米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は2月18日(現地時間)、IBMがワトソン・ヘルス(Watson Health)事業の売却を検討中であることを、関係者の証言として報じた。
WSJ紙は、売却先が未定であることや売却が行われない可能性もあることにも触れているが、アイマガジン編集部では同記事について検討を行った。
IBMのワトソン・ヘルス事業は、AI(Watson)の活用による高度な医療サービスの提供を目的とするもので、2005年にIBMの基礎研究所で研究開発が始まり、2015年に事業部門が設立された。現在は、医療提供者向け、政府機関向け、医薬品メーカー向けなど幅広く事業を展開中で、昨年は、新型コロナ対策用のツール/サービスを20種以上リリースするなど、存在感を示した。
年間売上高は、「約10億ドル(約1060億円)」(WSJ紙)。ただし、「赤字の状態」であるという。今年1月21日発表の2020年度決算では、ワトソン・ヘルス事業を含む「コグニティブ・ソリューション」は53億ドルで、対前年比3%減だった。
IBMは、ワトソン・ヘルス事業の立ち上げ時(2015年)に有望なヘルスケア企業を相次いで大型買収している。患者管理支援のPhytel(買収額は非公表)、マンモグラム(マンモグラフィ用影像)・MRI分析ソリューションのMerge Healthcare(買収額は10億ドル)、高度医療データ分析ソリューションのTruven Health Analytics(同26億ドル)などで、このほかWatson用アプリケーションを開発するベンチャー企業支援のための1億ドルのファンドも設立し、健康管理アプリのWelltok、遺伝子検査・個別化医療サービスのPathway Genomicsなどへ出資してきた。
ワトソン・ヘルス事業は、IBMのワトソン事業の中でも将来の最有望株として戦略的に事業展開が行われてきた分野である。ただし実際は、事業構想どおりの展開とはならなかったようだ。
2018年5月にはワトソン・ヘルス部門のレイオフ(人数非公表)を米メディアに報じられ、後日追認している。そして2020年度決算に見られるような業績の不振である。WSJ紙では業績不振の理由として、「医師がAIの採用を躊躇しているため」としている。
IBMは昨年(2020年)10月に、2021年中の大規模な分社化を発表している。IBMからグローバル・テクノロジー・サービス(GTS)事業の一部を切り離して新会社とし、残る新生IBMは、ハイブリッドクラウドとAIにフォーカスする企業になるというものである。新会社へ移管されるのは、売上高にしてIBM全体の約1/3(190億ドル:約1兆9700億円)、従業員数では約1/4という大規模な分社化である。
ワトソン・ヘルス事業は、分社後のIBMに残る事業部門だが、WSJの記事はそこが売却の検討対象になっているというものだ。
IBMのアービンド・クリシュナCEOは、昨年10月の分社化についての記者発表で、「(現在の)サービスが収益の半分以上を占める企業から、高価値のクラウド・ソフトウェアとクラウド・ソリューションによる収益が半分以上を占める企業へとシフトしていく」ことを強調していた。
WSJの今回の記事は、たとえ戦略的な事業であっても不採算部門は大胆に整理しフォーカス分野(Red HatベースのハイブリッドクラウドとAI)に注力するという、分社後の展開をうかがわせる動きと見ることもできるだろう。
◎米ウォール・ストリート・ジャーナル紙「IBM Explores Sale of IBM Watson Health」(購読は有料会員制)
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