IBM iにサブスクリプション登場
近年のソフトウェア・ライセンスやサービスの提供形態として、使用期間を一定期間に限り、必要に応じて更新することで、ソフトウェアを利用したい期間のライセンス権を提供するビジネスモデル、いわゆるサブスクリプションが広まっている。
IBM Powerでも、従来からサブスクリプション型で提供されているLinuxに加え、AIXもサブスクリプションで提供されている。IBM iソフトウェア・ライセンスについては、2022年6月よりサブスクリプションでの提供が開始された(図表1)。
以下に、IBM i のサブスクリプションについて解説する。
まず、従来のライセンス(永続ライセンス)とサブスクリプション・ライセンスを比較してみよう(図表2)。
従来のライセンス購入では、ソフトウェア使用権を永続的に(有効期限なしで)取得する。ソフトウェアのサポート (SWMA) は、年次契約で別途購入する必要があり、契約期間が満了する際には更新SWMAを購入する。
これに対してサブスクリプション・ライセンスでは、ソフトウェア使用権の期間を定めて購入する。IBM i の場合は、1〜5年で設定されている。原則として契約期間中は解約できない。サブスクリプションはソフトウェアのサポートも含まれるので、別途SWMAを契約する必要はない。
サブスクリプションでは、ソフトウェア使用権とサポートを、永続ライセンスと比較して低額な初期投資で購入できる点が特徴である。また契約時にサポートを含めた価格が決定されるため、契約期間中にSWMAの価格改定が生じてもサブスクリプション価格は影響を受けない。
サブスクリプション期間が満了したあともソフトウェアの使用を継続する場合は、あらためてサブスクリプションを購入するか、永続ライセンスを購入する。
IBM iサブスクリプション
IBM iサブスクリプションは、2023年4月の時点ではOS基本機能(プロセッサライセンスとユーザーライセンス)のみの提供となっている。OSのオプションと他のソフトウェアライセンスのサブスクリプション提供については開発意向表明が出ている。2023年6月からは、IBM Rational Development Studio for i(5770-WDS) のサブスクリプションが提供される(図表3)。
IBM i サブスクリプションの対象マシンは Power9、Power10で、OSバージョンは IBM i 7.3以降である。当初はプロセッサグループP05のみの提供であったが、2023年3月よりP30までになり、Power9、Power10のすべてのサーバーでIBM i サブスクリプションが利用できるようになった。
5770-WDSのサブスクリプションは、アプリケーション開発ツールセット(ADTS)、Heritageコンパイラー、ILEコンパイラーの3つのオプションが1つのパッケージとなったユーザーライセンスとなる。
IBM iサブスクリプションの期間は1、2、3、4、5年で提供されている。Power10サーバーの場合、Expert Careを構成するとサポート期間を合わせる必要があるため、IBM i サブスクリプションの期間は3、4、5年となる。
永続ライセンスからサブスクリプションへは移行できない。また、永続ライセンスとサブスクリプションは混在できない。
たとえば、現在永続ライセンスで使用しているマシンに一時的にプロセッサライセンスを追加したい場合に、サブスクリプションで追加するのは不可である。このような場合は、1カ月単位のテンポラリーライセンスで追加する。
IBM i システム・サブスクリプション
IBM i サブスクリプションには、ソフトウェアのみの提供のほかに、ハードウェア、ソフトウェアとハードウェア保守をパッケージにして提供するモデル(IBM i システム・サブスクリプション)がある。以下に、IBM i システム・サブスクリプションについて解説する。
IBM i システム・サブスクリプションは、ハードウェア (Power S1014)、IBM iのOS基本機能、IBMサポートをパッケージにしたサブスクリプション・モデルで、2022年9月より提供を開始した。サブスクリプション期間は3、4、5年からの選択で、満了後は1年ごとの更新が可能である(図表4)。
当初は4年ラックマウント型を選択した場合のみ、ハードウェア・オプションとして内蔵NVMeの容量変更やアダプタの追加、IBM i ライセンスの追加が可能であったが、2022年10月よりすべての期間のラックマウント型とデスクサイド型でオプションを追加できるようになった(図表5)。
オプションの追加は初期購入時、および1年更新時に可能である。
IBM i システム・サブスクリプションで提供されるソフトウェアライセンスは、2023年4月の時点でOS基本機能(プロセッサライセンスとユーザーライセンス)のみである。
Rational Development Studio for i(5770-WDS)のサブスクリプション提供が発表されているが、IBM i システム・サブスクリプションでの5770-WDSの提供は2023年4月の時点では発表されていない。
IBM i システム・サブスクリプションのハードウェアとソフトウェアのライセンスはIBMの資産なので、サブスクリプション期間が満了する際に1年更新を選択しない場合は、IBMへ返却となる。
IBM i システム・サブスクリプションの保守サポートは、IBM Power Expert Care Premiumと同等のサポートが提供される。サポート内容は以下のようになる。
◎機器メンテナンス、重大度1および2を対象とした24時間365日の対応、初回問い合わせ時の目標応答時間30分 (重大度3および4の場合は、初回問い合わせ時の目標応答時間4時間)。 リモート・サポート後にオンサイト・サポートが必要な場合、IBM のオンサイト目標は同日中
◎予測サポートアラート、Call Home Cloud Connectを利用した24時間365日対応アラート、 リモートテクニカルサポートチームから24時間365日コールバック対応
◎テクニカル・アカウント・マネージャー (TAM)
◎ユーザーからの要望に応じて、暦年1年につき1 回のRemote Code Load(RCL)
IBM i サブスクリプションは、現在 Power8以前のエントリーモデルを利用しているユーザーが Power10へ移行する際の選択肢の1つとなる。
とくに現在使用しているアプリケーションを変更せずにそのまま移行する場合、ハードウェアやソフトウェアを管理する要員がいない、現行の環境と同様に専用ハードウェアとして使用したいが固定資産は増やしたくない、初期費用を抑えたいようなケースではぜひ検討してほしい。
著者
三神 雅弘 氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部
IBM Power テクニカルセールス
アドバイザリー Power テクニカルスペシャリスト
1989年、日本IBM入社。AS/ 400のテクニカル・サポートを担当。日本IBM システムズ・エンジニアリングへの出向を経て、2004年よりテックライン、2016年よりビジネス・パートナー向けテクニカル・サポート、2018年よりIBM iブランド業務を兼任している。
[i Magazine 2023 Spring(2023年5月)掲載]