IDC Japanは12月14日、「Japan IT Market 2022 Top 10 Predictions:デジタルファーストの世界における競争優位の獲得に向けて」と題する、ITサプライヤー向けの「2022年 国内IT市場動向予測」を発表した。
前文で、「2022年というデジタルファースト開始の年に当たって、企業のテクノロジー利用の動向と、それに対してITサプライヤーがとるべき戦略、Top 10 Predictionsとして10項目にまとめたものである」としたうえで、「COVID-19感染拡大後の世界が本格的に始動する2022年は、同時にサステナビリティ(持続可能性)の意識が世界中で急激に高まり、別の新たな変化をもたらす始まりの年でもある」と述べている。
以下、10項目のPredictionと「ITサプライヤーへの提言」を抜粋して紹介する。Prediction全文(A4版・17ページ)はIDC Japanサイトからダウンロード可能である(末尾にURL)。
Prediction 1
2022年の国内ICT市場は前年比微増に留まるが、サステナビリティ、ビジネス環境変化適応、現場のエンパワーメントに向けたデジタルファーストの姿勢が企業間で強まる。
ITサプライヤーへの提言
・パンデミック後の新たな社会の姿を想像し、そこでの自社の役割を明確化せよ
・顧客のデジタルレジリエンシー強化を、エコシステムレベルで支援せよ
IDCは、「2022年のIT市場全体の成長率は前年比0.5%増に留まる」と予測するが、「企業は短期・中長期的な変化に適応させるための投資を継続する」と見る。主な投資分野は、データ管理、アナリティクス、AI/機械学習、開発ツール、パブリッククラウドサービスなど。DXの目的は「デジタルレジリエンシーを中心としたものとなっていく」と予測している。
Prediction 2
分散、多様化するデータやインフラストラクチャのレジリエンシーを向上するためにデジタルインフラストラクチャへの変革が本格化する。
ITサプライヤーへの提言
・次世代IT インフラストラクチャのビジョンの提示と実行能力の確保
・ポートフォリオの拡充とエコシステムの拡大
IDCは、「2022年はテクノロジーバイヤーにおいてデジタルインフラストラクチャへの変革が本格化し、デジタルインフラストラクチャへの変革を実行する能力がITサプライヤーの競争力を左右し始める」と言い、その戦略の構築にあたっては、「デジタルインフラストラクチャのレジリエンシーと信頼性」「分散するデータに起因する運用の複雑性」「ビジネス成果志向の調達や運用」の3点が考慮すべき主要事項となると指摘している。
Prediction 3
顧客と従業員のエンゲージメントの大変革を経験した企業は、クラウド型ツール、オートメーション、データ、AIを利活用した新しいワークモデルの構築に邁進する。
ITサプライヤーへの提言
・非対面施策を積極的に支援せよ
・従業員エンゲージメントの向上につながるようにDX施策を支援せよ
このPredictionの説明でIDCは、「DXに熱心な企業はDX施策が従業員のエンゲージメントの向上につながることを理解している」と指摘し、「ある不動産賃貸企業は、顧客の希望条件に沿って物件を紹介するAI ソリューションを自社開発し、経験の浅い営業担当者に対し、物件案内という顧客との関係構築の初動のハードルを下げ、営業の力をその後の顧客のフォローアップに注げるようにし、顧客のエンゲージメントの向上にも功を奏している」という例を紹介している。また、「パンデミックの発生から2年近く経た今、ユーザー企業の在宅勤務実現の支援を行う段階は終わりを迎え、ユーザー企業の次なる課題、つまり顧客との関係構築方法や働く場所のハイブリッド化に対応する必要がある」と述べている。
Prediction 4
企業のDataOps適用によって、機械学習ベースのデータエンジニアリング/ビジネス分析、データクリーンルームの活用が進み、データ共有の適用範囲が拡大する。
ITサプライヤーへの提言
・ユーザー企業へのDataOps の適用を進めるプラットフォームの提供
・データ管理ワークフロー全体に対する自動化機能適用による高速化の提供
このPredictionに関して、IDCは次の2つの予測を示している。「企業におけるデータ管理ワークフローの複雑化とデータ共有のリスク拡大に対して、今後数年間で、データ管理ワークフローの各機能に機械学習ベースのナレッジネットワークを組み込み、一貫したデータエンジニアリングフレームワークとしてのDataOpsの採用が進む」という予測と、もう1つは「リスク対策として、データの移動やアクセスに対するデータコントロールプレーンを持つプラットフォームでデータを集中的に管理(仮想化を含む)し、機械学習によってデータの完全性やリスクに対するスコアリングを行いながら限定的な外部エンティティとデータ共有を行うデータクリーンルームの活用が進む」という予測である。
Prediction 5
オムニチャネルにおけるパーソナライズされた顧客エクスペリエンスを提供するため、動的な顧客理解の拡大に向けたCDP(Customer Data Platform)の構築が進む。
ITサプライヤーへの提言
・CDPの活用を促進する連携ソリューションを提案せよ
・適切なCDPの活用による顧客のトラスト獲得を支援せよ
・未来の顧客獲得に対するCDPの活用を支援せよ
このPredictionの背景として、「レジリエントな収益力を確保するには、製品機能だけでなく企業が発するメッセージへの共感/支持や、顧客が得た体験を基に蓄積される企業ブランド価値/顧客ロイヤルティの重要性が増しており、ユーザー企業はデジタル購買が進んだ市場環境に合わせた顧客エクスペリエンス(CX)を向上させ、ブランド価値/顧客ロイヤルティを醸成していく必要がある」と指摘している。
Prediction 6
企業のセキュリティ/リスク管理/トラスト対応に関する信頼指標が、企業のブランド評価を測るネットプロモータースコアとして活用されるようになる。
ITサプライヤーへの提言
・サプライヤーと提供する製品/サービスへの信頼スコアの獲得
・DevSecOps による製品/サービス開発と定期的な評価
IDCでは、「新しい製品の購入やサービスの契約、ベンダーを選定する際に、信頼度を測るスコアカードや指標がRFP(Request for Proposal)に組み込まれるようになる」という調査結果を紹介している。その際に最も重視される分野は、セキュリティ、コンプライアンス、CX、リスク、サステナビリティ。組み合わせは、業種や監督省庁によって評価指標が変化する、という。
Prediction 7
効率性向上だけでなく、社会的責任の遂行、従業員エクスペリエンスの向上などを志向したリモートオペレーションの実現に向けた新たなプロセスの開発が進む。
ITサプライヤーへの提言
・顧客企業の事業領域においてプレゼンスの高いOT ベンダーとの連携度を高めるべきである
・データ管理/ガバナンスに関連する懸念を払拭すべきである
このPredictionの背景としてIDCは、「COVID-19が促すことになったオペレーションの変更には、分散化した意思決定プロセスの開発、データ駆動型のオペレーションへの移行、そして自律的な、あるいはリモートでのオペレーションへの移行の加速などが含まれる。そのリモートオペレーションの中でも、オペレーション上のパフォーマンスの可視性を高めるリモートモニタリングの能力は特に重要である」と指摘している。
Prediction 8
企業の強みとしてのデータ、アプリケーション、オペレーションを競合他社や異業種と共有するエコシステムプラットフォームの構築が加速する。
ITサプライヤーへの提言
・IT サプライヤーはCOVID-19感染拡大による影響を大きく受けた産業におけるエコシステム構築支援を積極的に行うべきである
・COVID-19で課題となった対面によるセレンディピティをどのように代替しエコシステムの構築につなげるか検討すべきである
IDCが2019年から継続実施しているユーザー企業の「DXの目的に関する調査」では、「エコシステムによる収益の向上や革新的な市場を形成する」が毎年2番目に高い回答で、2021年は27.7%の回答であった。IDCでは、産業エコシステムの未来の実現には、「データ/インサイトの共有」「迅速かつ柔軟に開発できる適切なアプリケーションの共有」「知識の共有」という3つの共有が重要としている。
Prediction 9
企業活動の分散化に対応しながら、「ワイヤレス主導」と「クラウドドリブン」なネットワークに向けて、企業のネットワークと運用の最適化に関する検討が進む。
ITサプライヤーへの提言
・ハイブリッドワーク向け分散IT 環境の運用管理サービスを強化せよ
・SD-WANをネクストノーマルにおける企業ネットワーク構築のための要素技術と位置づけ、クラウド型セキュリティの活用と共にクラウドシフトと整合した新たな企業ネットワークを提案せよ
・企業ネットワークソリューションベンダーは、あらゆる企業層でネットワークAIOpsソリューション活用を促すべきである
IDCでは、2022年に「従業員一人ひとりのデバイスへのモバイルネットワーク付与の増加」「SD-WAN(Software-Defined WAN)活用の深化」「ネットワーク運用管理におけるAIOps(Artificial Intelligence for IT Operations)」の3点が進展する、と見ている。
Prediction 10
DX を推進するために、企業のソーシング戦略の見直しが本格化する。
ITサプライヤーへの提言
・内製化支援の強化
・マーケットプレイスの活用
このPredictionの背景は、「現在、多くの企業がDXに取り組んでおり、内製化の重要性に対する企業の認識を深めている」という動向と、「多くの企業が「人材/スキル不足」の課題に直面している」という現実の間にある深刻なギャップである。これを踏まえてIDCは、「ここ数年、企業のソーシング戦略では、内製化が大きな話題となっているが、人材/スキル不足の解決は容易ではない。外部委託(アウトソーシング)から、すべてを内製化するのではなく、IT サプライヤーを「パートナー」として「共創/伴走」することが、企業にとっての現実解の一つになっている」と述べている。
「Japan IT Market 2022 Top 10 Predictions:デジタルファーストの世界における競争優位の獲得に向けて」
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=JPJ48319621
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