株式会社朝日森
本社:千葉県成田市
設立:1970年
資本金:1500万円
売上高:約70億円(2021年度、グループ全体)
従業員数:400名(グループ全体)
事業内容:航空貨物取扱事業、物流業務受託事業、港湾運送関連事業、梱包・資材業務など
https://asahimori.co.jp/
トラック1台からスタートし、現在では物流センター事業、輸出梱包事業、工場構内請負事業、貨物輸送事業等を含め約20の事業を展開する。とくに成田空港に隣接するエリアに、保税蔵置場を備えた複数の物流センターを構え、国際航空貨物の各種取り扱い(梱包、検量・検尺、保税業務など)を一貫して実施。成田・羽田の両国際空港および各港湾エリアへの輸送業務に強みを発揮している。
膨大な写真を管理する
煩雑な作業を自動化
朝日森が成田空港周辺に構える3カ所の成田南部物流センターは、大型半導体製造装置の梱包を主業務にしている。長さ4m、幅2m、高さ3m程度の大型装置をセンターに搬入し、輸出用木箱もしくは強化段ボールで梱包し、輸出通関手続きを済ませたのちに搬出して、成田空港から空輸したり、海上輸出のために東京港や下関港に輸送する。
物流事業者にとって、工程ごとに梱包状況を撮影し、写真データとして記録・保管することは今や必須業務である。とくに半導体製造装置のような精密かつ大型の機械を航空貨物で運ぶ場合、特殊な梱包ノウハウを必要とする。現地で装置を組み立て、稼働させた際にダメージや不具合が判明すると、梱包作業に問題がなかったことを証明するためにも、工程ごとの写真撮影は不可欠となる。
撮影枚数は1梱包で約30枚。1カ所のセンターだと1日平均で約1500枚、年間で40万枚近い写真を撮影・管理する。
デジタルカメラで撮影された写真データは梱包作業を終えたあとオフィスに集められる。そして翌朝から、各センターで2名のスタッフの手により、SDカードから取り出した写真を装置や工程ごとにフォルダに分類し、PCもしくはUSBメモリに保管する。客先からの問い合わせや確認などの際は、その膨大な写真の中から該当データを探し出し、メールで送信するなどの作業が発生する。
「撮影された写真が不鮮明であったり、工程を撮り忘れたりした場合は、作業が完了した梱包物をもう一度開梱し、撮影のためだけに最初から梱包し直すこともあります。そのぐらい、写真撮影は欠かすことのできない必須業務なのです」と、河野正執行役員 事業部長は指摘する。
河野 正 氏
執行役員
事業部長
各工程で正確に撮影し、かつ膨大な写真を管理するという煩雑な業務に悩んでいた同社は、こうした課題を解決できるツールとして、「eSmart Photo Shot」という写真撮影管理システムに着目する。そのころ同システムの企画・開発を進めていた開発元のイールック・ソリューションズでは、朝日森の写真管理ニーズをきめ細かくヒアリングし、必要機能を反映させてeSmart Photo Shotを完成させた。
そして第1号ユーザーとして、2022年1月から、3カ所の成田南部物流センターで本格的な利用がスタートしたのである。
eSmart Photo Shotで
写真管理と進捗管理を同時実行
eSmart Photo Shotの導入を正式に決定したのは2021年8月。それに先立つ同年2月から約3カ月程度をかけて、工程の設定といった準備作業を進めた。同年10月からはトライアル利用をスタートしている。
eSmart Photo Shotは、クラウド環境にあるIBM i上で稼働する。IBM i上のアプリケーションは、「LANSA」(ランサ・ジャパン)および「aXes」「aXes Mobile」(フェアディンカム)で開発されている。
現場では、デジタルカメラに代わりスマートフォンで写真を撮影する。朝日森では現場向けの頑丈なスマートフォンである「Blackview」(Android搭載)を採用し、スマートフォン向けアプリケーションをインストール。3カ所のセンターで合計30台を導入し、常時25台程度が稼働中である。
eSmart Photo Shotの最大の特徴は、画面上に各工程、撮影の要・不要、最低撮影枚数、および実際に撮影した枚数や写真を表示し、工程ごとに撮影データを管理すると同時に、撮影の進行によって作業の進捗状況を確認できる点にある。
撮影した瞬間に日付、シリアルナンバー、アイテムナンバー、工程などの属性情報を写真データへ自動的に付与する。そして即座にクラウド環境にあるIBM iのIFS領域へ、さらにそこから同じくクラウド環境にあるWindowsサーバーへ送信する。写真データは、このWindowsサーバーで管理される。
朝日森の場合は、Windowsサーバーからさらに、クラウド型ストレージであるBoxへ送信し、顧客とは写真データをBox経由で共有している。確認が必要な場合は、Boxの共有リンクをメールで顧客に送信する(Box以外のクラウド型ストレージも利用可能)。
この仕組みにより、2名のスタッフが忙殺されていた写真の取り出し・分類・保管作業は一切不要になった。また膨大な写真データを自動的に管理すると同時に、一種の作業手順書として業務品質を向上させられた点も大きな導入効果である。
eSmart Photo Shotでは、スマートフォンの画面上に工程ごとに撮影するよう指示が表示され、工程での撮影を怠ると、次の工程には進めない。これにより、工程での撮り忘れを防止できる。
「今までは担当者の頭の中だけに、撮影作業がインプットされていました。しかしeSmart Photo Shotにより、工程ごとに必要な撮影というアクションが可視化・明示化され、撮り忘れなどを防止できるようになりました」と、田島裕二係長(経営企画室 技術開発課)は語る。
田島 裕二 氏
経営管理室
技術開発課
係長
同社ではオフィスで写真管理を担当していた2名のスタッフ、および時間外で写真管理に携わっていたスタッフを含め、合計3.5人月の工数削減を達成した。顧客からの問い合わせ対応も迅速化し、前述したように撮り忘れ防止や工程進捗管理などの定性効果もある。これらに加え、同種製品の梱包が以前にもあった場合、過去の写真データからその時の梱包内容を再確認するといったマニュアル的な役割も果たしている。
また2022年7月から、eSmart Photo Shotの機能を拡張し、オフィスに設置した大型ディスプレイで各工程の進捗状況を表示するシステムの利用を開始した。
「eSmart Photo Shotの機能を利用すれば、今までセンター長や進捗管理担当者が現場に出向いたり、作業者に確認して把握していた進捗状況を、オフィスに居ながらにして一目で把握できるという現場からの要望をイールック・ソリューションズに伝え、カスタマイズ開発により実現しました。現場からこのような発想が生まれてきたこと自体を高く評価しています」と、森川裕教課長(営業担当)は語る。
森川 裕教 氏
営業担当
課長
同社では今後、成田南部物流センター以外でもeSmart Photo Shotを横展開したいと考えている。国際貨物の梱包と言っても、各センターではそれぞれに取り扱う貨物も工程も異なるため、現場の要望をヒアリングしながら、段階的に物流センターでの導入を実現していく予定である。
撮影写真管理を起点にした業務改革は、確実に前進しているようだ。
[i Magazine 2022 Autumn(2022年11月)掲載]