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オーケストラの指揮者のようにIT環境全体を見据えながらIBM iの開発に取り組む ~石川 真法氏 エム・シーシー食品株式会社 |IBM iの新リーダーたち➓

石川 真法氏
エム・シーシー食品株式会社
管理本部 情報システムチーム
シニアプロフェッショナ

エム・シーシー食品では2022年、レトルト・冷凍食品の今後の需要増を見据えて、50年ぶりに新工場が竣工した。その生産システムを構築したのが、ITの責任者として奮闘する石川真法氏である。最高に美味しい食品づくりを支えるシステムづくりが同社のDXであると語る石川氏に、その設計思想を聞く。

 

IBM iからの撤退論議
1年をかけて経営サイドの理解を得る

i Magazine(以下、i Mag) 石川さんはエム・シーシー食品に入社して、どのくらいになりますか。

石川 私が入社したのは2000年です。当社がIBM iを導入したのは1998年ですから、その2年ほどあとの入社になります。最初からIT部門への配属で、私と上司の2人でシステム企画・導入・開発を担当してきました。現在は、新規のシステム開発やアプリケーション保守は外部ベンダーの手を借りながら進めています。当初は私がアプリケーション保守も担当していましたが、IT部門の責任者である現在の役職に就いた2016年以降は、限りなく「ひとり情シス」に近い動き方だったので、保守業務も外部ベンダーに協力いただくことになりました。

i Mag 「ひとり情シス」の時代から比べると、情報システムチームは増員傾向にあるようですね。

石川 そうですね。ずっと1人でIT業務を担ってきましたが、万が一の場合にシステムが回らなくなる、という状態は問題があるため、3〜4年前から中途採用で人員を拡充してきました。現在は50代と60代の社員2名に私を含めて情報システムチームは3名でIT業務に従事しています。理想は各世代に1名、できれば20代・30代の若手社員を加えて構成したいところですが、昨今の採用事情から言うとなかなか難しいです。ただ人数が少ないなりに、バランスやミッションを考えながら対処していこうとしています。

i Mag IBM iの導入から25年が経過するなかで、IBM iから撤退するという構想が浮上したことはありますか。

石川 あります。ちょうど私がリーダーに就任した2016年ごろです。私を含む現場レベルではIBM i継続の意思が強かったのですが、外部のコンサルタントから「オフコンが消滅していく現在の流れを見れば、IBM iもなくなると考えられる。そうなると、現在構築している基幹システムは利用できなくなるのだから、IBM iの利用からは撤退すべき」という意見が出されて、経営サイドが検討せざるを得なくなりました。

経営サイドにとっては、IBM iがよいか悪いかではなく、自社の業務ニーズに沿ってきめ細かく構築した基幹システムがこの先、使用できなくなることが大きな経営リスクだと考えたわけです。

i Mag 現在もIBM iのユーザーであるわけですから、IBM i撤退の危機は回避されたのですね。

石川 そうです。実は私は撤退議論が始まる前から、当社の基幹システムをオープン系のパッケージ製品やERPソリューションに変えて運用できるかどうかをずっと調査していました。結論から言うと、当社に関しては、それは不可能でした。

当社の看板商品に、「100時間かけたビーフカレー」をはじめとする「100シリーズ」があります。食材の美味しさを引き出す調理方法を考え抜き、実に100時間以上もの時間を調理に費やして、深みのある味わいを再現しています。カレーだけでなく、当社の販売するあらゆる食品はどれも、手間暇をまったく惜しまない調理工程を経て送り出されています。その複雑な調理工程をサポートする当社のシステムもまた複雑で、とてもパッケージ製品では対応できないとの結論を出さざるを得ませんでした。

そこでIBMと直接パイプを作って情報を収集し、IBMは一度もIBM iから撤退するとは表明しておらず、この先のロードマップも公開していることを確認しました。そして信頼しているビジネスパートナーからエバンジェリストに来ていただき、経営サイドに直接、IBM iの優位性や今後の戦略を説明してもらう時間を設けたのです。そうした努力を重ねて、やっと経営サイドからの理解を得られ、IBM iの継続利用が決まりました。これに約1年を要しました。未来永劫にわたってIBM iを使い続けるとは断言できませんが、少なくとも当面はIBM i上で基幹システムを運用していく方針です。

最高の食・調理・味を生み出すためのシステムづくり

i Mag IT部内の責任者になって以降、どのようなシステムづくりに取り組んできたのですか。

石川 まず、さらによい商品を作るための本業強化につながる生産システムの改修に着手し、RPG Ⅲで構築しました。次は、2022年に神戸ポートアイランドに竣工した新工場を稼働させるための新たな生産システムの構築です。今後のレトルト・冷凍食品の需要増を担う、当社にとっては50年ぶりの新工場です。ただ生産システムの構築が命じられたのは、竣工から遡るわずか1年半前でしたから、時間的な制限のある厳しい開発プロジェクトになりました。このほか配送費削減に寄与する配送先管理システムなども構築しています。

そして現在は食品ロスの低減、そしてSDGs、環境にやさしい商品づくりを目指すために、在庫管理システムの強化に取り組んでいます。IBM i上で稼働する在庫管理システムを改修する一方、それに連携する形で、オープン系の在庫可視化システムと需要予測ソリューションを導入し、その仕組みづくりに取り組んでいる最中です。

i Mag 石川さんが目指すシステム構築の思想があるとすると、それはどのようなものですか。

石川 私は当社が製造・販売する商品が間違いなく大好きです。どれも美味しいですし、先ほどもお話ししたように、手間暇をまったく惜しまない、こだわりのある調理工程によって生み出されていることに社員でありながら感動しています。この複雑な調理工程を日々こなすために、そして本当に美味しい食品を生み出すために、システムを運用する必要があります。万が一にも、システムが原因で商品を製造できない事態は絶対に避けねばなりません。

災害・障害対策やセキュリティの強化などインフラ面の整備はもちろんですが、やはり業務を深く理解し、複雑な調理工程を支援するためのシステム構築が我々の使命になります。IT部門というのは、どうしてもテクノロジーに目が行きやすく、業務要件よりテクノロジーを優先させてしまう傾向が見られます。当たり前のことですが、何のためにシステムを作るのかを常に忘れないように厳しく自分に問いかけることを心がけています。当社のDXは何かと問われたら、最高の食・調理・味を生み出せるシステムづくりとその運用保守であると考えます。

システムに関連する全体を適切にコントロールしていく

i Mag IBM iでのシステム開発・構築に関して、注意していることはありますか。

石川 一般的な傾向として、最近はIBM i上の基幹システムにはできるだけ手をつけずに、周辺システムやWebアプリケーションを充実させて、APIなどで連携する構築モデルが注目されています。

しかし当社の場合はその考えも理解しつつ、それとは逆の考え方をしています。IBM i上で稼働する基幹システムの潜在力を遺憾なく発揮させるために、ためらいなく既存のRPGプログラムを追加・拡大し、5250エミュレータの高速応答性を活かした開発に取り組んでいます。だから当社ではRPG Ⅲのプログラムも5250画面も、オープン系に加えてさらに機能強化が進んでいます。

たとえば今、「製・販・管」を一気通貫で検索・照会する機能を開発中です。今までは製造システム、販売システム、管理システムと画面を切り替えながら照会していましたが、新しい機能では複数の切り口により複数のシステムを跨いで、一度に照会することが可能です。これを従来の5250エミュレータ、いわゆる黒画面で作成しています。5250でポータル的な表現を可能にしているわけで、画面数・検索数が多くても、5250エミュレータのもつ高速応答性を活かしたから実現できる機能です。

i Mag 最近はIBM iでもGUI画面、Web画面が重視されて、5250画面は悪者扱いされることもありますね。

石川 そのとおりです。だからそれとは逆行した動きですね。「今どき、そんな風には作らないだろう」と言われるのは、承知の上です。社内の一部のユーザーからはWebのようなグラフィカルな画面を望む声もありますが、「なぜ、このように作ったのか」という設計思想を伝えると、当社の場合は納得してもらえました。

テクノロジーを優先すれば、当然ながらWeb画面、GUI画面になりますが、私はテクロノジーに加えて業務やビジネスを優先したいと考えています。よい結果を出すためには手段を選ばない、その結果が5250だと考えてください。もちろん潤沢に予算があれば、GUI化もAPI連携ツールも考えるでしょうが、限られた予算の中で、できるだけ既存の資産や技術を有効に活用するための道を選びたいです。

i Mag 日頃、どのような情報収集を心がけていますか。

石川 セミナー、展示会、ネット、コミュニティとできる限りの情報収集に努めています。IBM iからの撤退が検討されたときは、IBM iに関する幅広い情報収集の必要性を強く感じました。でも今は、IBM iそしてIBMに限らず、多種多様なメーカーやベンダーから、できるだけ多くの情報に触れ、IT全般を見ることが私の仕事だと考えています。

たとえ業務の多くを担っていたとしても、システムに関連する全体をコントロールし、適切にシステムを構築し、保守運用していく力を身に付けねばなりません。いわばオーケストラの指揮者のように全体をコントロールしていきたいですね。

 

石川 真法氏
2000年にエム・シーシー食品に新卒入社。情報システム部門に配属され、IBM i に限らず、情報システム部門に関連する社内のすべての業務を経験し、社内の全ITプロジェクトにも参画。2022年に50年ぶりの新工場建設に伴う生産システム構築を、IBM i の特性を最大限に活用した斬新な手法を用いて、システム構築を完遂。2016年に情報システムグループリーダー。2023年より現職。

(撮影:イノウエショウヤ)

 

[i Magazine 2023 Autumn(2023年12月)掲載]

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