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ワークスタイル多様化時代に活躍するリーダーの組織的育成 ~JGS研究プロジェクト

「JGS研究2017」プロジェクト論文 優秀論文賞受賞

ワークスタイル多様化時代に活躍する
リーダーの組織的育成

─チームエクスペリエンス評価シート活用のススメ─

 

今後のプロジェクト運営には
どのようなリーダーが必要か

 働き方改革が叫ばれる今、開発の現場にも大きな変革の波が訪れている。シニア世代や女性、外国人などの多様な人材、そして時短勤務やフレックスシステム、あるいは在宅やサテライト、オフショアなど多彩な制度や労働形態の採用が進んでいる。メンバーが一同に会し、同じ場所で同じ時間に働くような環境は確実に減っていくだろう。今までのように対面の指示や暗黙の了解は前提にできず、メンバー間の意思共有やチームの一体感を保つことは難しくなる。

 こうした状況で、リーダーはプロジェクトをどう運営していくべきか。 「リーダーを育てるための最適な組織」というJGSの研究プロジェクトに参加したメンバーたちの問題意識は、ここに起点がある。その成果は、「ワークスタイル多様化時代に活躍するリーダーの組織的育成」という論文に結実した。キーワードは、「チームエクスペリエンス」である。 

 チームエクスペリエンスは、昨今話題のカスタマーエクスペリエンスの概念をプロジェクトに適用した言葉で、研究活動のなかで独自に作り出された。

「製品やサービスを通じて得た顧客体験のよさが、販売力やブランド力の向上につながります。それと同じようにプロジェクトでの成功体験、そして参加したメンバー自身の自律的な活動による成長体験が、結果的にチームとしてのパフォーマンスを高め、プロジェクトを成功に導くという仮説を立て、そこで求められるリーダー像はどうあるべきかを追求しました」と語るのは、チームアドバイザーを務めた日本アイ・ビー・エムの坂本直史氏である。

坂本 直史氏  
日本アイ・ビー・エム(株)

 最初はメンバー各自が抱く理想のリーダー像の定義に始まり、デザインシンキングの手法を取り入れて、架空の(しかし実在に近い)プロジェクトメンバーの人物像を「ペルソナ」として想定した。そしてペルソナたちの成功体験を高めるには、どのようなリーダーが求められるかを議論した。

 ここでは「自立性」(リーダー自身のリーディングスタイルとして、指示することを好むか否か)と、「成長期待度」(プロジェクトの成功とともに、チームメンバーの成長を期待するか否か)の2軸でリーダー像を考え、「カリスマ型」「独裁型」「放任型」「チームエクスペリエンス型」(以下、TX型)」の4つに分類している(図表1)。

 そして冒頭に記したような今後の環境では、リーダーからの細かな指示が必要な上意下達型ではなく、メンバーが自立的に活動できるチーム運営が必要であり、それに適応する行動性向を有するのは、TX型リーダーであると結論づけた。

 すなわちTX型リーダーには、「先頭に立ってチームを牽引するよりも、各メンバーが自律的に行動できるような環境づくりが求められる。自立性や成長期待度を高く保てるような誘導やモチベーション維持に向けた働きかけ、メンバーの満足度を向上できるようなリーディングが必要である」という点で意見が一致したのである。

 

TX型リーダーの育成に向け
評価シートを活用する

 この研究活動がユニークなのは、TX型リーダーの育成をサポートするツールとして、「TX評価シート」の考案へと発展している点である。評価シートは育成・評価の内容を可視化し、チームとしてのエクスペリエンスの度合いを測定することに狙いがある。「インパクト」(チームおよび各自の働きが顧客や他者に多くの貢献をしているか)、「成長度」(チーム全体および各自が成長しているか)、「満足度」(チーム活動に満足しているか)、「コミュニケーション」(メンバー間でよいコミュニケーションがとれているか)という4つの評価項目を設定し、質問により「チームとして」と「回答者個人として」という観点で回答する。短時間で答えられるように、質問数を20個程度に抑え、文章ではなく10段階で入力する形式にした。

 これを使って同チームのメンバー、および各自が所属する会社のプロジェクトメンバーを対象に調査を実施した。プロジェクトチームは合計8つ。リーダーの調査結果とメンバーの調査結果をそれぞれリーダー型分類図にプロットした。

 図表2は型の分類と強さを示しており、リーダー評価とメンバー評価の差異に着目する。数値の差が大きいほど、「リーダー自身がTXをどれだけ意識してプロジェクトを運用しているか」と、「メンバーがそれをどう評価しているか」に乖離があり、どこに問題があるかを可視化できる。

「研究活動中に何度かこのシートを使って、プロジェクトを評価しました。同じエクスペリエンスだとしても、つまりメンバーが同じ体験をしたとしても、人によって受け止め方が違うし、評価にバラツキがあります。同じ経験ではあるが、それをどう見るか、どんな気持ちで捉えているかは人によって異なり、それを含めての『チームエクスペリエンス』だと言えます。メンバーの『気持ち』の部分を可視化する意味で、興味深い評価方法だと思います」と、インフォメーション・ディベロプメントの齊藤貴之氏は指摘する。

齊藤 貴之氏
(株)インフォメーション・ディベロプメント

 さらに第一生命情報システムの成嶋雄一氏は、研究の成果を次のように語る。

「リーダーシップはそもそも、抽象的で捉えにくい概念です。しかしこの評価シートを使えば、数値やプロットにより可視化できると同時に、メンバーがどう感じているか、どうコミュニケーションするべきか、どこに課題があるかを発見できます。プロジェクトの中間時点で調査し、運営途中で軌道修正を図る。終了時点で再度実施すれば、その結果を組織のマネジメントノウハウとして蓄積できるでしょう」

成嶋 雄一氏
第一生命情報システム(株)

 新しい時代のリーダー像が見えてきたようだ。

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チーム名
リーダーを育てるための最適な組織

株式会社アイ・ティー・ワン 横田 浩志
株式会社インテック 瀬戸 英樹
株式会社インフォメーション・ディベロプメント 齊藤 貴之(サブリーダー)
株式会社NSD 山本 陽平
第一生命情報システム株式会社 成嶋 雄一(リーダー)
株式会社DTS 仲田 正臣
ニッセイ情報テクノロジー株式会社 松永 幹樹
三菱総研DCS株式会社 冨田 光彦

日本アイ・ビー・エム株式会社 坂本 直史(チームアドバイザー)

(継承略)

【i Magazine 2018 Summer(2018年5月)掲載】

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