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呉竹、「データをつないで価値を生み出す」を全社で実践 ~組織横断でチーム編成し、顧客関連、生産、出荷仕上げなどの各プロセスで業務改革

ZIGクリーンカラーリアルブラッシュ120色セット
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COMPANY PROFILE
本社:奈良県奈良市
創業:1902(明治35)年
設立:1932(昭和7)年
資本金:8000万円(2022年5月末)
従業員数:258名
概要:墨・書道液などの書道用品、絵てがみ・水彩スケッチ用品、筆ぺん、マーキングペン、カリグラフィーマーカーなど、ホビークラフト・スクラップブッキング用品などの製造・販売・輸出入、化粧品製造・販売
https://www.kuretake.co.jp/

データや情報を軸にして
会社全体が一丸になる

日本における墨の製造は奈良時代に奈良において始まったとされる。西暦700年代後半のことで、「万葉集」が編纂された時期にあたる。その奈良の地で約1100年の時を経て製墨業をスタートさせたのが(1902年)、呉竹である。

同社は2022年に創業120年を迎えた。その時に“創業200年へ向けて”の企業方針の1つとして、「データをつないで価値を生み出す」という重点目標を策定した。

「この方針は、データ連携やシステム連携だけの重要性を示したものではなく、データや情報を軸にして会社全体が一丸になろうという目標を表したものです。業務で使用するデータは発生場所がどこであっても人から人へ、部門から部門へと送られて、そのパスの都度に価値や意味を付与されて業務が進んでいきます。そのパスの価値をより高めるには、データを単に送り合うだけではなく、組織の壁をなくし、現場と現場をつないで一体となって業務にあたることが必要です。この重点方針にはそうした意味が込められています」と説明するのは、情報システムを担当する管理本部 次長の永井宏樹氏である。

永井 宏樹氏 管理本部次長
永井 宏樹氏 管理本部次長

同社は2017年にBPR活動を実施し、業務改革を推進してきた。この取り組みは各業務プロセスのプロセス責任者(部門長とマネージャー)で構成され、プロセスごとにチームを編成し、業務改革の内容や実施方法などを検討する(図表1)。永井氏はそのBPR本部の責任者も兼ねている。

図表1 BPRの推進体制
図表1 BPRの推進体制

「BPR活動には現在、顧客関連プロセス、生産プロセス、出荷仕上げプロセスなどの業務改革を検討するチームが7つあります。各チームにはさまざまなメンバーが参加し、たとえば出荷仕上げプロセスでは、生産部の部長、マネージャーと物流部のマネージャー、システム担当者がメンバーとなっています」(永井氏)

BPR活動ではこれまでに販売管理、製造、物流の業務改革に取り組み、システムの拡張・再構築を行ってきた。

販売管理では、IBM i上のマスターに商品を登録すると自動で外部公開用データベースに反映され、Web公開される法人向け販売サイトの仕組みや、販売担当が顧客先で取った受注を即時に基幹システムへ連携させるモバイル受注システムも導入した。顧客へのサービス品質を高めるうえでの大きな効率化と省力化になっている。

また生産プロセスでは、「墨滴」(書道用液)の充填プロセスや「顔彩耽美」という固形絵具シリーズの仕上げ工程を対象に業務改革を進めてきた。

「墨滴製造ラインでは従来、現場のホワイトボードで当日の生産予定を管理しており、紙の生産日報をもとに入力担当者が製品入庫を行っていました。その方法だと、入庫入力が別で必要となるため在庫データが即時反映されず、実在庫と電算在庫に差が生まれてしまう状況でした。また各工程で要した時間やライン稼働進捗をリアルタイムで把握できず、データに基づく管理を進められないでいました」(永井氏)

そこで工程管理をタブレットで行えるシステムに置き換え、大型モニターでライン稼働状況をリアルタイムに把握できるシステムを開発し、工程の見える化と効率化を実現した。

「生産プロセスでは次に、筆ぺんや“からっぽペン”などペン製品の業務改革に進む予定です。ペン製品は種類が多く、加工、組み立て、仕上げと複数の工程もあるので、優先度の高いものから取り組んでいく計画です」と、永井氏は説明する。

「LongRange」を用いて
物流の業務改革を実践

全社方針の「データをつないで価値を生み出す」について永井氏は、「2013〜2019年に担当した米国子会社へのシステム導入で、システム連携の重要性を痛感しました」と振り返る。

「米国子会社のシステムは一からの導入でしたが、一緒に作業した米国のエンジニアたちは“システムの連携はどんなに手間がかかっても実現すべき”という考え方をもち、連携による自動化に徹底してこだわっていました。また“必要なデータが本社または米国側にあるならばそれを利用し、他方での再入力などは避けるべき”という考えももっていました。その感覚は日本人の感覚とはかなり違う徹底したもので、米国エンジニアたちの合理的な考え方に影響を受けました」

BPR活動としてシステム部門が現在取り組んでいるのは、物流の業務改革である。既に倉庫から取引先へ商品を送付するための「出荷管理システム」を2022年にサービスインさせている。

同システムはiPhoneにバーコードスキャナ(アスタリスク社製AsReader)を装着し、商品をスキャンするとiPhone上の出荷アプリケーションの出荷明細が1つ減り、その作業を繰り返して明細がなくなるとピッキング(摘み取り)作業が完了するという仕組みである。さらに梱包の工程でも同様の仕組みを導入した。

「従来は摘み取り作業と摘み取りのチェック、梱包作業時に2者チェックが必要でしたが、システム導入後はスキャナでのチェックのみで済むようになり、1名を別作業に振り向けられるようになりました。省人化と作業標準化を実現でき、作業の正確性が向上しました」と、永井氏は導入効果を説明する。

システムはランサ・ジャパンのモバイルアプリ開発ツール「LongRange」を用いて自社開発した。「LongRangeはマルチデバイス対応なので、1つのスキルで多様なデバイスのアプリを開発できるのが便利です」と、永井氏は評価する(図表2はLongRangeで開発したモバイル受注システム)。

図表2  LongRangeで開発したモバイル受注システム
図表2   LongRangeで開発したモバイル受注システム

今後は、開発を終了している棚卸しシステムのブラッシュアップと倉庫管理業務の改革へと進む計画である。

「倉庫では先入れ・先出しを基本としています。出荷が小ロット単位になると管理がむずかしくなりますが、取引先様のご要望にスムーズに応えられるシステムを構築していきたいと考えています」(永井氏)

永井氏はBPR活動について、次のように総括する。

「BPR活動を通してさまざまな業務の標準化を推進でき、新しいメンバーがミスなくすぐに業務ができる体制を確立できたのは成果だと考えています。またこの標準化によって価値を生まない非効率な作業を徹底して削減することもできました。今後は、膨大な業務データを活用して抜本的にプロセスを再構築し、製造効率の向上や納期短縮に取り組みたいと考えています」

図表3   システム化の歩み 
図表3 システム化の歩み 

[i Magazine 2024 Spring掲載]