Power事業部が注力する
4つの重点分野の1つ
IBMは2023年8月29日、IBM iのサブスクリプションに関する大きな発表を行った。
1つは、機械別グループP05・P10マシン上で稼働するIBM i OSの永続ライセンスの販売を2024年3月26日に終了するというもの、2つ目はライセンスプログラム製品(LPP)をサブスクリプションで提供するという意向表明、3つ目も意向表明でサブスクリプション期間が終了した後の更新を自動で行う機能の提供、4つ目は永続ライセンスからサブスクリプションへの移行時に低価格のオプションを提供するという意向表明だった。
IBMは2022年5月にIBM i OSのサブスクリプションを初めて発表した。そのときは永続ライセンスの扱いに触れておらず併売を続けてきたが、8月29日の発表でP05・P10マシンのIBM i OSは今後、オンプレミスではサブスクリプションのみになることが明確になった。
またこのことと、IBMがPower Virtual Serverへの移行を強力に推進していることをあわせて考えると、IBMはIBM iのサブスクリプション化に強い意向をもっていると言うことができそうである。今年8月に米Power事業部のトップ(GM)に就任したトム・マクファーソン(Tom McPherson)氏も、11月発表のブログでPower事業部が注力する4つの重要分野の1つとして「サブスクリプション」を挙げていた。
永続ライセンスとサブスクは
混在できない
ここで、IBM iのライセンス形態に触れておこう。
IBM i OSは現在、永続ライセンス、サブスクリプション、Power Virtual Server(as a Service)の3つの形態で提供されている。
永続ライセンスは従来からの形態で、期限なく使い続けられるもの。弊誌が毎年行っている「IBM iユーザー動向調査」では、IBM i 6.1以前の古いOSを使用中のユーザーは毎回一定数いるが(2023年調査では回答871件の5.3%)、永続ライセンスなのでIBMの保守サービス終了後も使い続けることができる。またPower Virtual Serverは時間単位で課金されるクラウドサービスで、IBM i OSとLPP製品が対象である。
これに対してサブスクリプションは年間契約制で、1年、2年、3年、4年、5年から期間を選択して利用する。契約期間中は解約できず、終了すると改めて契約し直す必要がある(図表1)。
この仕組みについて日本IBMの三神雅弘氏(テクノロジー事業本部IBM Powerテクニカルセールス アドバイザリーPowerテクニカルスペシャリスト)は、「IBM i OSに付属するライセンスキーには使用期限を設定する機能があり、永続ライセンスを購入した場合は“*NOMAX(期限なし)”として使用期間が設定されます。サブスクリプションも同様の仕組みで、契約期間1年のIBM i OSを購入すると使用期間は1年後の日付で設定され、終了後に利用を継続する場合は新たにライセンスを購入し、18桁のライセンスキーを設定する必要があります」と説明する。8月29日発表の「サブスクリプション期間の自動更新」はこの更新手続きを自動化し簡単にするもので、三神氏によると「現在開発中」という。載]
三神 雅弘 氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部
IBM Powerテクニカルセールス
アドバイザリーPowerテクニカルスペシャリスト
IBM i OSのライセンス形態が3種類になったことは、ユーザーにとって選択肢が広がったように見える。しかし現状は、「永続ライセンスとサブスクリプションは混在できない」(三神氏)ため、併用する場合はいろいろな制約がつく。たとえば、永続ライセンスのIBM i OS上でサブスクリプションのWDSは利用できない。またLPP製品のサブスクリプションは1製品ずつばらばらに利用できるため、各種製品のサブスクリプションを異なる期間で購入した場合は、終了期限がまちまちなので管理が非常に煩雑になる。
IBM i OS、Power、LPPの
3種のサブスクを推進
IBMは2022年5月以降、IBM i OS、Power、LPP製品のそれぞれでサブスクリプションを推進してきた(図表2)。
2022年5月の発表はPower S914上のIBM i OS(IBM i 7.2〜7.5)が対象で、1〜5年の年単位で契約でき、途中解約は不可とされた。次にIBM i OSのサブスクリプションが発表されたのは2023年2月で、Power9・Power10の全マシン(P10、P20、P30)上のIBM i OS(IBM i 7.2〜7.5)へと対象が拡大された。期間は1〜5年の年単位で、こちらも途中解約は不可となった。
一方、Powerマシンをサブスクリプションで提供する「システム・サブスクリプション」は2022年9月に発表され、2023年8月に拡張された。対象はPower S1014で、4コア(P05)から8コア(P10)へと拡張されている。またこの間、Power S1014と一緒に利用するネットワークアダプタやRDXなどのハードウェアもサブスクリプションの対象となり(2022年10月)、さらにカスタマイズ機能の強化(2022年12月)も行ってきた。
LPP製品については、IBM i Merlin、Rational Development Studio for i、RDiのRPG/COBOLツールを2023年2月〜5月に相次いでサブスクリプション化し、それとは別にLPP製品の「簡素化(Simplification)」と呼ぶ施策も展開してきた。
その第1弾(ステージ1)は2022年6月に発表され、有償の一部LPP製品とIBM iオプションが無償化された。第2弾(ステージ2)は2023年10月に発表され、無償化されたLPP製品とIBM iオプションはライセンス管理の対象外となり、オーダーなしで利用可能となった。これまでに20種以上のLPP製品と10種以上のIBM iオプションを無償化、オーダー不要とした。
「簡素化」とはIBM iのLPP製品の利用を簡単にするための取り組みで、ライセンスキーが必要とされたLPP製品とIBM iオプションはPTFの適用によりキーなしで利用できる(図表3)。
P05・P10のIBM i OSの
サブスクリプション料金
図表4は、P05・P10のIBM i OSのサブスクリプション料金をまとめたものである。これを見ると、IBM i OSのサブスクリプション料金は永続ライセンスを4年間使用したときと同レベルにする設計がなされていることがわかる。
一方、米オンラインメディアのIT JungleがP05・25ユーザーの条件でIBM i OSのサブスクリプションと永続ライセンスの費用を比較したところ、1年目は約60%、2年目は約35%、サブスクリプションのほうが安くなるのに対して、7年目になるとサブスクリプションが約30%高くなる試算結果だったという。P05・P10ユーザーは今後、IBM i・Powerの利用計画を練り直す必要がありそうである。
IBMは現在、IBM i OSのサブスクリプションをP05〜P30で可能としているが、システム・サブスクリプションについてはPower S1014のみに限定している。今後どのような展開になるか詳細は不明だが、Power Virtual Serverへの移行やハイブリッドクラウド構成がより容易になることは想像がつくだろう。
IBMではIBM i(OS、マシン)をサブスクリプション化する理由として「業界トレンドに沿ったビジネスモデルで、顧客やパートナーの要望に応えるもの」と強調している。それはその通りだとしても、IBMのハイブリッドクラウド戦略抜きに考えられないことも確かだろう。
[i Magazine 2023 Autumn掲載]