Text=駱 コウ、大濱美月 日本IBM
近年のIT環境の変化に伴い、AIを活用した統合的なIT運用管理が求められている。
本稿では、IBM Poweに対して、高度な自動化およびシステムの可視化を実現するAPM(Application Performance Management)製品である「IBM Instana Observability」(以下、Instana)を紹介し、統合監視および運用管理の方法を説明する。
従来のIBM Powerの監視について
従来のIBM Powerの監視には、さまざまな方法やツールが提供されている。一般的な監視方法としては、以下が挙げられる。
◎IBM PowerVC
仮想化環境を管理するためのソフトウェアであり、IBM Power上で仮想マシンを監視するための機能が含まれている。
◎IBM Powerに向けたサードベンダー製の運用管理製品
IBM Power環境を対象にした専用の運用管理ツールで、サードベンダーから提供されている。
◎IBM Cloud Pak for AIOps、Netcool Operations Insight、Tivoli Monitoringなど
IBM Powerを含むマルチクラウド環境全体を統合的に監視し、管理するためのIBMソリューションである。
◎nmonやZabbixなどオープンソースの監視製品、サードベンダー製の運用監視製品
IBM Powerを含むマルチクラウド環境全体を統合的に管理・監視するサードベンダー製の運用監視ツールである。
これらのツールや方法を組み合わせて、IBM Powerの監視を効果的に実行できるが、統合監視の環境にPowerを組み込んだ、あるいは組み込む予定がある場合、Instanaであれば、1つの可視化ソリューションとしてシステム全体のハードウェア、パフォーマンス、ログの監視、およびアラートと通知、自動化と自己修復を実現できる。
なぜIBM Powerの監視でInstanaが必要か?
近年、数多くの企業がハイブリッド環境でITシステムの統合監視を実現することに注力している。特にシステム更改のタイミングで、運用監視業務の省力化、効率化を求められる。こうしたニーズを踏まえて、自動化技術およびAIを活用したInstanaが運用担当者の負荷軽減、アプリケーション/システムの品質向上に貢献する。
IBM PowerユーザーがInstanaを使用するメリットには、以下が挙げられる。
統合された監視プラットフォーム
Instanaは、アプリケーションからインフラストラクチャまでを網羅する統合された監視プラットフォームである。IBM PowerをInstanaで統合監視することで、シングル・ダッシュボード上で複数の環境やリソースのパフォーマンスを可視化できる。
ホスティングされたサービスの可視化
IBM Powerがクラウドやデータセンターでホスティングされている場合、Instanaを使用することで、クラウドやデータセンター上で実行されているIBM Power ベースのアプリケーションやサービスのパフォーマンスを監視できる。
リアルタイムの可視性
Instanaはリアルタイムでアプリケーションおよびインフラストラクチャの可視性を提供する。IBM Power上で実行されるアプリケーションやワークロードのパフォーマンスや健全性を監視し、問題が発生した場合には迅速に特定し、対応できる。
AI/MLの活用によるトラブルシューティングの自動化
InstanaはAIや機械学習(ML)を活用して異常の検出や問題原因の分析を行なっており、問題の原因を自動的に特定し、適切なアクションを提案する。これにより、障害のトラブルシューティングや解決が迅速に行われ、システムの可用性が向上する。
Instanaに内蔵されたAIの学習によって監視を自動化するだけでなく、近年注目を集める生成AIとの連携機能の実装も予定されている。IBMの提供するwatsonx.aiやIBM watsonx Code Assistantとの連携に力を入れており、将来的にはwatsonx.aiを活用したインシデントのサマライズやIBM watsonx Code Assistantを使ったアクションの自動化が可能になる。
またInstanaは業界で最も自動化されたAPMツールであり、製品の導入、監視、問題分析などさまざまな機能を自動化している。そのため迅速に監視を始められる。
エンドツーエンドのモニタリング
Instanaはアプリケーションのエンドツーエンドのモニタリングを実行する。これにより、IBM Power上で実行されるアプリケーションの全体的なパフォーマンスを把握し、ユーザー・エクスペリエンスの向上に貢献する。
クラウドネイティブなアプローチ
Instanaはクラウドネイティブなアプローチを取っており、クラウドベースのアーキテクチャにより、スケーラビリティに優れている。さまざまな規模のアプリケーション環境に適応し、IBM Power上で実行されるアプリケーションを効率的に監視する。このアプローチにより、アプリケーションのスケーラビリティや柔軟性が向上し、ビジネスのニーズに適した運用が可能となる。
これらのメリットに基づいて、IBM PowerユーザーはInstanaを活用することで、アプリケーションのパフォーマンスや可用性を向上させ、ビジネス価値を最大化できる。
InstanaでIBM Powerの何を可視化できるか
Instanaは、IBM Powerに関して次のような要素を可視化できる(図表1)。
① IBM Powerの基盤を含めた統合的な監視
AIX、Linux、IBM iが稼働する仮想サーバーだけでなく、システム筐体やVIOS(仮想I/Oサーバー)を含めたインフラ基盤全体を統合監視するダッシュボードを提供し、そのリソース使用状況の詳細を確認できる。また、アプリケーションからインフラまでのイベントを一元化に可視化する。
② リソース使用状況の監視
IBM Powerの各レイヤーのリソース使用状況を監視し、CPU、メモリ、ストレージ、ネットワークなどの使用率を可視化する。
③ パフォーマンスのトラブルシューティング
IBM Powerのパフォーマンスを継続的にモニタリングし、異常が検出されると通知を送信し、問題の原因を特定するための情報を提供する。
④ アプリケーションパフォーマンスの可視化
IBM Powerシステム上で実行されるアプリケーションのパフォーマンスを監視し、レイテンシーやリクエストの処理時間などのメトリクスを収集する。
⑤ システムの可用性と信頼性
IBM Powerの可用性と信頼性を継続的に監視し、障害やシステムのダウンタイムを検出して、早期に対処するための情報を提供する。
InstanaによるIBM Powerの監視方法
InstanaによるIBM Powerのモニタリングには、3つの監視方法がある。
❶ AIX/Linux エージェント
AIX/LinuxエージェントはInstanaバックエンドからダウンロードして、AIX/Linux に導入する。エージェントの種類には、「動的エージェント」と「静的エージェント」 の2種類がある。
◎動的エージェント
エージェント起動時にインターネット経由でリポジトリから必要なセンサーを取得。自動構成、エージェントの自動更新も実施できる。
◎静的エージェント
リリース時点の最新コンポーネントをすべて含んだ状態で提供される。インターネットに接続していなくても、エージェントの起動が可能である。
❷ Power HMC Monitor
個別のエージェントとしては提供されず、InstanaエージェントからHMCに接続・情報取得を行い、Instanaエージェント経由でInstanaのバックエンドに通知する。
Power HMCセンサーの仕組み
InstanaのIBM Power HMC センサーは、REST APIを利用してメトリックを収集し、パフォーマンス上の問題があるかどうかを判断するために処理する。また、利用可能な異なるアラートチャネルを通じて関係者に通知し、パフォーマンス問題の原因を修正するのに役立つ。
Power HMCで取得されるメトリック
(サポートしているバージョン:POWER9、Power10)
・電源管理対象システムのプロセッサ、メモリ、ネットワークのメトリック
・ハイパーバイザーのプロセッサとメモリのメトリック
・LPAR とVIOS のプロセッサ、メモリ、ネットワーク、ストレージのメトリック
❸ IBM iの監視
IBM i はIBM Powerで稼働するOSの一種である。35年という長い歴史を持つ製品だが、現在も多くのユーザーに利用されている。システムの安定稼働のために、他のOSと同様にIBM iでも監視は非常に重要である。
従来からさまざまな監視方法があるが、IBM iでは「IBM Navigate for i」という管理コンソールを提供しており、このコンソールを介して性能監視やメッセージ監視など各種監視用のコマンドを実行できる。
監視機能以外にも複数の管理タスクをIBM Navigate for i上で実行できるので、非常に便利な機能と言える。他のOSと異なり、この機能だけで必要な監視ができ、追加で監視ツールを導入する必要がないのもユーザーにとっては大きなメリットである。
しかし、IBM Navigate for iはIBM iに内包される機能のため、IBM i以外の環境は監視できない。ただし近年では、さまざまな環境でシステムを稼働させ、多様な環境をリアルタイムで可視化できるObservability(可観測性)が重要視されている。
そこでObservabilityを提供するAPMツールであるInstanaを使って、IBM iをどのように監視できるのかを紹介する。
Instana でIBM iを監視する
IBM iをInstanaで監視する価値・メリット
Instanaは、アプリケーションのパフォーマンスを監視するAPM製品である。既存の監視ツールとの違いを以下に挙げる。
① 網羅的な監視
InstanaはIBM iを含めたハイブリッドクラウド環境を統合して監視できる。複数の環境やシステムを網羅的に監視することで、IBM iだけでなく、他のシステムとの相互作用や依存関係をトレースし、システム全体のパフォーマンスと健全性の確保が可能になる。
MQと連携して他システムとメッセージ連携やジョブ連携している場合にも、統合的な監視を提供するInstanaは有効である。
またIBM iが稼働しているハードウェア、IBM i上で稼働しているアプリケーションを一気通貫で可視化できるため、環境を垂直方向でも可視化が可能である。
② IBM i だけでなくDb2 for iも監視可能
IBM iはIBM独自のOSであるため、IBM iを対象に含めているサードベンダー製のAPMツールはほとんどない。しかしInstanaではIBM iもサポートしているので、IBM iユーザーにとっての監視要件を満たす数少ないAPMツールである。
またIBM iには専用のミドルウェアとして、Db2 for iが組み込まれており、高度なデータ管理機能を提供しているが、このようなIBM i専用のミドルウェアもInstanaで監視可能である。
IBM iを監視する仕組み
Instanaを使ってIBM iをどのように監視できるのか、以下に説明する。
Instanaはエージェントを監視対象にデプロイすると、自動的に監視に必要なセンサーをロードし、構成し、監視を開始する。
ただし現時点では、IBM iインスタンスならびにDb2 for iのどちらもOSに直接デプロイする専用のエージェントが存在しないため、リモート監視のみをサポートしている。
リモート監視では、監視対象に直接エージェントを導入することなく監視できる。IBM iには直接エージェントを入れられないため、別のホスト上に導入したエージェントの設定を行うことで、IBM iやDb2 for i専用のセンサーがデプロイされ、監視する仕組みとなっている。
センサーには各テクノロジーの監視のベストプラクティスがあらかじめ組み込まれており、これにより従来のように監視設定を行わずとも、簡単に監視が可能となる。
IBM iインスタンスの監視
IBM iインスタンスから収集された情報は、Instanaのインフラストラクチャ画面で確認する。Instanaで取得できる主なデータは、以下の3つである。
・ホスト名、OSバージョンなどの設定データ(図表6)
・CPU、ストレージ、ジョブ、スレッドなどのシステムメトリック(図表6)
・出力キューのメトリック(図表7)
Db2 for iの監視
Db2 for iはIBM iインスタンスの監視の構成が行われると、自動的にモニタリングが開始される。Instanaのダッシュボード上では、IBM iインスタンス個別のエンティティとして表示される。
Db2 for iの場合も、さまざまなメトリックが取得できる。Instanaで取得できる主なデータには、以下の2つが挙げられる。
・収集サービスや収集サービス・ライブラリー名の設定データ(図表8)
・クエリーやデータベースへの書き込みなどのパーフォーマンスメトリック(図表8)
Instanaでは多様なテクノロジーの詳細なメトリックまで取得できるのはもちろん、さまざまな環境を可視化し、1つのダッシュボードで分析まで実行する高度な多機能ツールである。
IBMテクノロジーへのサポートも拡大しており、クラウドネイティブ環境のユーザーだけでなく、今回紹介したようにIBM Powerのユーザーも十分活用できる。
Instanaを活用すれば、レガシーな環境からクラウドネイティブな環境までを統合監視するObservability実現への一歩になると考える。
またInstanaは無料のトライアルも提供しているため、興味があればぜひ下記から試してほしい。
◎Instanaトライアルはこちらから
著者
駱 コウ氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部 データ・AI・オートメーション事業部
Automation Technical Specialist
2020年、日本IBMに入社。近年はIBMの自動化運用管理製品であるIBM Instanaをメインで担当し、金融・製造を中心としたユーザーに対する運用管理システムの提案、検証を携わっている。
著者
大濱 美月氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部 データ・AI・オートメーション事業部
Automation Technical Specialist
2021年に日本IBMに入社。入社後は製品テクニカル・セールスとして、AIOpsポートフォリオ製品群を主軸に担当し、可観測性、ライセンス最適化、運用高度化の分野に注力している。
*本記事は筆者個人の見解であり、IBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。
当サイトでは、TEC-Jメンバーによる技術解説・コラムなどを掲載しています。
TEC-J技術記事:https://www.imagazine.co.jp/tec-j/
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