藤井 等氏
株式会社ランサ・ジャパン
代表取締役 カントリーマネージャー
エンバカデロ・テクノロジーズ合同会社
日本法人代表 カントリーマネージャー
ランサは2018年に米国のソフトウェアベンダーであるアイデラに買収され、Delphiを提供するエンバカデロ・テクノロジーズと同じグループのメンバーになった。2022年4月、ランサ・ジャパンの代表取締役 カントリーマネージャーに就任した藤井 等氏は、それまでのエンバカデロ・テクノロジーズの日本法人代表 カントリーマネージャーも継続し、日本市場で両社の経営を統括する立場に立つ。もともとは開発者としてキャリアをスタートさせた藤井氏に、IBM i市場に向けた開発ツール戦略を聞く。
エンバカデロ・テクノロジーズと
ランサはアイデラの傘下に
i Magazine(以下、i Mag) 藤井さんはどのような経緯で、IT業界に入られたのですか。
藤井 私はもともと新卒でエンドユーザー企業に入社し、データ処理部門に配属されました。メインフレームのデータ入力から出発して、ダウンサイジングの波に乗りながらクライアント/サーバーシステムの構築やC++など当時の新しい言語を利用した開発に取り組み、さまざまな自社開発のプロジェクトを経験しました。
30歳を目前にして、技術者としてボーランドに転職したのが、IT業界に足を踏み入れた最初です。ボーランドで初めて担当したのがDelphiでした。その後はC++Bu
ilder、Javaなど、最初は技術者として、次にマーケティングスタッフとして、いろいろな製品を担当しました。Javaはエンタープライズ志向が強かったので、企業システムとしての考え方や、企業が求める分散コンピューティングの在り方などを学ぶ貴重な機会を多く得ることができました。
i Mag その後、ボーランドは開発部門をコードギア(CODEGEAR)として分社化し、さらに2008年にエンバカデロ・テクノロジーズ(以下、エンバカデロ)がコードギアを買収しますね。
藤井 そうです。それらの買収に伴って、私もエンバカデロに移りました。2009年にカントリーマネージャーに就任し、現在に至ります。
エンバカデロは現在、ビジュアル開発ツールの「Delphi」、C++の開発環境である「C++Builder」、軽量で高速かつスケーラブルなWindowsおよびLinux向けのSQLサーバーデータベースである「InterBase」を柱に、多彩なアプリケーション開発ツールやデータベース関連製品を提供しています。
i Mag グローバル市場では、ソフトウェア会社のダイナミックな再編が続いていますね。
藤井 そのとおりです。米国のソフトウェア会社であるアイデラ(Idera)が2015年にエンバカデロを、2018年にランサ(LANSA)を買収し傘下に収めたことで、エンバカデロとランサは同じ親会社を擁することになりました。現在、日本では同じアイデラグループのメンバーとして、エンバカデロとランサ、そしてBIツール「Yellowfin」を提供するYellowfin社の3社が活動しています。
シナジー効果を活かして
新たなビジネスチャンスを創出
i Mag 2022年4月にランサ・ジャパンの代表取締役 カントリーマネージャーにも就任されたことで、ランサ・ジャパンとエンバカデロの双方を統括する立場になられたわけですね。
藤井 そうです。Delphi はOracleやSQL Serverなど多彩なRDBMSをターゲットに、クライアント/サーバーシステムやデスクトップ、Web、モバイルアプリなどを開発できるツールです。Db2 for iをターゲットにしたコンポーネントを搭載しているのが、日本でもお馴染みの「Delphi/400」です。一方のLANSAはIBM iが登場した当時から、基幹システム開発の中核的なツールとして実績を重ねてきました。
LANSAもDelphi/400も、IBM iでのシステム開発を支える重要なツールで、どちらも開発生産性の高さには定評があります。開発手法や機能にはそれぞれの特徴がありますが、Delphi/400はどちらかと言うと、開発者主導のツールとして、企業が必要とする多種多様なアプリケーションを迅速に開発するツールとして成長してきました。
一方、LANSAは企業のIT基盤そのものという位置づけで、企業全体のIT戦略の視点に立って活用されてきたように思います。今後はそれぞれの製品の強みと実績、お客様のニーズを考えながら、同じグループに属する両製品のシナジー効果を活かしていきたいと考えています。
i Mag 具体的には、どのようなシナジー効果が考えられますか。
藤井 たとえばエンバカデロでは、ソフトウェア開発体制として、欧米やアジアなど世界中に開発者を分散させ、24時間体制で開発を進めています。これはアイデラの方針であり、エンバカデロも統合されて以降、もともとは米国西海岸に集約していた開発拠点を全世界に分散・拡大してきた経緯があります。
ただこれは実際には、グローバル体制を視野に入れた開発者とのコミュニケーションやリソース管理、進捗管理などさまざまなノウハウが必要であり、それを一歩先んじて実現してきたエンバカデロには、成功・失敗を含めて多くの学習経験があります。
ランサはもともとオーストラリアのシドニーが本拠地でしたが、次第に米国へ、さらにアイデラによる買収後は全世界へと開発拠点を拡大しつつあります。グローバル開発体制の運営に関するエンバカデロの経験やノウハウを、ランサと共有していきたいと考えています。
i Mag なるほど。そのほかのシナジー効果としては、いかがですか。
藤井 たとえば、互いに異なる販売体制の強みを学び合うことも考えられます。エンバカデロではこれまで、個々のDelphi開発者をターゲットにした情報提供を重視し、主にネットやコミュニティを活用しながら進めてきました。それに対してランサ・ジャパンでは、パートナービジネスをベースに、パートナー各社へダイレクトに情報を提供することで、相互の信頼関係を作り上げてきました。
これは、「お互いから学べる点が多い」という意味で貴重だと考えています。現在、両社はオフィスや設備、リソースなどの共有化を進めていますが、相互の製品や技術、ナレッジなども共有していける余地が大きいと思います。
情報発信力の強化と3社の連携
販売体制の革新
i Mag ランサ・ジャパンの代表取締役 カントリーマネージャーに就任された時、どのような経営施策を掲げられたのですか。
藤井 大きくは3つあります。まず情報発信力を強化すること。ランサ・ジャパンはお客様向けの「LANSAフォーラム」やパートナー様向けの「LANSAコンソーシアム」などのカンファレンスを毎年開催し、非常にプレミア感のある情報を提供することで、ご好評をいただいてきました。
しかし今後は、提供する情報の質や領域をもっと拡大し、たとえばIT戦略に近い視点からの情報発信とか、まだLANSAを使っておられない方々に向けた情報なども提供していければと考えています。YouTubeを使った動画による定期的な情報発信などにも取り組んでいきたいですね。
i Mag LANSAを知らない人たちに向けた情報発信、というわけですね。2番目の施策は何ですか。
藤井 ランサ・ジャパン、エンバカデロ、Yellowfin各社のシナジー効果を発揮し、もっと連携しながら新しいビジネスチャンスを創造していくことです。たとえば「Yellowfin」というBIツールはLANSA製品との親和性が高く、うまく連携していくことが可能です。BI機能はもちろんLANSAで作り込むこともできますが、Yellowfinを使えばより簡単に、かつ迅速に実現できるわけです。
まず3社が、「お互いの製品を知る」ことから始めて、どう連携すれば新しいビジネスチャンスを創り出していけるかを考えていきたいです。
i Mag それでは3つ目の施策を教えてください。
藤井 これまでにないLANSAの販売方法・販売環境を築いていくことです。LANSAは先ほどもお話ししたように、これまでパートナービジネスをベースに発展してきました。しかし企業のIT戦略を実現する基盤を導入するとなると、お客様もそれなりに慎重な動きになり、たとえばスマホでアプリを試すような気楽なトライアルは難しい面があります。
そこで今後は、LANSAに興味をもつ方がもっと簡単にLANSAに触れられるように、たとえばクラウド環境を利用して、気軽にトライアルしていただけるような環境をご用意したいと考えています。つまり今よりもっと、情報提供の領域を広げるとともに、製品を試用するまでのハードルを下げるように努力していくつもりです。
それが今後の新しいビジネスチャンスを創造することにもつながると考えています。
藤井 等氏
株式会社ランサ・ジャパン
代表取締役 カントリーマネージャー
エンバカデロ・テクノロジーズ合同会社
日本法人代表 カントリーマネージャー
石油関連会社でシステム開発を手がけ、DBシステムや GISなどの開発を経験したのち、ボーランドに入社。Delphi、C++Builder、JBuilder、VisiBroker などを担当。2008年、エンバカデロ・テクノロジーズによるボーランドの開発ツール部門買収を受け、同社の日本法人マーケティングディレクターに就任する。2009年1月から日本法人代表。さらに2022年4月からはランサ・ジャパンの代表取締役 カントリーマネージャーも兼務する。製品に関連する技術書の執筆や翻訳も手掛け、著書に『Borland C++Builder入門』(アスキー)、『Borland JBuilder J2EE アプリケーション構築入門』(カットシステム)など多数。
[i Magazine 2022 Summer(2022年7月)掲載]