高齢化問題を解決すべく、新規採用やミドル教育に力を入れる
澁谷工業株式会社
本社:石川県金沢市
創業:1931年
設立:1949年
資本金:113億9201万円(2020年6月)
売上高:1036億円(連結、2020年6月)
従業員数:3509名(連結、2020年6月)
事業内容:ボトリングシステム、包装システム、物流搬送システム、製薬設備システム、再生医療システム等の製造・販売
https://www.shibuya.co.jp/
ボトリングシステムや包装システムをはじめ、客先のニーズに合わせてパッケージングプラントをターンキーで提供するビジネスを主体にしている。またそこで培われた技術の応用展開によって、新製品の開発、新市場の開拓を積極的に推進している。
◎IT人員構成
経営情報システム部:24名
20代:3名
30代:5名
40代:4名
50代以上:12名
高齢化問題の解決に向けて
若手社員の採用・育成に努める
澁谷工業は約50年前にシステム/32を導入して以来、幾度もシステム変更を行い、現在のPower System S914まで、生産管理、販売管理、会計・人事などの基幹システムとして、IBM iを選んできた。人事管理パッケージ以外は、ほぼすべてRPGによる自社開発型のシステムで、1988年頃から各システムを順次、再構築。その後は改良を重ねながら今に至っている。
導入当初から内製主義を掲げ、大規模プロジェクトで開発量が多かったケース以外は、RPGアプリケーションからWebまですべて社内の開発者が対応しており、外部ベンダーの手を借りることは一切ない。
経営情報システム部の人員は、今年4月に迎える新入社員1名を含めて合計24名。2017年ごろは22名だったので、増員傾向にある。ちなみに現在は20代が3名(今年度の新入社員を含む)、30代が5名、40代が4名、50代以上が12名という構成である。
全員がRPGのスキルをもち、なかには利用経験の少ない社員もいるが、最低でもRPGプログラムを読めるだけのスキルは備えている(同社では過去のプログラムの大半はRPG Ⅲ、新規の開発ではRPG Ⅳを利用している)。
ほかの言語スキルとしては、Webアプリケーションを開発するPHP、Java ScriptとHTML、クライアント/サーバー型の開発に利用している「Delphi/400」(ミガロ.)、またJava(Excel作成等で利用)を書ける開発者も数名いる。
「当部署の場合、年齢バランスから見ると50代以上のベテランが多く、若手が少ない傾向にあります。IBM iユーザーの高齢化問題は当部署にとっても切実で、今の50代が定年を迎えたらアプリケーションの開発・保守をどうするか、これまでのノウハウや経験をどう継承していくかを5年ほど前から真剣に考え始めました」と語るのは、小山祐二課長(グループ生産・情報統轄本部 情報・知的財産本部 経営情報システム部)である。
ここ数年は毎年、大学等でIT関連の教育を終えた新入社員を配属することで、年齢バランスの若返りに努めている。配属後は開発言語、インフラ系やネットワーク、現在のシステムや業務の知識などを半年かけて学ぶためのカリキュラムを用意している。またRPG以外の開発言語も、ここ最近はカリキュラム化に力を入れている。
「40代以上の開発者は、RPG以外の言語をそれぞれの関心や興味に応じて自由に学んでいました。私も15年前に途中入社した際に身に付けていた言語スキルはRPGとCLだけでしたが、それ以降、独学でPHP、Delphi/400、Java
Script、Javaと学んできました。ただ個人の独学に任せると、どうしても片寄りが生じるし、目標やスキルレベルがばらつき、属人化も進みます。それでここ最近はミドルを含めて、RPG以外の言語習得もカリキュラム化しています」(小山氏)
マニュアルにない解決策を探る
問題発見能力と提案力
最近では新入社員教育に力を入れているが、それ以上にミドル教育に取り組むことも大切だと、小山氏は指摘する。
社内で小山氏はIBM iやRPGに関する生き字引的な存在で、何かトラブルが発生すると、「困ったときは小山さんに聞けばいい」と頼られる存在である。しかしその小山氏も定年が視野に入ってくるにつれ、今後について危機感を覚えるようになった。
「今はシステムや開発に関する情報、自身のノウハウやトラブル時の対処方法をできるだけ文書化して残そうと努力しています。ただ矛盾するようですが、本当に必要なのは文書やマニュアルに書いてないことを自身で発見する力、つまりは問題解決能力ではないかと思っています」
そう考えるに至った小山氏は最近、マニュアルでは簡単に答えを得られないようなトラブル解決策を中心にケーススタディとしてまとめ、3カ月に1回程度の頻度でミドル向けの勉強会を開催している。
「システム面でのトラブルシューティングで、マニュアルに頼らずに自身の目でどう問題を発見し、解決に導くかというケーススタディもあれば、経営層に対してシステム部門が必要と考える事柄をどう稟議書にまとめて説得するかといったビジネススキルもあります。それらを当部署のケーススタディとして学ぶことで、問題解決能力を身に付けてほしいと考えました」(小山氏)
同部が目指しているのは、経営に直結した提案力のあるIT人材の育成である。
ベテラン開発者たちは、これまでに多数のシステム開発を経験している。ユーザー部門とコミュニケーションを重ね、課題をシステム部内に持ち帰り、皆で議論し、解決策を得て、それをユーザー部門に提案するといった作業を延々と繰り返すなかで、問題解決能力や提案力、交渉力を身に付けていった。新規の、そして大規模なシステム開発が人材を育てる最良の場であることは間違いない。
しかし最近はシステム運用が安定しているため、大規模なシステム構築プロジェクトが少なく、若手はユーザー部門から要望や改善を受け、それに対応するという受け身の姿勢に終始している。
「業務部門とシステム部門を定期的に異動し、現場に身を置きながら課題や問題を発見する力をつけるのが理想ですが、当社ではそのような人事体制になっていないので、今いる経営情報システム部でその能力を磨く必要があります。少し抽象的になりますが、それにはやはり広い視野をもって、自分自身で考えることが必要ではないでしょうか。たとえば外部のコミュニティに参加する。社内にいるだけでは成長しないし、社外の人たちとの交流のなかで、『自分は知らないことだらけだ』と気づくのが成長への第1歩であると、外部コミュニティへの参加を奨励しています」
そのほか「IT部署所属であっても、IT以外の知識を身に付けることにより、自分自身の成長を加速させる」と、小山氏は語る。一見すると逆説的ではあるが、簿記、生産管理の手法、経営戦略など、IT以外の知識を積極的に学ぶことが、問題解決能力や提案力を育てることにつながるという。
同社ではそうした考えに沿って、経営に貢献する人材育成の道を模索していくようだ。
[i Magazine 2021 Spring(2021年4月)掲載]