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米国子会社での経験を糧に「ITが生み出せる価値」を考え続けたい ~永井 宏樹氏 株式会社呉竹 |IBM iの新リーダーたち⓬

永井 宏樹氏
株式会社呉竹
管理本部 次長

 

米国子会社でのシステム立ち上げから学んだ、ITに対する徹底した合理性・効率性の追求。呉竹のシステム部門および管理部門の責任者である永井宏樹氏はその経験を糧に、BPR活動から生まれるさまざまなシステム構築をリードする。そして「データをつないで価値を生み出す」ことの意味を、日々考え続けている。

米国子会社のシステム立ち上げで
IT構築の経験と実績を積む

i Magazine(以下、i Mag) 永井さんの現在のお役職は、管理本部の次長とありますね。

永井 そうです。管理本部は総務、人事労務、経理、情報システムなどの各チームで構成されており、企業のリソースを最大化して組織全体のマネジメント業務を遂行するための組織です。私は2023年6月に現職となり、システムと組織リスクマネジメントの領域を統括する業務を行っています。今は、開発業務などはメインで担当しませんが、もともとは情報システム部門の出身です。

i Mag 情報システムの責任者であり、管理部門の責任者でもあるというお立場ですね。入社したときから情報システム部門の配属だったのですか。

永井 大学で情報系を専攻し、2011年に新卒で入社しました。呉竹には一般採用で入社し、研修期間を経てIT部門へ配属となりました。大学時代は確かに情報系の専攻でしたが、開発言語や技術に詳しいわけではなかったので、正直自分がやっていけるのか不安でした。

当社はIBM i上で販売、生産、物流などの基幹システムを運用しています。配属されて3年ぐらいはRPG Ⅲによるアプリケーションの開発保守を担当し、システムを作りながら、生産から入出荷、販売など会社の基本的な業務の流れを理解していくことに費やしました。

i Mag 米国の子会社設立に伴う現地システムの構築を担当されたそうですね。

永井 2013年から、つまり入社から3年目の時期に、米国に子会社を設立することになり、その現地システム構築の担当者となりました。現地赴任ではなく、基本的には米国と日本を出張ベースで往復しながら、2020年ごろまで約6~7年、相当の時間を米国子会社のシステム立ち上げから事業拡大に関わってきました。ITに対する考え方やシステム構築の実際、外部ベンダーを含む人的リソースの管理など、私のITに関する経験や理解はこのときに培われたと思っています。

i Mag 呉竹といえば、墨や筆ぺんですが、海外には以前から製品を供給していたわけですよね。

永井 そうです。当社は米国市場に対して、「ZIG」(ジグ)というブランドで、主にペン・カラーマーカーを販売してきました。日本の市場向けに開発された、墨・液体墨・顔彩・筆ぺんなどの商品においても、呉竹ブランドで海外へ発信し、アーティストの皆様にご愛用いただいています。文房具というよりアート&クラフト分野の商品という位置づけです。それまでは代理店経由の流通だったのですが、2014年に入ってカリフォルニア州サクラメントに子会社を設立し、本格的な米国進出のための環境を整備しようとしたわけです。

そして現地にシステムとネットワークをゼロから構築し、米国市場に当社製品を流通させる仕組みを作るのが私のミッションでした。当時は英語もうまく話せず、貿易業務への理解も浅かったので、本社で貿易業務の実務を研修で学ぶところからスタートしました。2013年10月に現地入りし、目的とする会計システムと倉庫管理システム(WMS)の仕様検討や製品選定について、現地のITコンサルタントを交えて進めていきました。

日本で運用していたIBM i上の基幹システムを翻訳して利用する案もあったのですが、「シンプルで、誰もが取り扱うことのできるシステム」であることが強く求められ、本社のシステムを流用するよりも、ITの最先進国の米国でより現地にあったシステムを採用すべきと判断し、流用する案は見送ることになりました。最終的には当時米国で拡大し始めていたクラウド型のWMSとオンプレミス型の会計システム製品を導入しました。これが第1フェーズで、2014年3月に本稼働しています。

システムに対する
徹底した効率性・合理性を学ぶ

i Mag 第2フェーズはいつからですか。

永井 2015年です。会計システムとWMSで相互にデータを連携していたのですが、事業が軌道に乗り、データ量が増えてくるに従って、負荷が増大したせいか、次第に連携の不具合が発生するようになりました。また、事業として現地のセールス、マーケティングを拡大させるには詳細なデータ分析が必要となりました。

その業務要件を反映する必要もあり、2015年から第2フェーズをスタートさせました。このときはITコンサルタントの手を借りず、現地のITエンジニアを社員として採用し、WMSのリプレースに着手することになりました。構想の結果、オンプレミス型で別のWMSソリューションを採用し、仕訳データだけを会計システムへフィードバックするなど、データ連携の仕組みも変更しました。

i Mag 米国でのシステム開発・運用の経験から何を学びましたか。

永井 採用した現地のITエンジニアとともに、WMSのデータを旧システムから新システムへ移行するためのツールを作成したのですが、徹底した効率性・合理性に基づく考え方を学びました。「手作業での修正・移行を一切生じさせない」「必要なデータが本社もしくは米国子会社にあるならばそれを利用し、再入力のステップを徹底的に排除する」といった方針が、あらゆる場面で貫かれました。「何のためにこのシステムを作るのか」「真に効率化しなければ意味がない」と考えながら開発を進めるのです。

それはエンドユーザー側も同じで、業務に対するコスト意識、システムを利用する際の効率化・合理化・自動化の意識が日本とは比べものにならないぐらい各人に根付いていました。社員1人1人が「自分のやっている業務が会社の利益にどう寄与するか」を常に考えていて、これは「too much the cost」だという言葉をいろいろな場面で聞きました。日本では導入していなかったバーコードスキャンでの入出荷システムをいち早く導入したのも、そうした考え方が背景にあります。

BPR活動から生まれた
多彩なシステム構築

i Mag 米国子会社でシステムの立ち上げを担当していた時期も、日本本社での業務があったのですね。

永井 そうです。出張ベースで行き来していたので、米国へ行きっぱなしではありませんでした。その間、本社側でも業務があり、2018年にはWebプロジェクト推進責任者、2019年にはEC事業準備室メンバーとして参画しています。2020年には米国子会社の業務をサテライト体制に移行し、物流をサードパーティロジスティクス(3PL)に移管することが決定しました。その体制を整えたあと、2020年からは日本本社で国内外両面のシステム構築を行ってきました。2020年6月には情報管理部(当時)のマネージャーに就任しています。

i Mag 呉竹のシステム構築は、BPRプロジェクトと密接に関連しているようですね。

永井 そうですね。当社のBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)プロジェクトは3つのフェーズで変遷してきました。第1フェーズは2017年にトップダウン型の全社プロジェクトとしてスタートし、文字どおり業務プロセスの刷新を目標に掲げました。とは言え、当社にとっての「ビジネス・プロセス・リエンジニアリング」が何なのか、当時はまだ誰も明確なイメージを持てなかったので、業務に潜む「ムリ・ムラ・ムダ」を洗い出し、改善していくことから始めました。

第2フェーズは2020年からです。当時は会社の基盤となるISO 14001(環境マネジメントシステム)やISO 9001(品質マネジメントシステム)の標準規格を用いての活動や、ボトムアップ型のQCサークル活動、それにBPRという3つの活動を展開していました。そこでそれぞれの役割や目標を整理し直して、再スタートすることになりました。私は第1フェーズでは、プロセス改善を進めるメンバーの1人として活動していたのですが、第2フェーズからは責任者として、各プロセスのテーマ管理を担当しています。

i Mag 責任者としてBPR活動をどう推進しているのですか。

永井 BPRでは「プロセス改革」がテーマになりますが、ボトムアップ型の業務改善という意味ではQCサークル活動を中心に据えるのが望ましいと思います。BPRは経営担当者(プロセスオーナー)がトップダウン的にデザインしないと、抜本的にプロセスを変革しにくい面があります。経営を理解し、組織を動かす推進力が必要となるので、第3フェーズが始動した2022年からは幹部社員で構成される経営執行会議とBPRプロジェクトを一体化して進めることにしました。

i Mag BPR活動からは、さまざまなシステム開発テーマが生まれているようですね。

永井 そのとおりです。現在のBPR活動は、顧客関連プロセス、生産プロセス、出荷仕上げプロセスなど、業務改革を推進する7つのチームで編成されています。全プロセスの課題に情報システム部門が関わっており、ITの支援なくしては、実現できないテーマばかりです。

たとえば販売管理ではBPR活動の一環として、IBM i上のマスターに商品を登録すると自動的に外部公開用のデータベースに反映してWeb受注システムへ公開される仕組みや、販売担当が顧客先で取った受注を即時に基幹システムへ連携させるモバイル受注システムなどが開発されました。また生産では、工程管理をiPadで実行するシステムや、大型モニターでライン稼働状況をリアルタイムに把握するシステムを開発し、工程の見える化と効率化に成功しました。

さらにiPhoneを使った倉庫管理システムもあります。iPhoneにバーコードスキャナを装着し、商品をスキャンするとiPhone上に表示される出荷明細が1つ減り、その作業を繰り返して明細がなくなると、ピッキング作業が完了するという仕組みです。これはIBM i上で動作するモバイルアプリ開発ツールである「LongRange for RPG」を使って、ソリューション・ラボ・ジャパンの開発協力のもと実現しました。同様の仕組みを梱包工程、入出庫、棚卸しでも導入しています。

i Mag BPR活動はこれからも続きそうですか。

永井 これからも続けていきます。実際のところBPRのテーマとして検討されるのは、呉竹のDXに関わる内容が多いので、新たにDXを冠したプロジェクトを構築してもいいかもしれません。

i Mag 永井さんが今取り組んでいる最も重要なミッションは何ですか。

永井 最大のミッションは組織づくりと人材の育成です。冒頭にお話ししたように、私の今の職責はシステム部門の責任者、組織マネジメントを担う管理部門の責任者としてそれぞれの領域で当社のリスクを最小化し、利益を最大化させることを使命としています。

システム部門の役割は、ITを通じて価値を高めることが最も重要だと考えています。企業が与える付加価値はお客さまに対する品質、コスト、納期、体験、喜びなどさまざまですが、ITを通じて、それらをどう高められるかが重要です。また管理本部のミッションは「経営と結びついたシステムを通じて、ITを活用し継続的に利益を創出する」ことだと定めています。それに基づき、経営方針に沿った戦略として「収益性の拡大」「生産性の向上」「リスクマネジメント」の3つを軸に戦略を遂行していきます。システム部門長の役割は、これらのミッションを達成するために、「ヒト、モノ、カネ、情報、時間というリソースを最大限に活用すること」「それらを集めきり、使い切っていくこと」「コントロールするという領域にどれだけ入っていけるか」だと考えています。

全社方針の1つである「データをつないで価値を生み出す」を中心に据え、どのような価値を生み出していけるかを日々、考え続けていきたいと思っています。

永井 宏樹氏
2011年に入社、同年総務部システムチーム配属。基幹システムの開発保守を担当。2013年、米国子会社設立IT担当。2018年、Webプロジェクト推進責任者。2019年、EC事業準備室メンバー。2020年、情報管理部マネージャー就任。2023年6月より現職。

株式会社呉竹
本社:奈良県奈良市
創業:1902年
設立:1932年
資本金:8000万円(2024年5月)
従業員数:248名(2024年5月)
https://www.kuretake.co.jp/

撮影:山田太一

 

[i Magazine 2024 Summer 掲載]

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