フジ住宅株式会社
本社:大阪府岸和田市
創業:1973年
設立:1974年
資本金:48億7206万円
売上高:1215億4100万円(2021年3月期)
従業員数:948名(連結1245名、パート社員を含む、2021年3月期)
事業内容:分譲住宅・住宅流通・土地有効活用・賃貸および管理・注文住宅などの事業
https://www.fuji-jutaku.co.jp/
AutoMateで70以上の業務を
自動化し、年2800時間を余力化
阪神間および和歌山市内を主な事業エリアとし住宅販売や不動産開発事業などを幅広く展開するフジ住宅は、これまでに2回、本誌「先進ユーザー事例」に登場いただいている。過去2回ともRPAツールを利用した業務自動化がテーマで、その適用範囲の広さや全社展開へ向けた普及のための工夫など、注目すべき取り組みをレポートした。2回目の本誌2019年10月号では、AutoMateの導入から約1年で40もの業務を自動化し、業務に要していた時間を年間1700時間削減(余力化)したことを記事にした。
AutoMateによる自動化はその後も継続され、前回の取材から2年余りで35の業務をシステム化した。これでRPAツールによる時間削減(余力化)は計2800時間になる。1人の作業日数に換算すると350日分(1日8時間労働)、1.6年分という大きな時間削減(余力化)である(図表1)。
「業務部門からの開発依頼は現在もありますが、RPAツールによるシステム化は大半の部署で進み、主だった手作業を自動化できたのではないかと見ています」と話すのは、システム室の杉本洋介室長である。
そしてさらに、「RPAツールの導入から3年半で70以上の業務を自動化しましたが、RPAツールの適用をレギュラーな業務に限定し、イレギュラーな業務への深入りを避けたことがテンポよく全社展開できたポイントだったと考えています。AutoMateを活用すればイレギュラーな業務もシステム化できるのでしょうが、それよりも一連の作業の70~80%程度をRPA化し、残りは手作業とするほうが、効率よくRPA化を進めていけると思っています」と話す。
現在は、RPA化した既存システムのメンテナンス作業が増加している。たとえば、外部サイトを巡回して必要な情報を抽出するシステム。そのシステムでは、対象のページが変更になると、ボットの修正が必要になる。「案件によっては2人がかりで1カ月もかかる大がかりな修正もありました」(杉本氏)という。
30年前に構築した基幹システムを
抜本的に再構築
業務の自動化は現在、AutoMateからkintoneの活用へと軸足が移っている。「RPAツールは特定部署の特定の人の作業効率化用、kintoneは情報共有を中心とした業務の効率化用」という位置づけである。
同社では、kintoneやAutoMateによる自動化と並行して、基幹刷新の取り組みも進めている。kintoneによる自動化に触れる前に、基幹刷新プロジェクトについて紹介しよう。
きっかけは、紀陽銀行の頭取とフジ住宅の社長との面談。ITを含むコンサルティング事業の拡大を図る紀陽銀行と、ITによる戦略的事業展開を企図するフジ住宅の考えが一致し、始まったものという。紀陽銀行は和歌山市に本店を置く地方銀行の雄。フジ住宅の本社(大阪府岸和田市)とは地理的に近く、事業エリアも重なる部分が多い。
「当社では30年来、IBM iを軸に基幹システムを構築・運用してきました。そのなかには会計や人事給与、マンション管理などリニューアルしたものもありますが、30年前に構築し保守・改修を繰り返しながら使い続けているシステムも多数あります。そのため現在の業務にフィットしない部分も多々あり抜本的な再構築が必要でしたが、なかなか取り組めないでいました」と、杉本氏は説明する。
システム室が現行の基幹システムでとくに問題視していたのは、個々のシステムが部分最適で構築されているため、業務から業務へのデータの受け渡しや部門間のデータ連携、データの利活用や一元管理が十分に行えない点にあった。
また基幹システムの一部を外部に委託し開発・保守してきたが、RPGエンジニアが今後不足していくと見られる点も大きな懸念材料としてあった。
AWS上で構築し
IBM i上の旧システムと並行運用へ
紀陽銀行とその情報子会社である紀陽情報システムと同社の3社によるプロジェクトがスタートしたのは、2020年4月。その後プロジェクトの進め方や体制づくりなどを模索しつつ、9月から要件定義を開始。約半年をかけて要件を策定し、2021年4月から先行導入するシステムの開発へと進んだ。
「新たに構築する基幹システムは、社内の全体最適化を目指すシステム、と定義しました。当社では30年に及ぶシステムの開発・改修によって、業務の効率化はかなり進みましたが、業務間・部門間のデータ連携・共有については是認できるレベルに届いていません。業務効率を一段と高め、これからの時代にマッチする創造的な業務を行っていくには、全体最適に基づく新しい基幹システムとシステム基盤が不可欠であると考えました」と、杉本氏は述べる(図表2)。
新規に構築する基幹システムは、次の5つに絞り込んだ。
・工程管理システム
・物件管理システム
・顧客管理システム
・取引先管理システム
・原価管理システム
上記と同名のシステムは現行のIBM i上で稼働中だが、新規に構築するシステムはそれらとは異なる仕組みをもつ。2021年4月に最初に着手したのは「工程管理システム」である。
住宅販売や土地有効活用事業、賃貸管理事業、サービス付き高齢者住宅事業などを多角的に展開する同社では、それぞれの事業でさまざまな工程管理が必要になる。戸建て住宅事業であれば土地の購入から家屋の設計・施工、物件の引き渡しまで数多くの工程があり、管理が必要である。従来はその工程間の情報連携を、工程ごとにExcelやCSVなどのファイルを作成し、指定された共有フォルダへ保管したりメール添付などで行ってきた。また進捗確認のための会議も頻繁に必要だった。
新しい「工程管理システム」はAWS上に配置し、情報を一元的に管理できる仕組みとした。関係する部署や外部の協力会社は権限に応じて、いつでも、どこからでも情報にアクセスできる。システムはクラウド上にあるので、モバイルワークやテレワークでも利用可能だ。
AWS上の新しい工程管理システムとIBM i上の旧システムは、必要なデータだけを連携させる。連携用のツールには、Asteria Warpを採用した。(図表3)。
「当初はAWS上のシステムとIBM iの連携を工程ごとに行うことを検討しましたが、トラフィックが大量に発生するのと情報の一元管理が煩雑になるため、AWS上で処理を一貫させ、最終的な処理結果だけを旧システムに反映させることにしました」(杉本氏)
また、新システムの開発にあたっては、「業務とのフィット&ギャップを行いませんでした」と、杉本氏は語る。
「フィット&ギャップのために時間と工数を割くのは、システムのリリースがそのぶん先延ばしになるのでもったいないと考え、業務を一から分析してIT化したものを新システムに載せ、それに業務を合わせていく形としました」という。
新しい工程管理システムは、一部の事業を対象にパイロット的に構築し、その運用経験を踏まえて全事業へと横展開する計画とした。IBM i上の旧システムも並行して運用し、「新規案件の工程管理は新しいシステムで行うこととし、時間をかけて徐々に新システムへ移行する方法を選択しました。新システムへの移行によって必然的に業務改革が進むと考えています」と、杉本氏は言う。
新しい工程管理システムでは、地図情報システムとの連携を要件に加えた。地図上にさまざまな情報を表示できる地図情報システムは、住宅関連ビジネスでは必須のツールで、同社でも「複数の部署で利用中」である。
「ただし部署単位で導入してきたために、さまざまな地図情報システムが林立しています。新しいシステムでは単一の地図情報システムを採用し、業務の効率性をさらに上げたいと考えています」(杉本氏)
新しい工程管理システムは2022年1月に完成し、4月から本番利用に入る予定。そのほかの基幹システムは順次着手していき、「3~5年をかけて本番へ移行する計画」という。
同社が現在運用中のIBM iはPower 720で、OSはIBM i 7.2。ハードウェア・OSとも保守サービスが終了し、延長保守サービスを利用中だ。今後は2023年1月に新しいPower(ハードウェア)へ移行する予定で、「Power9マシンまたはPower10マシンのどちらを選択するか、これから本格的な検討に入る段階です。将来的にはPower Virtual Serverの利用も視野に入れ、IBM iは多様なフロントシステムのバックエンドを守るデータベースサーバーとしての役割を想定しています」と、杉本氏は述べる。
kintoneはExcelの置き換え
3年弱で210業務をシステム化
kintoneの導入は3年ほど前に遡る(2019年)。導入の目的は、「Excelで行ってきた業務の置き換え」と、杉本氏は話す。
「当社では業務のいたるところでExcelが使われ、Excelで情報の提供や共有が行われています。Excelは誰にでも手軽に使えるのがメリットですが、業務連携や情報共有ではさまざまな難点があります。kintoneはその課題の克服のために導入したもので、ノーコードですばやく開発できる点が当社に合っていると考え、採用しました」(杉本氏)
kintoneによるシステム化は、RPAによる自動化を上回るペースで進んでいる。この3年弱の間に、フジ住宅と関連会社(フジ・アメニティサービス)をあわせて210本ものkintoneシステムをリリースした(図表4)。
開発は、システム室員25名のうち5名をあて、さらに外部へも委託している。システムの規模が大きく、多部署からのヒアリングと設計が必要な案件は外注先への委託、それ以外と外注先が上がってきたシステムの修正・カスタマイズはシステム室の担当とする体制である。
システム室でkintoneとAstera Warpを主に担当する宇都宮諒チーフは、「多くの部署が関わり複雑なフローをもつ業務をkin
toneを使ってシステム化するのは、それなりに開発期間がかかります。しかし、多くの部署が関わる連携の仕組みをスピーディに作るのには非常に便利なツールだと実感しています」と、kintoneの感想を述べる。また「kintoneを使いこなすには慣れることが第一ですが、外注先が開発したものの改修と、それを真似て開発することでkintoneのコツをつかむことができました」と語る。
システム室の大向優貴氏は、2021年5月にアスリート契約からフルタイム雇用へと変わり、そこからkintoneを学び始めた。そしてほどなく開発の一翼を担うまでになった。
「kintoneは、開発についての考え方がAutoMateと似ているところがあり、AutoMateの経験を活かせたことが幸いでした。開発はノンプログラミングでステップを積み上げていく要領なので、深いIT知識は必要ありません。外注先が開発したシステムの改修や、その応用で見様見真似でkintoneを扱うなかで、一通りのシステムを組めるようになりました」と、大向氏は話す。
不動産ビジネスはコロナ禍の影響で、ホテル・旅館や飲食関係の事業が冷え込む一方、“おうち需要”の高まりで住宅市場が活況を呈している。その状況を目の当たりにしてきた杉本氏は、「変化に強いシステム基盤の必要性を痛感しました」と語る。
「構築に着手した次世代の基幹情報システムは、まさにその変化に強いシステム基盤を目指すものですが、そのための固定的なシステム・アーキテクチャは採用していません。新しい基幹システムを1つ作るたびに、全体最適の観点で最良の技術を選択し、実装方法を決めていく方針です。状況が急速に変化するなかで最良の技術を選択するのは容易なことではありませんが、全体最適という軸さえぶれなければ、理想とするシステムへ近づいていけると考えています」(杉本氏)
[i Magazine 2022 Winter(2022年1月)掲載]