可能性がある。利用計画に狂いが生じる恐れがある。
・メモリ容量は両社とも96GBだが、将来的にAIの利用を念頭におくならば128GBは必要。後で増設するとマシンを停止する必要があるうえに、初期導入時よりも2倍以上の費用がかかる。
・A社の「予備ディスク2TB」は多すぎるので1TBに落とし、必要に応じて増設すればよいのではないか。
・メーカーであるIBMは3LPAR構成を推奨している(P1=HOST、L1=本番、L2=開発)。
検討した項目はほかにも多数あるが、とくに注目したのはコンソールである。川端氏は、「今後の利用を想定すると、マシンの稼働中にメモリやディスクの増設が出てきます。その際にコントロールをソフトウェア(LANコンソール)で行うのは安定性に欠けるのではないか、稼働中の区画とは別のHMCで行うほうが安全なのではないかという議論になりました。また、当社のシステムを仮想環境で運用するには安定性の面でHMCのほうが望ましいだろうとの意見もありました」と話す。
ニイタカでは両社の提案を精査し、約30に及ぶ項目を比較・検討した結果、A社の案を採用した。その理由について川端氏は、次のように説明する。
「総費用はB社のほうが安く、会社の歴史、実績、POWER9の導入実績などもA社を上回る高評価でした。しかしながら、当社が今後DXへ向けて行いたいことを深いところで理解し提案してくれたのはA社のほうであると判断しました。それはPOWER9のスペックやサポートの考え方に表れています。とくに、システムをシンプルにしデータをIBM i上に集中させてデータ活用基盤を構築したいと構想している当社にとって、より強力なPower Systemsは必須であると考えました」
A社への購入決定の連絡は2020年8月中旬に行い、移行のための準備や事前テストなどを経て11月21日〜22日の2日間に移行作業を実施し、11月24日本番稼働に入った。
FF RPGを選択する根拠
ARCADにより移行を効率化
ニイタカでは1987年にシステム/36、1988年にAS/400を導入して以降、一貫してRPG Ⅲで基幹システムを構築してきた(システム/36用にRPG Ⅱで開発したプログラムはRPG Ⅲへ移行)。
その数は現在、2590本。その大半が部分最適で開発され、30年を超える歩みのなかで改修・改築を重ねてきたために複雑かつブラックボックス化し、レガシー化の元凶として「早期に解決すべき課題」の1つに挙げられていた。
同社がRPG Ⅲを問題視したのは、開発元のIBMが開発を終了しているために今後の拡張を望めないことや、数々の制約があるうえにSQLやRESTful APIなどDXへの取り組みで必要になる機能に対応していない点にあった。
図表2はRPG ⅢとILE RPG(RPG Ⅳ)の制約の比較。
図表3はRPG ⅢとILE RPGの対照表である。
進化を停止したRPG Ⅲは、今後の拡張やDXには不向きであることが一目瞭然だった。
そして“脱RPG Ⅲ”の解決策としてフリーフォームRPG(以下、FF RPG)を選択したことはPart 2で触れたとおりだが、その判断の根拠としたJavaやVisual Basicなどの言語構造とFF RPGのそれが似ていることを示したのが図表4である。
「Visual BasicのソースをFF RPGで書き直してみて、構文がほぼ同じであることを確認しました。これならJavaやPythonを勉強してきた若い世代でも取り組みやすく、将来オープン系の言語を採用してDX開発を行っても、FF RPGとそれらを容易に使い分け、基幹システムの開発・保守とDX開発を並行して進めることができます」と、川端氏は話す。
2590本あるRPG ⅢプログラムをFF RPGへ変換するためのツールは、三和コムテックの「ARCAD Transformer RPG」(以下、ARCAD)を採用した。ARCAD製品はIBM iにも標準で同梱され(英語版、サポートなし)、フリーフォームへの変換精度に定評があるツールである。
図表5は、RPG ⅢプログラムをARCADを使ってFF RPGへ変換した一例である。
「これを確認してわかったことは、RPG Ⅲからフリーフォームへの100%の変換は行えず、フリーフォーム化できない部分は固定フォームのまま残るということです。そのため変換しただけでは、固定フォームとフリーフォームが混在するILE RPGになっています」(川端氏)
つまり同社が理想とした100%の自動変換にはならないということだが、「しかし100%を目指して2590本のプログラムを手作業でフリーフォーム化すると、最低でも4~5億円はかかります。これに対して、ARCADを使えば自社要員だけでかなりの量の自動変換をカバーでき、さらにRational Developer for i(RDi)を併用すれば100%へ近づけることも可能です。ツールの採用により100倍以上の効率化が見込めると試算しました」と、川端氏はツール導入の理由について述べる。
情報システム部のメンバーを対象としたARCADとRDiの教育トレーニングは、2021年4月にスタートした。そして7月からはFF RPGへの移行方針の策定と移行手順書の作成も始まった。ARCADによる実際の移行・変換作業は、移行対象資産を整理(8月)した後の2021年9月から実施する予定で(約3カ月)、さらに年末から2022年3月にかけて動作確認テストを行い、4月より本番稼働へ入る計画である。
またARCADによる移行作業の期間中は、プログラムの改修をユーザーから受け付けない「資産凍結」も予定している。その期間は2021年9月から2022年3月までの約半年に及ぶという。
「これまではユーザー部門からの改修依頼を随時受け付け、週に1本のペースで本番をリリースしてきたので、資産凍結はとうてい無理という声が部内から上がりました。しかしこれをやらずに、元プログラムの改修と移行を繰り返すと、ARCADの費用が膨大に膨らんでしまいます。凍結を原則とし、凍結できないものについては手順を決めて対応していくことにしました」(川端氏)
ARCADの教育トレーニングと並行して、X-Analysis Advisorの教育トレーニングも2021年4月に始まった。
X-Analysis Advisorは、システム/36から最新のIBM i 7.4のリソースまで世代を問わずにオブジェクトとソースの両方を解析し、見える化するツールである。40種類のドキュメントに対応し、アプリケーションの構造や構成要素、関係性、フローの可視化や、変更を加えた場合の影響範囲の特定やアプリケーションの問題個所の抽出なども可能で、システムの維持・改善・改修をサポートする。
川端氏は、「当社の基幹業務プログラムを40種類のドキュメントに展開すると、最低でも年単位で4~5億円かかります。X-Analysis Advisorの導入により、60倍の効率化が図れると見ています」と、導入効果を説明する。
X-Analysis Advisorによる運用・保守のためのドキュメント整備は2021年7月にスタート済み。これは「IBM iを使い続けている限り、継続する作業になります」と、川端氏は言う(図表6)(図表6のダウンロードはこちらから)。
共通業務システムはパッケージ
個別業務システムはIBM iベース
ニイタカのシステム改革は、中長期のロードマップに基づき進んでいる。そしてそのシステム改革の内容は、基幹システムの基盤整備から業務システム改革、データ活用基盤の構築、ペーパレス化の推進へと広がり、さらには全社員のITリテラシー向上までを含む。
このうち業務システムの一部である共通業務システムについて川端氏は、次のように考え方を話す。
「業務システムは、全社共通、個別業務、フロント業務、DX関連などに大別できますが、財務会計や人事・給与、文書管理などの共通業務システムは、建物で言えば基礎の部分に相当し、最初に整備することが大切です。基礎がしっかりしていない建物は内外の環境変化に対して脆弱というのと同様です。また共通業務システムはパッケージに合わせやすいという特徴があるため、パッケージを採用します。ただしパッケージにする以上は、安心して長く使えることがポイントで、そのためにはカスタマイズを不要にする機能豊富な製品を選択し、アドオンも極力抑えることが重要です」
共通業務システム用のERPパッケージは2021年3月に7製品を対象に第1次選考を終え、3製品に絞り込んだ。図表7はその3製品の評価の一部で、実際は約80項目にわたり調査している。
第1次選考のポイントは、「機能の充実度」「初期および運用費用」「クラウド対応」の3つである。
クラウド対応を重視したことについて川端氏は、「情報システム改革の4つ目の課題に挙げたように、既存システムの運用保守に90%以上の工数を取られ戦略的なIT投資を行えないでいる現状を、何としても変えたいと思っています。そのためにはシステム部員が担う運用保守の工数を削減するしかなく、クラウドへリフト可能なシステムはクラウドで運用し、運用保守工数を大幅に削減する計画です」と、考え方を説明する。
製品の最終選考は、3社によるプレゼンテーションとデモを確認してからになる。「机上の調査では確認しきれない詳細を、しっかりとヒアリングするつもりです」(川端氏)
一方、そのほかの業務システムについては、以下のような方針という。
「企業競争力の源泉となる販売管理や購買などの個別業務システムは、IBM iをベースに構築する計画です。このシステムに関しては、機能の拡充や改善、操作性の向上などを情報システム部が中心となって整備し、外部への丸投げはやめるつもりです。また営業支援・顧客管理などのフロント業務システムは、業務の特性に合わせてパッケージまたは自社開発を取捨選択します。そしてDXについては、まず取り組まなければならないのは自分たちのシステム部門で、部員を育て、できるところから小さく導入して大きく育て、経営に役立つ情報システム部へと変革していこうと思っています」
文書管理システム
選考のポイントは5つ
ペーパレス化はPart 2で紹介したように、第1ステップとなる管理本部(総務、人事、経理、情報システムの各部)を対象とした文書の見える化とペーパレス実行計画の策定を2020年12月に完了している。
第2ステップは管理本部での実施手法を横展開し、本社オフィスを対象に組織文書のペーパレス化を推進する計画で、このステップで新たに文書管理システムを導入する。
その文書管理システムの選考経過が図表8である。5製品を対象に机上調査を行い、2製品に絞り込んだ。
選考のポイントは、「e-文書法と電子帳簿保存法要件を満たす」「文書を効率的に電子化できる」「利便性向上機能」「業務システムとの連携性」「ベンダーロックイン製品ではない」の5つで、これに初期導入・運用保守費用とクラウド対応が加わる。最終選考は、利用部門を対象にしたベンダーによるプレゼンテーションとデモを実施した後に、利用部門の声を反映した製品を7月末までに決定し、8月から導入する予定という。
そして続く第3ステップでは、新規導入の会計・人事・給与システムの下で新規文書の削減に取り組む計画である。
生産系システムは
危機感をもって対処へ
メーカーであるニイタカにとって生産系システムは、企業競争力を生み出すコア中のコアである。
これについて川端氏は、「現行の生産制御システムは長年のきめ細かな作り込みによって、非常によくできています。工場のオートメーション系にしても物流系にしても、これに手をつける必要はまったくありません。ただし、その手前の受注から製造へ落とし込むところと、製造中から出荷後までのデータを管理する生産管理のシステム化が十分とは言えず、腰を据えた取り組みが必要だと思っています」と言い、「現在はその作業をベテラン社員が手作業で行っている状況で、あと5年、10年もすると担い手がいなくなります。早急に対処が必要だと考えています」と、危機感をあらわにする。
生産管理システムは2022年に導入する計画で、現在は5つのパッケージ製品を調査・検討中。
「今後、業務調査も進めてパッケージ製品とのフィット&ギャップを行い、最終的にベンダーのプレゼンテーションとデモを見て製品を選定する予定です」と、川端氏は語る。
特集 ニイタカ DXへの全方位の挑戦
Part 1 DXを阻む4つの課題と意識改革への挑戦
啓蒙活動を展開しながら、DXのロードマップを描く
Part 2 DXに向けたインフラ整備&システム導入に着手
基幹システム周辺の「守り」を固め、AIやIoTで「攻め」を目指す
Part 3 DXに備える製品選択とシステム化戦略
安定した基盤をつくる製品群、企業競争力を生む製品群の使い分け
Interview
加藤 貴志氏 株式会社ニイタカ 執行役員 管理本部長~情報システム部と現場部門の距離を縮めることがDXへの足がかりになる
[i Magazine 2021 Summer(2021年7月)掲載]