IBM iのインフラ整備に着手
FF RPGへの変換を決定
中長期情報システム戦略の改訂版では、コロナ禍による進捗の遅れなどを反映し、最終ゴールを2027年度に変更しているが、基本的な取り組みと実施の流れは初版と同じである。
直近で実施される施策は大きく、「IBM iのインフラ整備」「ペーパレス化」「IoTやAIなど新技術の活用」「基幹システムの再整備」という4つの領域で構成されている。
まずIBM iのインフラ整備から見てみよう。これにはPower Systemsのリプレース、既存プログラムに関するフリーフォームRPG(以下、FF RPG)への移行、プログラム資産の見える化が含まれる。
前述した4つの課題のうち、課題③への対策としていち早く着手したのが、Power S914とIBM i 7.4への移行である。これはコロナの拡大で、最新マシンの導入手続きなどが予定より少し遅れたものの、2020年11月に無事に移行を完了した。
次に着手したのが、既存プログラムをFF RPGへ移行する取り組みである。課題③への対策であり、これにはプログラム本体の移行と人的スキルの移行の両方が考えられる。
そこで前者は「ARCAD Transformer RPG」(三和コムテック)を使って、RPG ⅢからFF RPGへ自動変換する。後者は「Rational Developer for i」(RDi)の利用を前提に、開発者にFF RPGのトレーニングを実施することにした。
使い慣れた固定フォームによるRPG Ⅲからフリーフォームへ移行することは、開発者の負担を伴う。かえって生産性が低下するという懸念もあったろう。しかし川端氏は、FF RPGへの移行に拘った。
「RPG Ⅲの機能強化は停止しており、一般的にもRPGの開発人材は減少かつ高齢化が指摘されています。部内からも、『JavaやPythonにすべき』との声がありました。しかしJavaやPythonは5年周期で大きなバージョンアップがあり、そのたびにアプリケーション改修への対応と開発コストが必要になります」と語る川端氏。入社以前に長くオープン系の世界で仕事をしてきた経験から、JavaやPythonで基幹システムを作り直しても、費用対効果や生産性という観点では解決策にならないと指摘し、次のように続ける。
「とは言え、RPG Ⅲのままでは、REST ful APIなどが使用できず、AIやIoTといった新しい技術を利用したDXへの対応が難しいのも事実です。新規採用者の即戦力化や、基幹システムの開発・保守と並行しながらDX関連の開発にも着手できるように、Javaや.NET、C#などと言語構造が似ているFF RPGに既存資産を全面的に変換することが重要であると決断しました。既存資産はRPG Ⅲのままで、新規開発のみFF RPGとなると、スキル移行がなかなか進まず、DXへの対応も部分的になってうまくいかないでしょう」
萬矢(よろずや)勝氏(情報システム部 情報システム課長補佐)は、前職を含めて約30年にわたりRPG Ⅲを使った開発に従事してきた。FF RPGのトレーニングを最近終えたばかりで、今はスキルトランスファーの真っ只中にある。
「RPG Ⅲだけを使ってきた自分にとって、今の時点では、FF RPGを使いこなせていけるのか、今まで以上の生産性で開発していけるのか、正直に言えば不安が大きいです。しかしFF RPG はWeb構築などで使用するVisual Basicによく似ていて、これからの若い開発者には親和性が高いとも感じるので、今後を考えると必要な選択だと思います」(萬矢氏)
また課題①と②への対策としては、「X-Analysis Advisor」(ジーアールソリューションズ)を導入して、効率的にプログラム運用保守ドキュメントの整備を進めることにした。いわゆるブラックボックス化を解消し、プログラム資産を見える化する。開発の生産性向上および品質向上を実現すれば、課題④への対策としても機能することになるだろう。
FF RPGへの変換とプログラム資産の見える化は当初の計画より少し遅れて、2021年4月からスタートしている。
FF RPGへの変換については、2590本のRPG Ⅲプログラムを整理し、移行対象を明確化する作業を進めている。当初は図表1のように、4事象軸で移行対象を決定しようとしたが、この方法だと結局、RPG Ⅲでの現状維持を選ぶ可能性が高くなる。そこでFF RPGに「移行する」「移行しない」の2軸の選定方法を選択した。
結果的には、外部に開発を依頼している一部のプログラムは新規改修を凍結した状態でRPG Ⅲのまま残し、それ以外はほぼすべてのプログラムをFF RPGへ移行する予定である。
ペーパレス化の推進と
IoTやAIの導入
次にペーパレス化の推進を見てみよう。同社では多くの業務をIT化しているものの、紙や印鑑を使った業務プロセスはまだ多く、知見がデジタル化されていないためデータ活用が進まず、DXが実現できない状況にあった。
そこでデジタル化の第1弾として、ペーパレス化に取り組んだ。これは以下の3つのステップで推進している。
第1ステップは管理本部(総務、人事、経理、情報システムの各部)を対象に、組織文書と個人文書の見える化、およびペーパレス実行計画の策定に取り組む。これは2020年12月に完了している。
続く第2ステップは管理本部での実施手法を横展開し、本社オフィスを対象にペーパレス化を推進する。このステップでは新たに導入する文書管理システムとスキャナにより、既存の組織文書の削減を目標としている。
そして第3ステップは、後述する会計・人事・給与システムの刷新により、新規文書の削減に取り組む。
また現場部門のユーザーに対して、AIやIoTなど新しい技術を体感する環境づくりも進めている。
同社では2019年9月から事業部門が主体となり、生産ラインと連携したIoTの開発プロジェクトが進行していた。プロジェクト自体は川端氏の入社以前に企画されていたが、川端氏は自らの豊富な経験をもとに、プロジェクト管理と共通技術支援を提供した。
「このプロジェクトは現場部門が単独で進めていましたが、情報システム部が支援することで、今後はDXやIT活用について情報システム部に何でも相談できると、安心感を得てもらうことが密かな狙いでした。エンドユーザーとの距離感を縮め、どんなことでも相談できる雰囲気を作り出すことは、DXに向けた組織づくりとして不可欠であると思います」(川端氏)
さらに2020年1〜6月にかけては、「H2O Driverless AI」をクラウドで利用して、工場の需要予測に役立てる「AI予測PoC」に取り組んだ。定番商品や季節商品をいくつか選定し、過去の実績データから予測値を得て、その正確性・妥当性を評価している。
「予測値の確信度としては、十分実用に耐え得ると評価しました。ただ工場の需要予測だけに利用するのはコストパフォーマンスから見て負担が大きく、売上予測などほかの部門での活用に向けた風土づくりが必要であると感じました。AI予測については今後のDXの重要な柱として、活用を模索していく考えです」(川端氏)
ちなみにこうした新しい技術の活用については、情報システム部で最も若手の南條友樹氏(情報システム課 リーダー)が担当している。
「H2O Driverless AIによる需要予測やIoT、さらにプロジェクト管理手法など、今まで経験してこなかった新しい技術に触れる機会が増えて、とてもワクワクしています。社内にいるだけでは理解できないIT世界の最新トレンドやテクノロジーに関する知識を増やすことは、技術者としての力になると実感しています」(南條氏)
基幹システムの再整備
まずは共通業務システムから
基幹システムの再整備という観点でまず着手したのは、共通業務システムの再構築である。
ここで言う共通業務システムとは会計、人事給与、経費精算などで、企業競争力の源泉となる販売管理や生産管理と違い、標準化の進んだ領域である(図表2)。
前述したように、同社ではこれらのシステムがオープン系サーバー上で、個々に異なるパッケージ製品で稼働していた。そのため手作業が多く、管理会計や経営分析、人事管理などが脆弱であるとの課題があった。
そこでERPパッケージを採用し、これらの共通業務システムを統合する方向で、現在製品選定を進めている(図表3)。(図表3のダウンロードはこちらから)。
これはペーパレス推進の第3ステップとなる、会計・人事・給与システムの刷新による新規文書の削減策とも同期することになる。
さらにその先には生産管理システムの構築、さらにはIBM i上で稼働する販売管理システムの改修なども予定されている。
同社ではこれ以外にも、「Db2 Web Query for i」を活用したデータ分析スキルの向上、ノートPCや無線LANの導入などテレワーク展開に必要なインフラ整備なども並行して進めている。
同社のこれまでの取り組みを図表4にまとめた。DXに向けた歩みは、ゆっくりとではあるが、確実に速度を増しつつあるようだ。
「率直に言えば、ニイタカのDXが何であるのか、現時点で明確に見えているわけではありません。ただしこのまま同じことを続けていると、確実に世間の動きから取り残されるという危機感はあります。『やらされ感』をもつ状態では前に進めないので、自らが変える、自分たちで変革に挑戦するという意識づけをどう行っていくかが自分にとっての課題となりそうです」と語るのは、情報システム部の中山隆友氏(情報システム課 リーダー)である。
IBM iの優位性を
もっとアピールする必要がある
2021年度に導入予定の共通業務システムと文書管理システムは、クラウドでの利用を予定している。実は課題④の解決に向けて、Power S914の導入に際してはIBM iのクラウドサービスである「IBM Power Systems Virtual Server」の利用を検討した。しかしこれは価格面で断念せざるを得ず、従来どおりオンプレミスで導入することになった。
川端氏は他のクラウドサービスのように、IBM iのクラウドサービスも使いやすい手軽な価格で提供されることを期待している。
「IBM以外のITベンダーから見ていても、IBM iが安全性や運用性、堅牢性、敏捷性、弾力性を兼ね備えた素晴らしいプラットフォームであると理解していました。しかし今回、ニイタカでのDXを推進するに際して、『IBM iは古いオフコンである』というイメージが社内にまだ根強く残っていることに驚き、その説得に苦労した面もあります。IBMには、IBM iの真の姿をもっと強くアピールしてほしいと願っています」と川端氏は語っている。
特集 ニイタカ DXへの全方位の挑戦
Part 1 DXを阻む4つの課題と意識改革への挑戦
啓蒙活動を展開しながら、DXのロードマップを描く
Part 2 DXに向けたインフラ整備&システム導入に着手
基幹システム周辺の「守り」を固め、AIやIoTで「攻め」を目指す
Part 3 DXに備える製品選択とシステム化戦略
安定した基盤をつくる製品群、企業競争力を生む製品群の使い分け
Interview
加藤 貴志氏 株式会社ニイタカ 執行役員 管理本部長~情報システム部と現場部門の距離を縮めることがDXへの足がかりになる
[i Magazine 2021 Summer(2021年7月)掲載]