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仕組みとしての要員対策を推進、未経験者の戦力化、現場交流体制を整備 ~長年の課題「整備工場向けシステム」へ向けて数々の布石 |ジャストオートリーシング株式会社

ジャストオートリーシング株式会社
本社:神奈川県横浜市
設立:1973年
資本金:3億6270万円
売上高:66億2100万円(2023年3月期)
従業員数:133名(2023年3月31日現在)
事業内容:自動車リース業、自動車整備業、自動車販売業、損害保険代理業、自動車に関する一切の事業
https://www.justauto.co.jp/

Webシステム未経験の
ベテランRPG技術者が全面刷新

ジャストオートリーシングは、神奈川県・東京都(南西部)エリアを中心に自動車のリース、メンテナンス(車検・整備・塗装)、保険、販売・買取などの事業を多角的に展開する企業である。

とくにメンテナンスに関しては自社で3カ所の整備工場と鈑金塗装工場を保有するほか、「巡回メンテナンスカー」と呼ぶ整備工場の機能をコンパクトに装備した車で顧客先まで出向き、その場で修理・整備を実施するという特徴あるサービスも提供中である。

この巡回メンテナンスカーは同社が「生命線」とするサービスで、同社が年間に修理・整備する車の半数以上(1万台以上)を占める。顧客からも大好評で、現在10台が毎日エリア内で活躍しているという。

また同社は、自動車リース、販売、メンテナンス関連の卓越したITシステムをもつことでも知られ、他社への提供とその保守・管理も担っている。

同社は情報システムの大半をIBM iをベースに自社開発し、自社で運用・保守してきた。

システム部員の数は9名(うち1名は取締役)。全員がRPGを使いこなすことができ、そのほかに個々の部員が特定のツール/技術のスキル・経験をもつ。

同社では従来から、整備工場のシステム化を「大きな目標」としてきた。工場における整備および鈑金塗装のプロセスを見える化し、いっそうの効率化と顧客サービスの高度化をめざすものだが、多段階の複雑な工程と油まみれの環境のなかでどうIT化するかがチャレンジである。

現在は、「布石を打っている段階」と、取締役の中野敦夫氏(業務部長兼営業企画部長、営業企画部はシステム部門の役割を担う)は話すが、その布石こそ同社の“攻めの要員対策”と言える取り組みである。

中野 敦夫氏

将来の整備工場向けシステムにつながる取り組みは、増員・戦力化、人事異動、組織・体制、中軸要員の育成、企業ITカルチャーなど多方面に及ぶ(図表1)。

図表1 ジャストオートリーシングの仕組みとしての要員対策

同社では今春、巡回メンテナンスカー向けのシステムを全面刷新した。それまでは専用アプリ型のツールを10年来使用してきたが、リアルタイム性とパフォーマンスに難があり、課題となっていた。

全面刷新に採用したのは、ミガロ.のWebアプリケーション開発ツール「SP4i」である。同ツールは同社のリース自動車情報提供サービス「J-line」の開発でも採用されて実績があったが、今回のシステム開発ではSP4iに習熟した部員をアサインせず、あえてSP4iとWebアプリケーション開発の経験をもたない部員を登用した。担当となったのは、RPG経験豊富な中堅部員である。

「今後取り組むシステムはWeb技術が増えるのと、目標とする整備工場向けシステムではIoTやモバイル技術の活用が想定されるので、Webシステム開発を担える人員を確保する狙いで、未経験の部員をアサインしました。基本的な業務ロジックは変えず、機能の拡張と操作性の改善でしたが、完成したシステムは使い勝手とパフォーマンスがよく、現場からも高い評価を得ています」と、中野氏は説明する。

巡回メンテナンスカー向けシステムでは、今回もう1つ拡張を行った。巡回メンテナンスカーに乗務する整備員から「出先で基幹システム(IBM i)上の予定管理システムなど多くの機能を利用したい」という要望が出されていたからである。

中野氏は当初、IBM iを利用するだけなら、現行システムの改修が不要なフェーシングツールの導入で解決できると考えていた。しかしツール選定を担当したシステム課長から「オフィスクアトロのAutoWeb(IBM i用Web化ツール)で開発したい」との意見が出され、最終的に課長の考えを採用した。「当社システムの今後を考えると販売実績のあるフェーシングツールのほうが使いまわしが利くと思えましたが、部員のやる気と自主性を重じることを優先しました」と、中野氏は経緯を述べる。

システム未経験の異動社員が
今や中堅の大きな戦力

AutoWebによるIBM i連携システムの開発を担当したのは、2017年に業務部門から異動してきた部員である。

この部員は当時30代前半で、システム経験はまったくなし。異動を打診したときは、「この私がシステム部門ですか?」と驚かれたという。

しかし異動後にRPGを習得してからは「現場業務に精通している強み」(中野氏)を発揮して、ユーザー目線に立つ機能や仕組みを数々提案。今回のIBM i連携システムも一人で担当し、改修や作り込みを完了させた。

「当の部員は異動後、大きな案件を担当するたびに『私には難しいと思います』と苦手意識をもっていましたが、その度に完結させてきています。1つ1つ技術を習得し着実に成長してきたのは事実で、1つのことを長く続けると十分な戦力になり得ることを、改めて実感しました。また現場に精通している人間が技術を覚えると、システム専任者には思いもつかない気の利いたシステムを構築できることも痛感しています。当の部員は、今や中堅で大きな戦力となっています」(中野氏)

また中野氏はRPG・IBM i技術者の増員・拡充について、次のよう語る。

「世の中ではFF RPGなどを採用してオープン系技術者をIBM i開発の戦力とする動きがありますが、ユーザー企業ではそううまくは回りません。そこで考えられるのが中高年のRPG経験者の採用か、未経験者の育成です。当社は新卒採用も含めて未経験者を育成してきた経験とノウハウがあるので、他部門からの異動も前向きに進めています」

図表2 システム部門の定例業務ローテーション

現場業務への精通
部員相互のフォロー/シェア体制

同社がシステム部門の運営で重視しているのが、現場業務に精通することと、システム部員相互のフォロー/シェア体制である。同社はこれを掛け声ではなく、仕組みとして回す取り組みを実践している。

現場業務の理解を深める取り組みとしては、他部門へ異動後にシステム部門へ戻す取り組みや、「現場出社」という他部門へ出社し部門メンバーと机を並べてシステム業務を行うもの、さらには他部門との定期・不定期の会議や、IT化案件をプロジェクト化し、そこに現場担当者に参加してもらう仕組みを推進している。

営業部に異動していたメンバーが昨年戻り、システム部門に加わった。中野氏は「営業を経験してきただけあってコミュニケーションや話をまとめ方に長けてきて、一回り成長しました」と印象を話す。

他部門との会議は図表2のように定例化し、本社で行う場合はシステム部門のほぼ全員が参加している。議長や書記などの担当も決め、入念な準備のうえで開催するという。

「他部門との会議は、もとはシステム依頼の整理で始まったものですが、現在は各部門とグループ企業に拡大して開催しています。他部門の人たちにとっては日頃の悩みのシステム的な解決策を探るいい機会になっているようですし、システム部門にとっては各部門の課題を直接知る絶好の機会になっています」

システム部門における定例業務のローテーションは、2022年4月からスタートした。従来は「新人の仕事」として固定化されていたが、最も若い部員が入社5年目となり新人とは言えなくなったのを機に、システム部員全員が当番制で担当していくやり方に切り換えた。若手もベテランも分け隔てなく業務を担当するので、公平感が生まれたという(図表3)。

図表3 他部門・グループ会社との会議

「組織としては公平感だけでなく、1つの業務を複数の部員で担当し合うフォロー/シェア体制も重視しています。当番が何かの都合で担当できないときは別の部員が代わりを務められ、業務の属人化も防げます。またチームワークも自然と育ってきます」と中野氏は言い、次のように続ける。

「今後多様な働き方が増えてくると、業務をフォローし合える体制はますます重要になってくると思えます。また変則的な雇用にも対応することが可能な体制と考えています」

システム部門では開発・保守の実務でも各々の作業に1名の「主担当」と複数の「副担当」を決め、いつでも相互にフォローし合える体制を敷いている。

PMの増員が課題
当人のやる気と自主性を育む

中野氏は、最近になって、現場の部長・課長クラスのITレベルが向上しているのを実感するようになった、と話す。今年になって整備部門と鈑金塗装部門から「整備工場向けシステムのあるべき姿」を整理した資料が提出されたが、システム部門抜きで各々の要件をまとめたものという。

「企業のDX化は、社員と会社のITレベルが上がらないことには、上層部がいくら旗を振っても実現しません。その意味で当社はいい方向に進んでいますが、その半面、現場との定例会議が現場が考えてきたことの追認のようになるところがあり、活発な議論が起きないことが増えてきました。それでは部員にとって成長の機会になりません。システム部門にとっての新たな課題でもあり、システム部門自体が一段上のレベルへ上がるべき時がきていると感じています」(中野氏)

要員面では、プロジェクト・マネージャー(PM)の増員が課題という。「今後の開発案件の数を考えると、まだまだ足りません」と、中野氏。

システム部門では、若手をさまざまなプロジェクトや定例会議、外部コミュニティなどに参加させて、経験を積む機会を増やしている。

「当人のやる気と自主性が一番大切なので、それを無理なく伸ばす環境を整え、仕組みとして回していくことを部門長として心がけています。若手・中堅の成長は開発・保守作業の実務面だけでなく、世代交代をスムーズに進めるためにも重要です。要員対策は今後も続く継続的な課題と考えています」

 

[i Magazine 2023 Autumn(2023年12月)掲載]