IBMは4月7日(現地時間)、量子プロセッサのFalcon r10(リビジョン10)で256量子ボリュームを達成した、と発表した。
量子ボリュームとは、量子システム全体の性能を包括的に定量化した指標。量子ビットの制御効率やエラー率、量子デバイス間の接続性、ソフトウェアのコンパイラの効率などに基づき算出される。
IBMでは、この量子ボリュームを年々倍増させる計画をかねてから表明してきた。そして2017年に一般公開した量子デバイスで量子ボリューム「4」、2018年の量子デバイスTokyoで「8」、2019年のParisで「32」、2020年のMontrealで「128」をマークし、今回のPragueで「256」を達成した。量子ボリュームは、コンピュータチップの集積回路が2年で倍増すると予測した「ムーアの法則」になぞらえて、「量子版ムーアの法則」とも呼ばれる。
今回の256量子ボリューム達成の発表は、IBMのロードマップが着実に進んでいることをアピールするもの。年内には433量子ビットのOspreyプロセッサをリリースする予定としている。
今回の256量子ボリュームの達成について発表文は、「過去2回の量子ボリュームの飛躍は、コヒーレントノイズ(*)の扱い方に関する理解の向上と、ソフトウェアおよび制御電子機器の改良により実現したが、今回の256量子ボリュームは、より高速で高忠実度(**)のゲートを実装できる新しいプロセッサにより可能になった」とし、「その進歩の鍵は、より高速な2量子ビットゲートを実現しつつ、スペクトレータエラー(近くにある量子ビットの計算によって生じるエラー)を減らす方法を見つけることだった」と説明している。そして、「2量子ビットゲートの大部分は99.9%のゲート忠実度に近づいていることと、強力なコヒーレンスタイムを確認できた」と記す。
*コヒーレントノイズ:理想状態にある量子ビットを乱すノイズ
**忠実度:量子計算を行うにあたって量子ビットが理想状態にどれだけ近いかを示す質の度合い
量子コンピュータの性能指標には、規模(Scale)、品質(Quality)、速度(Speed)という3つの要素がある。規模(Scale)は量子システム内の量子ビット数で、IBMの量子コンピュータでは現在、127量子ビットのEagleが最大。品質(Quality)は量子ボリュームに相当し、速度(Speed)については「CLOPS(Circuit Layer Operations Per Second)」と呼ばれる指標がIBMから提案されている。IBMの現在の最速システムは「1秒あたり最大1400の回路層操作を実行できる」(IBM東京基礎研究所の川瀬桂氏、記事はこちら)という。
これら3つの性能指標の向上は「非同期的に進むことが多い」と、IBMはいう。そして今回は2019年リリースの27量子ビットFalconの改良版Falcon r10(リビジョン10)を使用して256量子ボリュームを達成した。
見方によれば、より量子ビット数の多い(たとえば127量子ビットのEagle)を使用したほうが、より大きな量子ボリュームを容易に実現できそうだが、それを行えない点に量子コンピュータのむずかしさがあり、量子システム開発の現状が示されているようだ。とはいえ、256量子ボリュームは、重要なメルクマールの達成だろう。
・ニュースリリース「史上最高の量子ボリュームで量子性能を前進(Pushing quantum performance forward with our highest Quantum Volume yet)*英語
https://research.ibm.com/blog/quantum-volume-256
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