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拠点も土地勘もない沖縄で、事業モデルの変革に挑戦 ~その変革の方程式は何か、ソルパック田中良治氏に聞く

ソルパックは今、従来の事業モデルとは異なる取り組みに挑戦している。安定した現在をアイデアと情熱をもって揺り動かし、新しい体制を整えつつの挑戦だ。その先頭に立って変革をリードする、技術革新戦略室の田中良治CDTOに話をうかがった。

田中 良治 氏

株式会社ソルパック
取締役 CDTO
技術革新戦略室 室長

新しいことを始めるには
自ら変わっていく必要がある 

-- 田中さんは2020年6月に取締役としてソルパックに入社されて、ほどなく「技術革新戦略室」をお作りになっています。これはどういう経緯だったのでしょうか。

田中 当社は、2018年に創業社長が退任し、現社長の藤田(洋一郎氏)が就任しました。そして今年は、創業から25年の節目を迎えます。ある意味で「第2の創業期」に入ったわけですが、その第2の創業期の大きなテーマとして、新しい事業の創出や新しい働き方を目標としたデジタルトランスフォーメーションを掲げています。そのリード役を任されたのが私で、技術革新戦略室はその推進部署ということになります。

-- ご担当範囲は非常に幅広そうですね。

田中 それで、新しいことを始めるには私たち自身が変わっていく必要があるので、そのための武器として「技術をもつ人材」の育成を第一に考えました。技術革新戦略室自体は人材育成のための組織ではないのですが、人材を育成しつつ新しい事業を創出していこうと思っています。

-- 日本IBMからソルパックへ移って、どのような印象を持ちましたか。

田中 徐々に見えてきたのは、プロダクトアウトのウエイトが高いという印象でした。当社は25年の歩みの中で非常に幅広く製品を扱ってきましたが、そのこともあって保有する製品をベースに自分たちができることをお客様に提案するというビジネスを中心にしてきました。

それも大切な事業ですが、しかしお客様がほんとうに困っておられるのはそこじゃないということも多々あると思います。むしろ、お客様の困り事を起点にして解決策を提案しデリバリーするほうが、いろいろな製品・技術を選択できるし、柔軟にソリューションを組むことも可能です。そしてそうしたアプローチを取ることによって、私たち自身が変化に強くなるだろうと思うのです。

このことは前職のIBMも、私の入社当初はプロダクトアウトの側面をもっていたので、身に染みて感じていることなのです。

-- IBMは最近になって、「ビジネスモデルの転換」や「共創」「エコシステム」を盛んに言うようになりました。

田中 私は日本IBMで30年ほど金融系を担当しましたが、金融系のビジネスは徹底してお客様の課題を起点にした問題解決ビジネスです。もちろんIBMの製品・技術を使いますが、それだけでは済まないことが大半なので必然的にゼロベースで考え、ソリューションを模索します。

当社について言えば、プロダクトアウトになる理由の1つが、ゼロベースで発想し開発することが少ないからだと思うのです。それで、創造的に開発できる人材の育成を第一に挙げました。

-- そのことは田中さんがコラムでお書きになっている「企業カルチャーを変えていく」にも通じますね(*1)

拠点も土地勘もない沖縄で
不動産アプリに挑戦    

田中 そこで1つの試みとして、2021年8月に全国の地方銀行5社が主催する「X-Tech Innovation 2021」の沖縄地区予選に応募しました。当社にとって、人を育てつつ、技術による新しいソリューションを開発するということの実践です。1次・2次予選を通過して最終選考まで行きました(*2)

-- どういうソリューションを開発したのですか。

田中 簡単に言うと、不動産の賃貸契約時の手続きを場所や時間に縛られずに行えるスマホアプリです。

不動産の賃貸契約を結ぶときは、契約手続きと重要事項説明などが必要になります。ふつうは不動産業者の店頭で手続きをしますが、今のスマホの普及状況や利用者の習熟度を考えたら、スマホで手続きするほうが圧倒的に便利です。いつでも手続きできるし、ロケーションフリーで、ペーパーレスも実現します。法律の整備が進んできて、スマホで完結できる時代は、そんなに先の未来ではなくなってきていると感じたのが、これに取り組んだ理由です。スマホを使えば、利用者も不動産業者も共にハッピーになれるはずです。そんなアプリを開発したいと思ったのです。

-- アプリ名は何というのですか。

田中 仮称で「かんたん新居手続き みんなのアプリ」としました(*3)

-- 技術的なポイントは何でしょうか。

田中 契約手続きの中では支払いや住所変更なども発生しますが、それらに対応するのにプログラムを一から開発するのではなく、銀行などの外部サービスを利用する基盤を採用したことです。これによって、支払いなどもAPIでつなぐだけで処理できます。利用者は特に意識することなくシームレスに銀行サービスを利用でき、不動産業者にとってはスピーディにサービスの追加・変更が行えます。

-- ところで、なぜ不動産分野だったのですか。

田中 所属するFintech協会の会合で、不動産業界の人たちから「不動産の手続きにはアナログの部分がたくさんあって、デジタルの活用で何とかならないのか」という話をよく聞いていたのです。「契約を電子化して、そのあとの支払いも一貫して処理できるとすごく便利」ということも耳にしていました。アプリの開発前に沖縄の不動産業者を回ってみると、聞いていたとおりの悩みをお持ちでした。

それと、金融機関はどの業界の企業よりも自社サービスをAPIで公開していますから、それも使えばシンプルに開発でき、決済などのサービスも一挙に実現できるという見込みもありました。

-- 沖縄には拠点や土地勘があったのですか。

田中 それはまったくありません。沖縄は観光に次ぐ産業としてITに力を入れていますから、新しい事業を創出する拠点には、冒頭でも申し上げたそれを遂行できる技術者の育成の必要性を感じていたので、IT人材育成に重点を置く沖縄県での人材発掘にかけてみたのです。今回のアプリは沖縄で開発し、実証実験も沖縄で実施しています。

-- その実証実験の結果はどうでしたか。

田中 沖縄の銀行3社、不動産業7社、沖縄ITイノベーション戦略センターに協力をいただき、今年1月11日~2月28日に実施しました。アプリの登録数は45件で、実際の契約手続きに利用していただきました。

利用者へのアンケート結果を見ると、「便利と思う」が94%あり、「メリット」としては「場所を選ばない(ロケーションフリー)」が39%、「紙が不要(ペーパーレス)」が12%、「その両方」45%という内訳で、利用者に利便性を感じてもらうという所期の目的は達成できたと考えています。

-- 実証実験ではチャリティも実施したのですね。

田中 契約手続きにアプリを使うとロケーションフリーになりますから、不動産業者の店舗に出向くことが不要なります。車の移動が不要になるので、CO2の排出量を削減できます。そのことに着目して、アプリの登録とアンケートの回答をそれぞれ1件10円と設定して、その合計を地球環境基金に寄付しました。不動産のアプリと環境問題は何の関係もないようですが、このようなアプリでも社会貢献できることを示す狙いがありました。

-- 「かんたん新居手続き みんなのアプリ」は今後どのような予定ですか。

田中 年内にバージョンアップし、Produced by Okinawaのアプリによるサービスとして商用化を進める予定です。

琉球大学の学生との活動で
「まず動く」重要性を実感 

-- 1つ成果を挙げたわけですが、改めてデジタルトランスフォーメーションをどのように定義していますか。

田中 私の中ではデジタルトランスフォーメーションの一義的な定義はありません。変革に挑戦し、さらにそれを実現できれば、最初は小さな成果でも大きなものにする変わる意欲、マインドセットが醸成されることが重要だと思っています。よって、私のコラム「プロジェクト dX」のdを小さくしたのは、デジタルはあくまでも手段で、主役はトランスフォーメーションのほうにあると思っているからです。そしてトランスフォーメーションにフォーカスすると、主役は常に人になります。つまり人が変わらないと、いくら技術が進んだとしても変わらないと思うのです。

それに関しては日本CTO協会も、DXには「Digital Transformation(企業の変革)」と「Developer eXperience(ソフトウェア開発者の体験価値向上)」の2つがあるとして、変化と人にフォーカスしています。

-- 人が変わるためには何から着手するとよいのでしょうか。

田中 そこは始終模索していることですが、昨年、確信を深めるような経験を1つしました。

昨年10月~11月中旬に、琉球大学の学生を対象に「ITを活用するビジネスの創出」というテーマで模擬体験プロジェクトを行いました。前半の2週間は経産省が提供しているITスキルのeラーニングを学生に受講してもらい、後半の2週間は週3回、2時間ほどの時間を使って私とソルパックのエンジニア2人の計3人でメンタリングをオンラインで行いました。そして最終フェーズでは沖縄に出向いて、机を並べてビジネスアプリケーションを試作しました。

学生はもとよりプロダクト前提でビジネスを創出するようなことはできませんから、ゼロから考えてアイデアをひねり出し、必要なスキルを学んで、スケジュールを組んで進んでいきます。

すると、「まず動く」という考え方で取り組んでみると、前へ進んでいけるのです。もちろん、進んでいく先々には未知のことがたくさんありますから、乗り越えるべき困難も多々あります。しかし動いていく中で何をどうすればよいかを考ることによって、解決策や打開策が見えてくるのです。

プロダクトアウトだと、なかなかそうはいきません。プロダクトの機能に不足するものがあると、ついついできない理由を考えてしまい、そこから前へ進めなくなるのです。

琉球大学の学生を対象にしたインターンシップ・プログラムで、「まず動く」ということの手応えを得ることができました。技術革新戦略室で取り組もうとしていることの裏づけにもなると感じ、少し自信が出てきました。

将来に向けた挑戦をスタート
3つの変革と社会への貢献   

-- ソルパックが今、取り組んでいる将来に向けた挑戦の計画はどういうものですか。デジタルトランスフォーメーションが柱だとお聞きしています。

田中 当社のデジタルトランスフォーメーションは、データやAIを駆使するという手段からのアプローチにとらわれず、まずビジネスモデルを変えるところからスタートしています。

当社のビジネスモデルは、社員が働いた分、売上が立つというモデルだったのですが、日本の労働人口が減っていく中でそれを維持し成長を続けることは、明らかに困難です。

そこで今、将来に向けた挑戦計画として3つの変革に挑戦し始めました。1つは「お客様層の拡大」です。従来のお客様は企業やIT関連企業が中心でしたが、今後は不動産アプリの利用者のようなコンシューマーへと広げます。2つ目は「業態の進化」で、従来のビジネスパートナーはIT系でしたが、今後はAPIを提供するさまざまな企業と連携し、当社は多様なサービスを提供するベンダーへと進化していきます。そして3つ目は「営業力の高度化」で、ネットやデジタルを駆使した営業・販売に挑戦します(*4)

それともう1つ大きな取り組みは、社会への貢献です。私たちの企業活動が、同時に社会貢献につながるような、そういう価値観や文化をソルパックの中心に築きたいと思っています。

-- ソルパックのサイトには、「あたらしい“ありがとう”に挑戦」というページも開設していますね(*5)

田中 今考えていることの社内外への発信です。社会の明日に続く道を共に創る力になろう、という気持ちでページを作っています。

-- 最近、「沖縄開発センター」の将来構想も公表されましたが、沖縄では次に何に挑戦するのですか。

田中 「みんなのアプリ」に続く第2の矢として、農業をテクノロジーで変えることに協力するための検討に着手しています。沖縄の方々と話をすると、農業をITで活性化したいとか、漁業をテクノロジーで進化させたいという声がいろいろなところから聞こえてきて、オフィスでぬくぬくと過ごす自分の戒めになるような刺激を受けています。

-- 不動産の次は農業ですか!

田中 たとえば、若い人たちが外部から集まるワーケーションのような場を作り、仕事の傍ら農業を手伝うというような仕組みもありではないかと思っています。結果的にフル装備のITにはならないとしても、現在の課題を解決する一助としてITが活用できるのならば、それでよいと思います。

第3の矢も、今構想を煮詰めているところです。沖縄という地域への貢献を通して、私たちソルパック自身が変わっていきたいと考えています。

 

(*1)コラム「プロジェクトdX|変革実現に求められる企業カルチャー(前編) ~対極の発想をする」
https://www.imagazine.co.jp/column-prox-2-2/

(*2)「X-Tech Innovation 2021」
https://www.ibank.co.jp/xtech2021/

(*3)「かんたん新居手続き みんなのアプリ」
https://www.solpac.co.jp/company/NewThanksChallenge/DemonstrationExperiment/

(*4)新たなビジネスモデルへの変革 “3つ革新に挑戦”
https://www.solpac.co.jp/company/NewThanksChallenge/Commercialization/

(*5)「あたらしい“ありがとう”に挑戦」
https://www.solpac.co.jp/company/NewThanksChallenge/


田中 良治 氏

株式会社ソルパック
取締役 CDTO
技術革新戦略室 室長

2020年にソルパック入社。その前は日本IBMで約30年、一貫して銀行のお客様を担当。銀行統合プロジェクトを複数担当し、ミッション・クリティカルで多くのステークホルダーと協業する複雑なプロジェクトを多数経験した。幼少期からサッカーを愛好し、現在もチームに所属してプレーをし、観戦も楽しむ。沖縄経済同友会・日本CTO協会・プロジェクトマネジメント学会・Fintech協会などの各会員。

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