日本サニパック株式会社
本社:東京都渋谷区
設立:1970年
資本金:2000万円
売上高:136億円(2024年3月期)
従業員数:90名(2024年3月期)
事業内容:ポリエチレン製ゴミ袋、食品保存袋、水切り袋、紙製ゴミ袋などの製造・販売
https://www.sanipak.co.jp/
12の物流工程をシステム化し
年間87%のリードタイム削減
日本サニパックは、2020年を同社の「DX元年」と位置づけ、事業全体を視野に入れたDX化を推進中である。現在は「SCMの構築と社内資源の全体最適化」を目標とする第2フェーズにあり、物流連携、発注計画策定、海上コンテナ管理などのシステム化を進めている。
このうち物流連携は2022年4月にスタートした大型プロジェクトで、インドネシア工場で生産した製品を日本へ陸揚げした後の、通関手続きから顧客への納品までの業務プロセスを刷新し自動化する取り組みである。2024年6月末に12ある物流工程のすべてのシステム化と検収作業を完了し、現在は本番へ向けて12番目の「請求連携」システムの調整を進行中である(図表1)。
同社では、物流連携プロジェクトを「お客様に直接つながる重要な取り組み」と捉え、システム部門と複数の関係部署、および物流会社との間で入念な調整を行いつつ作業を進めてきた。開発が始まった2023年5月から終了までの10カ月間に、定例会は20回以上、個別テーマごとの分科会は約40回も開催したという。
「物流連携プロジェクトは、お客様への商品配送の仕組みを抜本的に改革する取り組みで、各工程のスピードアップや可視化、コスト削減は、お客様のメリットにつながるだけでなく当社の価値も向上させます。当社ではDX化を企業価値創出の手段と考え、取り組んでいます」と語るのは、SCMグループ デジタルトランスフォーメーション推進部の宇野康典部長である。
同社では物流連携システムの導入効果として、年間で87%のリードタイム削減(3649時間→464時間)と、リードタイム削減をコスト換算したものと運用コストとの合計で700万円以上のコスト削減を見込んでいる。またプロジェクトを一緒に進める物流会社のほうでも、作業内容や管理項目の標準化により「車両待機の抑制」や「出荷日変更への柔軟な対応」「日本サニパックとの共通KPIの取得」などの効果を想定しているという。
「物流連携の次のステップは基幹システムとの連携・融合で、陸揚げから納品までのプロセスを完全に自動化します。さらにその先は、運用で得られる膨大なデータを活用して業務品質をさらに向上させる計画です」と、宇野氏は話す。
エポックメーキングとなった
受発注業務のデジタル化
同社の井上充治社長は2020年の年頭挨拶で「今年はDXに取り組む」と宣言し、同社のDX化がスタートした。同年10月にDX化の主管部署となる「SCMグループ」を設立し、翌2021年にDX化の方向性やスケジュールなどをまとめて準備を整えた。そして2022年に社外連携基盤と社内連携基盤の整備を行い、物流連携プロジェクトへと進んでいくのである(社外連携基盤はサイバーリンクスの「クラウドEDI-Platform」、社内連携基盤はソルパックの「GoAnywhere」を採用)。
同社はDXへ踏み出す2020年以前に「DX前史」と呼べる取り組みを進めていた(図表2)。
主な取り組みは、老朽化した基幹アプリケーションの全面改築(2010年)や、受発注システムの構築(2015~2022年)、「C Project」と呼ぶ業務のムリ・ムダ・ムラを洗い出す全社員対象の調査プロジェクト(2018~2019年)、などである。
この中で受発注システムの導入は、「当社にデジタル化の価値と効果を実感させたエポックメーキングな取り組みでした」と、宇野氏は振り返る。
同社の受発注業務は従来、基幹システムへの受注入力から納品書などの発送まですべてを手作業で行っていた。しかし顧客数や扱い件数が増えるに従って負荷が増大化し、業務の効率化やリードタイムの短縮が大きな課題となっていた。
新しい受発注システムの構築は、納品書のフォーマットをアイエステクノポートの「UT/400-iPDC」で作成するところから始まった(2015年3月)。続けてコクヨの帳票Web配信クラウドサービス「@Tovas」を導入し、IBM i上で作成した納品書(PDF)をダイレクトにメールまたはFAXで送信する仕組みに切り替えた(2016年2月)。そしてそれ以降は、次のように受発注業務の局面ごとにシステム化を続けていった(カッコ内は採用したツール/サービス)。
・2015年6月 Web経由の注文を自動で基幹システムへ取り込む仕組みの構築(グローバルITサービス「Evolio」)
・2017年3月 FAX受信の注文書をOCRで読み取り基幹システムへ自動登録するシステムの導入(ヤマトシステム開発「デジタル化OCRサービス」)
・2020年12月「FAX版サニパック掛け払い」の導入(FAX OCR + ヤマトクレジットファイナンス「クロネコ掛け払い)
・2021年2月 UT/400-iPDC経由で出力した紙の帳票を自動で仕分けて封入封かんするマシンの導入(ピツニーボウズジャパンの封入封かん機)
・2021年12月「LINE版サニパック掛け払い(LINE受注システム)」の導入(ベル・データに開発を委託)
・2022年1月 EDI基盤の導入(サイバーリンクス「クラウドEDI-Platform」)(図表3)。
受発注システムの構築を上記のように局面ごとに進めてきたことについて宇野氏は、「できることから着手し、個別システムの組み合わせによる効果を考えた結果です。システム化を局面ごとに進めれば1つ1つの導入効果を明確にでき、スモールスタートも可能になります。この受発注システムの構築・運用をとおして、業務のデジタライザーション(デジタル化)がもたらす企業価値の向上について多くのことを学びました」と述べる。
図表4は、各システムの導入効果を算定したものである。全体で年間約90%の時間削減と、時間削減の部分だけをコスト換算しても約3000万円の削減を実現している。
「受発注業務のシステム化はリードタイムやコスト面で大きな効果がありましたが、お客様のご要望に柔軟に対応できる仕組みを提供できたことこそ一番の効果だと考えています。当社の価値はこのシステム化によって高まり、企業競争力の向上につながったと思っています」(宇野氏)
宇野氏は、「この経験は当社のDX化の大きな弾みとなっています」と語る。
[i Magazine 2024 Autumn 掲載]