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人事業務におけるCustomer Careの必要性 〜人事AIバーチャルエージェントの狙いと取り組み

 

Text=児島芽衣 日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング

 

昨今「Customer Care(カスタマーケア)」に対する注目度が高まっている。Customer Careとは、顧客に対するサポートやサービス提供に関連する活動のプロセス全般を指す言葉である。Customer Careは顧客と長期的な関係を築き、顧客からの信頼を高めるための非常に重要な要素として多くの企業で注視されている。

Customer Careとは情報やサービスを、顧客がブランドに接する各ポイントで提供していく事前対応型のアプローチで、その中には顧客が困る前にアクションを起こすような対応も含まれる。たとえば、洋服屋で服を手に取ると店員から声をかけられる、といった対応が挙げられる。これらの対応を拡充することで、顧客の満足度を向上させたり、顧客からの問い合わせ数を減らせるといった効果が見込める。

上記は企業から顧客へのサービスの例だが、人事業務においてもCustomer Careが不足していると、業務の非活性化に繋がる悪循環に陥る可能性がある。どのような悪循環かというと、図表1のようなものである。

図表1 Customer Care不足による人事業務の非活性化に繋がる悪循環
図表1 Customer Care不足による人事業務の非活性化に繋がる悪循環

 

ここでは、社員が人事関係の事務手続きをする時に不明点が出てきたと仮定する。その時社員はマニュアルを探したり人に質問したりして問題を自己解決しようとするが、解決できなかった場合は人事担当者へ問い合わせをする。すると人事担当者は1つ1つの問い合わせに回答する必要があるため、そのぶん対応負荷が大きくなる。その結果として、人事担当者は当初行おうとしていたマニュアルの拡充などに手が回らなくなり、社員はますます自己解決の手段から遠ざかる、ということになる。

こうした悪循環が誘因する問題としては、以下のようなことが想定される。

[社員]
・問い合わせへの回答を得るまでに時間がかかり過ぎ、不満が増す
・事務手続きに時間がかかり、実業務がはかどらない
[人事担当者]
・問い合わせ対応にリソースがかかり過ぎ、そのほかの人事業務(人事配置や福利厚生など)の質が低下する
[会社全体]
・人事配置や福利厚生を拡充できず会社の魅力が減少し、社員の離職率がアップする
・会社の業績悪化

このようなCustomer Care不足による悪循環は、会社全体のデメリットに繋がりかねない。そこで今回はその解決策の1つとして、「人事AIバーチャルエージェント」を紹介したい。

人事AIバーチャルエージェントの狙い

人事AIバーチャルエージェントは、Customer Care不足による悪循環の解消を目的としたバーチャルエージェント・アプリケーションである。

バーチャルエージェントとは、担当者の代わりに問い合わせへの対応をしてくれるチャットボットを思い描いていただくとよいだろう。人事の問い合わせ業務にバーチャルエージェントを取り込むことによって、社員からの質問の一次受付を自動化できる。これによって、問い合わせへの24時間対応や会話形式に近い自然な応答、自由度高く情報を探せる、といったメリットが見込める。
 
さらにその効果として、以下を期待することが可能になる。

・社員の質問への対応コストの削減
・人事担当者の量的・質的不足の解消
・個別対応が必要な質問へのリソースの割り当て

しかしその一方で、ITに不慣れな人事担当者がバーチャルエージェントの導入に高いハードルを感じてしまうのも事実である。たとえば、次のようなことが挙げられる。

[データ構築]
・どのような会話を作成すべきかわからない
・会話データの構築方法がわからない
[環境構築]
・どのサービスを使うのがよいか決めかねる
・構築を自身で実施できるか不安
[運用管理]
・会話の変更などにかかる運用の手間に懸念がある
[拡張性]
・機能追加などの要望が出てきた際の対応に不安がある
・UIもこだわって作りたい

このような悩みに対して、人事AIバーチャルエージェントは以下の3つの特徴によって、スムーズな導入を可能としている。

・バックエンドからフロントエンドまで一貫したサービスの提供
・構築から運用までの基礎部分の提供
・ロードマップに沿った長期的なCustomer Careの実現、改善、活用を支援

人事AIバーチャルエージェントでは、人事向けバーチャルエージェント・アプリケーションの構築から運用までの仕組みをトータルに提供している。構築後のアプリケーションのイメージは以下の画像のとおりである。

図表2 人事AIバーチャルエージェント・アプリケーションのイメージ
図表2 人事AIバーチャルエージェント・アプリケーションのイメージ


このアプリケーションは、前述の3つの特徴を有している。以下、もう少し詳しく説明する。

バックエンドからフロントエンドまで一貫したサービスの提供

人事AIバーチャルエージェントは、バックエンドからフロントエンドまで一貫したサービスを提供している。そのため、構築の際にアーキテクチャの検討が必須ではなく、さらにIBM Cloudのサービスをベースとしているため、IBM Cloudの契約後、すぐに構築を開始できる。

またUIのカスタマイズが可能なため、色や画像の配置を簡単に変更できる。さらにアクセス制御や認証などの機能追加も可能である。

このように人事AIバーチャルエージェントは、トータルサービスの提供と適度な柔軟性という2つのメリットを備えたサービスなのである。

構築から運用までの基礎部分の提供

人事AIバーチャルエージェントは人事関連の会話をプリセットしており、開発時に一から会話の構成を考えなくてもよいようになっている。また、会話構築のためのテンプレートを用意しているため、テンプレートに沿って作成していけば会話を構築できるように設計されている。

ほかにも利用状況などを確認できる分析ダッシュボードを提供しており、将来的な会話の改善に役立てることができる(図表3)。

図表3 分析ダッシュボードのイメージ
図表3 分析ダッシュボードのイメージ

ロードマップに沿った長期的なCustomer Careの実現、改善、活用を支援

人事AIバーチャルエージェントでは、バーチャルエージェントの成熟度ロードマップを通して、長期的な視野でCustomer Careの実現を支援している。

図表4が人事AIバーチャルエージェントの成熟度ロードマップである。人事業務と一口にいっても幅広いので、最初は単純作業や問い合わせ対応を人事担当者と分業する形でバーチャルエージェントを導入し、業務効率化を進める。そして成熟度が増すごとに高度な対応へとステップアップしていき、徐々にさまざまな業務エリアを支援できるようにするという想定である。

図表4 人事AIバーチャルエージェント成熟度ロードマップ
図表4 人事AIバーチャルエージェント成熟度ロードマップ

人事AIバーチャルエージェント導入による効果

ここまでに紹介した人事AIバーチャルエージェントの特徴を活かすことによって、Customer Care不足による悪循環を好循環へと変えるきっかけが作れることをご理解いただけただろう。

バーチャルエージェントの導入によって、社員は人事手続きに関する疑問を自己解決しやすくなる。人事担当者は社員からの問い合わせが減るため、そのぶんの余力を人事マニュアルの更新やバーチャルエージェントのブラッシュアップなどにあてることができ、社員が疑問を自己解決する環境を整備することができる。社員は人事担当者への問い合わせが不要になり、Customer Careが十分に機能しているので困り事自体がなくなる、といった好循環が生まれることになる(図表5)。

図表5 バーチャルエージェント導入による好循環
図表5 バーチャルエージェント導入による好循環

これらの好循環を回すことにより、最終的に以下のような効果が期待できる。

[社員]
・Customer Careの充実による満足度向上
・問い合わせ回答へのリードタイム削減など、事務手続きの作業時間短縮
[人事担当者]
・そのほかの人事業務(人事配置や福利厚生など)にあてられるリソースが増え、質が向上する
[会社全体]
・人事配置や福利厚生などの拡充により会社全体の働きやすさが向上し、社員離職率が低下する
・作業効率化による会社業績向上

今後の展望

人事AIバーチャルエージェントは現在、複数の企業・団体に導入いただいている。今後も多くの企業・団体にご提案していく考えで、機能追加などのアップデートも順次実施していく予定である。アップデートとしては、2023年第4四半期にNeuralSeek(*1)ベースの文書検索機能を取り込む予定で、さらに昨今進化が著しいLLM(大規模言語モデル)による文書検索機能の追加も検討している。

既存の内容の推進と新規機能の追加によるブラッシュアップの両軸で、今後も人事業務におけるCustomer Careの実現をサポートしていきたいと考えている。


*1 NeuralSeek: IBM Cloudで利用可能なAI活用のAnswers-as-a-Service。組織のバーチャルエージェント内で情報共有と顧客サポートを強化するために設計された。https://neuralseek.com/

著者
児島 芽衣氏

日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社
DXソリューションセンター・AIソリューション
ITスペシャリスト

2018年、日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリングに入社。入社後、Watson製品群を主軸に担当し、社内外のAI関連分野で活動。最近はチャットボット導入プロジェクトに多く携わっている。

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