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熱量のある利他的マネジメントで業務部門・ベンダーと一緒にDX化推進、他社・他部門への共感こそ要員不足を補う力 |日本サニパック株式会社

日本サニパック株式会社
本社:東京都渋谷区
設立:1970年
資本金:2000万円
売上高:141億円(2023年3月期)
従業員数:90名(2023年3月期)
事業内容:ポリエチレン製ゴミ袋、食品保存袋、水切り袋、紙製ゴミ袋などの製造・販売
https://www.sanipak.co.jp/

 

少人数のシステム部門で
30以上のプロジェクトを推進

日本サニパックは、創業50周年を迎えた2020年を同社の「DX元年」と位置づけ、短期・中期の取り組みを進めている。

同社のDX化は3つのフェーズで構成されている。第1フェーズは営業・間接部門・工場などにおける情報の共有化・見える化と、業務の標準化・効率化・自動化。第2フェーズは、サプライチェーン・マネジメント(SCM)の構築と社内資源の全体最適化、第3フェーズは取引先への情報提供による囲い込みと新規事業の確立である。

図表1は、DX化のスタート時から最近(2023年10月)までの主なシステム化プロジェクトをまとめたものである。現在進行中を含め、これまでに約30のプロジェクトを完了してきた。

図表1 DXスタートから2023年10月までの主なプロジェクト

DX化のスタート時点のシステム部員は3名だった(2022年に1名増員し現在は4名)。この人数で大小さまざまなプロジェクトを推進してきたことについてSCMグループ デジタルトランスフォーメーション推進部の宇野康典部長は、「システム部員の数は、予定済みプロジェクトのほかに新規の案件がでてくるため、常に不足状態が続いています。しかし要員の問題は一朝一夕には解決できないので、マネジメントしながらDX化を進めてきました」と話す(図表2)。

図表1 DXスタートから2023年10月までの主なプロジェクト
宇野 康典氏
図表2 日本サニパックのDX全体像

宇野氏はDXについて、次のように考えを述べる。

「従来のシステム化は、業務で発生している問題・課題を解決するものでした。これに対してDX化は、顕在化している問題の奥に潜む根本原因を究明し、その解決に加えて業務上のあるべき姿をデジタル化により実現するものです。その根本原因の究明とデジタル化による解決には、システム部門の取り組みだけでは不十分で、業務部門との緊密なタッグやベンダーとの二人三脚、ツール/技術の十分な活用といった熱量をまじえたマネジメントが必要です」

相談への素早い対応により
要員投入を最小限に抑える

業務部門とのタッグの一例としては、図表1の末尾に記載した「サニパックDM」がある。

これは営業担当者の相談から始まった案件で、営業担当者は、新製品の発売やキャンペーンがあるとチラシを持参して顧客を訪問し注文やサンプルの依頼を受けてくるが、このチラシの準備や顧客先への訪問、帰社後の業務処理などにかなりの時間・手間がかかっていたため、「システム化によって効率化できないか」というのが相談の内容だった。顧客訪問は、販売拡大や他社との競争の面できわめて重要な業務である。

システム部門が解決策として提案したのは、LINEを活用する仕組みだった。LINEを使って営業チラシを配信し、顧客からの注文・依頼はLINEで自動で受け、その後の業務処理まで一貫して行えるというものである。

このアイデアには、「サニパック掛け払い(サニ掛け)」と呼ぶ法人・個人事業主向けのLINE受発注システムの開発経験が下敷きとしてあった。顧客がLINEアプリ(サニ掛け)で注文すると外部の与信サービス(ヤマトクレジットファイナンス)が実行され、与信が通るとIBM iと連携し受注処理が行われるというシステムである。

「チラシの配信にLINEを使うとリードタイムを大幅に短縮できるほか、紙→印刷→持参(FAX送信)にかかるコストを大幅に削減できます。また、お客様の反応をLINEの既読の有無で確認できるので購入忘れ防止のリマインドをお送りしたり、お客様訪問のきっかけにもなります。お客様囲い込みの1つの手段になると考えました」(宇野氏)

宇野氏は、業務部門とのタッグには業務担当者への「共感」と「利他的な取り組み」が欠かせないと強調する。

「ユーザーはこんなふうにしたいという漠然としたイメージは持っていますが、どうするかという具体的な絵は描けていません。システム部門はそこを補助するのが役割で、相談を受けたらできるだけ早く、しかもコストをかけずに(同社はお試し版ツールや無料サービスを積極的に活用する)イメージを形にして見せるのがポイントです。作り込みに相応の投資が必要になる場合は画面遷移などを口頭で説明するだけでも有効です。相談への素早い対応によって、その後のシステム要員の投入を最小限に抑えることができます」と、宇野氏は語る。

大型プロジェクト「物流連携」では
物流委託会社も仲間に

システム部門では現在、「物流連携」と呼ぶ大型プロジェクトを推進中である(図表3)。

図表3 12の機能を連携させる「物流連携」

同社では海外生産した商品を海上輸送して日本の6つの拠点に陸揚げし、倉庫へ入庫したのちに顧客へ配送する物流を行っている。陸揚げから顧客への納品までは12の工程あるが、その工程の進捗管理を同社は従来、物流を委託している物流会社との間でメール添付のExcelで実施してきた(出荷依頼の1工程のみシステム化済み)。

この運用には3つの大きな問題があった。1つは進捗状況をリアルタイムで確認できない、2つ目は6つの拠点ごとに伝票の書式や科目が異なるため統一的な状況把握が行えない、3つ目は統計・分析処理が困難なためデータを有効活用できないという問題である。

「構築中のシステムでは、データを正規化して標準化するとともに伝票の形式・科目を統一し、6拠点すべてで同一の運用を行うことにしました。また通関書類などデータ化できないものはPDF化して共通のクラウドで一元管理し、PDFを配置すると自動で通知が飛ぶ仕組みとしました。これにより物流会社とどのようなやり取りをしているのか一元的に把握できます」

現在は「❺入庫実績管理」「❻出荷依頼連携」を進行中で、全12工程を3人のシステム部員で4工程ずつ分担し、プロジェクトを進めている。

「今回の物流連携は、サプライチェーン改革の後半部分にあたりお客様に直接関わる部分なので、さまざまな導入効果を想定しています。たとえば配送中の商品(荷)がどの段階にあるのかステータスをリアルタイムで確認できるので、お客様に新しい価値をいろいろご提供できます。また、物流データの分析により荷の滞留がどこで起きているかなどを統計的に突き止められるため、データに基づく意思決定も可能です。導入後は89%のリードタイム短縮と100%のコスト削減も見込んでいますが、何よりもデータドリブン経営の基盤になると考えています」(宇野氏)

システム部門ではこの仕組みを2018年に起案し、物流会社に打診した経緯がある。しかし費用負担の問題や社内調整に時間がかかり、立ち消えになっていた。

それが今回改めて浮上したのは、「双方の会社でデータ重視とデータドリブン経営の考えが大きくなり、積極的に取り組むべきとの判断になったため」と、宇野氏は説明する。

物流会社からは「業務のデジタル化による導入効果は当社にとっても小さくない。当社側システムの構築は進めますので、一緒にやりましょう」という回答があり、プロジェクトが動き出したという。

部員採用の基準は2つ
開発の経験、コミュニケーション力

システム部門では「相手にとってもメリットになる取り組み」を「基本的な考え」としている。今回の物流会社との打ち合わせでも「弊社もよくなるし、御社もよくなるはず」と、双方のメリットを繰り返し確認し合い、構想を一緒に育ててきたという。

「少人数のシステム部門が大小さまざまなプロジェクトに取り組んでいくには、取引先やベンダーを仲間にして二人三脚でシステム化を進めなければうまくいきません。そのためには、取引先やベンダーであっても相手のメリットになることを考慮しつつ取り組むことが重要です。Win-Winの関係になることが大切だと考えています」(図表4

図表4 マネジメントによる要員対策

同社ではシステム部員の採用で2つの基準を設けている。1つは開発経験があり、最低1つの開発言語に習熟していること。もう1つはコミュニケーション能力である。

「開発経験があればロジカルな思考ができ、問題を紐解き解決策を組み立てることが可能です。ただしシステム部員の考えや思いだけでは偏りが生まれるので、会話して相手の意を汲むコミュニケーション能力もあわせて重要です」

宇野氏は「ITは人」という言葉をよく口にする。

「技術はやる気になれば習得できますが、人間性を一から作り直すのは困難です。そのポイントはコミュニケーション能力で、さらに言えば、相手が真に望んでいることに関心を寄せ、相手の視点でシステムを発想できることが重要です。相手が喜ぶことに喜びを見出せることがシステム部員の要件の1つ、とさえ思っています」

システム部門の要員不足は、人数や提案力といったスキル/ノウハウに焦点があてられるが、サニパックの取り組みは少人数のシステム部員で数多くのプロジェクトを推進するためのマネジメントの重要性を示していると言えるだろう。

 

[i Magazine 2023 Autumn(2023年12月)掲載]

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