MENU

次のB2B・EDI基盤|レガシーからインターネット基盤へ 大過渡期を迎えたEDI事情

現在の状況に
強い危機感

 NTT東日本とNTT西日本は2017年10月に「固定電話のIP網への移行後のサービス及び移行スケジュールについて」という発表を行い、2024年1月からNTT東西の局間のネットワークを交換機ベースからIP(ルータ)ベースへと順次切り替えていくことを公表した。

 この移行に伴い、サービス終了となるINSネット「ディジタル通信モード」上でレガシー手順を使ってEDIを行ってきた企業は、インターネットベースのEDIへの移行が不可避となったが、インターネットEDI普及推進協議会(Japan inter net EDI Association。以下、JiEDIA)の仲矢靖之会長代理(普及推進部会長)は、「現在の状況に強い危機感を覚えています」と、次のように語る。

「EDIは企業と企業のデータ交換なので、自社の都合だけでプロトコルを変更することはできません。またプロトコルで双方の合意があったとしても、相手先との接続性の検証などに一定の工数と時間がかかります。どの企業も取引先は1社や2社ではないでしょう。接続性の検証だけでも相当な時間がかかります。つまり2024年まで時間は十分にありそうで、実はあまりないのです。ところがINSネット『ディジタル通信モード』のサービス終了をご存じない企業も少なくなく、全体的に見て関心や取り組みのレベルは非常に低いと言わざるを得ません。EDIが動かなければビジネスは進まないということを考えれば、現在はきわめて憂慮すべき状況です」

仲矢 靖之氏
インターネットEDI普及推進協議会
会長代理 普及推進部会長

 

JiEDIAは代替策として
インターネットEDIを推奨

 ここで、固定電話のIP網への移行について今一度整理しておこう。

 NTT東西の現在の回線網は図表1の左側のようになっている。

 

  このなかの「中継交換機」が2025年ごろに“寿命”を迎えるために固定電話網(PSTN)のサービスが終了し、2024年以降は図表1右側の「移行後」の形態となる。

 問題になるのは、この固定電話網とJCA、全銀ベーシック、全銀TCP/IPといったレガシーなプロトコルを使って「数十万社」とも言われる企業がEDIを行っていることで、それらは「ディジタル通信モード」の終了によって、その形態でのEDIができなくなる。

 それゆえインターネットEDIなど代替策への移行が必須になるが、その移行にはさまざまな問題・課題があるため、1企業の問題にとどまらず、日本のビジネス全体に深刻な影響を与えるインパクトを秘めている。それが大きな問題なのである。

 またこの問題は、固定電話を使った音声系EDI(モデム経由)でも同様である。

 たとえばNTT東西は、2024年までに代替策への移行が間に合わない企業を想定して、既存のISDN端末を利用する「メタルIP電話上のデータ通信」という「補完策」を提示している。

 その補完策を、NTT東西が構築したテスト環境上で技術検証したJiEDIAの石金克也会長代理(技術部会長/認証局審査部会長)は、「補完策はINSネットと比べてIPパケットへの変換が入るため、INSネットよりも1.1~4.0倍、平均で1.5~2倍程度の遅延が確認できました。これは、これまで30分の伝送で済んでいたEDIが45分~1時間かかることを意味します。補完策はあくまでも期間限定の代替措置にしかなりません」と指摘する。

石金 克也氏
インターネットEDI普及推進協議会
会長代理 
技術部会長/認証局審査部会長

 

 JiEDIAでは従来型EDIの代替策として、インターネットEDIを推奨している。「グローバルで見るとEDIはインターネットに移りつつあり、標準メッセージはXMLが基本となっている」(仲矢氏)のがその理由で、インターネットベースであれば、既存のサービスや社内システムとも親和性が高く、ネットワーク・スピード、プロバイダー/ベンダー、設備面などで多くのメリットを得られるからである(図表2)。

 

団体・企業への情報提供と
技術面の整備を進める

 インターネットEDIの普及へ向けてJiEDIAでは、ディジタル通信モード終了の影響を受ける業界の団体・企業への情報提供と、技術面の整備の両面で取り組みを進めている。

「従来型EDIはさまざまな業界・企業で幅広く使われ相当数の利用があります(図表3)。最終的にはそれらすべてをインターネットEDIに切り替える必要がありますが、各企業がバラバラの方式を採用すると相手先ごとに対応を変えざるを得なくなるため、可能な限り業界統一の移行方法を定めるのが望ましくあります。そうした説明を主要な業界団体に対して一通り終えたところですが、移行に対して業界ごとに温度差があるので、情報提供活動を粘り強く続けていく考えです」と、仲矢氏は述べる。

 

 技術面の整備では、従来型EDIでは不要だった電子証明書の利用がインターネットEDIでは想定されるため、「各業界ごとのセキュリティ基準や認証局の乱立を防ぐ」(石金氏)ことを目的に、「データ交換認証局認定制度」を設けた。

 先行している「流通業界共通認証局証明書ポリシー」をベースに、「産業界全体で使えるデータ交換共通認証局証明書ポリシーになるよう全面改訂した」(石金氏)もので、JiEDIAでは流通BMS協議会が有していた「認証局認定機関」の譲渡も受け、申請のあった企業について審査を行い、認証局としての認定を進めている。

 また、全銀ベーシックおよび全銀TCP/IPのユーザーに対してはインターネットEDIへの移行を推奨しているが、全銀手順固有の仕様を業務システムにおいて密に利用している場合は、「全銀TCP/IP手順・広域IP網」への移行を勧めている。

 全銀TCP/IP手順・広域IP網は、全銀TCP/IPにインターネット利用で必要になる暗号部分を組み込んだもので、業務システム(アプリケーション)の変更が不要なため、移行作業を最小にできるメリットがある。

 さらにJCA手順からインターネットEDIへ移行する企業・団体に対しては、流通BMSで広く普及しているJX手順への移行を推奨している。「JX手順には流通業界特有の仕様や運用があるため、すべての業界・企業で利用できるよう、流通BMS協議会からJX手順の維持・管理を継承し改訂を進めています」と、石金氏は説明する。

 その全業界で利用可能な「汎用版」は、年内にバージョン1.0をリリースする予定という。

「インターネットEDI移行
チェックシート」も公表

 JiEDIAでは、インターネットEDIへの移行を円滑に進めるためのツールとして、「インターネットEDI移行の手引き」と「インターネットEDI移行 チェックシート」を公表し、誰でも使えるようにしている。

 移行のステップとしては6つあり、44の検討項目がある(図表4)。

「この手引きとチェックシートをご覧になれば、従来型EDIからインターネットEDIへの移行において、いかに多くの検討すべき項目があるか、その実施にどれだけ時間と工数がかかるかをご理解いただけると思います。ディジタル通信モードのサービス終了まで、猶予はほとんどありません」と、仲矢氏は改めて警鐘を鳴らす。

[i Magazine 2019 Winter掲載]

新着