小岩井乳業株式会社
本社:東京都中野区
設立:1976年
資本金:1億円
売上高:155億円(2022年)
従業員数:309名
事業内容:牛乳、発酵乳、バター、チーズ、その他乳製品、マーガリン、ジャム類、その他の食料品の製造・販売など
https://www.koiwaimilk.com/
クラウドファーストへ
システム戦略を転換
小岩井乳業は、日本における乳製品のパイオニアであり、今なお「生乳100%ヨーグルト」やプラズマ乳酸菌配合の機能性食品「小岩井 免疫ケアヨーグルト」などの開発で、市場に新風を送り続けている企業である。
情報システムに関しては、1980年代からIBMミッドレンジ機を中心に基幹システムを運営してきた。その歩みの中で大きな転機となったのは、「クラウドファースト」へのシステム戦略の転換である。
その理由について経営戦略部情報担当の川口賢一部長代理は、「当社の基幹システムは20年以上も使い続けてきたために老朽化が目立ち、次の手立てが必要になっていました。またその一方で、今後のシステム化は開発よりもツール/サービスの活用に重点を置くという方針を打ち出していました。その両方を解決する手段として選択したのがクラウドです」と説明する。
この方針の下、最初に取り組んだのは、販売・営業データを対象にしたBIツールの導入だった(2005年)。従来からの紙やExcelベースの集計・データ分析作業を、IBMツール(Cognos Power Play)の導入により効率化を図るものだった。営業部門を中心に財務、製造、マーケティングの各部門で利用が広がったという。
そして2010年に上記システムのサポートが切れるのを機に、使いやすさの向上とコスト削減を目的に、BIツール「Qlikview」へと切り換えた。これはQlikviewとファイルサーバーをWindowsサーバー上に配置し、IBM i上の販売・営業データを日次でロードしデータ分析を行うというシステムだった。このシステムは後にAWSへ移行したが、「Qlikviewベースのデータ活用は現在も活発に行われています」と、川口氏は話す。
物流の現場サイドで
PHPQUERYを活用
一方、物流部門ではIBM iから受発注データや在庫管理データを抽出するWebベースのシステム(D-bridge)を2005年に自社開発していた。それまでは紙とメールで行っていたので「画期的なシステムでした」と、物流センターの伴場祐一氏(需給部 部長)は振り返る。
ただし同システムも時間が経ち業務ニーズが多様化にするに伴って、課題や改善点が浮上していた。
「D-bridgeは定型データの抽出には使いやすいシステムでしたが、データを可視化する機能がなかったため、AccessやExcelへデータを展開しグラフ化する必要がありました。また受発注データなどをIBM iからダウンロードする必要があったので、物流量が増えるにつれてリアルタイム性に欠ける点が課題となっていました」(伴場氏)
D-bridgeが老朽化を迎えたため、新しいツールの探索を開始した。そしてこれらの課題を解決するツールとして採用したのが、オムニサイエンス(現・MONO-X)のデータ可視化・活用ツール「PHPQUERY」だった(現・MONO-X BI)。採用の決め手は、「IBM iの基幹データをリアルタイムに直接抽出できる利便性と優れたコスト・パフォーマンス」と、川口氏は説明する。
2020年12月に導入を決定し、サービスインまでの約1年間、週1回のペースでデータ活用システムのあり方について検討を重ねた。そしてそれを受けて、物流センターではクエリの開発を続けた。
「クエリの基本的なロジックは従来からの踏襲としましたが、1つの結果を得るのに複数のマスターを参照していたものは1つにまとめ、改善しました。またクエリ開発をしやすくするために、IBM i側データベースの改良を情報担当に依頼しました」(伴場氏)
PHPQUERYのクエリ開発を主導した伴場氏は、当初、「20年以上前の入社研修で齧った程度のIT知識しかありませんでした」という。従来のIBM iのクエリ機能では「クエリ開発はハードルが高く、手を出せずにいました」と話す。
「その点、PHPQUERYは“取っ付きにくさ”がまったくなく、自分で調べたり、不明な点は当社の情報担当やオムニサイエンスのサポートを受けながらクエリ開発を進めることができました」と、PHPQUERYの使いやすさを称賛する。
物流センターでのクエリ開発は、伴場氏が習得したスキルを他のメンバーにトランスファーする形で開発者を増やしていった。
「物流の現場では、出荷日や賞味期限などのデータを即座に自分が知りたい角度で抽出したいということが頻繁に起きます。PHPQUERYによってそうしたニーズにスピーディに応えられるようになり、業務の進め方が変わってきたと感じています」(伴場氏)
川口氏は、「物流センターの取り組みは、現場の課題を現場スタッフがITを使って解決するという当社のシステム化の考えに沿うもので、システム部門が作って現場が使うという従来からのやり方を限りなくゼロにする理想的な形と考えています」と評価する。
PHPQUERYを利用し始めて丸2年。その利用が活発になるに従って、PHPQUERYについても「新しい要望が生まれています」と伴場氏は話す。「データ活用は業務と切り離せないので、新しいニーズが次々と生まれてきます。物流部門ではPHPQUERYを軸に、現場のニーズに応えていきたいと考えています」(伴場氏)
[i Magazine 2024 Spring掲載]