米IDCは3月7日(現地時間)、「ロシア・ウクライナ戦争が世界のICT市場に与える初期影響」と題するレポートを発表した。
それによると、ロシアとウクライナのIT支出は合計で欧州の5.5%、世界の1%に過ぎないので、「(戦争による)両国のIT支出の減少が世界に与える影響は限定的」としつつも、「貿易、サプライチェーン、資本移動、エネルギー価格に与える危機的な影響は広範囲であるので世界経済に影響を与え、地域と世界のIT市場に悪影響を及ぼす」と指摘している。具体的な影響としては、次の6項目を挙げている。
技術需要の変動
ウクライナでは事業活動の停止、ロシアでは欧米による制裁の影響により、2022年の両国IT市場は2ケタの減少が予想される。西欧諸国では国防・安全保障分野への技術支出が増加する可能性がある。
エネルギー価格とインフレ圧力
ウクライナ紛争をめぐる緊張は、エネルギー価格と供給の安全性に広範な影響を及ぼす。大半の国は、炭素系エネルギー源への依存度を下げる努力を加速させながら、短期的なエネルギー計画を見直す必要に迫られる。
スキルおよびインフラの移転
ウクライナには100社以上のグローバル企業が子会社を設立し、ロシアにはさらに多くの企業が進出している。紛争により、ウクライナでは既に何万人もの開発者が国外へ避難を終えており、両国でサービスの移転が進んでいる。これらの動向は、物理的な資産や人員の移動および将来計画とともに、紛争の推移に照らして再評価する必要がある。
現金および信用の利用可能性
これまでの金融制裁は、ロシアにおける外国からの信用供与に深刻な問題を引き起こし、EU諸国がロシアに発行した融資に潜在的な損失を生じさせている。信用供与が受けられなければ、ほとんどの企業は当面の間、新技術への投資を中断せざるを得なくなる。また、ロシアは深刻な現金不足に陥っており、個人消費に大きな影響を及ぼしている。
サプライチェーン
制裁によりロシアへの完成品や部品の輸出は大きな影響を受けるが、欧米企業が受ける影響は市場規模からして比較的小さい。その一方、ロシア/ウクライナからの材料輸入は影響を受け、特に半導体チップの製造に使用されるネオンガス、パラジウム、C4F6(ヘキサフルオロブタジエン)の供給は大幅に減少すると見られる。またこの紛争により貨物が両国を迂回するためコストが上昇し、世界のサプライチェーンのさらなる混乱が予想される。
為替レートの変動
制裁措置によりロシア通貨(ルーブル)の価値が急落し、IT機器やサービスの輸入が大幅に割高になっている。その結果、企業の支払いが可能であっても、ロシアへの出荷を拒否する欧米企業が増えている。これは、ロシア国内のPC、サーバー、通信機器メーカーが操業できなくなることも意味している。地政学的な緊張は、ユーロを含む地域全体の他の通貨にも影響を及ぼしている。
またIDCでは、上記のような短期かつ直接的な影響に加えて、「株式市場の変動と市場投機の増加、サイバー攻撃のリスクとサイバー戦争拡大の可能性、ロシアとウクライナ両国における起業環境の混乱、敵対行為によって断絶されたものに代わる新しいビジネスや科学の提携の創出」など、短期・長期の影響も予想されるという。
そして、「企業は、機敏なサプライチェーン戦略を開発し、破壊的な市場のさまざまな動きを予測し対応できるような行動計画を作成することを推奨する」と結んでいる。
・「ロシア・ウクライナ戦争が世界のICT市場に与える初期影響」(A New Report from IDC Looks at the Initial Impact of the Russia-Ukraine War on Global ICT Markets)
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prUS48928222
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