株式会社ベルーナ
本社:埼玉県上尾市
創業:1968年
設立:1977年
資本金:106億120万円
売上高:2082億9800万円(2024年3月期、連結)
従業員数:3825名(2024年3月期、連結)
事業内容:アパレル・雑貨事業、化粧品健康食品事業、グルメ事業、ナース関連事業、データベース活用事業、呉服関連事業、プロパティ事業、その他の事業
https://www.belluna.co.jp/
メインフレームからIBM iへ
ストレートコンバージョンを軸に移行
ベルーナの中核事業はアパレル・雑貨などを扱う総合通販事業である。1983年に衣料品の通信販売を開始し、現在では衣料品だけでなくファッション雑貨、インテリアといった多彩な商品を各世代に向け提供している。
2300万人を超える会員のデータを活用して商品開発を進め、チラシ・カタログだけでなく、PCやスマートフォンといったWebメディアによるコミュニケーションも強化している。
またM&Aにより事業の拡大にも意欲的に取り組んでいる。総合通販事業だけでなく、化粧品や健康食品、グルメなどの専門通販事業、看護師向けのナースウェアやシューズ、ナースグッズなどの通販や医療分野に特化した人材紹介といったナース関連事業、通販代行や会員向けのファイナンス事業を軸とするデータベース活用事業、和装店舗や大学生の卒業式袴レンタルなどの呉服関連事業、そしてオフィスビルなどの賃貸・開発・販売やホテル事業を展開するプロパティ事業など、多方面にビジネスを拡大している。
同社は現在、中核となる総合通販事業を筆頭に、7つの事業領域を擁している(図表1)。
ブランドごとに子会社化している場合もあるが、原則的に各社・各事業が独立採算制で運営され、それぞれに独自のシステムを構築するIT戦略を推進してきた。
そのため全事業部を統合システムに集約させる方針は採用せず、情報システム本部の主導の下、個々に最適なシステム構築を進めている。7つの事業領域に沿って、大きくは7系統のシステムが稼働している。
もともとはIBMではない他社製メインフレームのユーザーであり、中核となるアパレル・雑貨などの総合通販および専門通販を管理するシステムはメインフレーム上で、COBOLによりほぼフルスクラッチ型で構築されていた。
「しかしメインフレームはマシンリプレース時の費用をはじめ、ランニングコストが高額であるため、2008年ぐらいから脱メインフレームの方向で検討を始めました」と語るのは、浅沼泰匡執行役員(情報システム本部長 兼 ホテルグループ営業推進室 室長)である。
総合通販事業を管理する基幹システムは当時、メインフレーム上で稼働していた。
「脱メインフレームを決めたものの、総合通販事業の売り上げ規模は他の事業に比べると圧倒的に大きかったので、いきなり他のプラットフォームに移行することには大いに不安がありました。そこで総合通販システムだけは、当時のメインフレームを提供していたメーカーに依頼し、Windows環境でそのメーカーが提供するソリューションを導入して、大幅なカスタマイズを実施することで実現しました。これが2013年のことです」(浅沼氏)
メインフレーム上で稼働していた基幹システムはもう1つあった。専門通販の1分野である化粧品事業の「オージオ」を支援する基幹システムである。
こちらもWindowsソリューションを導入すべきか悩んでいたところ、ネクサス(現、クレスコ・ジェイキューブ)から、IBM iへの移行提案を受けた(クレスコ・ジェイキューブは2022年7月に3社が統合合併して誕生したが、ネクサスはその前身企業3社のうちの1社である)。ネクサスは、同社が2007年にスタートさせた「ベルーナ業務改革プロジェクト」のサポートに入っていた関係で、以前から付き合いがあったという。
メインフレームと比べて大きくコスト削減を実現できる一方、信頼性や運用性がメインフレームに似ている点、そしてCOBOLで開発していたメインフレーム上のオージオ用プログラムを、ストレートコンバージョンによりIBM i上で運用可能になる点などを評価して、オージオをIBM iへ移行させることが決定した。
5ブランドのシステムが
IBM i上で稼働
「実はそれ以前にも、2004年にスタートさせたある事業のシステムを運用するために、IBM iを採用しました。しかしその事業からは3年ほどで撤退したので、それに伴ってIBM iの利用も中止した経緯があるのですが、そのときの経験からIBM iの信頼性や運用性はよく理解していました。ネクサスの支援が受けられることもあり、オージオでIBM iを採用することにためらいはありませんでした。先ほども言ったように、総合通販のほうは運用規模が大きかったので、まったく別の環境に移行するのは不安があったのですが、専門通販のほうは運用規模がそれほど大きくなかったこともあり、新しい領域へ自由にチャレンジしていこうという雰囲気がありましたね」(浅沼氏)
オージオに続いて、IBM i上で運用がスタートしたのは、健康食品通販の「リフレ」、看護師向け通販の「ナースリー」、化粧品通販の「なちゅライフ」の業務を支援する3つの基幹システムである。
「リフレ」はそれまでWindowsサーバーで稼働するソリューションで運用していたが、オージオのシステムをベースにカスタマイズする形でIBM iへ移行した。
また「なちゅライフ」はそのころにスタートした同社の新しい化粧品ブランドであったため、ゼロからのシステム開発が求められたが、オージオのシステムをベースにカスタマイズして稼働させることに決定した。
そして「ナースリー」は、2007年に看護師向け事業の展開を目的に全株式を取得して子会社化したが、当時のソリューションは社内的に使い勝手の悪さが指摘されていたため、同じくオージオのシステムをベースに柔軟にカスタマイズが可能なIBM i環境へ移行させることになった。
リフレ、なちゅライフ、ナースリーの3システムは、いずれも2011年に本稼働している。
また看護師向け通販事業を展開する「アンファミエ」も、2013年に子会社化した。それまでは独自開発のシステムを運用していたが、内部統制基準がベルーナのそれに合致していなかったため、新システムの導入を決定。ナースリーをベースに現状のサービスを追加し、2016年に本稼働させた。
こうして化粧品健康食品事業とナース関連事業の合計5ブランドの基幹システムがIBM i上で稼働することになったのである(図表2)。
内製力を高めるための
人材育成に取り組む
現在、情報システム本部には浅沼氏を含めて43名が所属している。IT企画室、IT設計室、IT統制室の3部門があり、それぞれに各事業部のシステムを担当するチームが編成されている。
主要な開発言語はCOBOL、C#、Java 、Visual BASIC、SQLである。またこれとは別に、クレスコ・ジェイキューブから15名の技術者がベルーナに常駐し、主にIBM iアプリケーションの開発・運用・保守を担当している。主要言語はCOBOLとJavaである。
「開発・保守はクレスコ・ジェイキューブの支援を受けていますが、基本的に当社では内製を目指しています。自分たちで開発できないと、外部ベンダーと交渉する際も提案や開発内容を正確に評価できないと考えています。以前はベルーナとして新入社員を採用し、ITの知識がない場合でもシステム部門に配属させ、時期が来たら人事ローテーションで異動するという体制でした。しかし、これだと最新テクノロジーやスキルを習得した人材を育てるのは難しい面があります。そこで現在はITの教育を受けた新入社員をシステム部門への配属を前提に採用したり、ITの実務経験がある技術者を中途採用したりして、IT人材の育成に努力しています」と語る浅沼氏は、さらに次のように続ける。
「クレスコ・ジェイキューブからの技術者が常駐して、よく業務を理解してくれているので、多くの時間を費やさなくても的確に要件を伝えられます。システム部門の一部として機能している点も、内製力の強化に貢献していると考えています」
連携力を高めることで
柔軟なシステム運用へ
同社では事業部ごとに最適な基幹システムを構築する方針は今後も変わらないが、CDP(Customer Data Platform)や分析系のBI、データウェアハウスなどは各事業部から利用できる共通システムとして構築されている。
また最近は新たな業務要件への対応が必要とされる場合でも、基幹システム側で開発するより、外部システムや外部サービスとして実装し、基幹システムとの連携度を高めることで、密結合の解消を図る方向で考えているという。
たとえば取引先向けにインボイス対応の領収書を発行する場合は、基幹システムでインボイスの発行を行うのでなく、IBM iのDBからクラウド側へデータを連携するようにし、どの事業でも共通した仕組みでインボイスが発行できるようにしている。
またIBM iにある顧客データの一部をECシステムへ連携する場合も、APIを作成して実現している。
メインフレーム時代を含めると、フルスクラッチ型での基幹システム運用の歴史は長く、完成度も高い。しかし今後は基幹システム側での開発の比重を高めることなく、各システムの連携力を高めることで、柔軟なシステム運用に取り組んでいく方針のようだ。
[i Magazine 2024 Summer 掲載]