柿澤 浩介氏
三和コムテック株式会社
代表取締役社長
IBM i用HA・DRツールの「MIMIX」やセキュリティ製品「iSecurity」など海外の優れたIT製品をいち早くキャッチして日本に導入し、それまでにない新市場を創出してきた三和コムテック。その新社長に柿澤浩介氏が就任した。ユーザーのIT活用支援に20年以上、一貫して携わってきた同氏に同社の新しい取り組みと今後について話をうかがった。
メインフレームのSEを6年担当
米国に1年半駐在の経験も
i Magazine(以下、i Mag) 柿澤さんは海外で育ったそうですね。
柿澤 生まれは日本ですが、父親の転勤で2歳から5歳まではシンガポールとオランダに、9歳から13歳まではイギリスで暮らしました。そのあと帰国して日本の中・高・大学に通い、新卒(1995年)で証券系のシステム会社に就職しています。
i Mag IT志望だったのですか。
柿澤 証券会社の営業志望で配属も決まりかけていたのですが、大学の先輩からの強い引きで、その系列のシステム会社への配属となりました。しかしITの仕事に就いてみると次第に興味がわいてきて、もっと本格的にやってみたいと思い、2年後に日本IBMに転職しました。
日本IBMには7年間在籍しましたが、うち6年はメインフレームのSEです。そのあと当社の親会社である三和インベストメントに入社し、すぐにサンフランシスコ近郊にあるScanAlert社への出向となりました。当時、ScanAlertの「HACKER SAFE(前McAfee SECURE)」というセキュリティ検査・証明サービスを扱い始めたところで、日本のリクワイヤメントを向こうの製品開発に反映してもらう必要があったのです。私の仕事は日本と米国側との調整役で、1年半ほど駐在しました。
i Mag 印象に残っていることはありますか。
柿澤 当時のScanAlertはマカフィーに買収(2007年)される前で、技術力はすごいものの根っからのITオタク会社で、企業ユースとはどういうものか日本のお客様のニーズはどのようなものかを理解してもらうのに、とても苦労した記憶があります。しかしその苦労も、ScanAlertがマカフィーに買収された後も功績として評価され、製品の扱いを続けられたので報われたと思っています。
i Mag その後はどのような経歴ですか。
柿澤 日本に戻ってからは、新しい商材の開拓やビジネス開発、パートナー様との協業、大手アパレルメーカーのECプラットフォーム開発でPMなどを担当しました。そうしていると古巣のIBMから誘ってくださる方がいて、再度日本IBMに入社しました。このときは約2年の在籍です。そして当社に復帰し、取締役、専務などを歴任して今年7月に社長に就任しました。
社長就任当日に「One SCT」を
社員宛てにメッセージ
i Mag これまでのご経歴で、ご自身の血となり肉となったのは何でしょうか。
柿澤 それはIBMでの経験で、新しい未知のテーマを与えられたら何をどう考え、どのように取り組めばよいのか、お客様第一とはどういうことなのかを、身をもって叩き込まれたと思っています。先輩や上司はけっして教えてくれるわけではないのですが、身近にそれを見せてくれるので、私も自然と自分で考え、周囲の人の意見を聞き、自分なりに課題や困難を解決できるようになったと思います。今の自分のほとんどはIBM時代に鍛えられ、学んだことばかりですね。
i Mag 社長に就任されて、取り組んでいることは何ですか。
柿澤 就任した日に「One SCT」というメッセージを社員宛てに送りました。三和コムテックとして1つになる、ということですが、それは、会社全体が一丸となって同じ方向を向こう、ということではありません。社員が個々にもつスキルや経験、強みを必要なときに寄せ合って、会社として最大の力を発揮しようという思いです。
i Mag 何か背景があるのですか。
柿澤 当社は20年来、IBM iビジネスを推進する「クライアント&サーバー事業部」とオープン系セキュリティ製品を主に扱う「SCTセキュア事業部」の2事業部体制でやってきました。それぞれの事業部はスペシャリストも育って順調に成長してきたのですが、一方で事業部単位でしか案件に取り組めないとか、事業部の守備範囲で物事を発想してしまうといったタテ割り組織の弊害も見えていました。これだけのスペシャリストが揃っているのに事業部単位でしか動けないのは本当にもったいない、というのが私の感想でした。そこでまず理念(One SCT)を掲げて、それから具体的な取り組みをスタートしました。
i Mag たとえばどういうものですか。
柿澤 いくつかありますが、1つは、クライアント&サーバー事業部とSCTセキュア事業部の事業部長を相互にスイッチしたことです。2人は事業部長を10年以上務めてきたベテランですが、担当領域を丸ごと交換しました。新たな担当領域を新鮮な眼で開拓してほしいという期待と、会社全体に新しい風を吹かせてほしいという思いからです。
もう1つは、SCTセキュア事業部が主管する案件のプロジェクトにクライアント&サーバー事業部からもメンバーを出してもらい、共同で提案書の骨子をまとめました。面白いことに、両事業部の扱い製品のほかに他社のサービスも含めた広がりのある提案になり、単一の事業部で練る企画とは一味も二味も違う展開になったと思っています。やはり、違う視点や考えをもつ人同士が自由に話し合うというのは大切ですね。
APIはIBM iレガシー問題を
解決するコア技術の1つ
i Mag 三和コムテックではIBM i系とオープン系で80種に及ぶ製品・サービスを提供していますが(図表)、今とくに注目している分野は何ですか。
柿澤 これもいろいろあるのですが、IBM i分野で1つを挙げるならAPIです。今回社長就任にあたって複数のお客様をお訪ねしましたが、各社様とも、新型コロナによって潜在していた問題が顕在化して急ぎ改革を進める必要が出てきたことと、DXをどのように進めるか、IBM iをどう変えていくかに真剣に悩んでおられることがわかりました。
私がそのときに申し上げたのは、IBM iは何も変える必要はありません、APIの仕組みを使って外部のサービスや自社のリソースと連携させればシステムの拡張は実現します、ということでした。
APIは、3年前に米国のCOMMONでデモを見て以来、IBM iのレガシー問題を解決するコア技術の1つだと確信してきました。そのときのデモは、IBM iのアセットをSwaggerで記述してAPIを作成するというもので、ちょっと煩雑だなとは思いましたが、IBM iを何も変えずに外部サービスの利用によってシステムを様変わりさせる様子に、大きな衝撃を受けました。
今私どもが販売しているARCAD APIは、そのデモとは違い非常に簡単にAPIが作成できます。しかしそれはベースの機能であって、重要なのはAPIをどう活用するかというアイデアなので、大きな可能性があると感じています。IBM iのお客様にはAPIのメリットを強力にアピールし、パートナー様とはIBM iのAPIエコノミーを作っていきたいと考えています。
i Mag 海外ではIBM iのレガシーシステムをAPI化することで、新しいビジネスが生まれているようですね。
柿澤 IBM iの資産をAPI化してサービスとして公開するというビジネスもありますが、そのサービスを外部企業が自社サービスに組み込んで提供するというビジネスも誕生しています。そうなるとAPIで公開されたサービスを組み合わせて新種のサービスを開発する動きなども出てくるでしょう。IBM iのお客様にとっては、IBM iを改築することなくシステムを変えていく手段が得られます。APIは大きなインパクトを秘めていますね。
強みの「技術支援」に加えて
「付加価値創造企業」を目指す
i Mag 自社の強みは何だと捉えていますか。
柿澤 私どもは創業以来、海外のIT動向にアンテナを張り、日本のお客様にとって必要なテクノロジーをいち早く導入して新しい市場を創出するとともに、その新しい技術をお使いになるお客様のご支援を得意としてきました。そこは当社の強みであり、競争優位の源泉だと思っています。
その根幹は今後も揺らぐことはありませんが、これからは技術のご支援だけでなく、お客様の多様なお困りごとに対して、私どもが蓄積してきた技術やソリューションも加えて幅広くご支援していきたいと考えています。つまり、付加価値創造企業が私どもの目指す企業像です。
i Mag 最近、お子さんが生まれたそうですね。
柿澤 7月に男子が生まれて2児の父親になりました。上の娘は2歳7カ月になりますが、生まれてから毎日接してきて、人間の成長力はすごいとつくづく感じます。小さな子供でもふだんと違う刺激があると、ぐんと成長が進みます。それを見ると、親が子供にあれこれやってあげるよりも、いい刺激が受けられる機会を作ってあげるとか、伸び伸びできる環境を用意するほうがよっぽど重要なのだろうと思ったりします。
会社のほうはOne SCTの考えの下、社員それぞれが個性や強み、経験を発揮できる場にしたいと考えていますが、そのためには社員が生き生きと働ける環境や成長の機会を作り出すマネジメントこそが必要だと痛感しています。
柿澤 浩介氏
幼少期を長く海外で過ごす。大学卒業後、証券系システム会社へ就職。その後日本IBM、三和インベストメントなどに移りながらも、一貫してユーザーに向き合うITビジネスに従事。2021年7月に社長就任。堪能な英語力を活かし、グローバルな視点で日本のIBM i市場に新風を送ることが期待されている。
三和コムテック株式会社
本 社:東京都港区
設 立:1991年8月
資本金:7125万円
https://www.sct.co.jp/
[i Magazine 2021 Autumn(2021年10月)掲載]